グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第133話 作戦:長い物に巻かれろ


 ――2100年5月14日 10時00分 明智平要塞
 要塞内では300人の少年少女達が交代で詰めている。 100人で管理できる要塞を三交代制で使用しているのだ。 いずれの少年少女達も整った顔から適合者フィッタ―で有る事が伺える。
 全員が立折襟で二つの胸ポケットに二つの裾ポケットをもった緑色の服。 いわゆる人民服を着ている。 円卓の中央に座っているリーダらしき少年が声を上げる。
 「さて、定時報告をしようか?」 「現在、馬返し付近の部隊はほとんどが華厳の滝に集まっています」 「やはり、司令部を直接狙った成果かな?」 「はい、部長クラスが全員死亡しました。現在は係長と平社員が昇格しました」
 訛っていない日本語で彼らは喋る。 映像には3人の男達にバツマークが付き新しい2人の写真が追加される。
 「で、彼らは3人と比べて優秀なようだね」  「ええ、非常に優秀です我々の弱点に気が付きました」
 パット映像が変わり砲撃を行っている陣地が移される。 金網フェンスを隔てたすぐ後ろには星条旗と国連旗が翻った基地が映る。
 「全く上手くやったね、これならこっちが攻撃が出来ない」 「イエ、出来ない訳では有りません。着弾率の問題です」 「手前の基地に着弾する確率が85%で、米軍基地は15%です」 「なるほど……確かに少なくとも97%は必要だな」
 中禅寺湖周囲の着弾率が示されたマップを少年が見上げる。 映っているのは、明智平要塞からの砲弾及びミサイルの着弾予想点である。
 「航空隊の攻撃は?」 「行っていますが、米軍基地近くと縦横無尽の塹壕に苦戦している様です」 「航空隊の意見は?」 「丁度良い精密射撃の訓練だそうです」 「苦労している様だな」
 航空部隊の専門は空の敵に対しては精密な射撃が出来る。  なぜなら、互いに高速で動いている時の訓練を受けているからである。 実力としては、互いにマッハ3の時にF-35パイロットの頭を撃ち抜く事が出来る。
 が、地上の相手に対しては精密射撃を行うのは難しい。 重厚な対空砲から守る為に防御外装武器シールドペルソナを展開。 さらに、マニュピレーターの操作をしながら攻撃。 地上で高速でこれを行うには複数思考回路を使う経験が必要なのだ。
 「今回の部隊は1年目の中等部だっけ?」 「ハイ、航空戦では非常に優秀ですが地上戦では評価がA-でした」 「引き続き、米軍基地の手前を銃撃と白兵戦で行う様に徹底させてくれ」 「ハイ、すでにマニュピレーターの武装は銃とブレードナイフに換装しています」
 映像にはバッサバッサっと切られ銃撃される隊員達の姿が映る。 塹壕内で乱戦となりながら互いに銃剣を持ちながら撃ったり切り合っている。
 「今の所は軽い怪我で収まっている様ですが、重傷者が出るのも時間の問題かと」 「そうだな、暫くは要塞に来る兵士と塹壕から出てくるのを空からヤル様にしとこう」 「賛成ですね、彼らの作戦はプラン123通りです。それに対して我々はプラン321を発動します」 「では、狙うのは」
 映像が変わり別な要塞が映る。 そこは数隻の船が道路を塞ぎ両陣地からは砲撃が行われている。
 「はい、薬師岳要塞です」 「本日の1200にて攻撃を開始する!全員は各自準備せよ」 「了解しました」
 座っていた少年少女達が立ちあがり姿を消す。 さて、照貴琉男できるおは何をしているのだろう。
 ■  ■  ■
 ――2100年5月14日 10時00分 米軍基地前
 照貴琉男できるおは米軍基地前に掘った塹壕内にいる。 馬返しから移動して此処に来ているのだ。
 「秋山部長、【長い物に巻かれろ】作戦は上手くいった様ですね」
 『ここまで、上手くいくとは思わんかったあと代理だぞ』
 彼らの作戦は簡単、米軍基地のすぐ前に陣地を造営するという物。 米軍は現在は手を出してきていないし、出す予定は無い。 それを逆手にとって、米軍基地の傍に基地を造ったのだ。
 おい、それってどこの沖縄のプロ市民だよ。 っと突っ込む所だが違法でない限りは米軍であっても手を出せない。
 もし砲撃が米軍陣地に当たれば米軍も行動をせざるを得ない。 そうすれば、明智平要塞は米軍からの介入を受ける事になるのだ。
 「1週間の間はこの状況で彼らへ断続的に攻撃を行いましょう」
 『そうだな、あとは……』
 秋山の声を切る様にして対空警報が鳴る。 空から高速で現れたのは、ランドセルを背負った少年少女達。 彼らは対空砲を弾きながら、塹壕へ銃撃を行いながら飛び込む。 塹壕内では、マニュピレータの先についたで銃やナイフで戦いが始まる。
 狭い塹壕内で彼らと隊員が戦い多数の死傷者が発生する。 暫くの戦闘後、彼らは銃撃をしながら去っていく。 彼らの数名も無傷という分けにいなかったようで、肩を抑えている者もいる。
 『彼らも作戦を変えた様だな』
 「先日までの犠牲者数に比べたらまだ軽微かと思います」
 実際は先ほどの攻撃で十数名が犠牲になっているが万に比べたら少ないとも言える。 彼らも少しずつ戦場に慣れてしまったという事が伺える。 そう言い合っていると一人の隊員が入って来た。
 「部長!どさくさに紛れて逃亡していたスパイを発見しました」
 『スパイだと?』
 「連れてこい」
 両手に手錠をさて、ボロボロの囚人服を着せられて現れたのは饅頭頭と里芋頭の2人。 殴られたのか顔のあちこちには青筋や唇からは血が出ている。
 「矢路一男やるかずおさんに、屋良凪男やらないおさん」
 『知り合いか?』
 「あ、はい。彼らは私が第一いろは坂に強行偵察を命じた人間です」
 『いったいどうして彼らが捕まっているのか?』
 「分かりません詳しい報告書が有れば……」 
 『報告書はあるか?』
 秋山部長代理が声を上げると隊員の一人が持っていたファイルを取りだす。 そこには驚くべき事が書かれていた。 

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