天才鍛治師は今日も…

96うさぎ

9話 うさぎ狩りの苦悩

 広場で集まり話をした後、街近くのうさぎを狩ることにした面々はゲームでの初めての狩りに意気揚々と東門に向かう。しばらく歩くと東門が見えてきた。すると門の前には大きめの体躯にさわやかさを感じさせる顔立ちの門番がこちらを向いて立っていおり、明らかに自分たちを見ている。

「そこの君たちちょっとこっちへ来てくれ」

 門番が手招きをしながらスグル達を呼ぶ。

「何かあったんですか?」

 巧は閉まっている門と手招きする門番を交互にみて質問を投げる。

「君たちは冒険者か?冒険者ならステータスカードを見せてもらえないか?ここの門を開けて通していいのは一定の強さを証明できる人限定なんだ」

「それはこの先にいる魔物が強いって事か?」

 ただウサギを狩りに行くだけなのに、なんでこんなに厳重なんだ?他に凶暴な肉食獣がいるのか?

 スグルも気になって質問する。

「なんだ……来訪者プレイヤーか。この門の先は魔族領に近いせいで他の3つの門より魔物が少し強いんだ。そのせいで他の門の先で狩りをして自信を付けた冒険者がこの門の先で死んでしまう事が多かったこともあってこの東門は一定の強さを見せてもらわないと通してはいけないと国王からのお達しでな……はぁ…」

 なんだこの門番……あんま乗り気じゃないみたいだな。

 スグルは今まで使ってなかった鑑定を使ってみる。

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■ヴァンジュ  Lv.80
性別  男
年齢  28歳
職業  近衛騎士団長
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 鑑定したスグルも思わず二度見する。

 近衛騎士団長?LV80?どう考えても門番をする人間でないのは間違いない。纏っている雰囲気も本物だ。

「君。無断で鑑定を使うのはマナー違反になるから気を付けることおすすめするな?」

 ヴァンジュはスグルを威圧する。すかさずスグルも威圧で返すがレベル差からか体が重く感じる。

「強さを証明すればいいんだろ?残念なことにまだステータスを証明できるものを持ってないから模擬戦でもしようか」

 スグルは強者を前にして緊張で一粒の汗を流す。

「そう急かなくてもいいぞ!俺の威圧を受けた上にレベル差を分かっても怯んでないだけで強さの証明には十分だ。俺くらいになると大体の強さは体感で把握できるからな」

 今のレベルじゃ本気で挑んでも軽くあしらわれるな。でもこの世界にも強者がちゃんといるのであれば一つの目標になるから収穫ではあるな。

「今、開けてやるから付いてこい。何か困ったことがあれば騎士団に相談に来たらいい。必ず力になってやれるとは限らないが善処しよう……お前たちは大物になりそうだ」

 ヴァンジュはさわやかな顔で大笑いしながら門を開けていく。


 東門をヴァンジュに見送られたのち、少し歩いた先には大きな森が現れる。

「なぁスグル……イメージしてた森と違うのは俺だけか?」

 森を見て思わずタクミは声を上げる。森は大きく、樹が間隔狭く生えてるせいで日光が遮られて薄暗くなっている。さながら樹海のように見えなくもない。

「イメージとは確かに違うがところどころに気配を感じるからここが目的地で間違いないだろう」

 スグルは魔物との初戦闘にウキウキしながら森の中に足を踏み入れる。

 しばらく歩くとそこには一匹の角の生えたうさぎを発見したスグル達は足を止めて息をひそめる。

「多分あいつが情報にあったうさぎだな。とりあえず俺が先に行ってもいいか?」

「いいと思うよ。この中で隠蔽を使えるのはスグルだけだもんね」

 カナの言葉に一理あると周りも同意を示す。皆が納得したことを確認してスグルはわくわくに思わず舌なめずりをする。

 スグルはすぐさま隠蔽を発動させて自分の気配が薄くなるのを感じるとゆっくりと一角のうさぎの背後に回る。そしてうさぎに一気に近づくために強く踏み込もうとすると一瞬漏れた気配に気が付いたのか一角のうさぎは周りを探り始める。

 気配を探り始めたうさぎをみたスグルは自分の気配をさらに薄めるよう神経を擦らせる。

 すると頭にシステムメッセージが流れる。

「スキル【隠蔽】がレベルアップしました」

「スキル【隠蔽】がレベルアップしました」

 唐突なレベルアップに動揺が隠せないスグルだが躊躇なく隠蔽をもう一度発動させて今まで以上に気配を希薄にする。

「ふぅ……何とか見つかってないみたいだな」

 スグルは先ほどと同じように踏み込むのではなく今回は抜くように加速して一気に近づく。残り数メートルのところで枯れ木を踏みバキ!っと大きな音を立てた瞬間うさぎが近づくスグルの存在を確認する。しかし気が付かれたことに気が付いたスグルはステータス任せに全力で加速する。

 近づくスグルに気が付いたウサギは逃げられないと判断したのか角に魔力をのせスグルに向かって加速する。

「あぶな!」

 まさかうさぎがこの一瞬で攻撃してくると思ってなかったスグルは慌てて掴もうとしていた角を諦め頭の上にある耳を掴む。うさぎを何とか捕獲したスグルはうさぎに威圧を放つ。するとうさぎは意識を手放しぐったりした。

 自分の手で捕まえた初めての魔物に気分揚々に目を輝かせながら後ろを振り向くと皆が固まって何やらこそこそ話している。

「なぁあれレベル1の動きなのか?どう見てもすでに人間離れしてないか?」

「まぁお兄ちゃんだから……」

「私達今からあれやるの?……」

「見てよあれ……あんな少年の様な笑顔初めて見るわよ」

……4人はこの後起こるであろう苦悩に頭を悩ませる。

「おーい、皆もやろう!楽しいぞ」

4人はテンションの高いスグルを見て余計にテンションが下がる。

「じゃあ次はタクミがやろう!俺に出来てタクミが諦めるわけないよな?」

テンションが下がってる皆を見てスグルは葉っぱをかける。

「あ……当たり前だろ!スグルに出来て俺に出来ないことは鍛冶と料理だけだ!」

少し歩くと一匹が食事をしているところに出くわす。すぐさま見様見真似で気配を消す。

「難しいな……多分これ以上近づくと気づかれる」

しかし現状どうしようもないと判断した巧はステータス任せにうさぎに突っ込む。うさぎは地面を踏み込んだ音を察知してすぐさま逃走を開始する。それを見たタクミもさらに加速を行うも徐々に離されて見失う。

「「「…………」」」

「……どんまい!」

 なんだかんだ捕獲は出来るだろうと思っていた3人は思わず黙ってしまうがスグルだけは捕獲の難しさを身をもって味わってるのでスキルをまだ獲得できてないタクミには難しいのではと考えていたスグルはそれほど驚きはしない。

「スグル!お前何か隠してるな!?まさか地面を踏み込んだだけで逃走を始めたぞ!」

「まさか一回で分かると思わなかったな……実はさっき隠蔽使ってたらレベルが上がったぞ。それプラス音消しの工夫はしてるけどな」

「スキルを所持してるのとしてないのでここまで変わるのか……」

「とりあえずみんなチャレンジしよう」

 笑顔で言うスグルに思わず全員が固唾を飲む。その後も日が沈み始めるまでチャレンジするも誰一人触ることすら出来ない。

「今日一日やってみて思ったんだけど角の生えたうさぎって結局こいつだけじゃないか?」

 スグルの隣には頬をこすりつけてくる一角のうさぎがいた。

 なんか、懐かれてるんだけど。どうなってんの?捕まえるとペットに出来るとかか?いや、そもそも角有りがこいつしか出会ってないからな。

 考え事をしてると4人が疲れた顔で近づいてくる。

「お兄ちゃんお腹空いた!帰ろう!」

「スグル……流石に一回切り上げないか?」

 カナとミレイも目に涙を溜めて訴える。

「それもそうだな。早く所得はしてほしいが無理をしても逆効果だし何より皆がうさぎと戯れている間に売れそうな薬草や果実を集めといたから一泊くらい何とかなるだろ」

「お兄ちゃん大好き!!」

 ナホはスグルに飛びつき背中によじ登る。

「ナホ下りないか!」

「やだ!疲れたもん!」

 はぁ……しょうがない……さっさと帰るか。

 カナにミレイはおんぶされているナホをみて羨ましそうに見つめる。

「さっさと帰って飯食いながら明日の対策するぞ!」

 ボロボロになりつつも笑顔を忘れず努力する四人に思わずスグルもうれしくなり頬が緩む。

スグル達は沈み始めた夕日を見ながら談笑をしながら東門に向かってあるいて帰る。

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