グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第144話 群馬300ズ 後編


 ――2100年5月19日 23時30分 日光要塞
 照貴琉男できるおはベッドの上でニュースを見ている。 どのチャンネルもグンマー校と南関東連合及び日光安全保障局の戦争についてである。
 『政府はグンマー校に足尾要塞の返却を要請しています』 『国連の非難決議は安全保障理事会は米国の拒否権により否決されました』 『この件を受け、経済は円高ドル安に推移しています』 『NEO埼玉及び中禅寺湖はプロ市民を非難していますがグンマー校へはノーコメントです』 『終末時計が1分進められ残りが60秒になりました』
 ちなみに10年前の群馬独立戦争グンマワ―時には残り1秒になった。 あの時に比べたらまだこの戦争は軽い様だ。
 そして、この日本で唯一の良心である【東系テレビ】は……。 『トチギ―、これが私グンマーの全力全壊!受けてみて』 っとグンマー校が創っている【魔砲少女グンマー☆マギカ】を放送している。
 ふふふっとデキルオは笑いながらアニメを見る。 この時代でもアニメ業界はアイドル・魔法少女・ロボットの御三家で成り立っている。 が、いずれも作画崩壊のキャベツ状態で多くの目の肥えた視聴者ソムリエは綺麗な絵に飢えていた。 そんな中で流星の様に表れたのが、群馬現代視聴覚部ジ―アニメによる【魔砲少女グンマー☆マギカ】である。
 全てネットによりオンライン配信で放送は無料である。 使用楽曲にも寛大でオールフリ―っと成っている。 音楽ヤクザこと日本楽曲著作権協会JAMRACを嫌悪している層にも配慮している。 利益は夏と冬の祭典コミケや最新の3Dプリンターを使ったフィギュア等の物販で出している。
 『集え、グンマーの空っ風!エタナ―ルダウンホース』
 空気砲から撃たれた一撃が魔法少女トチギ―を押しつぶす。 2100年の魔法少女物ではルールとして、3話で誰かが死ぬか殺されるかと決められている。 群馬現代視聴覚部ジ―アニメの法則では【マミサンを見取る、略して《マミルの法則》】と定義されている。
 色の指定もあり、主人公は薄いピンク色の髪の毛にピンクの瞳で貧乳。 百合系のキャラは黒髪ロングに紫瞳ヴァイオレットアイの清楚系で貧乳。 3話で死ぬのは黄色に黄色い瞳の先輩風を吹かせた巨乳。 不憫なキャラは青髪ショートに青い瞳で中乳。 青髪を弄るのが、オレンジ髪のポニーテールに赤っぽい瞳で中乳。 緑髪のキャラは青髪の恋人を奪う金持ちお嬢様。 っという風に指定がされているのだ。
 「あいかわらず、グンマー校の作画は素晴らしいですね」
 思わずデキルオは呟く。 ツインテールにピンク色の髪をした美少女グンマーが魔砲のRPGを持っている。 黄色のトチギ―を倒しBパートが終わりエンディングに入る。 Cパートは魔法少女を衛星画像で見ている白人のゴツイオッサンが姿を見せる。 背後には星条旗が掛かっておりCIAの紋章がパソコンのデスクトップに映る。 『フフフ、魔法少女ついに見つけたぞ』っと言いながら外した時計の後ろにハーケンクロイツが映る。
 次回予告【襲撃!統合特殊能力作戦軍団!】
 デキルオは忘れない様にスマホで録画を行う。
 早速、某匿名チャネルで先ほどのまでのアニメ実況を見る。
 『流石、グンマー完成度タケ―』 『これが、東京と南関東のレベル低すぎー』 『でもさ、Aパートの3分30秒の言葉は何を意味しているんだ?』
 その会話を見ながらAパートの3分30秒の所を確認する。 主人公が授業を受けているシーンで黒板に何か書かれている。 【タヌキ親父の墓に火を灯すのは、二十歳になってから】 意味不明な文章にデキルオは思わず首を傾げる。
 「タヌキ親父って何だよ!日本史の家康じゃあるまいし……」
 言いかけた時にデキルオに電流が走る。 (家康……【国家安康】、タヌキ親父、墓、日光)
 「ま、まさか!そういう事か!」
 デキルオはスマホの時計を見る。 時間は5月20日00時00分を示している。
 この【魔砲少女グンマー☆マギカ】の放送時間は23時30から59分。 毎回コロンビア映画の最初に登場する女神の様に白衣観音が映る。
 (確かこの最初のオープニングロゴの都市伝説があったよな)
 そう思いながらスマホの都市伝説で検索する。 出て来たのは【奇怪、目が光る白衣観音】という内容。 録画していた映像を巻き戻すと確かに目が光っている。
 「何々、目が光った時はプロパガンダ等だったりする・
 呟きながら、イヤイヤと頭を振りながらデキルオは否定する。 かって有った冷戦中ならいざ知らず、この時代には有り得ない事。 だって誰に一体指示を出すというのか……日光を燃やせるなんて……。
 「フン、日光を燃やせる訳が無いな!」
 窓を見上げた瞬間、ドンという音と共に窓ガラスが割れた。 飛び散る破片を避ける為にフトンを被る。 恐る恐る布団を外すと窓の淵を舐めるようにして炎が舞い散る。
 ウーウーとサイレンが鳴り始め人々の足音が聞こえる。
 「ま、まさか本当に!来るなんて!」
 壊れた窓から火が上がった方を見ると兵站施設がある所が燃えている。 下では消防車や救急車が炎が上がる方向に走りだしている。
 「ここは危険ですよ」
 看護師がデキルオの方へ歩いて来た時、窓から黒い人影が姿を見せる。 パリン、パリンっとガラスが踏まれ炎に照らされ正体が露わになる。 赤い髪に瞳の美少女が姿を見せる。 服は黒地に金色の刺繍が入った制服にピンク色のスカートを着ている。 胸の 五芒星ペンタクルの下には副首席と書かれている。
 彼女こそグンマー校副首席の赤城朱音あかぎあかねである。
 「きゃあーーー不審者よ!」  『五月蠅い!黙れ』
 右目の眼帯を外して見つめると看護師はヘナヘナと壁に背中を当てて倒れた。 デキルオは思わず置かれていた花瓶を両手で持つ。
 「い、一体何をしたんだ」 『あー記憶を焼き切っただけだよ。もう自分が誰だか分からないだろうね』
 そう言いながら、その朱音はデキルオの方へ歩いてくる。 一歩、二歩、三歩、そして目の前にやって来た。 右目でヤルオの顔を覗き込み、不思議な顔をする。
 『あなた、私の事を見ても炎を出さないの?』 「炎?どういう事だ?」 『それはね』
 ドカドカと足音がし銃を持った警備員達が姿を見せる。 その少女はデキルオを襟首を掴むと自分の前に持ち盾にする。
 「彼を放すんだ!逃げられないぞ!」 『お断りしますーー撃てる物なら撃ってみなー』 「なんだと!」
 彼らの一人が怒りの声を上げた瞬間、彼らの腹から紅い刀が刺さる。
 「「「ぎゃああ」」」 『上手に焼けましたってね』
 あと言う間に警備員達は肉を焦がし灰に変わる。 その様をデキルオはマザマザと見せつけられる。
 『ねぇ、ねぇどう?見た?人間って燃えるんだよ』 「……」
 朱音はデキルオの身体をユサユサと揺らす。 反応は無い……失神してしまった様である。
 『うーん、燃えないゴミに興味は無いわ』
 ポイっと朱音はデキルオをベットに投げ入れる。 ベキッとイヤな音を立てデキルオはベッドの上を転がる。
 『さて、さて、楽しいバー二ングファイヤーだよ!』
 両手から火を出しながら朱音は言う。 騒ぎを聞きつけた隊員達が闘志をむき出しにして現れる。
 『そう、これこそ我が灯装マイカンプに相応しいわ』
 銃撃音と悲鳴が聞こえ煙が周りを包む。  煙の中から出て来たのは右手に光る物を持った朱音。
 『うーん、NEETはダイヤにしてもゴミね』
 朱音の言うとおり透明度は無く冴えない色をしている。 興味を無くした朱音はそれを捨てると足で踏み破壊する。
 『今日は沢山、確か凛ちゃんが言うには10万の兵士が居るんだっけ?』
 日光要塞の夜景を見ながら言う。 眼下には多数の天幕が展開されている。
 『一人くらいは綺麗な宝石になってね!』
 両手をパチンと鳴らすと周囲の建物が爆炎を上げて始める。 周囲の陣地が騒がしくなりサーチライトが照らされる。  そのサーチライトに飛んで行き自らの姿を見せる。
 朱音に気がついた陣地から銃撃音が響く。
 『では、楽しい狩りの始まり始まり』
 舌舐めずりしながら足裏から火を出しロケットの様に陣地に突っ込んでいく。
 翌朝、日光要塞に展開していた10万の部隊は地上から焼失した。

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