天才鍛治師は今日も…

96うさぎ

14話 蛮族の王

 敵意がない事を伝えつつスグルの前に座った人間はゆっくりと仮面をとり挨拶をする。

「私はハルと言います。一応初日から始めてて職業はアサシンでレベルは15です」

 スグルは顔を出した女プレイヤーの自己紹介を聞いて思わず固まる。スグルがこのゲームを始めたときに話に上がった最強職業と神に言われてた人物がゲーム開始数日で俺の目の前に現れてるのである。しかも俺のレベルの倍近く差が開いている事実にも驚くしかなかった。

 自己紹介をしたにもかかわらず反応がないのを見てハルは何か感に触る事を言ったのかと心配して涙目になる。

「あぁ……すまん。別に怒ってる訳じゃないんだ。ただビックリしてな」

 驚いた理由を説明するためにハルのことが話に出たことがあると説明するとハル自身も自分がその時点では最強職だったことに驚く。

「どうりで……みんな狼とかに苦労してるのに自分がサクサクレベルを上げて次々進めておかしいなぁ~って思ってたのよ」

 ハルはてへぺろとでも言いそうな表情を見せる。

「ねぇ……私、一緒に遊べる友達が居なくて一人なのよ……それでね?友達になってくれない?」

 ハルは藁にもすがる気持ちで上目ずかいに目をうるうるさせる事でスグルを困惑させる。

「友達になるのは良いんだが何で俺をつけてきたんだ?」

「ん?だって私しか行けなかった場所に敵を一撃で首を飛ばしながら突き進むプレイヤーがいたら気になるじゃない。それに悪人っぽくもなかったし!」

 この子の頭は大丈夫か?自分で言うのもなんだが首を飛ばしながら森を闊歩する奴とか普通にヤバい奴だと思うぞ。

 スグルは可哀そうな者を見るような視線をハルに送る。

「あ!今こいつ頭大丈夫か?みたいなこと考えたでしょ!私こう見えても人を見る目に関しては女の感も合わさって超一級品だよ」

 ふんす!と鼻息荒く自慢げに薄い胸を張る。

「まぁ自分に自信があることは良い事だと思うぞ。とりあえずフレンド登録するか?」

「やったーーーーー」

 両手を天にあげてその様は某アニメの技のようだ。

 スグルはフレンド登録をすましてハルの方を見ると初めての登録だったのかはしゃぎまわる姿を見て思わずつられて自分もうれしくなる。

「ねぇ?名前の横に書いてあるのはクランって言うんだっけ?作ってるの?」

「よく気が付いたな。俺達のクラン名は空白で出してるから表示はされないはずなんだけど……」

「えへへへ。やっぱり作ってるんだ!いれてーーー!」

 スグルにかまをかけたハルはスグルに勝った喜びを全身で表現する。この女は見た目と裏腹に油断ならないとスグルは心に留める。

「何で明記されてないのにクランが作られてると思ったんだ?」

「ん~女の感?」

 この回答にはさすがのスグルも脱帽だ。カナも感が鋭いほうだから女の感は馬鹿にできないことを身に染みてスグルは理解している。

 これは久しぶりに完全に負けだな……感に騙されるとは俺もまだまだだな。

「他のメンバーの許可が出たらだが加入できると思うぞ」

 スグルはハルを手放すのは後々面倒なことになりそうだと言う考えとは別にハルは皆とも仲良くできそうだと思い個人的にはOKをだす。

「で、最初に話を……」

「ちょっと待った!スグル君の自己紹介は?」

 フレンド登録して名前が分かるからそのまま話を進めようとしたスグルにハルが待ったをかける。奥に見える大きな扉と大きな気配を前にしてゆっくりしたくないとスグルは思ったがハルに失礼だと思いなおし自己紹介を軽くする。

「俺の名前はスグル、職業は見習い鍛冶師でレベルは8、武器は長刀でアカツキだ。」

「レベル8!?そのレベルであんなでたらめな動きしてたの?スグルはどっかの特殊部隊かなんかなの?」

 若気の至りで特殊部隊を壊滅させた過去があるなんて口が裂けても言えず、とりあえず話を逸らすことにする。

「それでこっちが使い魔のユキだ」

 肩に頭に乗っていたユキは隠密を解き姿を現す。突如目の前に姿を現したユキに思わず腰を抜かしそうになる。

「何それ!めっちゃ可愛い!」

 おもむろに頭に乗っているユキを抱き上げようとするが他人に触られることを嫌っているユキは逃げ回る。

 とりあえず話をそらせたみたいで良かった。

 ユキを使った作戦が成功したスグルは話を最初に戻す。

「話を最初に戻すんだがハルはここに居てくれないか?気配の感じだともう辺りに敵はいないと思うから安全だしな」

「なんで?私も付いて行くよ!一人であの気配と戦うつもりなの?」

「そうだよ。始めてで連携が取れるとは思えないというのが一つ、何かあったときにかばいながら戦える相手ではない気がするというのが一つ、そして今回ここに来たのは自分の身体のスペック確認とこの刀でどこまで戦えるかを確認する意味もあるから誰かに邪魔されたくないんだ」

 一人で行く理由をハルに伝えたもののハルは納得が出来ない様子だがスグルが折れそうにないのを確認して溜息を軽くはきながら諦める。

「分かった……でも門の外からあなたの戦いを見させて。次は足手まといなんて言わせないから」

「分かった。見ててもいいが一切の手出し無用だぞ」

「オーケー。例えスグルの腕が飛んでも入らないわ」

「縁起でもない事言うんじゃねぇ!」

 ハルとスグルは二人して笑う。スグルはハルのおかげでリラックスして大きな扉の前に向かう。

「ユキ……ちょっと斬ってくるからハルを見ててくれないか?」

 ユキは悲しそうな表情を見せるもスグルからの願いなので渋々といった様子でハルの元に行く。

「じゃあちょくら行ってくるわ」

 愛刀のアカツキを片手に扉の前に立ち手を当てると自動で扉が開き始める。開ききった扉から見えるのはドーム型の大きな空間がありその先には一つの椅子。そして椅子にはおおよそ3mはある巨体のゴブリンが座っており圧を感じる程の気を感じる。

 あれは……今までとは次元が違うぞ。

 スグルはすぐさま椅子に座っているゴブリンに鑑定を行う。


【ゴブリンキング  Lv.40】
   スキル:怪力Ⅴ 体術Ⅲ 自己治癒Ⅲ 斧術Ⅴ 歩術Ⅵ
      身体能力強化Ⅲ 即死耐性 火魔法Ⅱ 威圧Ⅵ


 スグルは薄々気が付いていたが鑑定を使うことでレベルもスキルも今までとは次元が違うとことを目の当たりにする。すくみそうになる足をスグルは自分の意志で一歩踏み出す。

 ヤバいのがここにいるのは分かっていたことだ。扉も閉まる訳ではなさそうだから自分の限界とこいつの限界も把握して無理そうなら撤退だな。

 愛刀のアカツキをみながら心に決める。広場の中央まで行くとゴブリンキングが立ち上がりのそのそと大きな両刃の斧を肩に担ぎ歩いてくる。スグルは本能でこの場に留まるのは危ないと判断して隠蔽を使って全力でゴブリンキングの懐の死角に飛び込みアカツキを抜刀しようとするも、さっきまで肩に担いでいた斧が下から切り上げるように迫ってくる。

 どうする……受け流す?避ける?受ける?……

 視界の端に斧をとらえたスグルはどうすることが最善か高速で思考を巡らせる。

 ……受け流すはジェネラルで失敗している……完全に避けるはこの態勢からは厳しい……この細い刀でまともにあの斧を受けるのは自殺行為だ……

 初手にして打つ手を防がれたスグルは抜きかけていたアカツキを抜刀術を使って全力で抜きつつ切り上げられる斧をさらに下から斧の腹にアカツキを当てて切り上げの軌道を上にずらしつつ自分はゴブリンキングの右足に体を転がして間一髪回避したのちすぐさま後ろに飛ぶ。

 はぁはぁ……脳の中が焼ききれそうだ。こんな攻防を繰り返してたら命がいくつあっても足んねぇぞ……

 スグルは現実ではなかなか味わえない高揚感に見舞われアドレナリンがどぱどぱと溢れている実感を得る。思わずスグルは初めて何でもありの状態で全力を出しても勝てるか分からない相手との遭遇で思わず獰猛な笑みがこぼれる。

「さぁ狩り(バトル)をしようぜ!」

 もう一度スグルは懐に飛び込み、振り下ろされる斧を紙一重で回避するとすぐさまアカツキで斧を握っていない右手を切り落としすぐさま離れる。

「ギャーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 ゴブリンキングは腕を斬られたことで叫び声をあげる。血しぶきが出るもゴブリンキングが持つ自己治癒のスキルのおかげかすぐに血が止まる。すると今までのお遊びモードと違い全力で威圧を放ち歩いて近づいてくる。

 やべぇ威圧の効果で体が重い……っつ!

 さっきまで歩いてこちらに向かってきていたゴブリンキングが歩術を使い目を疑うタイミングでスグルの間合いに入って来たあと、握りつぶす勢いで左腕を掴みスグルを持ち上げる。

「あああああああああ!」

 ベキベキベキと明らかに骨が折れる音とスグルの叫び声がその空間にこだまする。スグルは一度に襲われた痛みで意識を飛ばしそうになるのを強靭な精神で持ち直す。さっきまで左手に握っていた鞘に納められたアカツキが落ち始めてるのを見た英はすぐさま鞘ごと蹴り上げてゴブリンキングの片目を潰す。

「があああああああああ!!!」

 片目を潰されたゴブリンキングはたまらず後方に下がる。

「スグル!!!」

 名前を呼ばれたスグルは無意識に後ろを一瞬見る。するとそこには腰が抜けた様子で座り込んで泣きじゃくるハルの姿があった。

 俺は……何をやっている……待っているように自分で言っておきながら女を泣かせて恥ずかしくないのか?

 自己治癒で最低限を回復したゴブリンキングが再び間合いに入ってきてまともに動けないスグルを殴り飛ばす。

 俺のプライドはそんな安いものなのか?

 飛んで行ったスグルに向かってゴブリンキングは落としていた斧を持ち走って近づき真っ二つにしようと勝ち誇った笑みを浮かべながら振り下ろす。

 違うだろ!!!

【スキル:闘気を習得しました】
【称号:限界を超えし者を獲得しました】
【スキル:闘気が、称号:限界を超えし者によって闘気EXに昇格しました】

 スグルはシステムメッセージに目を向けることなく動く右腕に闘気を纏い振り下ろされる斧を掴み取る。今まで力負けなどしたことなかったゴブリンキングにとっては斧が止められている事実に困惑する。そのすきに血を吐きながら立ち上がったスグルは足にも闘気を纏って思い切りゴブリンキングの横腹を蹴り込む。

 はぁはぁ……口の中も血だらけだしこのダメージだともう動けないな……でも負けるのだけは死んでも無い!

 蹴ったことで頭を落としたのをすかさず回し蹴りをゴブリンキングのこめかみに放つ。ダメージを受けてよろめいているゴブリンキングにむかって落ちているアカツキを片手で抜きそのままゴブリンキングの首を刎ねる。

 手と足に集まっていた闘気が霧散し体に力が入らなくなったスグルは首を落としたゴブリンキングの横で同じように倒れ込む。

【レベルが15にアップしました】
【ゴブリンキング討伐を達成しました】
【称号:ジャイアントキリングを獲得しました】
【ソロによるレベル30以上のエリアボス討伐の報酬としてエリアボスが所持していたスキルの一部を獲得しました※歩術Ⅰ※自己治癒Ⅰ】
【エリアボスの初討伐によるボーナスを獲得しました※宝箱1】
【エリアボスのラストアタックボーナスを獲得しました※宝箱1】
【エリアボスの初討伐によってエリア入り口の石碑に名前が刻まれます※個人名かクラン名かを選択してください】

 意識を手放したスグルは大量に流れるシステムメッセージに気が付くことなく眠る……

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