グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第92話 少女達は企む

  ――2100年4月25日19時00分首都校首席室
 純白の室内には、金の装飾が美しく施されている。 同じ様に純白の机には、銀髪の少女座っている。 首都圏校首席、白虎乙姫びゃっこおとひめである。
 『で、2人とも護衛対象を守る事に失敗したのね』
 「は、ハイ。ですが、我々の任務は囮でした」
 『暗殺者が囮に引っ掛ってくれたのに、捕まえられないとは』
 「申し訳ないと思っています」
 乙姫がパチっと親指を鳴らし、室内が暗くなり映像が展開される。 7名いた男達の内6名にバッテンが付いている。
 『21日から既に4日、残り1名よ!このままだと』
 「このままだと?」
 『グンマー校首席が、勝ってしまう!』
 「「んん?」」
 先輩少年と鉄斎少年は首を傾げる。 2人には、何の事やら分からない。 そんな2人を助けるかの様に、背後のソファーから声がする。
 「姫っち、それじゃ分からないよ」
 のそっと起き上がったのは、茶髪に紅目の少女。 前橋宇佐美である。
 「貴様!何故此処にいる!」
 「それは、ヒ・ミ・ツ」
 先輩少年の手元にナイフが展開され、宇佐美に向かう。 ナイフが、ソファーに寝転ぶ宇佐美に向かう。
 「遅いッツ」
 ナイフは途中で、見えない何かに止められる。 何も知らない人からみれば、ナイフが宙に浮いている様に見える。
 「やはりな……」
 「どうしたのかな?」
 手板マリオンを持ちながら宇佐美が尋ねる。
 「今日の教会で会った奴は、グンマー校の生徒だろ」
 「何の事かしら」
 「更に言えば、首席に近い者か?お前の能力を教えるだけの信頼が有る」
 「まぁ、ソウカモ知れなよー」
 宇佐美は、首を傾げながらトボけた声を上げる。 そんな中で、以外に動いたのは鉄斎少年。 だが、途中で床にべチンっと音を立て倒れる。 足首が、何かに巻きつけられた様だ。
 「どうしたのかな?鉄斎君」
 「貴様!彼女をどうした!」
 「誰?」
 「藍野那姫子あいのなきこちゃんだ!」
 「彼女なら検視して、焼却処分したよ」
 宇佐美は、鉄斎少年にデータと映像を見せる。 藍野那姫子あいのなきこの死亡証書と検視時の映像を見せる。 血の気の無い黒髪黒目の少女が、台の上に乗せられている。
 「死因は、大量出血死。あと良い事教えてあげる」
 「何だ」
 「彼女は幼馴染だっけ?ちゃんと処女だったわよ」
 「なっつ」
 「私が検視時に下の膜まで、確認して上げたからねー」
 「貴様!!!」
 鉄斎少年が声を上げた時、ドンと机を叩く音が部屋の中に響く。 鳴らした主は、ピキピキっと青筋を立てている乙姫。
 「姫っち怒り過ぎるとシワが出来るよ」
 『まぁ、宇佐美は置いといて説明をする』
 映像が変わり、首都圏とグンマー校の合同授業に付いて説明がされる。 最初は、興味無く見ていた2人は真剣に見始める。
 ~~合同授業纏め~~
 首都圏側:護衛対象7名を守る グンマー校側:護衛対象を暗殺する
 授業料は、グンマー校が出す100億から拠出される。
 ~~終了~~
 『今までに、我々首都圏校の損害額は70億』
 「「なっつ!」」
 「ビルに高速道路、公園の修理費に治療費が主ね」
 2人が驚愕し、宇佐美が内訳を説明する。
 『更に、6名の護衛対象を失っている』
 「あ、これは首都圏校無能ですわ」
 『こう、グンマーの賢治首席に先程言われたのだ!』
 映像が変わり、黒髪黒目の少年が映る。
 【あ、テステス。6名もやられちゃって、ちゃんと教育している?】 【まぁ、平和ボケしている首都圏にはちょうど良い授業でしょ】 【何人で掛かっても、暗殺は止められないがな】 【ガハハ、勝ったな!】
 言いたい放題いうと通信を切った。
 『っという訳だ、最後のターゲットだけは殺させない』
 「「は、ハイ。万難を排して、護衛します」」
 『行きたまえ』
 2人は、慌ただしく部屋から出ていく。
 「ガハハ、勝ったな!に騙されるとは」
 宇佐美の顔では無く、映像の賢治に変わっている。 躰の方は、宇佐美のスカートのままである。
 『女の子が言うセリフでは、有りませんわよ』
 「ウチの首席もそんな事を言わないわ」
 元の宇佐美に戻り、首に付けていたボイスチェンジャが置かれる。 勝手に、宇佐美と乙姫で創ったのである。
 「さて、君の言う【英雄】を作れるか?」
 『創らないと私もヤリたい事が出来ない』
 「まぁ、面白い考えだ。第一ステップは完了」
 『大切な物が、陵辱された様な悲しみと怒りの感情を与える』
 「最後の1人で、それを作れるかな?お手並み拝見だ」
 宇佐美は、ソファーに猫の様に転がる。 乙姫はパソコンで、最後の護衛対象の情報を確認する。
 『標的は、JANAL123便で2日後の18:04の便で羽田発伊丹に向かう様だ』
 「尾翼が壊れないといいけど」
 『演技でも無いな……まさか貴様』
 「急に尾翼が壊れる、これQBKね」
 互いに笑顔で顔を向けるが、瞳は笑ってない。
 JANAL123便、最新機体A380における乗客数524名。 奇しくも、1985年に起きた航空墜落事故の乗客数と同数。
 「歴史は繰り返す、これ事実」
 『それを止めるのが、英雄か……無茶な』
 「等しく絶望と希望を与え、英雄を創る」
 立ち上がった宇佐美は、乙姫のテーブルに置かれた菓子を食べ始める。 乙姫が声を上げる前に、全て胃の中に消えていく。 大切に取っておいた、最後のお気に入りのお菓子であった。
 「今の英雄にも等しく絶望を与える」
 『希望は?』
 「英雄に、夢も希望も無いんだよ」
 『酷い』
 「変わりに、試作品のグンマー巨乳牛チーズを上げる」
 ソファーに置かれたクーラーボックスから出す。 正方形に切られたチーズが顔を出す。
 『効果は?』
 「私の胸をみれば分かる」
 『ならば、試さないとイケナイ。これは、首都圏安全の為だ』
 そんなやりとりが、首席の部屋で繰り広げられる。 さて、2人の賭けは上手くいくのか?

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