10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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 ピンクのミニスカナース姿のカルマを横に立たせ注射器を手にとった俺の目は、さぞ怪しく輝いただろう。
「はーい採血しまーす」
「さっさと血を差し出せ下郎が」
 朗報です!朗報ですよ皆さん! なんとこのリブラの元に新しいおもちゃが届きました。 最近ではゴブリン達もやたらと強くなりだして数の暴力でオークやらトロルやら大型の魔物まで狩りだす始末で何というか、なんだかなぁって思ってた反面、そろそろオーガと全面戦争か?なんて思ったりしていた矢先に人間が攻めてきたんですねぇ。
 しかも世界融合でこの世界に来た、まさに旬の果実が。 そりゃあもう麻痺させてスリープさせて拉致って来ましたよモチのロンで。
「……って感じです」
「ふーん、つまり仮想世界を体験出来るゲームとやらが、丸々世界融合でこっちに来たと…いいよ、はいガーゼ」
 つまりそういう事だ。 ってかズルくない?VRってやつ?俺がいた世界はオンラインゲームでいっぱいいっぱいだったな。 まぁ、それはどうでもいいが。
 この茶髪のオールバックの頭髪に大柄の筋肉質の体、拳に輝く一撃必殺と言わんばかりのナックルをはめた男の名は写楽。 ジーンズまではいいとして、裸にベストとかキチガイか。 まぁ、こいつが今回の騒動を起こしたグループ、所謂ギルドの長だって話しだ。
「それで…さっき言ってたチャプタークエストの話しだけど今なら落ち着いて話せるか?」
 どうもこいつらはカルマ達のせいで下を向いて震えたまま、ひたすら正座を貫き通して何も喋らない。 写楽って奴だけはしどろもどろにちょいちょい喋るんだが。
「あの…見えますか?これ?」
 写楽が表示してきたのはシステムウィンドウだ。 ゲームシステムを此方の世界の錬金術、魔素構築学の応用で再現されたものだろう。 俺のエニアグラムの構築数値化の下位交換に当たるものだと推測する。
「あぁ、見えるな。で?」
 写楽は唾を飲み込み小さく頷くと言葉を紡ぐ。
「我々ジェイルブレイカーの追跡者…いや、プレイヤーはイベントチャプターと呼ばれる物語の本筋を進めるクエストをこなして行くのを本懐とします。」
 まぁ、わかるわ。 オンラインゲームのそれだ。
「…そして、我々ギルド雷々亭は他のプレイヤーより早く、尚且つ少数精鋭でチャプタークエストをこなし、イベントチャプターを進める…所謂攻略型ギルドとして活動しております、踏まえて此方をご覧下さい。」
 中々流暢に喋りだすようになってきた。警戒心MAXよりは断然好ましい。
「えっとなになに?」

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 Chapter I アウリファナンティ神域の小さき王
 アウリファナンティ神域で勢力を拡大し続けるゴブリンを殲滅せよ。
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「え?」
 写楽は何故か申し訳無さそうに渋い顔をして俯く。
「どう言うわけかそう言う事なんです……」
 ふむふむふむ。 なるほど、そう言う事か。 ってなるかい!! どういう事??え?なんで?? ゴブリンだよ?最弱だよ? えぇぇぇ?????
 まぁいい。落ち着こう。とりあえず、マトメ。
 ゲームの世界から世界融合に巻き込まれた。 なんら変わらずゲームのままの能力を有していた。 何者かがシステムを利用してプレイヤー達を俺に差し向けた。 やっつけてやる。←イマココ。
「待て待て待て!!それはとりあえず置いておこう。答えが出そうにない。お前らは世界融合でゲーム…いや仮想世界から此方の世界に巻き込まれた、そこまではいい。死ぬ事への恐怖感とかは無かったのか?普通なら…怖いとか多少はあるだろう?自棄になったのか?」
 これは素直な疑問だ。 創作物とかでよく見かけるデスゲームと似たような概念だとしたら、こいつらは無謀すぎる。 クエストがゴブリンの討伐だとしても、マッピングで知る限り森は巨大な魔物や魔獣などが犇いているはずだ。
「それに関しましては我々プレイヤーは最後に登録したベースタウンで復活する事ができますので、あまり…いや、レベルダウンと言うペナルティはありますが」
「マジか。マジで言ってんのか。」
 イコール不死…いや、これは俺の使用する仮想体の上位交換ではないか? おそらく魔素構築仮想体の概念だろう。 レベルダウンと言うのは蓄積された魔素の拡散と再構築の為の対価…。 だが、何かしらの登録をしての復活と言うのはどういう事だ? いかにもゲームらしいと言えばゲームらしいが、ここでは理論さえ分かれば再現できる。 何か裏があるはずだ……。
「ワオーーーーーン!!」
「お?ライ、腹減ったか?ったく召喚獣の癖に大喰らいだなって、召喚?」
 ん?んんんん?登録した場所での復活??? そうか!!!そう言う事か!!! すごい!これはすごいぞ! チャリクス爺でも絶対爆笑する!いや、この理論を極地まで紐解けば世界融合を起こす事も可能になるかもしれない。
「ちょっと体調べてもいいか?」
「え?あっ、はい。」
 久しぶりに九芒星エニアグラムを開眼させて視る。
「やっぱりか…」
 面白い!面白いぞ!! 世界融合は簡単な話、世界の理への追記だ。 こいつらの身体は0と1で複雑に構築されながらも、生身の人間となんら変わらない機能を持っている。 しかも最初からこの世界に存在したとされる形で。 世界を繋ぎ、固定化させる。 こいつらは死ぬ度に、極小規模の世界融合を起こして復活するわけだ。
 セーブ、ロードの概念をレベルと言う対価を支払って起こす。
 このセーブと言うのが、一度こいつらの中でだけ意味のある…なんと言うか聖域的な場所だ。 そこで魔素構築を記憶してもらい、魔素構築仮想体の器を記録し複製してストックしてもらう。 そして、死ぬ事がトリガーとなり魔魂召喚にてロードする。 その聖域が世界融合の際に新たに追記された理だと推測される。 無人の管制術式だ。
 話しがややこしくなったので簡単にする。
 俺がこいつらの聖域になる事は簡単だ。 俺がこいつらの構築魔素を数値化してコピーペーストで器をつくってやり召喚体として保存する。 そして死んだ直後に胡散する魔素を器に入れてやるだけだ。 だが、ここまでの手順を無人で、しかも大陸全てで管制できる術式など今まで存在しなかった。 いや、制限がかかっていた、または存在する事が出来なかったはずだ。 だが、それが可能になった。 これは夢想の上位互換に当たるはずだ。 新しい世界との融合をして新しく世界に追記が行われる。 空気はもちろんだが、この世界には魔素、生命力、聖素等様々な理の源がある。 そして今回の世界融合では、新たな源が追記された。 魔素だけではそんな術式に耐えられるわけがないし、可能だとしても維持できない。
 そして、エニアグラムで視たから確証を得れたのだが、こいつらの身体から糸のような光が発せられている謎の源素を確認した。 机上の論理でしか無いが、この新しい源素は繋ぎとめる事に特化した何かではないかと考える。 電脳世界のラインを無理矢理この世界に繋ぐ事の出来る力。 こいつらは意思を持つが知らぬ間に操作される操り人形と言う所なのだろう。
 って事は。
「あのぉ、リブラさん???」
「えい!!」
 プチっとな!! 知らない力の流れなので、触れる事すら出来ないだろうと思ったが、かなり本気で魔素を込めると断ち切る事ができた。
「ひっ、ひぃぃぃぃ」
「マキちゃん…落ち着いて…写楽…死んでない…。」
 だけど写楽は気絶した。 だが、俺の理論が正しければ、管理下に無い状態の写楽が生まれた事になるだろう。 まぁ、起きなきゃわかんないけど。






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