グンマー2100~群像の精器(マギウス)
第134話 喜劇と悲劇
――2100年5月14日 10時30分 明智平要塞
秋山部長代理が見ているのは、保管されていた調査書 中には驚くべき事が書かれていた。
~~調査書~~
矢路一男と屋良凪男は、いろは坂で発見された。 2人は上級社員以外が知らない最新暗号機密を所持していた。 また、南西連合における企業内における内通者データが入ったスマホを持っていた。
尋問によると彼らは、いろは坂で人民服を着た美少女にあったとの事。 共にいた隊員達は机に喰われたと意味不明な事を言っている。 恐らくは、他の隊員を殺した際の言い訳だろうと推測された。
よって、自白剤を使い詳しく彼らから報告を引き出す事にした。 その結果……彼らが言っていた事は本当だったのだ。
されど、上層部は彼らを対グンマー士気を上げる為に処刑を行う事にした。
~~終了~~
『照貴琉男くん、見て見たまえ』
そう言われデキルオは書類を見る。 暫く眺めた後に、両手をワナワナと振るわせる。
「そんな事が!無実な人間を処刑しようなんて」
『信じらないが彼らのやろうとした事なのだ』
乃木部長や牟田口課長は警察や自衛隊制服組OBである。 帝国軍、特別高等警察とこれらの組織は戦前戦後で名前は変わったが中身は変わらない。 如何に不都合な真実を隠し、都合のよい真実を公にするかに特化している。 特に政治家は彼らにとっては非常に有意義なパートナであり彼らの思惑と自己利益の為に動く。
例えば政治家の孫娘が人を引き殺しても無実だが、一般人男性が引き殺した場合は有罪になる。 上級市民が何かをしても特殊な部隊や担当官が揉み消す。 それが、この国の東京都と南関東連合の隠れた実態である。
それを許さないのがグンマー校と首都圏校である。 その為、2県と東京及び南関東連合は非常に相性が悪い。
さて、この2人はどうだろうか……。
『2人はスパイでは無い、拘束から解除したまえ』
矢路一男と屋良凪男は隊員から解放された。 隊員達が部屋から出て行くと抱きついたのはデキルオだ。
「2人ともすみませんでした僕のせいでこんな目に有ってしまって」 「なになにいいってことよ」 「そうだお、収容されていたおかげでいきのこれたお」
ちなみに、華厳の滝付近に展開した部隊は凡そ5万程。 この5日間の戦いで、ほとんど全てが重軽傷を負い戦闘不能である。 多い時で一回の戦闘で5千人が二階級特進する事もあった。
「そんなのに比べたら殴られたけど、躰も満足にあるし」 「デキルオに感謝してるお」 「2人とも……」
思わずデキルオは瞳を潤ませるが背後でコホンっと咳で涙を止める。
『さて、2人はデキルオ君の元で働いて貰う』
「「わかりました」」
『デキルオ君も2人の事を頼んだぞ!』
そういうと秋山はタバコを部屋から出て行った。 こちの嵌められた2人は、塞翁が馬という様な感じで喜劇で終わった。
さて、もう一方の嵌められた技術者達はどうしているのだろう?
■ ■ ■
――2100年5月14日 10時30分 東京駅
その男は何時もより遅い時間に駅に来ていた。 普段は満員電車に乗る事も無く空いた席に座る。 横には同じように座っている女子高校生がいた。
この車両の中には男と女子高校生だけの様だ。 彼をチラリとみて女子高校生は口を開く。
「で、転職の件はどうですか?」
『わ、わたしは転職はしない』
「え、なぜですか?」
『昇進が決まったのだ』
その男は四菱重工の外装武器であり研究者である。 会社に身を捧げる事40年、ようやく新規に出来た部署への昇進が決まったのだ。 新規事業を開拓する為に、何とその部署は彼だけ。 普通に考えたら左遷と考えるのだが妥当という所だろう。
が、その男は余りにもバ……いや、純朴で真面目であった。 これで、自分の研究が思う様に出来ると考えているのである。
「娘さんもいらっしゃるのに……高校受験が控えていると聞いていますが」
『昇進と研究が上手く行けば娘にも楽をさせられる』
「適合者としては優れていらっしゃる様ですが」
『娘は適合者だが普通の人間として生きさせたい』
男はガンっと席の椅子を叩く。 少女は肩を竦めて仕方が無いですねとジェスチャーをする。
「分かりました、諦めましょう」
ガタンっと音がし、車内に【四菱重工前】とアナウンスが入る。 フンっと男は不機嫌な顔をしながら椅子から立ちあがる。
車内には女子高校が一人残された。
「さて、貴方のお父さんは貴女を普通の人間として生活させたいみたいですね」
通路を隔てた向かい側の席が歪むと別な少女が姿を見せる。 端正な顔立ちと微妙に先ほどの男の面影が残っている。
「わ、わたしは普通の人として生きたいけど……」 「わかるわ、他の人が避けて行くのよね」
そう言いながらその女子高校生は少女に寄って行く。 そして、プルプルと震えている両手を優しく包む。
「でもグンマーに来ればそんな事で悩む事は無いわ」 「本当に?」 「賢い貴女なら様々な所から情報を得ているでしょ?」 「……」
少女は沈黙しているが、女子高校生は少女の両頬に手を持っていき顔を向けあう。 そして、言い聞かせるように言葉を投げかける。
「ねぇ、お父さんとつまらない人生を送る?」 「……」 「それとも、亡くなったお母さんの変わりに楽しい人生を送る?」
母と言葉が出た時に少女の瞳から涙が溢れる。 女子高校生は少女の身体を抱擁して背中を撫でてあげる。
「どうする?転校する?貴女の様な優秀な子なら奨学金も出るわ」 「し、します……もう周りから怖がられるのは嫌、機械と思われるのも嫌」 「お父さんはどうするの?貴女の唯一の肉親よ?」 「お母さんが死んだ時もあの男は来てくれなかった」 「それはもう肉親では無いわね」
優しく少女の頭を撫でる。 そうしている間の電車はガタンガタンと音を立て動きを止める。 【終点ーーツNEO埼玉】っとアナウンスが入る。 同時にNEO埼玉には黒字に金色のグンマー校の装甲車が入ってくる。
「さて、これが貴女が転校する場所を書いた推薦書よ生活品は全て揃っているわ」 「あ、ありがとうございます。父、イエあの男は……」 「ちゃんと処分しとくので安心してください」
女子高校生と思えない冷徹な顔で言う。 思わず少女はビクッと恐怖に怯えるが渡された書類を見る。
「さて、貴女とはここでお別れ。あの電車に乗って行ってね」 「あ、ありがとうございました」
少女は書類に挟まれていた切符を持ちながらペコリと頭を下げ出て行く。 そんな少女を笑顔で見送り折り返しの電車が発車する。 女子高校はスマホを取り出し誰かに連絡を入れる。
「こちら、GPUスカウト007。目的の人材を納入、父親は納入不可。処分の許可を」 「こちら、スターリン。御苦労、男の処分を許可する。現在男は四菱本社前」 「了解した、男の処分を行う。報酬は何時もの口座で」 「了解した、家の方には彼女の偽装死体と放火を完了。歯形もすり替えたわ」
女子高校生は、右手からから一枚の布を出す。 左のブレザーのポケットから男物のスーツの切れ端を出す。
「さて、ゴミを処分しないとね」
右手の布でスーツの切れ端を包む。
「この布の持ち主の服を爆弾に組成変更。スイッチはこの布」
覆った布ごとクシャっと握り潰す。 次の瞬間、四菱重工前にいた男は爆ぜた。 後に【四菱前自爆事件】と呼ばれ、死傷者100名近くを出す大事件であった。
犯人の男の家は全焼し、焼け跡からは一人娘と思われる遺体が発見された。 歯形を照合した結果、男の一人娘と判明。 要職から外され、左遷された事への会社への報復として結論付けられた。
この日、一人の少女が新しい人生の喜劇を迎え男が悲劇を迎えた。 それを知っているのは、2人の少女達だけである。
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