グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第146話 300人委員会


 ――2100年5月21日 10時30分 グンマー校大会議室
 円形に置かれた何も無い中で、男子は目を瞑って座っている。 男子の名前は至誠賢治しせいけんじ首席である。
 『さて、時間になった会議を始めようか』
 突如として賢治首席の周りに黒い板モノリスが現れる。 その数は凡そ300。 全ての表面には【Voice Only】と赤い文字で書かれている
 「今日も書記の凛が司会を行います」
 【No.2 Voice Only】と書かれた黒い板モノリスから声が聞こえる。
 『それでは、定時の300人委員会を行う』
 「はい、それでは皆さん始めます」
 300人委員会というと色んな陰謀物で世界を牛耳る組織を連想される人が多いだろう。 が、安心して欲しい!グンマー校の300人委員会はそんな悪い組織では無い。 グンマーの、グンマーによる、グンマーに為の政治を目指しているのだ。 所謂、群馬第一主義グンマーファーストの目的に沿って行われている。
 委員の全ては、グンマー校の生徒達である。 議席は300で文化系・理系の部活の部長、各種委員会の委員長や立候補した者。 生徒も適合者フィッタ―だったり、一般生徒だったり様々である。
 何れも8万人いる子供達から選ばれた精鋭中の精鋭である。 よっぽど国会にいる大人達よりも為になる事をしている。
 例えば、【高度外装武器ハイペルソナの研究開発の3ヵ年での実施】     【内需100%化の5ヶ年での実施】     【消費税率3%への10ヶ年での実施】     【ビーストとの共存よるグンマーの活性化】
 これらを確実に実施している。 今年から消費税が3%にされた。 ちなみに東京都と南関東は消費税が25%であり、首都圏は10%である。 それを知っている群馬の大人グンマーアダルトは子供達に任せ、自分の仕事をしている。
 東京の国会の連中は、今日もプラカードを持ち反対運動をしたり牛歩をしている。 それを知っている大人達は、よっぽど子供達の方がましだと思っているのだ。
 東京の一部地域のPTA辺りでは『子供に政治をやらせるなんて!ポルポトと一緒だ!』 っと意味不明ないちゃもんをつけて来た。 が逆に群馬校に『全国統一模試で貴地域は殺戮的な落第順位キリングフィールドジャないですか?』        『一番何処ろか、2番でも無く、圧倒的最下位。どうして差がついたのか…慢心、環境の違い』        『貴方方は本当の意味で反面教師●●●●です。素晴らしい素材に出会えたこの時代に感謝です』 っと切り返され『ぐぬうううう、ファビョーンンニダアル!』っと自爆したりしている。

 まぁ、それは置いといて今日の議題は何だろう?
 『確か今日は、先日開放された能登半島に分校を設置する案だったね』
 「ハイ、そうです。漁業部、沿岸部、天文学、野球部を分校し設置する予定です」
 『漁業部、沿岸部、天文学部は分かるけど?野球部は上田市に移動だと聞いていたけど』
 「そうですが浪漫部との協議の結果、西の脅威に備えて野球部を配備するべきかと」
 そう言いながら映像を展開する。 場所でいうと能登半島先端にある輪島から大陸を覆う様に半円の図が示される。 丁度、ウラジオストックを含めインドまでが覆われている。
 「これらが、天文学部と野球部による戦域高高度防衛陣です」
 『なるほど、撃たせて取るピッチングっという訳か』
 「さようです」
 分かり易くいうと THAADミサイルを人間でやろうというのだ。 天文学部による大気圏及び空域の監視。 万一にもミサイルが発射された場合は野球部が強肩で撃墜。 それ以外にも領空を侵犯しそうな機体にもファールボールを当てられる。 マッハ3で飛んでくるボールに撃墜されたと世界に知られたら彼らの面子は潰れるのだ。 その為、近年では日本の領空付近では大漢民国やロシアの偵察は少なくなっている。
 沿岸部は北海道・東北の全域を管理している。 部長は、榛名彩華はるなさやか庶務であり北海道は絶対零度防壁コールオブオールで覆われている。 これは6年前にビーストに占領された北海道で彩華庶務がメンタル・ギアを全力で使い暴走した為である。 北海道全域が-273度という極低温の世界に変わり、本当の意味で【試される大地】となっている。 そんな本当の意味で、寒村地域を管理しているのは主権が日本にあると宣言する為の行為である。 漁業部は凍りつき息絶えたカニやウニ型のビーストを解体しグンマーに持って来ている。
 これに対抗する為に、ロシアは北方領土に多数の兵士を送りビーストと激戦を繰り広げている。 ことの発端はグンマー校が300人員会とある議決にある。
 【北方領土をロシアが放棄した時点でグンマー校が取り込む】
 これによりロシアは自国が主張する北方領土の権利を維持をせざるを得ない状況にされた。 南に-273度の絶対零度世界が有り、東はベーリング海からやってくるビースト。 西はビーストに占領されたウラジオストクを狙う大漢民国。
 北方領土の維持だけで毎年10万人もの兵士が犠牲になっている。 すでに5年間で50万人が犠牲になっている。 流石に多すぎる死傷者数に首脳陣は頭を抱えている。
 グンマー校に共同管理を提案をして来たが委員会で【否決】されている。
 『で、凛書記!移動に掛かる予定はどのように成っているのかな?』
 「ハイ、この様になっています」
 凛書記の声と共にスケジュールが示される。
 ~~能登半島スケジュール~~
 1年目、部活所属生徒の移動と能登半島校の建築を開始。    同時に鉄道網の敷設を開始、担当は建築部と鉄道部。    また、精神炉マギウスリアクターを搬入。
 2年目、能登に移住を希望する市民の募集。    選考を行うのは群馬警備グンマー・ポリス統合部・ユニオン
 3年目、敷設された鉄道からグンマー校の該当者居住者の住宅移送を開始。    住民の移設と共にグンマー校の姉妹校の【能登校】を設立。
 ~~終了~~
 『3年か……我々も卒業してしまうぞ』
 「問題は有りません、3年後は大学という制度が有ります」
 『その後は大学、大学院という6年が待っているという事か』
 グンマー校では残念から大学生と呼べる年の人間が居ない。 全員が大学を卒業した年齢かそれ以上の年齢なのである。 何故なら彼らを育てた世代が彼らの親の年だからである。
 「ついで、首席権限は年を得る事に委員会から選ばれた者になります」
 『そうだといいね、僕だけが首席をするのは悪いしね』
 賢治がそう言うと周りの黒板モノリス達から声が発せられる。
 「イエイエ、賢治首席。我々は貴方になっていて貰いたい」 「大体にして貴方程、清廉潔白な人はいないのだから」 「我々一同としては、貴方は首席という立場の檻に入れときたいのです」
 とどのつまり、賢治首席がそのままやって欲しいという事だ。 首席の仕事は滅茶忙しい、睡眠時間は4時間で他は授業や首席の仕事である。  適合者《フィッタ―》の第一世代は特に学習装置で社会人レベルの能力を持っている。 すでに彼らは頭脳だけは一人前でありそれを求められるのだ。
 その意見を聞きながら賢治首席は目を瞑り足を組む。  (この頃は、趣味の風呂場のタイル掃除も自分の仕事も出来てない) そう思いながら溜まっている仕事の依頼を思う。
 この頃は睡眠時間の4時間以外はグンマー校の首席の仕事をしている。
 「いっそ、首席を栄誉首席にしては?」 「それは良いですね」 「市民の多くが賛成するでしょう」
 賢治首席が何も言わない事を良い事に彼らは言いたい放題を言っている。 この10年間でグンマー首席が行った事は国内外で評価されているのだ。
 名前の【至誠賢治】に負けない統治を行っているのだ。 一方の本人はというと……。
 (あー暗殺したいなータダでも良いから請け負って辻斬りしたいが時間が無い) (2時間あれば世界中の依頼を100件をこなせる) (暗殺と首席の仕事を両立するって難しいな)
 っと常人には意味不明で物騒な事を考えている。 ある意味で首席という立場が檻と成っているのは正しい表現なのだ。
 『そうだ!首席の睡眠時間を2時間削って自分の趣味に当てて良いかな?』
 突発的に意見提案を行う。
 「では、皆様。首席の提案に対して票をいれて下さい」
 賛成:0 反対:300
 「結果、残念ながら睡眠時間2時間削減の提案は却下されました」 『ガビーン』
 思わず頭を垂れる首席。 彼らの委員会はこの後300分に渡って続けられ重要案件や法案が通過した。

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