異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第四十五話

 
 美紅が闇金の世界に落ちてきた理由の一つが男だ。
 あいつは田舎から上京してきて、服飾の専門学校に通っていた先で知り合った素行不良の同級生達と飲み会、合コン、ホストの体験巡りと酒漬けの毎日を送っていた中で知り合った男に入れ込んだ。
 そしてその男に自分を良く見せる為に町金に手を出し、高い化粧品、高級服、バッグ、靴、アクセサリーと買い漁り、挙句の果てには闇金に手を出した。
 その闇金が俺の会社だったってワケだが、俺はホストに騙されてる訳でも無い、ただ自分の彼氏に褒めてもらいたいが為にドツボにハマったこの女が不思議で仕方なかった。
 返済能力は勿論皆無、風俗に沈めるか、マカオか香港あたりの娼婦でもさせるかと回収方法で悩んでいる時に美紅はこんなコトを言い出した。
『そのゲームしたらお金くれます?』
 俺の為の支援職につく条件で家畜的な仕事を始めた美紅だったのだが、こいつは寝る間を惜しんでひたすらにゲームにのめり込んだ。
 そして、とんでもない事を口走った。
『ウチねぇ、社長のキャラと結婚したい』
『は?またなんで?』
『元カレみたいにいなくならないっしょ?ずっと守ってくれる、二次元最高』
 美紅が壊れた瞬間だった。
 まぁ、そんな懐かしい話はここまでにしておいてだな、美紅の攻略が可能かも知れないと考えたのは、俺があの頃の美紅が溺愛していたEROの中のサカエそのものに現在なっていると言う強みを生かしたいと思ったわけだ。
 流石にあの壊れようで考えると簡単な話ではないだろう、だが、しつこくあいつに声をかけては逃げてを繰り返す事によってなんらかの突破口は見えるかも知れない。
「てなワケで逝ってくる」
「うぉい!サカエ!!」
 ロイとアルストとシクラがほぼ同時に手を伸ばしてくるが放置だ。
 俺一人なら逃げれるだろうが、流石に現状美紅がどれだけの強さを秘めているのか力量がわからない以上、足手まといとしか言いようが無いだろう。
 ロッサの前に転移すると、龍化魔装とやらを解除した美紅がムスっとして待っていた。
「遅いよー、解けちゃったし」
 あの怖い姿には持続時間ありと、とりあえず有難い情報GETだな。
「すまんかった、てか美紅。物騒な話はやめてメシでも食わないか?」
 美紅は俺をジーっと見つめた後にプイとソッポを向く。
「ふん、今日は眠たいから無理、てかウチが捕まえたNPC返してよ!」
 敬語で喋らないでおこうと意識してるのが伝わるぎこちないタメ口だが、こうも簡単に話し合いができるとは思わなかった。
 逆に、あの龍化魔装が無いと戦闘は出来ないからしおらしくしているのか?
 それぐらいの強かさを美紅は持っているからな、十分にありえるだろう。
 しかしNPCねぇ。
「すまん、美紅。あれは俺が預かってるやつらなんだ、だから許してくれ」
「はは!!あんなのただのデータでしょ?だってここはEROの中の世界だよね?NPCじゃん!」
 そうやって割り切って今まで殺して実験台にしてきたんだろうな、けどそこまでしてコイツは何をしようとしてるんだ?
「じゃあ、そのNPCを実験台にしてお前は何を目指してるんだ?」
 美紅はニッコリと笑う。
「そんなの決まってんじゃん、みんなを生き返らせるんだよ!今はエナジーリアクトの再現を目指してる段階だけどね」
 イかれてやがる。
 そんな方法で生き返るはずが無いし、出来たとしてもそれはそいつに似たナニカでしか無いだろう。 降霊術師のジョブでもあれば話は変わるが。
「それで今降霊術師のレベルあげてるんだよねぇ…あっ、社長ならできるよね?」
「まぁ、可能だろうな」
 あれ?これもしかして俺優位になった?
 なんか美紅が瞳に涙浮かべてるんだが。
「お、お、お願い。ねぇ、お願いします!会わせて!みんなに会わせて!!社長!お願い!」
 突然の美紅の変わりように何か不気味さを感じる自分がいる。
 さっきまで殺そうとしていた相手に縋るコトなんてありえるだろうか?
 だって俺が千職師でなんでも出来るなんて事は名前よりも知られてる俺の代名詞みたいなモノだ、それを踏まえて考えると、美紅の態度の変わりようには気持ち悪い何かを感じてしまう。
 その違和感に任せて距離を空けると同時に俺が立っていた地面が円柱状にくり抜かれる。
「あはは!!なんでわかったの?」
 コイツむっちゃ泣かしたい。
「てかみんな死んだのは悲しいけど、もう30年前の話し正直どーでもいいんだよねぇ」
 次は的確に魔力発動を感じる。 一先ず退避。
 次は周囲一帯がくり抜かれるが今回は容易くかわすことができた。
「じゃあなんでNPCで実験をしているんだ?」
「そんなの決まってんじゃん、家畜殺す為の兵器開発だよ」
「そうか、なら何故俺に協力をあおがない?」
「はは、簡単じゃん!社長が黒眼龍のオーナーでしょ?なら殺して奪った方が強くなれるじゃん!」
『治癒師セット・時送治癒』
 美紅が術を発動すると同時に地面に光の円が広がるがそれをなんとか回避する。
 その円に巻き込まれた青年が突如老人となり次の瞬間には骨になり土へ帰っていく。
「ははは!!もういいじゃん社長!死んでよ!!」
 もう、キレていいよね?
「おい、ふざけんなよ?」
「え?」
『転移術師セット・幻影分身』
 1秒間にランダムに転移を500回以上繰り返し、実体に触れる事叶わずとした状況下で全500体が実体を持ち攻めたてる術だ。
『とりあえず泣かす』
 乳を揉み、ケツを揉み、服を破り、ケツを叩く。
「っ!?きゃあああ!!」
 この四パターンの攻撃を実に秒間500パターンで攻め立てる。
 瞬く間に全裸となった美紅は全身を赤く染め混乱状態に陥る。
 だが、それは次第に快楽へと誘われ淫乱状態へとゴホン。
 いや、間違ってしまった。
 幻影分身…この世界に来て初めて使ったが、これは駄目だ。 封印する他ない。
 軽いイタズラをして泣かすつもりしか無かったのだが、思考で少しでも考えた事は既に実行された後となるこのスキルは邪悪すぎる。
 俺が美紅にピーをピーさせてピーをピーにピーしてピーとピーをピーするなんてありえない。
 だがやってしまった。
 美紅はその場で涙を流しながら倒れこんだ。
 だが、宣言しよう。 やってしまった事に変わりはないのだから。

「ビクトリー」


「何が?」
 だが、そうは問屋が卸さないらしい。 俺の背後には五体満足の美紅が立っていらっしゃる。 確かに俺は服を引きちぎり全身をくまなくイジリーしてやったはずなんだがな、治癒師の能力で、こんな事が可能な能力は一つ。
「仮想手術か」
「そうだよ、応用だけどね。でもあんなエロい事されるのは予想外だったよ」
 即座に転移して距離を空けると、再び美紅が手を翳し一面が老朽化する。
「やっぱ簡単にはいかないかぁ、じゃあちょっと本気出してみよう」
「できればご遠慮願いたいけどな」
「遠慮しないでよ、ウチも家畜の三輪殺ってから奪ったのは良いけど使ってない能力余してたんだよね」
『真言術師セット・言霊』
「それはマズイだろ美紅ちゃんよ」
『結界師セット・遮音結界』
 とりあえず即席のドーム型結界に美紅を閉じ込め、更に距離を取る。
 真言術師は流石にマズイ。
 言葉が真理を介して力を持つ術で、対価として魔力の放出が際限なくなる為に時間制限有りであるが、それを除けば無敵の術だ。
 それに本当に美紅が言うように、家畜の三輪から奪った能力なのであれば、俺が糸田からなんらかのカタチで奪う事が出来た人形師の力同様、憶測でしかないが黒眼龍の加護でリミッターが外れたような状態の能力を美紅が持っていると考えるのが妥当だろ。
 ただでもややこしい真言術師のリミッターが外れるとどうなるのか? 考えるだけで危険すぎる。
『あはは!こんな結界意味ないよ?割れろ』
 結界は意味ない、割れろ。
 たった二つの言霊で大規模展開した遮音結界がパリンと音を立てて崩れ落ちる。
「ウチを拾ってくれたあの時の事は忘れません、とても感謝してます」
 昔の美紅の笑顔と、目の前の美人の笑顔が重なると同時に術式の発動に入る。
『真言術師・リアクト解放』
 威圧感半端ねぇー、これマズイわ。 マジで殺されちゃうかもしんない。
『我は我を再定義する 無尽蔵の魔力 破壊の権化 破滅の祝詞 それらを駆使する絶対的強者なり 』
 言霊を言い終えると美紅は龍化魔装と同じ姿になり全身を黒く染める。
『龍化魔装黒眼龍』
 次は美紅さん黒眼龍纏いやがりましたわ。
「だから死んでね…じゃあね、社長…」
「おっけい今回死んだわ」
 黒い球体が俺の全身を貫き、カンディルに身を喰われた魚のような肉片に変えて行く。
 美紅は容赦無いようだ。
「で?どうだった?」
 俺は今ホテルの自室で転移体がクソ味噌にされている姿を頭に映して唸りをあげていた。
 そこに話しかけて来たのはロイだ。
「駄目だ、普通に負けた。反則すぎるわアイツ」
「お前でも駄目か」
 まぁ、普通にやってたらね。
 偽物とは言え、黒眼龍の龍装じゃなく、龍化魔装なんてワケのわからん裏技出されたら素直に殺されるしかない。
 俺は転移術師のリアクト解放で前回ティアードロップの面々に施したような魔素構築体の幻影分身を操作し、自室から様子を見ていた。
 万が一殺されるやもしれない危険性に対しての保険だったのだが、心配しすぎで丁度良かったらしい。
 しかし甘かったな。 なんとか話し合いが出来ればアイツなら分かってくれるかと思ったが、どうにもそうはいかないようだ。
「くそ、やり辛いな」
 みんなの妹的な立ち位置で紅一点だった美紅と本気でやり合うのは、どうにもやり辛い。
 他の社員や幹部ならホテルごと粉々に吹き飛ばしてやれる自信があるんだがな、どうも相手が美紅だと、どうにかしてやりたくなる。
 てか今殺された魔素構築体の残滓で美紅見てるんだけど膝ついて号泣してるんだわ。 普通にしれっと俺殺して号泣するぐらいなら話し合いぐらいしろってんだよ。
 仕方ない、こうなったら潜入捜査でもしますか。
 だが一先ずは眠ろう、今は時間を置く事も必要だ。
「なんとかなんだろ、とりあえず寝るわ!みんなも寝ろ!」
 さぁ、美紅ちゃん。 俺を怒らせた落とし前はきっちりとってもらうぞ。


















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