グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第114話 少年は英雄になる 前編


 ――2100年4月28日19時00分 NEO埼玉 近郊
 エアバスA380を護衛するF-15戦闘機パイロット達。 彼等の目に映るは、尾翼が壊れファーストクラスの天井に穴が空いた機体。 そんな機体を見ながら会話をしている。
 「良くあれで、飛んでいるな」 「しかも、機体の制御もしている」 「お前なら制御出来るか?」 「俺なら、大統領命令ならやるけどなHAHAHA」 「確かに、HAHAHAH」
 そんな事を言っている間にも、機体は高度を下げ始める。 中では、鉄斎少年が必死に機体の制御をしている。 彼の能力は、刀剣操作ソードコントロールで機体その物を剣と見立て操作をしている。
 『ふー以外にキツイな……』
 エアバスA380は、全長が73m幅が80mで最大離陸重量が560,000kg。 これを巨大な剣に見立てて、操作をしている。 そうでもしなければ、油圧系を失った機体を制御する事が出来ない。
 気を抜けばどうなるか……。
 『フーっつ』
 息を吐き気を抜いた瞬間、機体が突如左に傾く。
 「鉄斎!機体の右エンジンの1つが脱落したぞ!」
 『すみません!気を抜きました』
 機体は再び、水平を取り戻す。 この様に少しの気の緩みが、剣と化した機体を破壊する。
 「こちら管制塔、高度を10000feet(3km)に落とし、速度を250ノット(時速450km)にせよ」
 『こちら、JANAL123便!高度を落とす事は可能だが、速度を落とす事は出来ない!』
 「現在の速度は何ノットか?」
 『現在は500ノット(時速900km)!揚力を維持するため速度の維持は欠かせない』
 「では、着陸直前で150ノット(時速270km)にする事は出来るか?」
 『不可能だ!恐らくは全速に近い形で着陸する形になる』
 油圧系を使えないという事は、フラップ等が使えない事を意味する。 フラップが無ければ、着陸時に満足な揚力を得られず失速し墜落する。 航空機史上多くの機体が、この問題で墜落し多くの命が奪われた。
 「鉄斎本気か?スピードは落とせないのか?」
 『ハイ、先輩。着陸直後に逆噴射を掛けます』
 「分かった!頑張れ」
 『ハイ、下に着いたらまた会いましょう』
 鉄斎少年は、機体に差し込んだ刀を強く握る。 高度はドンドン下がりながら、速度はそのままで滑る様に下の景色が見えてくる。 それを見て、鉄斎少年は意を決して乗客向けのマイクを手に取る。
 『こちら、スカイマーシャルです。機体の以上の為、NEO埼玉の秩父空港へ緊急着陸します』
 説明は短く端的に、そして人々を動揺させない為に落ち着いて離す。 そうグンマー校では習っていたが、行き成りの事態で流石の鉄斎も動揺を隠せない。 それに同期するかの様に、機体もブルブルと震え始める。
 『イタっつ』
 そんな鉄斎少年が胸元を抑える。 胸元から出したのは、ダイヤのネックレス。 まるで、彼の動揺を戒める様にキラキラと光っている。
 『そうだ!こんな事で動揺してはいけない』
 呟きながらキッと見えてきた滑走路を眺める。 同時に管制塔からも報告が入る。
 「消化班等の準備が出来た。何時でも、着陸可能。待っている」
 『OK、高度を5000feet(1.5km)から着陸体制に入る』
 ここで、鉄斎少年はギアダウンさせ、機体の脚を下ろす。 油圧系は使えないが、重力で脚が降下を始める。 操縦席の画面に全脚が降りた表示の緑ランプが光る。 同時に、脚を出した事で機体の速度が落ち始める。
 5000feet(1.5km)から500ノット(時速900km)はアッという間である。 そこから着陸直前まで全速で突っ切るのである。 アッという間に機体は滑走路に矢の様に落ちていく。 ガッっと機体の脚が大地に付き機体が震える。
 『着陸完了!逆噴射開始!!』
 左右の残った3機の精神伝導メンタルギアエンジン唸りを上げて逆噴射を開始する。 機体はゆっくりと速度を落としていくが、マダマダ止まらない。 脚元のブレキーが踏み続けていた為に、左右のタイヤがパンクし尻餅を付く。 突然に高速で回し過ぎた、エンジンが爆炎を上げ始める。
 『エンジンを放棄!』
 エンジンが機体から離され、滑走路をゴロゴロと転がる。 逆噴射が使えない状況で機体は火が付いたマッチの様に火花を散らし滑走を走る。
 『機体の前脚部を剣に!』
 ガコンっと音がし前部脚が剣に変わり滑走路に突き刺さる。 ガリガリボキボキっと嫌な音を立てながら、機体の操縦席付近から煙が上がる。 ようやく機体は、滑走路を削り取りながら停止した。
 鉄斎少年は、機体の合成燃料の残量とタンク温度を確認する。 一応、エンジンは精神伝導メンタルギアが使えない場合に備えて合成燃料でも動くのだ。 タンク温度と機体全体の温度が、耐熱温度である事を確認する。  異常が無い事を確認するとフッと息を吐き、乗客向けのマイクを取る。
 『皆様、本機は無事に着陸しました。指示があるまでお席にお座り下さい』
 そのアナウンスと共に客室からは、拍手が響き渡る。 傍の人達と抱き合い、多くの人々が瞳に涙を浮かばせる。
 鉄斎少年は放水車が来るのを見ながら、チェックリストの確認を始めた。 機長役にはやる事が有るのだ、決して一番に逃げては成らないのだ。

「グンマー2100~群像の精器(マギウス)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く