10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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蟲神が見上げる先には秋定が立っていたのだ。サリーシュが、己の身体の中にあるサリーシュが蟲神の気配を追い、何の因果か秋定が国を構えていたこの地にて見つけた。
足元で秋定を見上げる蟲神は突然の事に思考が固まるが、それを見て秋定は不敵な笑みを浮かべる。
まさに死力を尽くさんばかりの蟲神が放った大技のせいで蟲神は自身の身体をゴキブリ程度にまで縮めていた。
羽虫は一斉に秋定へと向かうが、身体を覆う緑色の光が羽虫を消滅させていく。
「ワレで神さん三匹めや」
「なんで!?なんで!!なんで昔のジジイみたいな奴がいるんだよ!!」
グチャ。
単純に踏みつけたかのように見える神法による一撃で蟲神は消滅し視界を埋め尽くした羽虫は奈落の底へ落ちていった。
そこには虫に侵され気を失う五匹の鬼と座禅を組む帝釈天の姿があった。
秋定はゆっくりと帝釈天の前に歩み寄り膝をつく。
「ワシはサリーシュに力を与えられた秋定と申します」
「ほう、梟が認めたとな」
「はい…後は月神と太陽神を消してくれようと思うのですが、力の波動を感じる限り、帝釈天様に助力願いたいのです。」
「無駄だ」
無駄と切り捨てる帝釈天に秋定は首を傾げる。
「理由を聞いてもよろしいですか?」
「あやつらは別格だ。」
「せやけど…いや、ですが、このサリーシュの力を持ってすれば勝てるのでは?」
帝釈天は小さく首を振る。
「私のサリーシュはあの者達には通じないようになっている。この世界に置いてわな。」
「なぜ……」
「あやつらだけ私の子供だからな、ねだられた力を与え、あやつらは月と太陽を作った、そして未来永劫管理する代わりに自由が欲しい、私の力の管理下からはずして欲しいと…互いに不干渉がルールだったのだが、欲にまみれてこの様だ。サリーシュがいた世界でなら殺せたやも知れぬがもう遅い。」
秋定は納得が行かないようで眉間に皺を寄せたままその場で固まってしまう。
「だがな、この鬼達の話しを聞く限り、この世界は消える。笑える話しだ。救済の箱舟アウリファナンティを自分達の命と引き換えに別の世界に隔離してくれと言いよった。たかが地獄の鬼五匹の対価では不可能だがな」
「世界が消えるとはどう言う事ですか?」
「そうか、お前神法のせいで気付かなかったか。今、世界の魔素が極端に薄れているのを感じないか?」
「確かに…言われてみれば…」
「こいつらの親玉が世界中の魔素を吸い付くし、月と太陽を擬似的に創り上げ放出する連発式の魔導砲を完成させたらしい、その魔導砲は理論上は完璧だが…」
「完璧だが?」
「世界が追いつかん。そやつが創り上げた魔導砲は言わば、鉛筆を直立させる数式は理論上完成出来るが、実際には不可能な事と同義だ。その魔導砲が正常に作動する事は万に一つもありえん」
そこで秋定は目を瞑り数秒間黙り込み、小さく頷き始める。
「では帝釈天、ワシの命と力を対価にアウリファナンティを箱舟にする事は出来ますか?」
「まぁ、力としては申し分無いが、お前の魂が巡る事は無くなるぞ?」
「部下を無駄死にさせんですむんやったら…いえ、すいません。魂どうこうより大事な事がありますので」
「わかった…ではお前の魂と力を対価にアウリファナンティを切り離そう、この鬼達を起こせばアウリファナンティまでの転移が出来るはずだ」
帝釈天が手を翳すと光に包まれた星持ち達の身体から大量の蟲の死骸が吐き出される。
そして全ての流れを説明し…。
「お前達には俺の部下の命を預けたいんや」
「話はわかった。本当にいいんだな?」
「かまわん、ホンマはお前んとこの親玉には募る話しがあるんやがな、もうええんや。」
「わかった。じゃあ俺たちは神域に帰らせてもらう…世界の崩壊が始まると同時に頼む」
「あぁ、任された。せやけどワシの部下はしばきまわしてでも連れて行ってくれよ?」
「約束する」
一星があっさりと踵を返すと他の星持ち達もそれに続く。
その背中を見送り老人は問う。
「ほんとうにいいんだな?」
「えぇ、かまいません。下の者が無事ならそれで。どのみちサリーシュがいなければワシはあの世界で簡単に死んでいた者ですから」

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