グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第119話 開戦


 ――2100年5月8日07時00分 日光東照宮要塞
 朝を告げるラッパの音と共に一人の男がムクリと起きる。 躰は筋肉やぜい肉かは分からないがガッシリとしている。 頭は丸っこく饅頭の様な頭をしている。
 「おはよう、ヤルオ」
 「ヤルオじゃない!矢路一男やるかずおだ!」
 同室の友に抗議をする。 そのヤルオに話しかけたのは細身に少し細長い顔の男。
 「お前だってヤラナイオって言われたくないだろ!」
 「別にイイんだけど?」
 「!!」
 名前を屋良凪男やらないおという。 どうやら自分のあだ名に満足している様だ。
 「朝ごはんだお」
 「そうだな」
 布団を綺麗に片付け2人は食堂に向かう。 朝の食堂はバイキング式で好きな物を選べる。
 「それにしても、毎日美味しい物が食べれるし良い所だお」
 「そうだな、ニートだった俺達には天国だな」
 【ニート活用法案】により2人は強制的に兵士として派遣社員をやっているのだ。 矢路一男やるかずお屋良凪男やらないおはニートだったのだ。  30歳まで2人は無職でニートで有った。 突然に政府の職員に家から連れ出され、学習装置で兵士にされ此処に来ている。
 「この頃はグンマー校との戦いも無いから安心だお」
 「常識的に考えて、冬季攻勢が失敗したのが一番の原因だな」
 昨年の年末、南関東連合は日光安全保障局N・S・Aに足尾要塞へ攻勢を命じた。 凡そ3万の派遣兵士を投入したが、年が開ける前に包囲殲滅された。 全員が死亡し、警視庁のデータでその年の自殺者として処理された。 その不足分を補う為に2人は徴用されたという訳で有る。
 『2人ともお早うございます』
 「デキルオじゃないか!」
 『横いいですか?』
 「「いいよ」」
 ヤルオより出来る感じの恰幅の良い男が座る。 彼の名前は照貴琉男できるおという。
 『そういえば、2人とも噂を聞いたのですが』
 「どんな噂だお」
 『近くグンマーと戦いが始まるという噂です』
 「だけど、俺達には攻撃力が無いぞ」
 『情報では、県境の親衛隊が能登半島に出ズッパの様なのです』
 スマホの映像が机に投影される。 県境の足尾要塞から能登半島に部隊を示す三角形が移動する。
 「でも、俺達の3000では残った部隊に瞬殺だお」
 『イエ、我々の味方は10万です』
 「どこにそんな兵士がいるんだ?』
 『NEO中禅寺湖だそうです……噂ですが』
 中禅寺湖のマップが表示され、巨大な三角形が足尾要塞を向く。 デキルオはフォークで投影された映像を示す。
 「杜山もりやまから松木峡谷は戦車部隊は通れない、国道122号を抜くしかない」
 『その通りです、だから10万の派遣兵士を使う様です』
 「10万の兵士ならグンマーなんて潰せるお!」
 『ですが、噂では群馬警備グンマー・ポリス統合部・ユニオン、通称GPUゲーペーウーがいるとの事です』
 「G・P・Uってどんな組織なんだお?」
 『不明です、戦力等は一切不明なのです』
 デキルオの言葉に沈黙が広がる中で突如として警報が鳴る。 何時ものビースト発生時とは異なる警報音。 ジリジリっとけたたましい音が鳴る。
 「一体何がおきたのお」
 『わかりませんが、戦闘準備をしましょう」
 「常識的に考えてそうだな」
 3人は胃の中に朝食を流し込むと集合場所に向かった。
 ◆  ◆  ◆
 彼等3人と多数の隊員達は体育館の様な広い所に集められた。 一段高い所には髭を生やした年配の男が立っている。 ざわめきが静まり男に着目される。
 「グンマー校と開戦しました」
 ざわっと周りから声が上げる。 同時に三方からスクリーン映像が映る。 そこには、爆炎を上げながら大地に降下する3艦が映っている。 周りには数人の少年少女達が背中に背負ったランドセルからマニュピレータを出している。 これらの先には、外装武器ペルソナが付いており艦に攻撃をしている。
 「NEO中禅寺湖から出撃した我が軍の空中輸送艦が杜山で襲撃を受けました」
 「彼等は、グンマー校の足尾要塞へ強襲作戦中でした」
 映像では艦は攻撃を避ける様にして、薬師岳要塞の方へ向かっていた。 しかし、圧倒的な攻撃になすすべく爆炎を上げ道路を塞ぐ様にして落下した。
 「3艦は現在、薬師岳前の国道122号を封鎖する形で降下。現在は空陸部隊が救助中」
 「これを受け南関東連合及び日光安全保障局は、グンマー校へ宣戦布告」
 落下した艦から逃げ出す兵士達を庇う様に薬師岳要塞側は砲撃を開始する。 上空にいた数名の少年少女達は、逆落としに攻撃を行い逃げ出した兵士達を吹き飛ばす。 それ以外の少年少女達は、上空で上がって来たF-22ラプターと空戦を開始している。
 「で、此処までは薬師岳要塞が対応します。我々の成すべきは別な所だ」
 薬師岳要塞から場所が変わり、クネクネ曲がった坂道が表示される。 中禅寺湖へ続く第一いろは坂で普段は、多数の検問で兵士達がいる所。 現在は、兵士達が倒れておりプラカードを持った集団が山の頂上にいる。
 【戦争反対!】【九条を守れ!】【八紘一宇】【若者の命を奪うな】 っとプロ市民が大好きそうな言葉をプラカードに貼り付けている。
 「彼等は先程、30分程前に上空から落下傘で降り立った300名のプロ市民●●●●だ」
 「降下すると彼等は【平和と友愛】を叫びながら、プラカードで我が軍の兵士達を殴り殺した」
 「で、現在はNEO中禅寺湖と日光東照宮要塞間にある明智平展望要塞を占拠している」
 遠くからの映像には、バリケードや穴を掘って塹壕を造っている様が見える。 何れも軍事方面に詳しそうなプロ市民●●●●である事が伺える。
 「で、我々の任務はこれらのプロ市民を排除し拘束する事にある」
 「何か質問は有るか?」
 周りを見渡しながら聞くが誰も答えない。
 「それでは、解散!各自自室に待機!指示は各自が所持しているスマホだ!確認を怠るな!」
 そう言うと年配の男は去っていった。
 『不味いですね……』
 「どうしたのだお?」
 デキルオの呟きにヤルオが反応する。 ヤルオはデキルオが出来る人間で有る事を知っているのだ。
 『恐らく、薬師岳要塞の方は陽動でしょうね。本命はいろは坂』
 「だけど300名で降下する何て自殺行為だお」
 『そう思うでしょうね……普通ならそう思うでしょうね』
 ブツブツと何事かを呟きながら1人で何処かに歩いて行った。 こうなると手を付けられない事を知っているヤルオは諦めてヤラナイオを振り返る。 ヤラナイオも難しい顔をしている。
 「ヤラナイオ、どうしたお?」
 「今回の戦いは難しいだろうな」
 「そんなに難しいだお?」
 「ヤルオは二百三高地とかヴェルダン要塞、リエージュ要塞って知っているか?」
 「勿論だお!ニートの時に第一次世界大戦の動画を見ていたお」
 「それに匹敵する位にヤバイのが、明智平展望要塞だ」
 ヤルオは首を傾げる、どうやら彼には良く分かっていない様だ。 そんな彼を見てヤラナイオはヤレヤレと首を振りながら、ヤルオの肩に手をやる。
 「仕方が無いな、せつめいしてやるよ」
 そう言いながら、ヤルオと一緒に部屋に戻り始めた。

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