女神に毒殺されたら異世界でショタ魔法使いでした

奈楼小雪

第五話 乙女達の戦場




 私は、ゲルトルーデ・バルクホルン、メフィスト帝国空軍大尉。 ドラキュラ族の女17歳、人間でいうと1700歳に当たる。 現在は高度3000m、アルプス山脈上空のジェットストリーム内、ヤマト国の駆逐艦三笠に乗艦。 航路上で、帝国空軍と空賊の戦闘に巻き込まれたのだ。
 双方の戦力図は、帝国側は旗艦、巡洋戦艦モルトケ以下10隻、敵ガレオン船は凡そ三十隻。 質・量共に、我が帝国の利が有る。 だが、ジェットストリーム内に慣れている空賊側にも地理的優位で、一進一退の状況を生んでいる。
 当方は、既に回避行動に既に入っているが、空賊の一部が、こちらを追ってきている。 どうやら、捕まえて人質にしたい様だ。 だが、三笠も黙っている訳では無い。
 「戦闘、左砲戦、実弾、榴弾装填」 「装填よし!」 「魔導レーダー連動よし、射撃よーいよし!」 「二番砲、二番砲右、攻撃始め!」
 後部の主砲、40口径30.5センチ連装砲が火を吹き、敵ガレオン船の艦橋部が吹き飛び、山の斜面に文字通り削られ、バラバラに分解し落ちていく。
 「敵艦の轟沈を確認」 「次、右舷、砲雷撃戦、開始」
 艦長の東郷空子とうごうくうこさん、副艦長の秋山雅子あきやままさこさんが指揮をしている。 彼女達は、人族でスカイ・フリート・ハイスクールの女子高校生で16歳。 女子生徒が、駆逐艦を操作しているというのは、些か違和感が有るが理由が有るようだ。
 「艦長!此方、機関室!乙女エンジン出力が落ちています。もう、少し出力、上げて下さい!」 「分かりました、もう少し上げます」
 艦長の東郷さんが、片目に手を当てると艦の速度が増した。 理由は、乙女エンジンというのが関係している様だが、私は詳しくは知らない。 ヤマト国は、我が国とは事成る体系の魔法と科学技術を持っている。
 「さすが、お二人とも祖母殿が参戦された、日本海大空戦を思わせる戦いぷりです」 「「光栄で、御座います!」」 「艦長ー、一番水雷発射管理!次、行かせて貰えますか?」 「戦闘用意!右、魚雷戦」 「魚雷発射まで、二十秒!」
 彼女達の祖母に会ったのは、人族歴三百年前、私が十四歳の時だった。 私は、ヤマト国にローシア空戦をする時に、観戦武官として趣いたのが始まり。 その時に乗った駆逐艦は三笠、彼女達の艦は他の艦と異なり、下部に第三艦橋の替りに超大型の魔法刀を付けていた。
 艦長の祖母は、敵に高速で突進、敵のローシア帝国空軍の艦多数を真っ二つにし、戦局を有利に運んだのは鮮烈な記憶で残っている。 歴史上では、【東郷カッター】と言われている。 副艦長の祖母は、作戦参謀として優れた情報戦を駆使した。 荒れて暴風雨の天気なのに【天気晴朗ナレドモ向かい風強シ】と偽電を打ち、ローシア帝国空軍を戦場で苦しめたのは有名。
 「十秒……発射準備完了!」 「発射!」
 魚雷は敵艦首に当たり、つんのめる様にガレオン船は艦首を下に向け、そのまま風に流され山峯に激突する。
 「やった!やりました、艦長!」 「……」 「艦長?」 「航海長!急ぎ、機首、六十度、下げ」 「機首下げます!」
 レーダから、友軍の帝国空軍が、上にいるのが分かっている。私なら、機首を上げる。 彼女の判断ミスかと思ったが、其の疑問は足元から突き上げてくる振動で、打ち消された。
 「急上昇気流アッパー・バーストか!」
 私が、声を上げると艦長の彼女は頷く。 此処は、ジェットストリーム。 名前の通り、凡ゆる所から吹く突風は、熟練の船乗り達さえ死地へ呼び込む。 もし、機首を上げていたら艦は空を回転しバランスを崩し墜落しただろう、彼女はそれを読んだのだ。
 「まるで、空の子供スカイ・チャイルドですね」 「亡く成った祖母が、風の子供になって欲しいと私に名前を付けました」 「艦長!予測進路とレーダから判断、帝国空軍と空賊の砲撃戦の真っ只中に入ります、空賊は右舷です」 「前部、後部砲塔、右舷砲撃戦準備!水雷室は、魚雷発射準備を!」 「「「了解!!」」」
 各部署がキビキビと動き、攻撃準備完了と報告が上がったと同時、艦は雲を抜け踊りだす。 周りは、白い海の様に雲海が広がり、左舷には山羊ゴートに五芒星の帝国空軍艦隊が、右舷には空賊の船団が見える。 両者とも、この急上昇気流アッパー・バーストに巻き込まれ操舵に混乱を来たしている様で、砲撃はしていない。
 「砲雷撃戦……まて!!」
 艦長の彼女は突然、【まて】と指示を出した。今度は、何だと思っていると、右舷の空間が突然ビキビキと音を立て突然歪み始める。 やがて、歪んだ空間から押し出される様に、矢じり型のトンガった五隻の艦が鶴翼かくよくの陣で姿を現した。 四隻は青く、中央の一隻は白く塗られ、何れも側面に赤い瞳の紋章が描かれている。 こんな駆逐艦など、屁でも無いくらいに巨大。赤い瞳の紋章、馬鹿でかい機体、どこの誰かまあ分かる。
 「艦長、不明艦から映像通信を求めています」 「通信士さん、繋げて」
 其処には、私の予想通り、銀髪に赤い瞳の少年が敬礼している姿があった。
 「こんにちは、私はチェイス・レッドアイ、ドラゴ伯爵の息子、機艦を救助しに来た」 「こんにちは、私は東郷空子とうごうくうこです。ご助力感謝致します」 「機艦は、我が艦の後方に、退避、観艦されたし。あと、機艦の後部推進機部から黒煙が発生、異常が見られる」 「了解しました!此れより我が艦は機艦、後部に移動し見学させていただきます」
 機体は速度を落としながら彼等の機体の後ろに移動を始める。
 「艦長!我が艦はまだ戦えます、伯爵の息子だか知りませんが、あんなパッと出の方に手柄を取られていいんですか?」 「……機関室、さっきの話、聞いてたよね?後部推進器に異常は有る?」 「此方、機関室、伯爵の息子さんの言うとおりです。推進機の一つが、先程の急上昇気流アッパー・バーストで異常燃焼の為に、焦げ付いています」 「!!」 「そういう事だから、まさちゃん、仕方が無いね、折角だから、伯爵さんの息子さんの戦いを見てみよう」 「はい、艦長……」
 不服そうに返事をする。そうしている間に伯爵の息子チェイスの艦の少し後ろに付いた。 発光信号が【こ・れ・よ・り・シ・ョ・ー・を・ご・覧・ア・レ】と焚かれる。
 次の瞬間、各艦の前方に巨大な魔法陣が展開され。光りの粒が収束する。全艦から同時に、発射されると空賊の艦が破片も残らず消滅した。 中には、ボロボロに成りながらしぶとく生き残っていたのもいた。 止めとばかりに、甲板上から火を吐く巨大な矢が多数発射された。 それは、空賊に襲いかかり刺さると大爆発を起こし、我が艦までにもビリビリと振動を与えた。
 爆炎が晴れると、其処は雲が無くポッカリと穴が空きごっそり空間ごとえぐられた感覚に囚われた。
 「これは、戦闘なんてものじゃない……一方的な虐殺じゃないか!」
 副長の少女が呟が聞こえ、私もそれについては、同意した。 遠距離からの圧倒的な物量と殲滅戦、帝国空軍内でも賛否両論が有る。 だが、毎回の模擬演習で、正規空軍をコテンパンにしている為に、戦術的には間違っていないといえる。 恐ろしい事に、遠距離以外にも近距離・艦内戦もあの艦の人員は得意である。 此れは、彼女達に教える情報でも無いために伏せて置くことにした。
 っと思って居るとガゴンと音がし艦が急速に傾いた。
 「艦長ー、此方、機関室!後部、推進機が停止しました!先程の一機がダメに成ったせいで負荷がかかり過ぎた!」 「回復は?可能ですか?」 「無理です!一回下に降りて直さないと!前部推進機が使える為、墜落はしません。ただ、航行速度は、大幅に減速します」
 機関室と艦長が言い合っていると、映像通信が割って入る。
 「こちら、チェイス。我が艦は、機艦を収容する事が可能」 「……ご助力感謝する。機艦に収納を希望する」 「速度、そのままで此れより収納する」
 下の白い艦の甲板が開き、魔法陣が展開されると機体がゴゴゴと音を立て、ゆっくりと甲板に飲み込まれ降下する。 ガコンと固定された音がし、機体周りが固定されるとタラップが付けられる。
 安全確認の為に魔族の私が、タラップを降りた先には、銀髪に赤い瞳の少年と副官の少女が、敬礼をしていた。
 「お久しぶりで、ゲルトルーデ・バルクホルン大尉」 「チェイスどのもお元気そうで、何よりです」 「向かう先は、帝都のベリルンで宜しいでしょうか?」 「ええ、宜しくお願いします」 「後の事は此方の副官に質問をお願いします。私は空軍と話をしてくるので」
 少年が立ち去ると、白い軍服を来た少女が一歩進み出て、右手を胸に当て礼をした。 「ゲルトルーデ・バルクホルン様、私の名前はアインです。湯浴みと食事が出来ています。皆さんもご一緒にどうぞ」 「彼女達は、我が国の重要な客人だ!宜しく頼んだぞ」 「了解致しました」
 私は、甲板付近で不安そうに見ている少女達の方を見、おいでと手でサインをすると、艦長の少女を先頭に降り始めた。

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