10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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 東の海に羽織袴の男がプカプカと浮いていた。 波で顔に水がさらされると、ゆっくりと男は目をさました。
 まわりにはスーツを着込んだ部下達が数人浮いているのを確認し手頃な砂浜まで引きずりはじめた。
「あいつはなんなんじゃ…」
 アインシュタットの王に将棋を教えて、賭け将棋をしていた昼下がりに吹き飛ばされた。
 その後怒りに身を任せて文句を言おうと勇み足で駆け寄ると更に酷い爆発で吹き飛ばされた。
 突如二度も殺され、レベルを大きく下げて、なお謎の物体に打ち上げられた。
 その過去を振り返り羽織袴の男は小刻みに震えた。
「この秋定、ここまでコケにされたん初めてやのう」
 沸々と沸き上がる怒りを抑え、まずは部下達の回収だ。
 目に見えるだけでも5人の部下が浮いている。 恐らく沿岸を探せば数は増えるだろう。
 男はアイテムボックスから霊薬エリクサーを取り出し、部下の口に含ませると、部下は勢いよく潮を吐き出し荒れた息を整えながら震える体を起こした。
「おやっさん…すんまへん。情けない姿見せてしまいました」
「ええんや神宮。そんな事より立てるか?他のもん助けるん手伝って欲しいんや」
 神宮と呼ばれた男の背を支えながら肩を持ち上げると、男は大きく深呼吸をした後に「大丈夫です」と海に飛び込んだ。
 パッと見ただけでも5人いたが、少し探すと1人また1人と水に浮かぶ部下達を集め、14名の部下の救出に成功した。
 一段落ついた所で秋定は焚き火を始め、ビショビショに濡れた服を脱ぎ捨てた。
「まずはここが何処かっちゅう話しやな。」
 秋定はメニューウィンドウを開きMAPで自身の位置を表示する。
「おやっさん…これは……」
「あぁ、どうやら別の大陸まで飛ばされてもたみたいやの。なまじっかレベル上げとったせいで死なんかったんが運の尽きやのぉ、しかも…」
 神格化レベル250だった秋定のレベルは二度の死によって150までレベルを下げていた。 これは通常のデスペナ75回分に相当する死に方をあの二回の爆発で食らった事になる。
「この調子じゃ大分死んどるな。」
 そう残した一言に生き残り秋定と共にいる部下達は肩を落とした。
「あはは、なんか面白そうな人達がいる」
 絶望にも近い感情を表には出さず焚き火の火をいじっていた秋定の後方の森から何やら子供の笑い声が聞こえて慌てて振り返ると、そこには子供の白い梟がいた。
 小さいモコモコの梟はヨチヨチと歩き秋定の横に並ぶと焚き火の熱を感じて薄く目を閉じる。
「あったかいね!」
「…せやのぉ、お前なんや親とハグれたんか?」
「ううん!親なんていないよ、だって僕精霊だもの。」
 ………………………。
 喋る梟とありえない生き物が突然精霊だと言い始めて秋定達は言葉を失う。
「これなんや、新しいイベントかなんかか?」
「いえ、自分にはわかりかねますが、他の大陸まで実装されているのでしょうか?」
 ヤクザ達の会話に子梟は大きくアクビをして、首を向き直る。
「でさ、ここに辿り着けたんなら僕に願いを叶えて欲しいんだよね?何が欲しい?お金?名声?それとも力?」
 子梟の言葉に秋定は鼻で笑い飛ばす。
「金も名声も力もある。おチビちゃんにはなんも求めへんよ」
「ぶー。ねぇ?お金ってどれぐらい?」
「んなもん沢山じゃ」
「これぐらい?」
 突如目の前の広大な海が全て金貨に変わる。
「んなっ!?」
「ねぇ、名声ってどんな名声!?力って!?どんな力!?」
 金貨が弾けて海に戻ると次はその異変に怒ったのか海底から赤いリヴァイアサンが天を穿つ巨躯を持って現れる。
「んなあほな。」
 赤いリヴァイアサンは怒りの化身と言われ、サーバーボスで現れた暴力の塊だ。 知らぬ存ぜぬの秋定達もこのイベント時は迎え討たなければ、領地を失う程の大打撃を受ける所だったのも一つの思い出だ。
「ねぇ?力ってどんなの?」
 子梟が覚束ない羽をパタパタと動かすと赤いリヴァイアサンが3つに別れて海を赤く染めた。
 その様子に秋定はゴクリと生唾を飲んだ。
「おチビちゃんに願えば…その力が手に入るんか?」
「うん、僕がおじさんを好きになるまで遊んでくれたらね?」





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