10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

66

  転移プレートから蒼龍に転移すると日焼けしようと甲板で上半身裸のちゃらおがいた。
「あっれぇ?王様なにしてんすかぁ?」
「ハウロミ島に鮫退治だ。」
 ちゃらおはそれを聞いてムクッと起き上がる。
「それいいっすね、グンマー人も喜ぶっすよ!」
「ぶほっ」
「主君???」
「いや…大丈夫だ。気にするな。」
 いや、グンマー人って。 色々とアウトだろ? 明らかに外国の密林の中の先住民族のような奴らだったのに。 まぁ、深い意味はないだろう。
「なんかぁー、この前も槍一本で立ち向かって行って殺られてたんすよぉ?軍規違反っすけど、かわいそーだから零戦で何匹か焼き殺してやったんすけどきりないんすよぉ?海一面赤っすよ?」
「軍規違反を俺に言うな。ってそんなにもか?」
「いや、見てくださいよ」
 ちゃらおが親指で海を示すと、そこには見た事の無いレッドシャークの群れがいた。 青く透き通っているはずの美しい海が赤潮のように色を変え鮫のヒレが無数にある。
「美味そうだな。」
「はい主君。このカルマもお腹が減ってきました。」
「やっぱ王様とカルマ様ってちょっとおかしいーすよね?あれ?ライはいないんですか?」
 完璧に忘れてた。 俺かカルマにベッタリのライがついてきてないってのは珍しい。一旦戻るか? いつも無条件に側にいると思ってたんだか…。
「あれ?カルマ一緒じゃないのか?」
「いえ、ライライは今日時田殿にベッタリでカルマの相手をしてくれませんでした…。」
 おーう、ちょっと地雷だったか。 だからライが好きな蟹を汗だくでバラしてたのかこいつ。 食い物で釣ろうなんてヒエラルキーが更にえらい事になりそうだけどな。 まぁ、こいつらは普通じゃないぐらい仲がいいから大丈夫だろう。
「だそうだ。」
「あー!教官にもやたら懐いてますもねぇ、久々に帰ってきたから嬉しいんしょ!あっ!話し変わるんすけどぉー」
 こいつの喋り方がうっとおしいので、簡単に説明すると赤鮫の中にしばしば違う色の鮫や大きい鮫がいるらしい。 その中でも夜に金色に光る鮫がいる時は鮫の行動が活発になるとか。
「そうか、ありがとう。ちょっと島に行ってくる」
「ちーっす!おかず鮫ばっかっすけどメシ炊いとくんでいつでも食いに来てくださぁい!」
 いい奴かこいつ。 てか、他の塾生みんな訓練してんのになんでこいつ日焼けしてんだ? まぁ、気にしないでおこう。

「主君。グンマー人とやらとは交流を持つのですか?」
「うん、まぁ、島についたと同時にここまで歓迎されちゃうとね。」
 島に着地したと同時に島の山奥からガサゴソと色の黒い先住民族がワッサワッサと降りて来て腰を振りながら笑顔で踊り狂う歓迎をされているなう。 そして黄色い酒をヤシの実を半分にしたような器に注がれて。
「呑めや飲めっや!!ゆうしゃー!!」
「「「飲めや呑めや!!ゆうしゃー!!」」」
 歌われるとどうもね。 飲まなきゃならんよね。 けど、言っちゃなんだけど、何が入ってるかわからん酒を飲むのも抵抗があると言うか。 俺はゴブリン達みたいに虫とか食えないしね。
「もう、どうにでもなれっ!!」
「主君!?ヤケクソ!?」
 …………………。 なんだこれ………。 なんなんだよ………。
「美味すぎるだろがぁぁ!!」
「「飲めや飲めやゆうぅしゃああ!!」」
 パンパンパダダダダダダ!! と南国で打ち鳴らすジャンベの音が全身に響き渡ると、ジンワリとアルコールが体に巡りだす。
 芳醇で濃厚なアルコールを感じさせながらも、パイナップルのような甘い果実を密封させた上で発酵して中和させたような、それでいてスッキリで……なんと言えば……冷やしパインだ。 冷やしパインとしか言えない! 冷やしパインを食べてウマァァな瞬間に体がカァァっと熱くなる。 これは最高の酒だ。
「これは美味すぎる!!」
 横でカルマも一心不乱に飲み干して行く。 それに負けじとグンマー人の子供達もぐびぐび飲んで倒れて行く。
「主君!!この酒は美味すぎます!!」
 少し頬を赤らめるカルマの頭をポンポンと撫でるとこちらに男性が歩みよる。
「気に入ってもらって何よりです、ヴードゥカと言う我々の主食…言い方はおかしいですが、そのような物です」
 落ち着いて話す男性は他のグンマー人に比べると一回り体の大きい人で、体から溢れる雰囲気は戦士のそれだ。
「これは素晴らしい。作り方とかは教えていただけないですか?」
「えぇ、もちろんかまいません。ですが今のあなたでは…、この星の初まりの民である我らグンマー人にしか、創る・・事は出来ませんよ?」
「初まりの民……」
「えぇ、まず我々の言葉に聞き覚えはあるでしょう?」
 当然だ。この世界の共通言語なのだから聞き覚えしか無い。
「他と隔絶された島の先住民族が流暢に世界の共通言語を話す、それだけで不思議でしょう?」
 目を細める笑顔の壮年男性の言葉に妙に得心が行く。
「我々は先祖代々より、歌でこの星の成り立ちを歌い語り継ぎます。ハウロミとは初まりの意味を持つ歌謡句、初まりの島、それがここハウロミ島なのです。」
 それを聞いていたかのように、ジャンベのリズムがゆっくりとしたテンポに変わる。
『世界は全て海、ハウロミはこの島で、我らは祈り捧げ、ヴードゥカを飲み生きる、星が降り注ぎ、新たなる生命が芽吹き、我らの言葉を使い、この星で命を紡ぐ』
 心に響く先住民族の歌声が響き、世界の成り立ちが頭の中で映像として流れて行く。 歌が終わると、まだ昼時だった世界は夜に変わった。
「え?」
「主君、これはどういう…」
 壮年の男性は歌を止め、笑顔を絶やさずにこくんと頷く。
「成り立ちを伝える歌の対価に時を使いました。では、ヴードゥカを創りましょう」
 先住民族の戦士達がオッオッと叫びながらロープのついた槍を投げ赤鮫に突き刺す。
「ヤーレンソーランソーランソーランソーラン」
 えぇ!?ソーラン節? 生きたまま槍に貫かれた鮫が陸揚げされるとグンマー人達は祈りを捧げ始めた。 子供達が白樺の炭を運び、女達はパイナップルに似た果実を運ぶと、鮫は祈りに応えるように姿を大麦小麦ライ麦じゃがいもと大量の穀物に姿を変え、更にそれらが一つになり白樺の炭を通して液体に姿を変え果実を飲み込むと宙に黄色いヴードゥカが浮かぶ、そしてグンマー人達は完成と同時に歌い踊りそれを掬い飲み始める。
「生命の対価錬金…いや、真理術」
「そうです、我々の祈りは、世界融合で来られた方々に様々な呼び方をされました。星祈祷術せいきとうじゅつ、または対価術たいかじゅつ、3000年前の英雄乱生からは真理術と呼ばれる事が多くなりましたが…そこまで歌うと時は永劫に流れ我らのように不死となってしまいます」
「不死?そんな、鮫に殺されたって聞きましたよ?」
 焚き火の音がパチパチと響き渡る中、大きな声を出してしまった。
「ええ、死は死で訪れますがグンマー人の魂はハウロミ島でのみ巡ります。魂の祈りは母体に宿り、歌だけを覚えている子供が生まれます。そして体に死した者と同じ紋様が浮かび上がり同じ名を受け継ぎます。」
「じゃあ初まりの頃から同じ魂が巡っていると?性交渉で子供が出来ないのですか?」
「彷徨う魂が無い限り、子は宿りません。」
「では、僕が歌を最後まで聞けば不死になると言うのは?」
「この島の植物や生き物として魂の円環に組み込まれるでしょう、もっとも、今日聞かせた一節以降は3000年前から歌われておりません」
「それは…何故ですか?」
 何かを思い出すように男は目を瞑ると目尻から透き通る涙が流れた。
「こうしてあなたに巡り会う為ですよ、至宝リブラ。ハウロミ島はあなたを歓迎します」
 は?


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