きみのその手はやさしい手

芦屋めがね

第62話

「──焼けろや、おら!」

 成田の鋭い目つきが普段よりさらに引き絞られる。傍目からではただ睨んだだけだが、成田稲穂にとってそれは明確な攻撃となる。

 視線の先には当真瞳呼。異能による架空の薙刀はすでに生成し終えているが、睨むだけで攻撃が成立する成田相手ではどうしても先手を譲ってしまう。しかし、その速さは同時に当真瞳呼の選択に迷いをなくすという事でもある。

シッ──」

 当真瞳呼の体が極端な前傾を維持したまま横にぶれる──当真流一本指歩法、名は、たしか『不知火』。言わばクラウチングスタートの一歩目を延々と続ける走り方はその名の通り這い寄る炎のよう。その速度と低さに雷火の間隔が徐々に開いていく。

「──が絞り切れないんだ」

 思わず、独り言が漏れる。成田の視線は例えるなら銃口だ。その銃口の先に立たなければ電撃を食らう事はない。まして人の視界は上下左右を追えても斜めに出入りされると途端に困難になる。俯瞰で見ている私は当真瞳呼がどう動いているかわかるが、対峙している成田はその限りではない。あれでは遠からず死角に入り込まれて──いや、すでに当真瞳呼の攻め手の範囲内だ。

「──ちぃ!」

 成田の舌打ちが聞こえる。当真瞳呼との距離はおおよそ十歩圏内をつかず離れずの繰り返し。その距離を埋めるのは一本指歩法技術薙刀得物だ。成田の視界から見て斜めに動き、それに連動して薙刀を下段から斬り上げていく当真瞳呼。その軌道はかつて当真瞳子が優之助の首を刈ろうとした『一ノ太刀・昇竜太刀筋』に似ている。

 狙いに気づいた成田はその場を今まで以上の速度でもって離れようとする。当真流を修めた当真瞳呼とは違い、技術も筋力もそれを実現させるのは難しいが、異能がその無理を可能にする。

 特にこれといった動作を見せず、跳ねる様に後方へと飛びずさる成田の体。おそらく磁力の反発を利用しているらしく、その速さ、高さは控えめに言っても当真瞳呼の一本指歩法と同等以上の水準に達していた。

「──『リニアステップ』というらしい」

 思いがけない月ケ丘清臣の補足に一瞬戸惑う。しかし結局はそうか、と短く返すだけにとどめ、戦況を見守る。『リニアステップ』によって、機動力で上回る成田は中距離以上を維持し、攻撃を続けている。

 当真瞳呼も長柄の武器である為、中距離戦闘は望むところだが、攻撃速度、手数の上では成田に及ばない。当真瞳呼が本当の意味で優位に立つには当真流が使える距離まで近づく必要がある。

「『風車かざぐるま』」

 当真瞳呼のまわりで展開していた架空の刃がに回転する。大きな円へと姿を変えた薙刀が四方に散り、成田へと追いすがる。

 薙刀の長さは2mと少し(おおよその目算になるが、当真瞳呼の身長が160後半、柄の部分が同等か少し短い、刀身は真田の打刀くらいと見てそのあたりだろう)、回転すれば4mを超える車輪となる。それが十重二十重とあれば、いかに広い講堂内でも空間はたやすく埋まってしまう。しかも、実体の刃ではないので壁や地面に捕まる事なく成田との距離をつぶしていき、その体に触れさえすれば血と肉の雨が降る。一方的な物理干渉が可能にする理不尽な追跡者だ。

 ──しかし、そんな状況に追い込まれても、成田の不敵さは崩れない。

「『サンダー・ウィップ』」

 『風車』に対応すべく手のひらに雷が収束させて放つ成田。鞭というより、大蛇がのたうち回る様に似ていた『サンダー・ウィップそれ』は当真瞳呼の薙刀を打ち据えていく。

 いかに実体を持たない架空の刃とはいえ雷を構成しているいずれかに作用してか、舞台上を占めていた刃の車輪が一つ一つと払われていく。その度に電子がはじける音とガラスが砕けるような音とが同時に講堂の中を満たす。当真瞳呼の意思で動いている以上、漫然と向かっているという事はなかったが、成田の迎撃にその数は目減りしていく。何本目だっただろうか、十を超えてから数えては──

「──成田!」

 数えてはいないが違和感はあった。仮に大げさなサイズと数が成田から注意を逸らし、油断させる為のものだったとしたら、本命は別にある。優之助と当真瞳子との戦いを思い出す。あの時も、物理的に干渉しない刃は地面を透過していた事を。

「──うるせえんだよ。黙ってみてろ」

 相変わらずの憎まれ口はこちらの心配を杞憂へと変える。しかし、成田の足元へと目を移すと私の心配を連想するように薙刀の姿をした殺意が数本、地面から天へと向かって伸びている。四方に放たれた『風車』はその場所へ誘い込む囮、成田はその狙い通りに足を踏み入れていた。

 だが、結果として成田は無傷。誘い込まれた先での罠をまるで安全な位置へと体をやり、切り抜けている。

「──そうか、雷を操れるという事は電位か何かが見えるのね」

 自ら用意した罠を破られ、その原因を考察し、あたりをつけたのは当真瞳呼。その声には感心と納得、そしてわずかにが聞き取れる。

 ややあって、舞台の上に乾いた音が響く。当真瞳呼が『死化粧』得物を取り落としたからだ。

 成田が仕掛けのある位置へ到達した瞬間、罠を発動すべく異能の操作に集中した当真瞳呼は、逆に誘いをかけていた成田の反撃をくらい、手首のあたりを電撃によって火傷を負わされていた。この攻防、その軍配は間違いなく成田に挙がる。そして──

「──これでだ」

 成田は得物から手を離した当真瞳呼をそのまま見逃すほど甘くはない。追撃、そして決着の一手をすでに準備していた。手には『新世代』を撃ち抜いた棒状の光の塊──『プラズマ・シャフト』だ。

 およそ人が発するとは思えないほどの絶叫と苦痛を強いる"それ"を躊躇いもなく投げ放つ。止める間もなく、そして直撃すればどうなるかなど考える間もなく、『プラズマ・シャフト』は当真瞳呼へと命中した──はずだった。

「──馬鹿な!」

 目の前の光景を信じられず、私の喉が枯れた叫びを絞り出す。成田がトドメにと放った『プラズマシャフト』は間違いなく当真瞳呼を捉えていた。カウンターを食らった当真瞳呼は単に手首を負傷しただけではなく、電撃による体の弛緩によって回避する選択肢を奪われている。事実、『プラズマシャフト』を収束させたほんの数瞬──とはいえ明らかな隙──の間、当真瞳呼の足は止まっていた。なのに──

「──なぜ、無傷で立っていられる!」

 その驚愕はしかし、すぐさま疑問に変わる──、その単語を使ったのは二度目ではなかったか?

 あの時も、かわしようのないタイミングで成田の攻撃を受けてもなお、今と同じだったはず。そして、その際、私はこう思っていた──当真瞳呼の能力ではないか、と。

「──ごめんなさい。舐めてるつもりはなかったのだけど、結果としてそうしてしまっていたわね」

 静かな語り口で謝意を示す当真瞳呼。それが意味するところは今までの戦闘が全力ではなかったという事。あの当真瞳子と同種の能力を持ち、今まで成田と互角を演じながら余力があった──つまりはそういう事になる。

 その言葉がきっかけとなり変化を見せたのは、成田の攻撃から破壊を逃れていた数本の薙刀。元々不可視かつ、不定形だったはずの殺意が粘土をそうするように練りあげ、新たな姿を形作る。それは先ほどまでの薙刀と同じ長柄の得物。ただし、当真瞳子の刀を彷彿とさせる禍々しさを秘めた槍──それも十文字と呼ばれる種類の槍だった。

「──『絶槍二つ名』が示す通り、私の得手は薙刀ではなく、槍なの。『死化粧』も納得のいくものがなかったから長柄のありもので妥協しただけ。形を変えていたのも手持ちが薙刀そうだったから合わせていた、そんなしょうもない理由よ。でも、あなたの異能に敬意を表して全力を見せる。これも私の誠意と思ってくれるとうれしいわ。成田──いえ、稲穂さん」

「──誰が名前呼びを許したよ」

 この状況下でも悪態を吐き捨てる成田を微笑ましそうに見据える当真瞳呼。同時にその意思を反映するように『絶槍』の穂先が回転を始める。

「私の能力は瞳子あの子と同じく殺意を刃に変えて生み出す。でも、その力の使い道は生み出した形に準じている以上、似て非なる物となる──こんな風に」

 高速に振動するそれはもはや槍というよりドリルと評した方が近い。実体を持たないにもかかわらず物理現象に介入できるのは今さら驚く事ではないが、その回転が生み出す悲鳴に似た駆動音はかすめただけでも全身がちぎれ飛びかねないと否が応でも連想させる。

「ちっ!」

 遠くからでもわかる成田の舌打ちと射貫かんとする敵意。当然ながら当真瞳呼の全力に対しても臆した様子はない。むざむざ手をこまねいて見ているだけという事も、ない。『絶槍』に対抗すべく、拳大の雷球を複数作り出し、展開、そして一連の流れを止めず、当真瞳呼に向けて解き放つ。

 数えて何度目の攻防だろうか。そのいずれも──今度も成田の先手は揺るがない。だが、当真瞳呼の方もは完了している。当真瞳子や先ほどまでの自身がそうしたように、槍に形を変えた架空の刃──『絶槍』を思うがままに操作する。

 異能によって加工された雷の塊と殺意が両者の意思によって激突する。『サンダー・ウィップ』と『風車薙刀』がそうだった時は薙刀があえなく砕け散るという結果だった。果たして雷球と『絶槍』はどうだろうか? 再び成田の雷が架空の刃を打ち砕くのか──いや、そうはならず、当真瞳呼の『絶槍』がことごとく雷球を下していく。

 だが、妙だ。『絶槍』が上回っているのは間違いないが、『絶槍』の先に触れた瞬間、雷球がまるで毛玉が解けていくように霧散していく。単純な力技による結果ではない。間違いなく『絶槍』の持つ何らかの仕掛けが効いている。

「生み出した回転は力の流れを狂わせ、分散させ、やがて無へと還る──絶槍の絶というのはそういう意味だそうだ」

 私の疑問にまたも月ケ丘清臣が解説を加える。今思えば、解説は彼なりの性分なのだろう。一目見て戦闘向きではないとわかる針金然とした体躯、慇懃無礼といった態度も、神経質と言い換えられなくもない。黒幕と自ら名乗ったが、私の印象としてはむしろ探究者の"それ"に近い。

 存外、月ケ丘での立場もそんな印象と全くの無関係ではないだろう。正直なところ、苦手なタイプだ。私があまり頭の回る方ではないというのもあるが、理詰めで語る口調が生徒会の面々ともいろいろダブって心証があまりよろしくない。

 ──だからというわけでもないが、月ケ丘清臣が言い放った次の一言は私の不愉快を誘うには充分だった。

「当真瞳呼が本気になった以上、成田稲穂に勝ち目はない──"できそこない"だからな」

「──どういう意味だ?」

 身勝手な結論による断定か、例え気に食わない成田相手だろうと"できそこない"呼ばわりされたがゆえか、私の中の何に触れたか自分でもわからない。だが、そうする事に躊躇いはなかった。揺るがぬ事実とばかりに嘯く月ヶ丘清臣の胸ぐらを掴み、引き寄せる。後ろで控えていた『シャドウエッジ』の貫手が私の首筋を捉えるが構いはしない。紙一重寸前まで突き付けられながらも問いかける私の声はむしろ平静と自覚できるほど抑えが効いていた。

「言葉通り──といってもわからないだろうな」

 喉元が締め上げられているのも気にせず、逆に『シャドウエッジ』を片手で制し、なすがままに任せる月ヶ丘清臣。一拍ほど悩んで見せて(私にどう説明するかについてだろう)から口を開く。

「成田の異能は物理現象を超えないからだ」

 ──どういう意味だ? いくつもの要領を除いたとしか思えない答えに、問うたばかりの言葉が頭をよぎる。しかし、少なくとも冗談や嘘で煙に巻いている感じはない。無防備な喉から伝わる息づかいにはその手の気配は皆無だ。

「君は今まで何人かの異能者を見てたはずだ。篠崎空也『空駆ける足』刀山剣太郎『剣聖』当真瞳子『殺眼』──そして御村優之助『優しい手』。彼らの能力は果たしてこの世の常識に沿ったものか? ──いうまでもなく否だろう」

 私の逡巡を見抜いた月ケ丘清臣が補足する。困惑のせいか掴んだ手が知らずの内に緩み、結果として私との問答に差し障りはないようだ。

「たしかに優之助達の異能は現代社会の想像の外だ。しかし、成田の異能もそれに負けず劣らずだと思う。両者の違いはいったい何だ?」

「例えば『空駆ける足』。あれは“力場干渉”の足場を作り、空を走る──という事になっている。既存の科学、既知の現象でどうにか理屈づけたが、一人の自重を支えられる無形の力──サイコキネシスなんてものは本来、空想や都市伝説の類のはずだった。他にも『剣聖』のあらゆるものを切断できる剣技、『殺眼』や『絶槍』の生物・無機物問わず殺意を伝える目、『優しい手』の触れただけで全てを無力化できる手、それぞれテレパシーの派生、運動エネルギーの制御などと無理やり言語化したに過ぎない。『剣聖』に至っては定義付けに参考にしたのはゲームだという──もはや体裁すら投げ出す始末だ」

 語り口に熱を帯びていく月ケ丘清臣。その熱の裏には何かに対しての不平不満が読み取れる。

 私の知る限り、異能の管理は当真家の仕切りだったはず、必然、調査や定義付けとやらも当真家が担っているだろう。ならば不平不満の対象は当真家であり、そして──もしかすると黒幕としての動機もそのあたりにあるのではないか? 私にとって敵である月ヶ丘清臣の話の本筋から外れたどうでもいい事情への想像が頭をよぎる。

「──だが、成田は違う。たしかに能力そのものは随一のポテンシャルだ。戦闘力も申し分ない。、所詮電気ウナギでも──たかが一動物でも出来る事。出力が何倍もあろうと、電位が見えようと、雷をあらゆる形に加工できようと、それが自然の一欠片である以上、能力の本質は雷の属性──その物理による枷から抜け出せない。それでは本物の異能者には勝てない。彼らはその自然の摂理に反する存在、真の意味で異なる理を能とする"怪物"だからだ!」

 いよいよ激情とすら変じつつある月ケ丘清臣の声がわずかに灯った推察を遮る。喉へと伸ばした腕はすでに拘束の用を成さず、力なく垂れ下がる。だが、それは声の圧に押されたからではない。気づいてしまったのだ、勝てないと断言するその根拠に。その物理による枷から抜け出せない。それはつまり──

「ここは地下。威力も、発動の為の負担も空の下全力にはほど遠い。彼女の能力については調査済み──だから本来の力はあんなものではないと知っている。同時に既存の科学の法則から抜け出せていないのも知ってしまった。私が彼女を"できそこない"と評した理由はそれだ。そして、当真瞳呼が初顔合わせに講堂ここを選んだ理由も同じ。彼女の場合、をよりよく捗らせる為の手段としてだがね──どうやら決着が近いらしい」

「成田!」

 意外に持ったな、と言わんばかりに呟く月ケ丘清臣を否定せんとばかりに成田の名を叫ぶ。期せずして午後の授業の開始1時を告げる大時計の鐘が講堂の中に反響し、私が講堂に入ってから30分は経過したのを理解する。そのどちらかに反応したのか成田の頭が揺れるが立っているのが精一杯──それどころか意識があるのかも怪しい。それは無情にも月ケ丘清臣の言葉を肯定する状態だといえた。

 当真瞳呼の『絶槍』によって電撃はことごとく無効化され、その一方で当真瞳呼の"槍"──『死化粧』と『絶槍』──によって成田は徐々に追い詰められていく。そんな圧倒的不利の中、成田は『リニアステップ機動力』を軸に食い下がるが、『絶槍』の攻撃無効化能力によって積極的になった当真瞳呼の攻勢の前には遅かれ早かれの違いはあれど、結果を覆すには至らない。

「さすが現序列一位ね。私が本気を出してここまで戦えるなんてそういないわよ。というより『絶槍』をここまで食らってまだ立てるなんて末恐ろしさまで感じる。だからこそ、誘い甲斐もあるのだけれど……」

 成田を称賛する当真瞳呼。その言葉に嘘や皮肉といったニュアンスはなく本心を口にしているのがわかる。『絶槍』は当真瞳子の『殺刃能力』と同じくその殺意の槍は対象の精神力次第で実体を殺傷できる。成田が満身創痍ながらも五体満足で辛うじて立っていられるのも『絶槍』に抗しえたという事である。

 だが、当真瞳呼の目的は成田の確保にある。自ら重い腰を上げるほど認めているからこそ、殺意の槍で肉体が死に至る事も、精神が壊れる事もないと初めから計算ずくのはずだ。その想定外のさに驚きと称賛はあるが、ただ、それだけの話でしかない。

「──くっ、くく」

 突如、成田の肩が震え、かすれがちながらもその声に笑みを添える。『絶槍』による精神的ダメージがそうさせるのか、それは今までの様な偽悪に満ちたものではなく、熱に浮かされた無防備な感情──見方を変えれば、ほんの少し手で押しただけで崩れそうな状態だった。

「あまり動かない方がいいわ。というより、なぜ動けるのか不思議なくらいだもの大人しく寝てなさい」

 当真瞳呼も同じ見立てか、すでに『絶槍』の展開を解除し、『死化粧』もその穂先はもはや成田の方を向いていなかった(『死化粧』に関して言えば、成田を罠のある場所へ誘導する程度にしか、そもそも使っていなかったが)。当真瞳呼のいたわり(と言っていいものか迷うが)の言葉に笑いどころを見つけたのか成田の笑い声は一層強くなる。もはや正気かどうかすら俯き、手を覆った顔からは読み取れない。その様子に比例して私や当真瞳呼の不審も同様に大きくなっていく。

「──いや、なに、少しの間ら、いい夢が見られてねぇ。気分がいいんだ」

 しばらく続いた笑いをどうにか抑え、顔を上げる成田。その目には薄暗い講堂の中にあって唯一無二を示す輝き。輝きは全身に行き渡り、包み込む。生徒会室で平井相手に見せた能力、『紫電装』だ。

「ならそのまま寝ててもよかったのよ」

 『紫電装』が放つ光に目を細めながら、諭すように降伏を進める当真瞳呼。私や平井が格闘戦主体なのとは違い、『絶槍』という遠距離攻撃と異能無効化を同時に実行できる手段がある。後の"説得"がこじれない為にこれ以上の交戦は望まないと匂わせているが、それはつまり、成田の復活を脅威と感じていないという事だった。

「そういうわけにもいくかよ。こんな大事な時に役に立てなきゃ、それこそウソだろが!」

「本当に一途ね。好ましいけど、その対象を間違えてないかしら? ──とやらにそれだけの価値があるの? ──」

「──誰に従うかは自分てめぇで決める。部外者にどうこういわれる筋合いなんてねーよ。まして、をあれ呼ばわりしたんだ、あたしの中ではその時点で論外──あそこにいる飛鳥足手まといと組んだ方が億倍もマシじゃ、このボォケが!」

 ──あの口汚さはなんとかならないものか。そう思いつつも不思議と悪い気はしない自分がいる。何一つ状況は好転していないが、成田の言う"足手まとい"でも出来る事が――いざとなれば、成田をここから逃がす手伝いくらいなら──ある気もする。

「──本当につれない。私としてはもう少し真摯なやり取りを望みたいのだけれど」

「何が、"真摯"だよ。"出来損ない"なんて奴とこそこそ動いているてめぇが言えた義理かよ。……ならあたしをどうにか出来るってんだろ? まさか、気づかれないとでも思ったんか?」

「……」

 図星を指されてか、当真瞳呼が初めて無言になる。表向きにはにこやかに困った子を見るようなフリをしているが、そんな体裁で誤魔化されるほど成田は甘くない。再び見せる皮肉混じりの視線を浴びせながら、なおも撃は続く。

「ていうか、逆に気づいてねぇだろ。あたしが『紫電装』を出してからいったい何分経ったろうなぁ」

 その言葉の真意を真っ先に悟ったのはやはり同じ異能者である当真瞳呼だった。続いて、月ケ丘清臣。私は彼らのを見てどうにか気づく。

「──『紫電装』の大げさな光は"それ"を隠す為だったのね」

 "それ"は一度気づいてしまえばもう見逃しようがないほどはっきりと見える光の線。『紫電装』を纏った際、抜け目なく伸ばしていったそれらは座席や段差の間を伝い、巧妙に観客となった私達の視線から逃れていた。特に目の前にいる当真瞳呼は講堂の薄暗さと『紫電装』の光量との明暗で見逃しやすかっただろう。

 光の線はあるものと成田を繋ぐの役割、その先あるものとは、講堂の至るところにあるコンセントだ。

「──コンセントから電気を吸収しているのか?」

 おそらく電子を遠隔操作する事でコンセントに干渉したのだろう。空気が絶縁だといっても放電自体は不可能ではないし、通電できるのなら学園の施設から取り込むのも成田の理屈で言うならば"出来る"のだろう──呼び水となる何らかの導体(プラグ)なしで離れた位置にあるコンセントから電気エネルギーを引き込む、などと素直に納得するのは難しいが。

 とはいえ、私が納得しようがしまいが、"出来る"事には違いない。結局、異能者本人ではないので"そうかもしれない"としか言えない。月ケ丘清臣に倣うなら、既存の科学、既知の現象でどうにか理屈づけて、どうにか言語化したというところだろう。

「──本当に成田は"出来損ない"か? あんな規格外な真似、他の誰も出来ないと思うのだが」

「言ったはずだ。自然の一欠片である以上、理の内でしかない。多少、小器用に操れようと当真瞳呼には──"本物"には届かない」

 そう答える月ケ丘清臣だが、負け惜しみに聞こえるのは私だけだろうか? 主観か客観か、感想を確認しようにも他には『シャドウエッジ』の二人しか近くにおらず、その死人めいた様子からは答えも共感も得られそうになかった。

「──たしかに空がなけりゃ、雷を落とすのは無理だ。あたしの能力は開けた場所の方が力を発揮できるのも間違いじゃあない。だがよぉ、カロリーを電気に変換できるなら、その逆ができるかもしれない。それくらい想像できねぇか?」

「つまり、『紫電装』を展開してからの今までの会話は──」

の為の時間稼ぎだよ、この年増! あたしが負けたまま引き下がる性格なわけあるか! ──そう、あたしは誰にも負けない。要芽にも、ハルとカナにも、当真瞳子やその他の女どもにも、何よりを傷つけようとするてめぇには──特別にあたしが手ずから焦がしてやるよ!」

「──しか離れていないのに年増は酷いじゃない。……『絶槍』で止まってくれないなら、もう少し痛い目を見てもらうわね」

 やれやれと嘆息しながら『死化粧』を構える当真瞳呼。『絶槍』を新たに生成していないものの、その構えは成田の戦闘続行を受け、穏便な対応を放棄していた。

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