異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第四十一話

 「今日はカモがいっぱいだね」
「あぁ、夏になると観光客が増えるからな」
「おねえちゃんさっきの女の子達やっつけれるかな?」
「あぁ、大丈夫だろ。シスカはイカサマをわざと暴露してロッサの娼婦になったんだから」
「そうだったね、おねえちゃんは無敵」
 マリアナ達と出会った幼女と背の高い青年は川の畔のベンチで身を寄せ合って街行く人々を見つめていた。
「なぁ、サナ」
「何?」
「お前いつから俺の事お兄ちゃんって言ってない?」
「じゃあどの名前で呼ばばいいの?」
「それもそうだったな。じゃあ本当の名前で呼んでくれよ」
「どっちの本当の名前?シヴァお兄ちゃん?それとも家畜の篤郎兄ちゃん?」
「家畜の篤郎はやめてほしいな…」
「だってずっとミクが言ってたじゃん」
 そう言うとサナと呼ばれた幼女は笑いながら背の高い赤毛の女に姿を変える。
「はぁ、こんなかわいいのにおねえちゃんのせいで娼婦に間違えられるから最悪だよ」
「足が長くて胸が大きくてサラサラの赤い髪に大きな灰色の瞳、うん、確かに俺の偉大なる妹シスカとまったく同じ特徴だ」
「おねえちゃんの方が足短いもんねぇだ!」
「けどお前は普段子供の時の姿だろが」
「だって楽なんだもん、みんなえっちぃ目で見てこないし」
「そらお前、シャツ一枚の変態いたらエロい目でみるだろ」
「ギリギリお尻見えないからセーフなの!!」
 また姿を幼女に戻し二人は談笑を始めるが、そこに一人の少女が近寄ってくる。
 栗色のゆるふわウェーブのかかったショートカットのおとなしそうなイメージに似つかわしくない涙のタトゥーを目尻に彫った、虹色の羽衣のようなワンピースを纏った女の子だ。
 背の高い青年シヴァと幼女サナは目線を合わせると互いに頷きあいサナは川沿いで大泣きを始める。
「どうしたの?大丈夫?」
 ワンピースの少女はサナに優しく声をかける。
「あのね、おねぇちゃんが売られちゃったの」
 マリアナの時と同じような問答が始まるかと思ったが少女は即答で答えた。
「何処に売られたの?助けてあげる!」
「えっ?でも、ろっさって所で」
「大丈夫!おねぇさん強いから!」
 流石にこの流れは予想して無かったのかシヴァは慌てて飛び出す。
「サナ!探したぞ!!」
 頭のおかしい奴は騙せない。 ここは一先ず退散だとサナをシヴァが抱き上げるが進行方向に少女は立ちはだかる。
「あなたがこの子のおねぇさんを売ったんですか?」
「え?いや、その」
「許せない!!」
 少女の体はその言葉に連動するように輝き始め、無数に宙に浮かぶ虹色のナイフを呼び起こす。
「どんなに辛くてもお金の為に姉妹の中を引き裂くなんてこのシクラールが許さない!!!」
「よく言ったぜシクラ!!よっしゃ!わたしたちの全属性付与の即死ナイフで逝ってこいクズ!!」
「よ、妖精!?」
「へへん!ほら蝶翅!!打ち合わせ通りに武装しろよ!!」
「ふぁい」
 赤髪トンボ翅の妖精がシクラに向かって叱咤すると更に輝きシクラは一昔前のセーラー服な美少女な戦士に変身する。
「や、やっぱりこの格好恥ずかしいよぉ」
「興醒めするんじゃぼけい!こちとら日頃お前が美味しいお菓子作ってくれるから協力してやってんだ!ちゃんと言えよ!!」
 赤髪がブチ切れると顔を真っ赤にしてスカートをおさえるシクラがポツポツと呟く。
「聞こえない!!おおきな声で!」
「つ、◯◯ピー◯◯ってピーーーーおしおきよ!!」
「よっしゃいこう!!それいい!それでいこう!!」
 その間に逃げようと試みるシヴァだがシクラがそれを許すわけがない。
 華麗に舞うような所作で手を動かすとシヴァの服は全て燃え尽きた。
「ひ、ひいぃぃぃ!!」
 股間を抑えるシヴァだが、シクラは冷たい瞳を浮かべながら距離を縮める。
「言ったよね?ボク・・は許さないって」
 それとほぼ同じタイミングで背の高い女と男が同時にフライング土下座を決め込む。
「嘘です!!全て嘘なんです!!」
「すんませんっしたぁぁぁ!!!」
 二人の突然の土下座と消えた小さな幼女と目の前の女性の特徴が酷似している事にシクラは更に混乱し、追撃の手を止める。
「そんなに強いなら言っておいて下さいよ…初めからこうしたのに」
 頭をあげたシヴァは目を開くと虹色の虹彩を光らせながらシクラを睨みつけた。
 だが、妖精達はそれをいち早く察知しており、術式の完全発動前にシヴァの目をくり抜いた。
「ぎぃやぁぁぁあああ!!!」
 くり抜かれた目を押さえながら悶える男に赤髪の妖精がツバを吐きつける。
「こいつ反省できてねぇな」
「ころしちゃうー?」
「でもサカエが泣いちゃうよー」
「そそ!さかえは妖精はいつまでもピュアな幼児だと思ってるんだってー」
「じゃあ死ぬ寸前ならあり?」
 妖精達がニヤリと笑った笑顔を見てサナは泣き叫ぶ。
「いやぁぁ!!!!」
 腰を抜かして失禁するサナの横でシヴァは全身を解体されていく。
「もうやめてあげようよ」
 シクラのその一言の後に妖精達が翅から粉を撒き散らすと、シヴァの傷は何一つ残らず消えていた。
「マリアナさん達をロッサに行かせたのはあなた達ですよね?彼女達はギリギリの所で保護できたんですが、今だにマリアナさん以外はおかしいままです。洗脳を解除しないと言うのであれば次は死んでもらいますけど、どうします?」
「ひっ、ひぃぃぃ!!解きます!解きます!解かせて下さい!!」
 蝶翅の妖精が身を縄に変え二人を拘束したまま歩くとオオエドの中で何処からでも見渡せる超高層ホテルであるロッサに辿り着く、そこには魔法学校の生徒達が集まり、マリアナ達を守るように囲んでいた。
「なんか変わりはあった?」
「大丈夫だよ、シクラさんも無事で良かった」
「服が破れてる子達はなにかあったの?」
「それも解決済み、水の女子がちょっかいかけられて連れてかれそうになったのを助けたみたい、全員無事に集まれたよ、サカエさん達は見つからなかったみたいだけど、で、その裸の人は誰?」
 アルストが視線をシクラの後方へ動かすと全裸で縛られたシヴァの姿がある。
「この人がマリアナちゃん達に変なことしたみたいなんだ、マリアナちゃんそうだよね?」
「は、はい。この人がいつの間にかアルスト君になってて……」
 シクラはシヴァを睨みつけるとシヴァは震えながら頷き目を開いた。
 すると風船が割れるような破裂音と共にマリアナ達土魔法の女生徒達は目を覚ました。
「あれ?みんないつの間に?」
 いまいち状況を理解出来ていない女生徒はまわりを見渡す。
 そこでシャンスが人混みを分けて前に出る。
「みんなこいつの変な術でおかしくなってたんだ!マリアナがアルストの集合の合図の花火を見て大泣きしてた所を火の男子が駆け付けて保護してくれたらしい」
 それを聞いてマリアナは記憶を辿るように頷き始める。
「そう、この人の目を見た瞬間からアルスト君にロッサに行けってお願いされた気がして、それで行かなきゃって、そしたら集合の花火が見えてどうしたらいいかわからなくなった」
「お前は一体なにをしたんだ?その目はなんなんだ?いや、それよりお前はなんなんだ?」
 シヴァはシャンスにされた質問を笑顔で返す。
「詐術の眼、実験no.218成功例、世界のNPCが持つ精神バランスが一定以上傾いた時にのみ効果を発揮する人造のマジックアイテムとクローンを融合させた魔法人造人間さ、そしてこいつが細胞変化、実験no.220、自身の細胞を自在に変化させる事に秀でた能力を持ちながら自我を保つコトに成功した傑作、俺たちはロッサの悪魔に造られた存在、そしてその実験用素材をここに連れてくる為だけに存在する木偶、こうして助けて貰わなければ生きていけないクズなんだ」
 その話を塞ぎこむようにサナは身を幼女に変え座り込み耳を塞いで涙を流す。
「いや、お兄ちゃんその話やめて!いやだよ!聞きたくない」
 それと同時にピンヒールのカツンコツンと地面を踏み抜く音がロッサのエントランスに響き渡る。
「へぇ、出来損ないが中々いい仕事するじゃあん!」
 ハイウエストのデニムにサイズの小さなブラトップを着た黒髪の美人。
 紅い紅の口元は妖艶なツヤを持ち、大きな瞳を隠す為にかけたサングラスは人を寄せ付けないオーラを放つ。
「魔法使いの子供かぁ、ゴミの癖にいいの拾ってくるじゃん!!」
『治癒師セット・広範囲高位治癒エリアハイヒール
 術の発動と共にアルスト達生徒は全員その場で眠ってしまう。 だが、シクラは妖精達がそれを防ぎなんとか眠気を堪える事に成功する。
「あれ?気持ち良くなかった?みんな寝ちゃったのになんでだろ?」
 頭に疑問符を浮かべる女の前でシヴァはシクラの手を握る。
「頼むよ、あいつを、ミクを殺してくれよ、あんた、強いんだろ」
 その眠気には耐えられずシヴァとサナも床に伏してしまう、そしてシクラは本能的に理解した。
 この女には勝てないと。
「うーん、で?どうする?殺してみる?」
 首を傾げながら可愛く話すがシクラは恐怖こそ覚えるが愛嬌なぞ感じる事は無い。
 ジリジリと後退を始めるとミクと呼ばれた黒髪の女はクスリと笑った。
 足元に転がる生徒の手帳を拾い上げてシクラに問いかける。
「ねぇ先生・・、可愛い生徒達は預かるからさっ、一つゲームをしようよ」
「ゲーム?」
「そう、簡単な話だよ。その妖精の加護を施した人物を一週間以内にここに連れて来て、そしたら生徒は返してあげる!多分プレイヤーだと思うんだよねぇ」
「わかった」
 シクラは踵を返し大粒の涙を流しながら逃げた。 何もできない弱い自分を呪いながら。
「なるべく早くねぇ!生意気言われたら殺しちゃうかもしんないからぁ!」


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