天才鍛治師は今日も…

96うさぎ

0話 非日常のはじまり

    今日は7月1日、梅雨真っ只中である。
雨が降る放課後、体育館裏で俺はかれこれ30分は待たされている。

 何故雨の降るこんな日に体育館裏で立たされているのかと言えば朝までさかのぼらなくてはいけない。
 俺は雨にうたれながら憂鬱な気持ちで学校に登校して、靴箱を開けるとそこには一通の手紙がありこう書かれていた。


【貴方の事をずっと見ていました。この気持ちをどうしても伝えたいので放課後
 体育館裏で待っています。】


 なんていう、狂気じみた手紙が入っていた。

 正直言ってこの手紙の送り主は頭がおかしいのではないだろうか……流石に果たし状や嫌がらせではないと思いたい。

 果たし状だった場合、俺はお前は宮本武蔵か!とツッコミを入れてしまいそうだし、仮に定型どうりラブレターだったとして30分もまたせるか普通【……待ってます】じゃねぇよ!

 俺が待ってるわ!しかもずっと見てましたって絶対ストーカーだろ……確かに最近視線をよく感じてたけど……


 かれこれもう40分になろうとしている。

「もう、流石に帰っていいよな……」
「この手紙、差出人書いてないし」

ッバン!
 大きな音とともに体育館裏の扉が勢いよく開けられる。

「私があなたと付き合ってあげるわ。感謝しなさい」

 そこにいたのは学校のアイドル(らしい……俺は知らん)が仁王立ちで言い放った。
 その言葉に流石に俺の大きな堪忍袋が決壊した。

 俺は学校のアイドル(笑)の前に、縮地まがいなスピードで間合いを詰めて胸倉を掴み、前から足払いをかけて強制的に正座をさせた。


「おい!学校のアイドル(笑)!」


「(笑)ではありません!私のな、」


「うるさい!黙れ!お前は(笑)で十分だ!」


「言いたいことは山ほどある!まず一つ何で待っているはずの(笑)が雨の中待って
る俺の後ろの体育館の中から出てくるんだ?」


 俺は(笑)の目を見つめて圧力をかけていく。


「それは、雨が……」


「降っていたから……なんて言わないよな?」


「何たって俺は40分も雨の中待っていたんだから」


「それにまず言うべきは人として遅れたことに対する謝罪じゃないのか?」


 あぁ!どうなんだぁ?と言わんばかりに詰め寄る


「でも、あの……」


「でもじゃないんだよ!それに何様なんだ?あげる?、感謝?」


「もう一度、俺の目を見て吠えてみろよ!なぁ?」


(笑)は限界がきていたようだ目は潤みっぱなしで絶望の表情をしている。


「ごめ……ごめんなさい……」


(笑)は謝りながら上目ずかいで俺と目を合わす。

 その直後(笑)はッア!……と小さく吐息を吐いたかと思うとスカートを強く握りしめた。


「おい!どうした?」


 様子がおかしい(笑)を見ているとみるみる顔を赤くしていく。

 その直後、紺色のスカートが濃紺の様な色に一部分だけ変色していきついには足の周りに黄色い水たまりが出来上がる。


「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい」


(笑)は顔を伏せてひたすら謝り続ける。


「いや……俺のほうこそ何か……ごめん」


 こんな時、男の俺はどうしたらいいんだ!誰かヘルプを、あ……やっぱいい今誰か来たら色々大変なことになりそうだ。
 俺はとりあえず(笑)を立たせる為に彼女の手をとるとビクッっとしたが顔を伏せたまま立ち上がる。


「とりあえず外に出ようこの状態は誰かに見られたら言い訳できない。」


(笑)を外に連れ出し俺は濡れた体育館を掃除して戻る。
 匂いまではどうしようもないがとりあえず証拠は隠滅しておいた。

 濡れながら待つ(笑)……は何かかわいそうだな意味が変わってきそうな、彼女のもとに戻ると生気を感じさせずたたずんでいた。

「歩けるか?俺が誘導するから付いてきてくれ」


 俺は彼女をエスコートしながら、誰にも見つからない道を選んで保健室にたどり着く。


「先生いますか?」


「はーい。どうしたの?……って、びしょ濡れじゃない!」


「話してたら傘が飛んじゃって……」


 とりあえず適当に言い訳をしておく。


「先生、自分が体操服持ってるので彼女にタオルを貸してくれませんか?」


「あなたはどうするのよ?」


「自分はそれほど遠くないので走って帰ります。傘も壊れちゃいましたし。」


 もう一息かな?うまく誘導しないと面倒だな……


「彼女は今日少し体調が優れないようだったので俺より彼女が優先です。」


「分かったわ。」


 男らしい男の子ね。彼女の事をしっかり気を付けれてる。羨ましいわぁ~。

 先生は何か誤解をしてそうだがまぁこの際面倒ごとはさっさと終わらせよう。
 俺は急いで体操服を回収し保健室に戻る。

 彼女に体操服を渡して自分の体が必要以上に冷えないように先生から借りたタオルで軽く拭き出してくれたコーヒーで温まる。


「あの……ありがとう……」


 彼女は顔を伏せたままだが小さな声でしっかりとお礼を言った。
 そのまま彼女に駅まで付き添い電車が来るまで待つ。


「あの……今日はごめんなさい。それとありがとうございます。」


 なんだ、思ったより普通だな……出会いがぶっ飛んでただけで。


「気にするな、あれは完全に俺が悪かった。」


 しばらく黙っていると彼女が話し始める。


「そう言えば自己紹介がまだでした。」


 俺も言われてみれば自己紹介をしていないことに気が付く。


「私は高城 美鈴(たかじょう みれい)です」


「俺は梶 英(かじ すぐる)だ。」


「はい、もちろん知っていますよ。」


「それもそうか、告白した相手の名前もわからない奴なんかいるわけないか。」


「その……改めてお願いすることはできませんか?」


「ごめん……」


 しょんぼりとした表情で話を続ける。


「それじゃあ……お友達になっていただくのはダメですか?」


「俺としては問題ないけど高城さんはいいのか?」


 涙を目にいっぱい溜めてニッコリと笑う。


「はい!是非お願いします。」


「分かったよ。じゃあ高城さんこれからもよろしくね。」


 彼女がめいいっぱいの笑顔になった瞬間頬に雫が落ちる。


「お願いついでにもしよかったら、美鈴ちゃんとか鈴ちゃんとかで呼んでください。」


「美鈴さんで勘弁してください。」


 彼女はフフッっと少し勝ったと顔が言っている。

 ここは引いておいたほうがよさそうだ。決して逃げているわけではない戦略的撤退なのだ。

 そんなことしていると電車が停車する。
 美鈴は電車に乗り込む直前に振り返り少し赤みがかった顔を近づけてくる。


「今日の事は二人だけの秘密にしてくださいね。」


 ここで俺はさっきの仕返しを少ししてあげようかな。


「それは俺にあんな告白をしたことかな?それとも……」


 少しわざとニヤニヤしながら語尾に行くにつれてゆっくりと発音する。
 美鈴は急いで電車に乗り込み真っ赤な顔で振り向く。


「どっちもです!」


 その直後に電車のドアが閉まる。
 ドアが閉まった後も何かを言っているようだ……口元を見るにおそらく


(覚えてなさいよ!絶対仕返ししてやるんだから!)


 っといったところではないだろうか……確認はできないがおそらく間違いないだろう。


「さてと、俺も風邪をひかないように帰りますか。」


 今日1日のモヤモヤが晴れたように、空も少し光が射してきていた。


 そんな日常を送った7月1日……ここから英の生活に変化が起こることを英はまだ予想も出来ていないのであった。

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