大統領フルスイングで殴ったら異世界に転生した件。

慈桜


生まれて5年の月日がたって事件が起きた。朝、住み慣れたテントの中に兵隊がなだれ込んで来てママウエが連れてかれた。こんな辛い環境で生きているのに、更なる不幸が押し寄せるなんて・・・。
寝ぼけた目をこするとオカンの叫び声で飛び起きる。
「やめて!!わたしには子供がいるの!!離して!!!」「ママ!!」「コナン!!コナン!!!いや!!やめて!!!!」
黒い鎧を纏った兵隊が手足を縛りつけたオカンを担ぎ上げて黒塗りの馬車に乗せられて行くのをただ黙って見ていた。いや、突然蹴り上げられて薄い意識の中で呆然と見る事しかできなかった。二匹の蛇が剣に絡みつく紋章だけが頭に焼きついた。意識を手放してから暫くの時が経ち目を覚ますと、更に凄惨な状況に目を瞑った。
テントは燃やされ、仲の良かったババアやジジイに近所のガキ共は斬り捨てられている。村の若い女は一人も残ってないので十中八九貴族の奴隷狩りだろう。戦争難民にはついて回る災害みたいなもんだ。国から派遣された衛兵が情報でも売ったんだろう。ただやるせなく燃え盛る赤い集落でただ一人佇んでた。ふらふらと歩き、逃げ遅れたジジイの空っぽのリュックを取り、爪がはがれる勢いで貯金を掘り起こした。
こんな事になるならもっと容赦無く力を奪っておくべきだった。もっと力を使うべきだった。俺は異端だから100歩譲ってどうでもいい。でも母さんは・・・シルビアはただ息子と暮らしていたかった一人の優しい母親だ。許さない。
あの蛇と剣の紋章の貴族は何が何でもぶっこわす。
俺はこの日復讐を誓った。


まず、オバナ達を呼び出そうと思ったら集団で悲しみに打ちひしがれていた。いや、絵的におもろいからむかつくけど。
「立て、戦争の準備をするぞ」「ノーウォー」「どの口が言うとんねん。立て。」「イエスボス!」
とりあえずは、この国の都を目指す必要がある。何にせよ、何もわからないままではいられない。あの紋章を調べなければならないからだ。でも、そんな事よりも今一番大切だと感じたのは、村のみんなの埋葬だった。幼少期の5年間とは言え、大人の感性で過ごす5年は感慨深いモノだ。喧嘩したジジイやババアの遺体に涙が止まらなかったが、オバナ達と必死に穴を掘り手を合わせてご冥福を祈った。
深く息を吸い気持ちを切り替える。辺りは真っ暗だが魔物に怯えてなんかいられない、俺はスキルの発動だけ出来たら乗り切る事は出来るはずだ。もう迷わない。俺からあの優しい母親を奪うのであれば、例え敵が国だろうが世界だろうが俺は全てを奪ってやる。
決意に燃えていると言うのに横のオバナがうるさい。
「ボス、ペコハラ。」「知らん歩け。」「イエスボス!」
普段他愛の無い会話しかしないのだが、気を使ってるのかやたらと話かけてくる。ウザイ事この上ないのは周知の事実だが、ここはあえて無視で通す。こちらとしてもオバナ30人と深夜に徘徊とか願い下げなのだ。まぁ村の惨状を悲しんでいたから、いい奴達なのかもしれないが、何故か政治的な何かを感じるので情は沸かない。
夜通し休みもとらずに移動しているにはワケがある。もし、ママウエが奴隷として連れて行かれたのなら買い戻せば良いはずだと考えたからだ。俺の住む国フィヨルムは自国の国民は奴隷には出来ない。そう考えるとオカンは戦争中の隣国に連れて行かれた可能性が高い。敵国の黒い鎧が簡単に敵地にいる事は考えづらいと思ったのだが、裏で繋がっていると考えればそこまで不思議ではない。まぁ、現時点では勘ぐりでしかないが、言い方を良くすれば直感に頼ると言った所か。それならば危険覚悟で隣国であるフィンブルスルに急ごうと言う結論を出したのだ。オバナが言う馬車の向かった方角からしても十中八九正解だろうと思う。
「ボス、オモタイ」「耐えろ。」
思案に耽りながらオバナに両肩両足をかけて仮眠中、見た目は苦いがこのまま行けば移動距離はかない変わるはずだ。待ってろオカン。助けてやるからな。頼むから無事でいてくれ。

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