天才鍛治師は今日も…

96うさぎ

2話 当選

 幼馴染である鳳香奈おおとりかなと付き合い始めて1週間ほど過ぎたが日常にこれといった変化はなく過ぎていく。
 しいて言えば香奈と付き合い始めた事に妹の奈穂が知り、不機嫌になって3日ほどなだめたり機嫌をとったりと大変だった事ぐらいだ。


 しかしそこはさすがの幼馴染である。
 香奈は3日目にうちに来てすぐに奈穂の異変に気が付き奈穂の部屋に強引に入って30分で奈穂と話し合って部屋から出てきた。


 気になることと言えば、部屋から出てきたとき奈穂の顔が少し青かったことくらいだろう。


 香奈に何があったのか聞いたらちょっと「オ・ハ・ナ・シ」しただけだよ。


 しいて言えば限度を考えないと鬼が出るよって言っただけって言ってたけど……鬼って……幼稚園児じゃないんだから、と思うんだけどな。


 とりあえず機嫌が直ってよかった。
 男の俺では踏み込みにくい部分もあるし。
 そんなことを考えながら朝の日課である訓練と筋トレを行って風呂に入っているとドタドタと脱衣所に走ってくる音が聞こえる。


「お兄ちゃん!」


 ガシャ!という音とともに脱衣所の扉を開け奈穂が勢いよく飛び込んでくる。


「妹よ。もう中学生なんだから人が入ってる脱衣所に飛び込んでくるのはやめなさい」


 はぁーと溜息をつきながら注意をする。パンツ履いててよかった。


「はーい。でも飛び込むのはお兄ちゃんにだけだから大丈夫!」


 全然大丈夫じゃないんだが……相変わらず奈穂は病的だな。
 小学生低学年のころに奈穂は誘拐にあって以来俺にべったりになってしまった。
 そういえばその頃くらいから奈穂はどんなにわがまま言っても怒る前に引くようになったな。


「そんなことより!お兄ちゃんハガキが届いたよ!」


「ハガキ?俺は何も応募もしてないし、請求とかもないぞ」


奈穂はリスのように大きく頬を膨らませて怒ってるアピールをしてくる。


「もう!オルタナ!オルタナティブオンライン」


「あぁ応募したな。忘れてたよ」


「当たってたの。そのハガキがとどいたの」


「ハガキ持って近くの取扱店舗に行って、手続きをしたら届けてくれるみたいだよ!」


 もう手紙内容読んでるんかい……一応俺宛のハガキのはずなんだけど。

 まぁいいか……



「分かった、分かったとりあえず出ていきなさい」



「はぁ~い」



 仕方がないと言わんばかりの不満顔で奈穂は脱衣所から出ていく。

 そうか、応募当たったのか。

 当たったら買ってあげる約束だったからな……いい出費だけど可愛い妹が頑張ると言うんだ。

 そう思えば安い買い物かな?

 奈穂がオルタナティブオンラインの購入をせがんできたのでいくつか条件を出しそれを呑んでいる。

 その1つが学校に行くようにすること、2つ目に健康的な生活をおくること、3つ目に家事手伝いを行うこと、と言う3ヵ条を約束している。

 誘拐事件以降、奈穂は敷地外へ出ることはほとんどなくなった。

 出る時と言えば俺が買い物や買い出しに行くときについてくる時くらいだ。

 中学生になれば学校に行くと言っていたがまだ行けていない。

 こればかりは奈穂の精神的な問題だから無理をさせるつもりはない。
 そもそもうちの家は父も俺も鍛冶で稼いでいるのもあって敷地は広いので、奈穂は別に運動不足でもなければ学力が低いこともない。
 奈穂は出来る範囲でしっかりと当たり前を努力している。
 しかし、兄として背中を押すことも必要だと考えゲーム機の購入に踏み切った。
 閉じこもっていた奈穂が学校に行けるよう頑張ると言うんだ。

 高いゲーム機とは言え奈穂に比べれば安いものだ。

 ゆっくり出かける準備をしていると、奈穂が俺の部屋にやってくる。


「お兄ちゃ~ん。まだ~。早くー」


 ミニスカートにTシャツというシンプルな格好で奈穂は現れたが、どう見ても部屋着ではない……


「奈穂も行くのか?」


「当たり前でしょ!ゲーマーとして自分のハードを見ずに購入なんて考えられないもん」


 そう奈穂はいわゆるかなりのゲーマーであり幼馴染である香奈をゲーマーの道に引きずり込んだのも何をかくそう奈穂なのである。

 香奈に聞いたところゲーム界隈ではかなりの有名人らしい……


「それに、外に出る努力をするのはお兄ちゃんとの約束だしね」


 奈穂は顔を赤くしながら顔をそらす。


「ちゃんと頑張るんだぞ」


 そう言って俺は、笑顔で奈穂の頭をなでる。


「えへへへへへ」


 奈穂の顔が崩れすぎである。
 思わず笑ってしまいそうになるほどだ。



「私はお兄ちゃんとの約束を破ったことが無いことが自慢なんだから」


 (`・∀・´)エッヘン!! ←まさにこんな様子だ。

 自慢できることかもしれんが何か兄として複雑だよ。

 そんなやり取りをしながら出かける準備を終える!


「早くいこーー!」


 奈穂は廊下を駆けていく。
 よほどうれしいのかたまに飛び跳ねているせいで、その度にスカートの中の白いものがチラリと見え隠れする。


「奈穂走ったり跳んだりしない。パンツが見えてるぞ」


「お兄ちゃんのエッチ~。見たいなら見たいと言ってくれたらいつでも見せてあげるのに」


 照れたような顔でスカートを少し片手で太ももに合わせてゆっくり持ち上げる。
 俺はあきれるしかない。どこでそんな言葉覚えてくるんだ……全く……。


「バカなこと言ってないで出るぞ」


「お兄ちゃんの反応が面白くなーい」


 ちょっとイラっとしたので少しばかりからかっておく。


「じゃあ行くのやめるか?」


「行く!行きます!たとえ水の中、火の中お風呂の中ベットの中トイレの中だってお兄ちゃんと一緒ならどこへだっていきます」


 前半は普通だったのに後半は完全にお前の趣味が入ってないか?


「風呂とベットとトイレは勘弁してくれ……」


「え~この間まで一緒にお風呂も入って一緒に寝てくれてたのに……」


「奈穂も中学生になったんだから一人でお風呂もベットもトイレも一人で頑張りなさい」


「背中も流すからね?たまにはいいでしょ?……それにトイレはもともと一人です!」


 ちょっと上目ずかいと涙目で訴えてくる。

 他の家庭の兄妹がどうかは知らないがうちの妹はお世辞にならないレベルの可愛さがあるのでその破壊力は抜群だ。可愛いは正義だとよくわかる。
 そんなこともあってか基本的に俺は奈穂に甘い。ダメなものはダメと言うが基本は甘いのだ。


「まぁたまにならいいか……」


 結局俺が折れるのだから他にあれこれ追加される前に撤退するのが一番だ。


ピーポーン!


 と家のチャイムが鳴り、玄関前についていた奈穂はすぐに玄関を開ける。


「わ!びっくりさせないでよ!奈穂ちゃん」


 そこに立っていたのは幼馴染の香奈だった。


「どうしたんだこんな朝から」


「隣の家に住む彼氏の家に尋ねるのに理由が必要なの?」


 なんかちょっと怒ってないか?さっきの会話もしかしなくても聞かれたんだろうな……怒る前に話をそらそう。


「隣の家?と言うがこの家は山上に立ててるんだぞ……ということはここまで結構山登りしないといけない訳なんだが、そんなの理由もなく来ないだろう」


「う ……これよ」


 そう言ってハガキを見せてくる……でも何か申し訳なさそうだ。


「さすが香奈のリアルラックだな!当選してるじゃん」


「でも……英の分が……」


「そんなに落ち込むなよ二人が当選してるだけでもかなりの奇跡なんだぞ。それにお金が無いわけじゃないから最悪後日発売される分に申し込むよ」


 ギーーーーザザザーーー!というドリフト音と共に一台の見るからに高級車が止まる。

 そこから優雅に出てきたのは何と高城美鈴たかじょうみれいその人である。


「英ーーー」


 美鈴はすぐに俺の姿を見つけ大きく手を振る。

 その手には2枚のハガキが握られていた。


「前に言ってたハードのテスター当たってたわ!」


 今にも反り返りそうなくらい胸を張っている。


「これで一緒にゲーム出来るわね。」


 後ろから奈穂が俺の服を引く。


「お兄ちゃんこのザ・お金持ちみたいな人誰?」


 俺は妹が初対面なことを完全に失念していた。


「この人は友達で高城美鈴さんオルタナを一緒に遊ぼうと誘われてたんだよ」


「え!お兄ちゃんは私と一緒じゃないの?」


 今にも泣きそうになっている。


「運よくハードが全員分ある訳だしみんなで遊べばいいだろ。美鈴さんは頑張り屋でいい子だから奈穂とも仲良くなれるよきっと……ね?」


 振り向くとそこには湯でタコみたいに赤くなった美鈴さんがいた。


「そ……そそそそ……そうね。高城美鈴です。よろしくね」


「お兄ちゃんは香奈ちゃんと私のものです!」


 軽くお辞儀をした美鈴さんの動きが停止した。

 ゴツン!という音が鳴るほど、奈穂の頭に拳骨を落とし少し俺は睨みつける。


「いたーーーーい!」


 奈穂はあまりの痛さにその場にうずくまる。


「え 大丈夫?」


 唐突に起きたことで状況を美鈴さんは理解が追い付いていない。

 ちょっと泣きながら見上げてくる奈穂にひと睨み効かせるとすぐにビシッと音が出そうな勢いで立ち上がる。


「妹の梶 奈穂です。よろしくお願いします。」


 奈穂は冷や汗を流しながら美鈴さんの手を握って挨拶をする。
 隣にいた香奈も少し顔色が悪いような……気のせいかな?


「英、今からゲームを買いに行くんでしょ?うちの車で行き……」


 プルルルルと俺の携帯が鳴り響く。液晶をみるとそこには剣術バカの文字がありこれで巧だと分かる


「巧どうした?この間今話題のオルタナを奈穂ちゃんにあげる為に抽選に出したって言ってたけど自分の分はしてたのか?」


「してないぞ」


「そんなことだろうと思って俺と英の名前を使って出したら1つ当たったから英も奈穂ちゃんとできるぞ」


 どうだと言わんばかりにうれしそうだ。巧も話してた時剣術の練習ができそうだからやりたいなって言ってたのに無理しちゃって。本当に俺にはもったいないくらいの友人だな。


「俺の分のハードは美鈴さんが出してくれたやつが当選してたからそれは巧が使って一緒にやらないか?」


「奈穂ちゃんの分とかも当たったのか?」


「あぁ……奈穂、香奈、美鈴さん、巧、に俺と奇跡的に全員入手出来てるな。まだ当選しただけで購入までいってないけどな」


「英よ……一生の分の運使い切ったんじゃないか?」


「俺もそんな気がして今ちょっと怖いな」


「でも残念なことに俺にあの高いハードを買うだけの経済力はないから一緒にはできないな」


 確かに今回のは医療機関を含む色々な企業の共同開発というのもあってただのゲーム機じゃないから一学生に出せる金額を大きくうわまっている。


「巧こういうのはどうだ?」


「ん?」


「今度3本ほど包丁を打つことになってるんだがその補助スタッフを探していてな……巧10万でどうだ?」


 実際巧を10万で補助に呼んでも十分な利益がでる。今回のお客はかなり前からの上客で品質にあったお金を出してくれる。

 おそらく100以上は出してくれるだろう。そうであれば巧みをアルバイトに雇って10万払ってもお釣りがくる。


「今なら先払いも可能だぞ」


「のった!」


 あまりの決断の速さに思わずにやけてしまう。
 よほどこのゲームに興味があったんだな。


「じゃあ街の家電量販店のイシイで待ち合わせな」


「了解!」


 電話切った俺は、皆に状況説明を行う。


「巧もわざわざ俺の分を出しててくれたみたいで当選してたみたいだから巧が購入することになったよ」


「じゃあ皆でできるね」


 奈穂が満面の笑みだ。この笑顔を見れただけでも10万は惜しくないな。


「それじゃあ美鈴さん町の家電量販店のイシイまでお願いしていい?」


「もちろんよ。英の分のハードは企業に届けてもらうね」


「取りに行かなくていいのか?」


「通常のものより少し大きくなる上にテスターも兼ねてるから説明も必要ですし」


「なるほど……そういえばゲームはもう一つの現実(異世界)がテーマで剣や魔法での戦闘ができたり職業があったり生産が出来たりと今までのゲームでは考えられないほどの自由度があるってことはちょっと調べて知ってるんだがハードはどうなんだ?ゲーム以外の機能も多くあるってことは知ってるけど具体的に知らなくてな美鈴さん知らない?」


 ん~ん~と美鈴さんは少し考えこむ。


「私の親の会社が親会社とは言っても全部私が知ってる訳じゃないけどそれでもいい?」


「ああ。お願い」


「ちょっと長くなるから合流してからにしない?」


 それもそうだな巧なら気にせず待ってるだろうけど、一緒にやるなら情報は共有できるにこしたことないからな。


「じゃあさっそく合流に向かって情報共有しますか」


「お兄ちゃ~ん。はやくー」


 奈穂は先にもう車に乗り込んでいた。
 皆思わず笑みを浮かべあい車に向かっていく。

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