グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第137話 三ヵ国部隊VS 適合者 前篇


 ――2100年5月15日 09時00分 第二いろは坂
 第二いろは坂を滑る様に飛行しているは、タワミフランス部隊のヘリ部隊である。 エアバス・ヘリコプター製のティーガーHADver5を運用している。 ヘリ部隊の隊長はアランという名前だ。
 「隊長!敵要塞に接近します」
 『よし、マギウスジャマー弾発射―!』
 声を上げると共に両翼からミサイルが発射される。 対空砲の攻撃を受けながらミサイルは明智平要塞を囲むように着弾。 大地に刺さるとミサイルから青白い光が立ちあがる。
 「ジャマー着弾しました」
 先ほどまで景気良く撃っていた対空陣地が止まる。 これがフランス軍が米国から購入したマギウスジャマーをミサイルに改良した物である。 発射されたミサイルは目標地点に刺さるとジャマーを発動、外装武器ペルソナを使用不能にする。
 「敵要塞の沈黙を確認!」
 『よし!全員降下を開始しろ攻略開始だ!実弾武器に切り替えを忘れずに!』
 「アイさ―」
 (なんと、外装武器ペルソナは脆い物。やはり、信じるは鉛玉だな)
 そう思いながらアラン率いるヘリ部隊は降下を始めた。 要塞第一線を越えた時、横を随伴していたヘリ部隊が爆発し降下を始める。
 「2番機、撃墜されました!」
 『なんだと!外装武器ペルソナは使えないハズでは』
 そう思いながら拡大された映像の先には一人の美少女が立っている。 少女は両手に小中学校で使う掃除用のロッカーを持っている。 苗場六花いなばろっか物騒な玩具箱デンジャラスロッカーである。 そして、そのロッカーの天井部が開きミサイルが飛び出す。
 『ミ、ミサイル攻撃だ!な、なぜ』
 そう言うのが早いかミサイルは彼のヘリに直撃し降下を始める。 ガガット嫌な音と共に彼は大地に転がる様にして打ちつけられる。 比較的躰に何とも無く、操縦士を見るが既に事切れていた。
 『一体何が起きたと言うんだッツ』
 ガブリっと彼の右腕を何がが噛む。 恐る恐るみるとそれは机であった。 ただの机で無く教科書を入れる所に牙がつき口が付いていた。
 『メンタルギア!なぜ使える!適合者《フィッタ―》はジャマーで使えないハズ!』
 「そうだよねー米国産の最新マギウスジャマーだもんねーって思っていたりして」
 黒髪に切れ目で蒼い瞳の様にクールな少女が別な机に座っている。
 『な、何故それを知っている』
 「だってさー、開発して米国に売ったのは我々GPUなのだから」
 『そんなバカ……』
 と言いかけた所でアランの頭は机に喰われる。 体はビクンビクンと動きながら机の中に喰われていく。
 「マギウスジャマーの臨床実験データは我々をベースとをしているのよ」
 もの言わぬ肉片へ一瞥しながら言う。
 そうマギウスジャマーは米国製であるが、基礎技術はグンマー校が開発している。 ジャマーは体内のメンタルギアユニオンと精神の繋がりを断ち切る為に特殊な電磁波や物質を使う。
 断ち切る効果を生み出すには、電磁波や物質に対する被験体が必要。 マギウスジャマー発生状況下という訓練で被験を受けていたのは、彼女達グンマー校GPUの生徒達。 が、いかんせん人という物は適応適化進化する者でありマギウスジャマーに慣れてしまった。
 使えなくなった機材やデータを米国に売り渡した。 米国は実験で軍用の外装武器ペルソナさえ使えなくなる最高のジャマーと評価を出した。 勿論、普通の米国所属程度の適合者フィッタ―にも非常に効く。
 ただし例外もある……グンマー校とか首都圏の人外魔境アウトオブヒューマン部類に入る生き物である。 そんな訳で、ヘリ部隊の連中はノコノコと出て来た所をミサイルで撃墜。 または死の定規デス・ルーラーでヘリごとぶった切られたり、退屈な太陽アンニュイサンで燃やされたりしている。
 「さて、前菜はフランス人。メインディッシュはロシア人、食後のティーは英国の血にしましょうか?」
 猫の様に机の喉を撫でるとニャーゴっと無く。 机なのになぜに猫声なのかはメンタルギア故だと考えられるが不明だ。 そして、机は分裂を始め机達となる。
 「それでは!全員!突撃!!」
 机達は塹壕から飛び出すと四本足を繰り出し駆け足を始める。 その机達が向かう先にはタワミロシア支社の部隊が展開している。
 T-14アルマーヌの指揮車に乗っているのはアレクセイ隊長。
 『あれは何だ?生き物か全員!砲撃開始!良く狙って撃て!』
 「「「「ウラー」」」
 全員の雄叫びが無線を通じて返ってくる。 無人砲塔が走ってくる机に照準を合わせ砲撃を開始する。
 『着弾まで3・2・1……全弾不発だと?お前ら何をしている!』
 「「「隊長!全弾は実弾です。おかしいです」」」
 『そんなばかなことがあるか!』
 言い合っていると突如として空間が歪み、ガスタンク程の大きさでデコボコした月が姿を見せる。 直径30m程の巨大な球体に恐怖した彼らは次から次へ弾を撃ち始める。 が、着弾を意味する爆炎も爆発も発生しなかった。
 暫くして砲撃が停止される……イヤ、弾が切れた。 思わずアレクセイはハッチを開けその球体を眺める。
 『一体これは何だなのだ』
 「それはねー」
 はっとした時は既に遅くアレクセイは襟首を持たれ上に引っ張り上げられる。 声の主は、人民服を着た右目が蒼の黒髪の女子中学生だった。
 「私の月の裏側ムーン・リバーシブルなのよ」
 『き、貴様、何処から』
 「まぁ、それは置いといて撃った弾をお返ししますわ」
 『な、どういう事だ』
 ガンっと音と共に近くの戦車が震える。 ガンガンガンっと耳触りな音がしハッチから火の手が上がる。 彼が従えていた百機あまりの戦車達も同じような目に合っている。
 先ほどまで撃っていた弾がそのまま向きを変えて
 最新の装甲と最新の砲弾は最新の砲弾が勝った様だ。 そんな光景を彼は呆然と見ている。
 『わ、私をどうするつもりだ』
 「どうもしないよ、ただ戦車を借りるだけよ」
 そう言うと彼を地面に放り投げる。 ハッチの中に入ると他の2人も同じように襟首を掴み放り投げる。 あっという間に彼が載っていた戦車は向きを変えると来た道を戻りだす。
 『ま、まずい英国軍が危ない』
 そう言いながら追いかけようとした時、足元に痛みを覚え足元を見る。 そこには口から牙を生やした机が彼の足を噛んでいた。
 「た、隊長たずげああ……」
 恐る恐る声の方を振り返ると机に頭を喰われている部下がいた。 机達は犬の様にワラワラと集まり部下達の躰を喰べる。
 『わ、わたしは一体なにと……』
 呆然としているアレクセイの頭を机が丸齧りし、彼も肉塊に変わる。 ビクンビクンと震える躰を見ているのは、机に馬の様に乗っている女子高校生。
 「さて、ロシア人の次は紅茶味のイギリス人」
 机達はロシア人を食べ終わると眼下に展開する英国部隊に目標を定め走り始める。

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