グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第85話 うさぎ追いしかの事件(やま)前編★


 ――2100年4月25日09時00分東京
 若い刑事は、朝から雨の中を科研の友人を訪ねた。 今回の事件に出てくるウサ耳少女に付いて、調査して貰う為だ。
 受付で警察手帳を見せ、友人の部屋をノックする。
 (イイよなー、自分用の部屋を貰えて)
 刑事の彼には自分の家以外に、1人でいる空間は無い。 まぁ、駆け出しの新米に部屋など与えられる事は無い。
 『失礼しますよー。寝ているのかな?』
 ドアを開けると中は暗い部屋。 勝手知ったる照明のスイッチを押す。 パチっとライトが付き、本や雑誌で囲まれた部屋が姿を見せる。
 友人は部屋の中央で、パソコンの前でうつ伏せになっていた。 どうやら、寝ている様だ。
 『徹夜かーお疲れ』
 声を掛けると起きたと思いきや、ズルリとバランスを崩し床に倒れる。 口から泡を吹き、顔は恐怖を浮かべている。 しかも、骨がまるで無いかの様にグデンとしている。
 『い、一体何が』
 机の上に置かれているのは、注射器と化学薬品容器。 容器には【フッ化水素酸】と書かれていた。
 (聞いた事があるぞ!危険な薬品、触っただけで骨が朽ちる)
 大体は、当たっている。
 フッ化水素酸は、触れると激しく躰を腐食する危険な毒物である。 骨や血液中のカルシウムイオンと容易に結合する。
 かって、1982年に八王子の歯科医院医療事故が有った。 フッ化ナトリウムとフッ化水素酸を間違えて購入。 患者で有った少女は、急性薬物中毒で死亡。
 フッ化水素酸を口に塗られた少女は、診察団から2mも飛び跳ねた。 塗られた口からは、白煙が上がったと言われている。
 それを注射で躰の中に入れたらどうなるだろう……。 全身を痛みが襲い、恐ろしい最後を迎える。
 『どうして、お前が……自殺なんて』
 床に倒れた衝撃で、パソコンがスリープモードから立ち上がった。 スクリーンに表示されているのは、【遺書】で有った。
 (オカシイ……此奴が自殺するなんて)
 そう思いながら、彼は周りを見る。 物色された後は無く、物取りの可能性は低い。
 (っという事は、此奴の捜査データが狙いか?)
 手袋を付け、パソコンの中身を見るが捜査資料は無事で有った。 フト目に付くのは、スプラッタ陵辱系美少女で有名な同人誌。 作者は、この部屋の主の男。
 (此奴も前から急に、アイディアが湧いたとか言っていたな)
 刑事は、男の鞄の中を覗き込む。 其処には、何も入っていなかった。
 (オカシイ、普通はデータ類とか設定本を入れている!)
 疑問に思いながら、スマホで応援を呼ぶ事にした。
 『おう、俺だ!緊急事態だ科研で人が死んでいっッツ』
 刑事は、言葉を止めた。 イヤ、喋れなかったというべきか。
 キリキリと頑丈な糸が、彼の首を締める。 突然の事で持っていたスマホを取り落としたのだ。 暫く宙で蠢いていた刑事は、ビクンと動き生を終えた。
 「ヨシ、残党の関係者も処分した」
 ピンと糸を右手で叩くと糸は切れ、男は友人の上に倒れる。 糸の先には帽子を被り雨の中に立っている少女がいる。
 <a href="//19656.mitemin.net/i236181/" target="_blank"><img src="//19656.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i236181/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
 「まだ、まだやる事は沢山ある。うさぎは、事件やまを追うよ」
 ご機嫌な声で、スマホで報告して街の中に消えていく。 やがて、開いた扉から覗き込んだ同僚が2人の死体を発見する。
 司法解剖の結果、1人はフッ化水素酸で自殺。 もう1人も、首に細い紐●●●を巻きつけ自殺。 っと報告書に纏められた。
 「友人は選ばなければ行けない、そうですね」
 報告書を受け取った警部は、報告書をシュレッターに掛けながら言う。
 「そういう事だ、我々は最小限の損害で法を統治する」
 「長官殿も彼等に全てをさせるとは、人が悪い」
 「我々は法の番人であるが、執行者では無い。では、また」
 無機質な声で、話していたスピーカからの声が消える。 フフッと笑いを浮かべ、警部は手元の通知を見る。 内容は、昇進を伝える物で有った。

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