グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第137話 三ヵ国部隊VS 適合者 後編

  ――2100年5月15日 09時30分 第二いろは坂 
 タワミ英国支店重装歩兵隊、彼は南米、欧州、中国大陸と数多の戦場を渡り歩くエキスパート。 彼らの相手を何時もしていたのは、人間だったりビーストだったりする。 が、今回の相手は机だ。
 中国人でさえ喰わないと言われる机である。 それが教科書を入れると所から牙を出し襲ってくるのだ。 机が人間を喰べる、これこそ2100年という新時代の幕開けといえるだろう。
 イヤ、そんな机をメンタルギアとして顕在化させた適合者《フィッタ―》の時代とも言える。
 「定子先輩!」
 『何かな?太陽さんくん
 「瑠奈るなちゃんが戦車に乗ってたけどいいのですか?」
 英国軍を迂回しながら走って行くロシア製の戦車を指差し言う。 攻撃を受けないのは英国側はそれ所では無いからである。
 『問題は無いよ……むしろ作戦ね』
 「そうなの?それなら良いんだけど……」
 『とりあえず、眼下の敵を倒さないとね』
 「べつに、久江先輩だけでも良いのでは?」
 『貴方はそうね、でも私はヤリタイからヤルの』
 綺麗な笑顔が獰猛な獲物を狙う顔に変わり翠色の瞳は爛々と輝く。 少年の方はヤレヤレと首を振りながら両手を上げる。 定子の右手には何時の間にか、巨大なスクエア角度定規が握られている。 L字型に90度で曲がっている形は命を刈り取る形をしている。 右手に持った定規を振るとヒュンと音を立てる。
 『じゃ、行ってくるねー六花ちゃんには余計な攻撃は無用って言っといてー』
 「了解しました、いってらーです」
 定子は時速60kmの速さで走り始める。 上半身を微動だにさせてない走りは○傑走りを連想させる。
 その彼女が向かう先では机と人間の仁義なき戦いが行われている。 机と人間の戦いである。
 「実弾は効果無し!マギウスジャマー弾は効果ありうぁあああ」 「誰か!誰か!たすけてうぁああ」 「死ね、死ね、うぁあああ」
 対ビースト用のAK-47verAKMSUを改造した銃を撃つ。 世界中で戦っている彼らにしてみればAk-47程使い易い物は無いのだ。 そんなエキスパートな彼らが為す術無く机に喰われていく。
 「さぁ、さぁ、紅茶で美味しい英国人をお食べなさい」 「ふざけるなこのあま] 「そんな事を言っていられるかしら」 「なんだと……」
 男の首が胴体から離れ血を撒き散らしながら大地に落ちる。
 「私の獲物よ!定子ちゃん!」 『いいじゃない津久江つくえちゃん、一人くらい』
 津久江つくえは首を落とした主に文句をいう。 首を墜とした主は笑顔で血が付いたスクエア角度定規を見せる。
 『合計であと一万人位かしら?』 「英国部隊は人数が一番多いと聞いているわ」 『アメさんが良く在庫処分の許可を出した事』 「凛書記曰く、無能な働き者は銃殺するしかないそうです」 『中々、辛辣な評価ですけど』
 英国は米国にとってアングロサクソン系国家として元親である。 先の第一次世界大戦や第二次世界以来ではパートナーとして共に戦った。  諜報システムの梯子エシュロンを使う同盟国でもあり、多くの地域紛争に有志として参加する国家。 が、このグンマー校に至っては米国の国益に反する事を多々している。
 例えば、特殊部隊を使った嬬恋つまごい村潜入未遂事件。 これは事前に察知した米軍によって、制止されている。 更にグンマー県境にて大規模な軍事演習等を行いグンマー校への挑発を行う。 何れもNEO中禅寺湖の米軍には知らされず、突発的に行われている。
 そして偶然にも毎回、NEO中禅寺湖とグンマー校が交流を行う前に行われている。 その為にグンマー校との交流事業が中断される事が多々有った。 結果として、NEO埼玉の方に交流事業が流れて技術が渡っている。 最終的には米国に技術が渡り国益になるが、米国的には緊張感が増す事になる。
 別にグンマー校的には、ドンパチしようが問題が無い事柄。 相手が手を出してくれれば、【大義】を持って反撃出来るからである。 GPU側の数名は対ビーストで飽きていたので、【人を狩りたい】っと物騒な事を考えてたりする。
 【邪魔な奴らを何とかしたい】というNEO中禅寺湖の上層部。 【とりあえず、人を狩りたい】というグンマー校GPU側。
 両者の考えが一致した結果、これらの事は生み出された。 タワミ英国支店側は現在の所は米軍は友好的であると思っている。
 『さて、何人狩れるかしら?』  「定子ちゃん、私はあまり殺さないという予定ですけど?」 『私の依頼は殲滅』 「なるほど、そういう事ですか……」 『そっちは、そう依頼された通りの事をしとけばよいわ』
 【包囲せよ】【殲滅せよ】と両者が依頼された内容は異なる。 つまり、【包囲殲滅せよ】が正しい作戦なのである。 任務の依頼が部分的に与えられているのは情報流出を防ぐため。 それと2人が揃う事を前提に任務が与えられている。 高度な信頼関係が無ければ成せない作戦でもある。
 『じゃ、包囲は任せたわ』
 定子はピンっと巨大なスクエア角度定規を振り血しぶきを飛ばし走っていく。 机達はドンドン増えていき眼下で包囲を始める。 が、英国タワミ側は気が付いていない……。
 「包囲に気がついていないのか?イヤ、そこまで頭が回らない?」
 津久江つくえが首を傾げながら呟く。 それもそのはずである。 机に襲われているのである。 繰り返すが机に襲われ喰われている。
 頭の中は真っ白で戦略とか戦術を考える事は出来ない。 自分が喰われず生き残る事のみに彼らは活路を導き出す。 そんな彼らを更に追いつめるのは……。
 『一寸先は闇!!』
 あっという間に重武装していた兵士達の首が吹き飛んでいく。
 「うぁああ、何だ!今度は人間か?」 「人民服?中華民国か?」 「殺せ!殺すんだ!」
 『油断一瞬、怪我一生』
 少女の声と共に、彼らの銃を構えていた両手が一瞬にして切り離される。 痛みで大地を転げまわっていると机に襲われ喰われる。
 『久しぶりの寸劇、イヤ惨劇になりそうだね』
 嬉しそうな声と共に左手に分度器を出す。 ただの分度器では無く、良く小中学校で使う大きなアレである。 多くの人が盾にしたり、ブーメランにして遊んだと思われるアレである。
 『いっけー、必殺!【回頭300度ターンスリーハンドレッド】』
 左手に持っていた分度器を放り投げる。 宙に浮いた分度器は青白く光り同時に辺りを照らす。 その範囲は包囲されていた兵士達のいる所である。
 ボキッと鈍い音が戦場に響き兵士達の首が回る。 兵士達の首は有り得ない方に向かいながら糸が切れた操り人形の様に大地に落ちる。
 『あら、皆さんキリキリ舞の状況で首が回ったら死んでしまったですね』
 机に襲われキリキリ舞いだった彼らは文字通り首が回った。 適合者フィッタ―は、首をへし曲げられても心臓と脳が動く限り死なない。 一般人は……勿論死ぬ、死んでしまった。 兵数にして一万人が一斉に一瞬に首が回り死んだのだ。
 『つまらないですねー、躰も廻せば死ななかったのに』
 なるほど、彼女が放ったメンタルギアの攻撃を避けるには躰も同じ向きに変えればよいのだ。 何という簡単事だろうか……イヤ、所見殺しである。
 『さて、久しぶりにヤッタラ満足し後は瑠奈ルナちゃんに任せますか』
 そう言うと一路逃げ出している戦車を見ながら明智平要塞に戻り始めた。 一方、津久江つくえはというと……。
 「全く、やる事が派手で後先を考えないわね」
 頭を押さえながら机達に残りの死体達を始末する様に伝える。 あっという間に一万にいた兵士達は姿を消し、何も無い大地が残る。
 「飛ぶ鳥、後を濁さす。さて、帰りますか……」
 そういうと机に乗ったまま明智平要塞に戻って行く。
 さて、唯一戦車に乗っている瑠奈は何をするのか? 次回に続く!

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