グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第87話 うさぎ追いしかの事件(やま)後編★


 ある晴れた昼下がり、少年少女の歌が聞こえる。
 ~うさぎ追いしーかのやまー 
 歌に合わせてパイプオルガンが鳴り、ステンドグラスがキラキラ光る。 
 「何から何までありがとうございます」
 『イエイエ、彼女から最後の頼みでしたから』
 礼拝堂内の椅子に修道女シスターと少年が座っている。 真面目そうなシスターは、長年の苦労で顔に皺が出来ている。 が、眼光は鋭く意志の強さを思わせる。
 <a href="//19656.mitemin.net/i236199/" target="_blank"><img src="//19656.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i236199/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
 「これで、子供達に苦労させず学校に行かせられる」
 『グンマー校は、未来ある生徒を応援します』
 「どうして、賢治首席殿は身寄りの無い子供達を集めているのです?」
 じっと、シスターは黒髪黒目の少年を見つめる。 少年の名前は、至誠賢治しせいけんじ
 多くの人間は、こう思うだろう。 身寄りの無い子供達を兵士にする。
 『そうですねーー楽しく生きて貰いたいだけです』
 っと賢治首席は答える。 この答えにシスターは、目をカッと開き賢治を見つめる。
 『私達の第一世代は、親を知らない世代ですから……』
 賢治は、自分達の出自を語る。
 第一世代の適合者フィッター……。 彼等の多くが、生まれた時点で親から離された。 そして、専門的な教育を幼少期から叩き込まれた。
 ただ、管理する為の集団として母体の出身地ごとに分けられた。 親という概念は無く、グンマーいう集団で纏められた。 
 彼の話を聞き、シスターは思わず涙を流す。
 『何より、衣食住を満足に得られなければ進歩できない』
 首都圏の孤児院は、ビーストの攻撃で両親を失った子供で溢れている。 国からの補助はあるが、食べ盛りの子供達には足りなかった。 シスターが、幾ら頑張っても限度がある。 分かっていた子供達は、時にスリや窃盗でその日ぐらしをしていたのだ。
 警察や周囲の苦情で、シスターは追い詰められていた。 そんなある夜、扉を叩く音がし1人の少女が姿を見せた。 少女は、【グンマーへ移住しませんか?】っと提案したのだ。
 『グンマーは、肥沃な大地と食料が有ります。が、人口が少ないのです』
 「10万人でも少ないというのですか?」
 『ええ、デフレの状態なのですよ。我がグンマーの生産性は非常に高い』
 グンマーの食料生産率200%、豆・小麦・米がビースト化している為である。  さらに、鉄等の鉱物はビーストの骨から取るためタダの様な値段になっている。
 普通の経済状況なら、輸出一択である。 が、世界と日本は地域ごとにブロック経済。
 3年前に開放したイタリア半島へ物資を送り、スーパーデフレは防いでいる。 根本的に解決するには、内需の拡大が必要になる。 その為には、人口の増加させ地産地消をする必要がある。
 増やすにあたって必要な人材は若く、そして向上心が求められる。 何より、グンマーが好きだと思ってもらう必要がある。
 そこで、グンマーの生徒会は孤児院の子供達を入学させている。 関西・関東合わせて、年1万人以上を入学させている。 同時に、全国で教師をヘッドハンティング。 教師陣は優秀であったが、それゆえに教育組織に干された人材を確保。 現在、彼等はグンマー校で魚を得た魚の様に活躍している。
 『夏休み明けには、中等部へ入学出来るでしょう』
 「何から何まで、ありがとうございます。神父様は……」
 『彼への罰は、彼女の願いでも有ります』
 「そうですか……彼が呼ばれない時点で何か有ると思っていました」
 『これは、当分の間の資金です。此れは彼女の遺産でも有ります』
 賢治首席は、口座カードを渡す。 そのまま立ち上がり、出口へ歩いていく。 シスターは、賢治の姿が見えなくなるまで頭を下げていた。
 孤児院から暫く歩き、賢治はスマホを取り出し呼び出す。
 『あ、銃子ちゃん?頼まれた事して来たよ』
 「ありがとうございます、此方も無事にかたきを取れます」
 後ろで、何か呻く声がする。
 『うさぎ追いしかの事件やまか』
 「……それでは、任務の第2過程に入ります」
 『頑張ってね』
 通話が終わり、賢治は東京の空を見つめる。 適合者フィッター特有の超遠視で見えるは、東京の天気。 グンマーの天気は晴れ、東京の天気は雷雨の様だ。

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