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10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

71

 空を埋め尽くす紫龍が第四壁の区画に飛び込んだ。
 紫電一閃。
 非情にも思えるやも知れないが、若き姫君は小を切り捨て大を取る事を選んだのだ。
 紫龍は所狭しと四区を喰らい尽くし、度重なる爆発音と共に街は消え去り一面がクレーターのように土地を抉り文字通りに狼人族と狼牙族を消し去った。
 多少の食い残しはあったものの片付くのは時間の問題だ。
 無表情に俯くシェルルにホーキ・ボンドはかける言葉を選べなかった。 だが、シェルル姫は怒りと悲しみを綯い交ぜにした表情で奥歯を噛み締め言葉を紡ぐ。
「ロウエント・ビーステイルダム両国は…圧倒的武力と数の暴力で戦争をしかけます。先遣隊でこの規模であれば恐らく本体は50万もしくは60万に近いやも知れません。」
「それは…」
「えぇ、こちらの総兵数と同等もしくはそれ以上。しかしこちらはヨルムンガルドからの亡命者と追跡者、そして元よりの騎士団と全てを合算して50万強です。後は戦いには向かぬ民、力が足りぬやも知れません。」
「しかし跳ね返さねばならない……リブラ様に応援を頼めないのでしょうか?」
 少しばかり目を広げるが次第に小さく閉じ首を横に振るシェルル。
「もしくは…いえでも対価をこの国に払える余力は…」
「……縋りつくのも一つの手では無いでしょうか?何年かかっても対価を支払えば良いでは無いですか」
 シェルルは泣き叫ぶ民と怒りの炎を燃やす兵達の行軍をしばらく見つめていた。 追跡者達は今こそ立ち上がらんと普段の軽装から完全装備に整え、ヨルムンガルドから亡命した貴族以下の兵団も襲撃に備え北の空を睨む。
「確かに…総力で籠城するにしても援軍が無ければジリ貧になるかも知れませんね。」
「はい。しかし、打って出るのも愚策。向こうは亜人です。地中、地上、空中とあらゆる手段で攻めたてます。」
「わかりました。交渉に行きましょう……と、その前にリブラ様よりお譲り頂いた四王黄金鎧を相応しい者に預けます。」
 そしてシェルルは四対の四王黄金鎧が一つ雷の鎧を自国ノースウォールの騎士総長カムクラへ渡す。 呼び出された壮年の騎士は、騎士の最敬礼と共に姫の言葉を待つ。
「雷槍カムクラよ、あなたにこれを」
 ゆっくりと頭を上げた先に輝く黄金鎧を見てカムクラの目が見開く。
「あ、ありがたく。しかしこれは国宝では?」
「国家存亡の危機に国宝など使わなければタダの鉄屑です。一騎当千の槍働きを期待しております」
「ははっ!!必ずやこの鎧と我が槍に誓い勝利を捧げます!!」
 カムクラが鎧を纏う覚悟と共にそっと鎧に触れると、雷の黄金鎧が突如カムクラの体に沈んで行く。
「えっ?」
 その様子に驚いたシェルルが素っ頓狂な声を出し、異変が起きたカムクラへ二歩、三歩とゆっくり駆け寄る。
「うぅぐぐぐぐ」
「カムクラ!!一体なにが……」
 カムクラと呼ばれる灰色と茶色を混ぜた短髪の壮年の騎士は苦痛に顔を歪める。
「うがぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
 肉体が内部から破壊されるような激痛に身を悶えさせ、地に伏す。 意識を手放すかと目を閉じると同時に黄金の雷を宿した眼を見開き、全身に黄金の鎧を纏ったカムクラは上半身を起こす。
「カムクラ!大丈夫ですか!?」
 カムクラはゆっくりとシェルルの顔を覗くと鼻で笑う。
「ほう、カムクラと言うのか俺の主は。弛まぬ努力の果てにあるいい体をしてる。」
 手を握り開きを繰り返し首を鳴らすと軽快に立ち上がる。
「我を纏ったと言う事は面白い敵がいるんだろう?何処にいる?」
 敵対はしないのかと周りで見守る者達は胸を撫で下ろす。 それ程までにカムクラが放つ気は異常であった。 しかしシェルルは恐れもせずにカムクラであった男の胸を叩く。
「何処のどなたや知りませぬがカムクラをお返し下さい!!」
 シェルルが両の手で黄金鎧を纏う男の胸を何度か叩くと、男は姫の手を優しく掴む。
「おぉう、えらい気の強い姫君だなぁ?娘を思い出すわ!はっは!案ずるな、お主の騎士は今世での我が主、この国を護りたいと本能で我にうったえかけよる。今はまだカスだが、こいつが気張れば我はまた寝てやるよ」
 シェルルは悔しそうにギギギと奥歯を噛み締める。 この事態は正直リブラでも予想していなかっただろう。 魔人になるとは説明したが、こう言った意味合いでは無かったのだから。 リブラやカルマもしくは星持ちであれば恐らくは抜群の魔導媒体だと喜んだであろう。 しかし、いくら騎士総長と言えど深淵を覗いた者程の力は無いのである。 鎧に焼き付いた呪いはたまた何らかの意志が使用者を乗っ取る事も仕方がない。
「心配するな姫君よ、元の持ち主であるあの化け物共に殺されるぐらいならこの国の為にカムクラと共に一騎当千の働きを見せてくれる!!」
 幼き頃より近衛騎士でシェルルの面倒を見ていたカムクラが別の誰かになってしまった悲しみを、姫君として露わにするわけにはいかない。 それは兵や民の士気に直結してしまうからだ。 シェルルは踵を返し、心を落ち着かせる為に城へ戻った。
『シェルルがおっきくなったらね、カムクラにせかいでイチバンすごいブキをプレゼントしてあげる』
『嬉しいです姫、ですが私は姫の楽しそうな笑顔が何よりもの贈り物ですよ』
『むー』
 幼き頃よりの思い出が走馬灯のように流れシェルルの目尻から頬に流れる雫。 年相応の少女の涙は場違いな言葉やも知れぬが美しく、薄氷のような脆さを見せるもシェルルはすぐにそれを拭い、弱々しい笑顔に変える。
「…カムクラの事は今は深く考えませぬ、リブラ様どうかお力添えを」
 そして姫は自室に転移プレートを広げ集落へ向かった。


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