女神に毒殺されたら異世界でショタ魔法使いでした

奈楼小雪

第七話 ブリッジにて

 



 私は、頭に付いた耳をピクピクさせるウォルフ艦長と話をしていた。 彼は狼族のシュトルム・ウォルフ大佐、ダンディな顔、銀髪灰色の瞳の魔族歴で40歳。 彼の話を纏めると、先日ユトランド沖の空域で、海賊国家であるブリタニカ海賊王国と大規模な空戦が起こった。 戦闘の建前は、長年に渡って帝国領内で、空賊行為をした事への報復措置。 本音は、先日のヤマト国の女性生徒に空軍兵士の若手艦隊がフルボッコにされ、皇帝陛下に叱責された空軍元帥の鬱憤晴らし。
 空戦の結果は、両陣営も大損害を受けた。 ブリタニカ海賊側は空中要塞のアヴァロン含め多数の艦艇を消失、帝国側も戦艦ポンメルンや巡洋艦・駆逐艦多数を消失した。
 ブリタニカ海賊王国側は、長期遠征可能な空中要塞アヴァロンを消失した事で、北海における空間的優位性を失った。 一方帝国側も、一時的で有るが北海地域の戦力を減らし各地域の空軍が穴埋めに大忙しだそうだ。
 で、彼等第十二管空部隊は、残党狩りをしていて追いかけ、ジェットストリーム内で先程まで戦闘をしていたそうだ。
 「チェイス殿、やりすぎでは?」 「イエイエ、閣下あれくらいで、丁度良いのです」 「で、この後はどうされる予定で?」 「我がアルファワンは、帝都ベリルンに向かいヤマト国の船を置いてきます。ツーからファイブは暫くの間は当空域で警戒させます」 「了解した、我が十二管空部隊も後ほどやってくる、空母艦隊と合流し、ヒュマン国との間の全空域を警戒する」 「先程の、各艦の魔力データと精霊スピリットエンジンのパターン送ります、ご武運を!」 「感謝する、良い船旅を!」
 通信が終わり、ふぅと息を付きながら椅子に深く腰を掛ける。 全く、私は元が海賊だというのに何で海賊を処分する側に回っているのだろうか? だが、この時代の海賊は、男は皆殺し、婦女子を暴行し奪い奴隷として売っている。
 私の時代の宇宙海賊では、そんな事をしたらあっと言う間に廃業だ…… 銀河帝国と共和国の軍に、あっという間に殲滅されてしまう。 更に、各個人の体内に生まれた時に、ICチップ埋め込みが義務化されている、世界では逃げ場が無い。
 そんな事をするよりは、新規に宇宙航路スペースルートの開拓と資源・古代文明の調査をして売った方が、よっぽど名誉も金も入る。 私のいた世界では、新規に開拓したルートは、発見者の名前が付けられた宇宙航路スペースルートにされる。 資源や古代文明の遺産は見つけ、得た利益の六割を得られるルールが決められていた。
 私が今いる世界の法律では、空賊は、捕まったら死刑。 私は、郷に来たら郷に従え、という故郷の諺に習い彼等を処分した。 だから、何も後ろめさはない、っと思っていると声がし私の思考を打ち切った。
 「艦長、バルクホルン大尉からサインを貰ってきました」 「副官か……ありがとう」 「艦長、言われた通りに、アエルフィンカ合衆国空軍を攻撃型偵察機ファントム・アイで追尾したところ、面白い物が見えました」 「ほぅ、見せてくれ」
 彼女はディスプレイに、映像を展開をする。 其処には、空賊のガレオン船を守るかの様に囲んで曳航をしているのが見える。
 「艦長の言われた通り、空賊の中には、アエルフィンカ合衆国の息が掛かっていた者達もいた様です」 「まあ、此処にきた時点で、迎えに来たと考えれば、納得だけど多いね」 「艦長、どうします?ガレオン船は現在、五十隻程がいます」 「まだ、ジェットストリーム内だよね?」 「艦長、はい、そうです」 「疾風シュトルム怒濤‐ウント‐ドラング弾をガレオン船団の真下、1千メートルで発動で設定し、発射」 「艦長、了解しました、疾風シュトルム怒濤‐ウント‐ドラング弾を発射します」
 指示が飛ぶとディスプレイには【発射】と表示がされ、暫くするとガレオン船団中央の付近の雲海が突然跳ね上がった。 空軍の艦も煽りを受け、バランスを崩す。そんな中で、ガレオン船団はひとたまりも無く多数の艦が雲海の中に消えていき姿を消した。
 「艦長、空賊の艦隊は残り二隻です、どうします」 「まあ、これくらい残しておいた方が、事故ぽくて良いと思うんだ」 「艦長、了解しました。アエルフィンカ艦隊の停泊予定地のマルセイル港まで、追尾させる予定です」 「了解した。頼んだ」
 そう言っている間にも、残りの二艦がバラバラと分解し、雲海に消えていった。 うん、空賊艦が全滅しちゃった。まあ、いいや。 それにしても、アエルフィンカ合衆国はあいかわらず、自分達が人族世界の警察で有りたいと思っているみたいだ。 彼の記憶によると、今から人族歴三百年前、アエルフィンカ合衆国とドラゴ伯領は人族歴百年間の大戦争を行った。 戦争の理由は、宗教と経済。 
 我が帝国の宗教は、フリーダム教。 教義は、何でも職業を選び行動をして良い、但し悪人でも善人で有っても一流を目指せプロフェッショナルで多神教。
 アエルフィンカ合衆国の宗教はキリトス教。 教義は、父と子と精霊の名の元に、人族とエルフ族の発展を許すという宗教で一神教。 そして、魔族を人を惑わす悪魔として、定義している。
 そんな、一方を一方的に悪魔と定義する様な国家と友好関係は無く、経済活動も無かった。 帝国側の殆どは、内需で完結し、未開拓の東部地域の開拓などしていた。 そして、三百五十年前。外需にも目を向け始めた時、難破した我が帝国の船の乗員を救った。 やがて、ヤマト国と国交が結ばれた。 我が帝国は、極東の地域に経済を円滑にする為に、ドラゴ伯領内に転移門トランス・ゲートを作り、活発な経済活動を始めた。
 ヤマト国の人達は、魔族を快く受け入れ、独自の技術と文化を合わせ、発展を始める。 ヤマト国は、工業国として、周辺国へ新しい製品を売り込んでいった。
 それを快く思って居なかったのが、同じく工業国家のアエルフィンカ合衆国。 我が帝国の皇帝へ、ヤマト国への技術・人的援助を辞める様に意見した。
 皇帝は【売れる物は良い物、売れない物は悪い物】、【魔族を悪魔と勝手に定義する。クズ国家に言われたくない】とアエルフィンカ合衆国に返答。 合衆国大統領は激怒し、メフィスト帝国と友好国へ経済的封鎖をした。 メフィスト帝国もアエルフィンカ合衆国向け製品の輸出を止め、友好国への大規模な支援を始めた。 同時に密輸する船は、民官問わず撃沈を決めた。
 人族歴一ヶ月間で、アエルフィンカ合衆国に密輸しようとする船は、海と空で二百隻が摘発され撃沈された。 中には、飴玉袋が一個あったというだけで撃沈された船もあった。 一年経ち、経済に陰りが出始め、アエルフィンカ合衆国はまずいと思いドラゴ伯爵と会談を求めた。 会談場所は、アエルフィンカ合衆国の首都、ワンシントン。
 残念ながら、会談場所に向かったドラゴ伯を待っていたのは、狂信的なキリトス教の空軍将軍との空戦。 まあ、このアルファワンからファイブを連れて行った、ドラゴ伯の艦が落ちるわけなく、相手の将軍の艦隊が全滅した。 しかし、同時に、大統領と副大統領が暗殺され、下院議長が大統領に変わった。
 狂信的なキリトス教の下院議長は、ローシア帝国と同盟を結び、ヤマト国側をローシア帝国に宣戦布告させた。 そして、アエルフィンカ合衆国はメフィスト帝国に、宣戦布告した。
 足掛け人族歴で百年。 人族の方では世代が変わり、何故戦争をしているのか良く分からない状態で有った。 一方、真面目なドラゴ伯は毎日、コツコツと爆撃と掃討を行った。 東部から始まった爆撃が西岸で終わった頃には、主要都市と工業地域は灰塵とかした。 やがて、ドラゴ伯と停戦協定が結ばれ、干渉地域として、ヒュマン王国が出来た。 ローシア帝国は、初期の日本海大空戦の後、東部魔樹海で起きた魔物による氾濫で、首都モスワクが消失した。 その後は、小さな国家の集合体に分裂し内戦状態だったので放置されている。
 そんな、国家、アエルフィンカ合衆国。 何を考えているのか?と思いながら、私は転移を行う指示を出すことにした。
 「帝都ベリルンへ転移を始める!無線主任は、連絡を!各自、準備始め」 「艦長!了解しました。此れより、転移を始める、各自指定場所の状況を確認せよ」
 やがて、各自の状況が完了、オールグリーンと報告される。
 「転移!開始!」
 彼女が、いうと艦が白い光に包まれた。

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