グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第112話 運命の空 後編


 ――2100年4月28日18時30分 相模湾上空
 鉄斎少年は適合者フィッターである。 その為、24,000ft(7200)mでも生きていられる。 そんな彼の目の前には、天井が吹き飛んだエアバスA380がある。
 『先輩!機体の天井が吹き飛びました』
 「機長達は?」
 『中に入ってみます』
 彼は中に入ってみる。 降り立ったのは、ファーストクラスの中。 目の前には、副機長が倒れていた。
 『大丈夫ですか?』
 ユサユサと揺するが反応は鈍い。 そのまま扉を開けると中で、機長が倒れている。 鉄斎少年は、酸素ボンベを副機長と機長に付ける。
 「ううう……君は?私はこの機の機長だ」
 『首都圏校の者です。何があったのですか?』
 「分からない……機体が操縦不能なのだ」
 機長は朦朧とする意識の中で鉄斎少年に答える。 どうやら、操縦は困難の様だ。
 『先輩!機長も副機長も操縦困難の様です』
 「鉄斎、お前はグンマー校で飛行機の操舵を学んだよな?」
 『ハイ、グンマー校では必須単位です』
 「お前が操縦しろ、メンタルギアをフルに使え」
 『本気ですか!』
 「ああ、そうだ。本気だ!頑張れ」
 通信が切れ、鉄斎少年は溜息を付く。 グンマー校では、生徒にはあらゆる訓練を受ける。 中学生で車から飛行機まで、全てを叩き込まれる。
 操縦席を操作すると絶望的な状況に気がつく。 尾翼は破壊され、油圧系が全損。 そして、ファーストクラスの天井は穴が空いている。 機体が飛んでいるのが、不思議な位である。
 『機長!どこへ降りるつもりだ!』
 「NEO埼玉……管制塔と連絡……」
 『米軍基地に着陸だな!』
 「そ、そうだ」
 鉄斎少年は機長からヘッドホンマイクを取る。 自分の頭に付けると、管制に連絡を取る。
 『こちら、JANAL123便。NEO埼玉管制聞こえるか?』
 「NEO埼玉管制、123便聞こえている。着陸可能か?」
 『尾翼と油圧系を損失、機体にも穴が空いている』
 「オウ」
 『これより、機体を操縦し着陸を行う』
 そう言いながら、鉄斎少年はメンタルギアを展開する。 刀形のメンタルギアを操縦席に突き刺した。 遂に鉄斎少年はヤケでも起こしたのか?
 「て、てっさい!機体が剣の様になったが何をした?」
 『先輩、この機体を剣に変えただけですよ』
 「なるほど、それがお前の能力か?グンマー校元中等部首席」
 『はい、その通りです。名前は刀剣操作ソードコントロール
 飛行機の機体は真ん中に乗客が乗るスペースが有り、左右に尾翼が有る。 高速で飛ぶ様は、空駆ける剣の鞘と柄の様である。 鉄斎少年は、この機体その物を剣と見立て操作をしている。
 『こちら123便、降下に入るが良いか?』
 「NEO埼玉、速度を落としながら降下せよ」
 『了解、24,000ft(7200)mから降下を始める』
 段々と機体は高度を下げ始める。 その間に鉄斎少年は、機体の乗務員達に説明を始める。
 『スカイマーシャルだ、JANAL123便は問題が生じた為、NEO埼玉に不時着する』
 スカイマーシャルというのは、飛行機内にいる武装警察官である。 航空機内の近接射撃や格闘に特化もしている。 何れも乗っている事が秘匿されている場合が多く、機長クラスでも知らない事が有る。 彼等の多くが、万が一に備えて機体の操縦訓練も受けている。 彼等が操縦をするという事は、機長や副機長が何らかの事態で操縦出来ない事を示す。
 それを知っている乗務員達は、乗客達に緊急時の呼びかけを行う。 メガネや靴といった尖った物を袋に入れ、何時でも躰を倒せる様に指示をする。
 「鉄斎!アメさんの機体がやって来たぞ」
 『了解です!先輩』
 F-4 ファントムIIが操縦席の左側視点に入り、右側からは米軍F-15戦闘機が上がってきた。
 「こちら米軍陸軍所属、F-15である。これより貴の機体を誘導する」
 「米軍陸軍だと?空軍では無いのか?」
 「イェス、NEO埼玉には、空軍と海軍機は存在してない」
 「ナルホド、陸軍機という訳か」
 『誘導に感謝する、指示をこう』
 NEO埼玉には、米軍の空軍と海兵隊の勢力が存在していない。 それには、5年前の【グンマー首席暗殺未遂事件】が影響している。
 当時の東京湾アクアライン・うみほたるでの三都市の会談。 これに参加していたグンマー首席を南関東連合・日本政府・米軍が襲撃。 結果として、南関東は首席以下十数名の適合者フィッターが死亡。 日本政府側は自衛隊の護衛艦いずも等の艦艇と対適合者トゥフィッター部隊を喪失。
 最も被害が酷かったの米軍部隊。 第七艦隊の旗艦空母バラック・オバマや艦艇を多数損失といった大損害を被った。 さらに、グンマー側からの報復として空軍と海兵隊・海軍への攻撃が始まった。 何れも、親衛隊と群馬警備統合部GPUからの攻撃であった。
 この攻撃についてグンマーは、国防総省ペンタゴンと中央情報局《CIA》。 米国家安全保障局NSA、米空軍、海軍、海兵隊をテロ指定組織と名指して非難。 テロとの戦いを行うと宣言した。
 一年間で、世界中でグンマー校から米軍の陸軍以外の組織が狙われた。 結果、中東情勢や欧州情勢が最悪という状態に陥いた。 2016年代に台頭して来たテロリスト達が数十年ぶりに活発。
 ドイツがビーストに占領される中で、難民がロシアや英国、フランスに押しかけ始めた。 ようやく、2016年代の悪夢が再び終わったらと思ったら再び悪夢が欧州で始まった。
 国内外で問題になり、米国大統領は辞任し新しい大統領のトーマス・エジソンが誕生。 彼がまず最初にしたのは、グンマー側へのテレビ会談。 それによりNEO埼玉及び、NEO中禅寺湖から空軍機と海軍機を無くす事でグンマーが攻撃を辞める事という譲歩を引き出した。
 その為、空軍機の所属が陸軍機になった訳で有る。
 話は逸れたが、機体は高度を下げながらNEO埼玉の秩父滑走路へ向かい始めた。

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