異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第三十九話

 こうして何の因果か留置場のような折に入れられるのだが、対面の牢に見知った人間の姿がある。
「あら?新入り?」
「あぁそうだ」
 リンダは白々しく話しかけてくるが守衛に勘繰られないように一芝居打つつもりなのだろうと空気を読んで返事をしておく。
「ふぅん、こっちはビルの窓突き破って住居物侵入と器物破損なんて罪状で連れてこられたんだけどそっちは?」
 確定であのビルの一件だろう、しかしこちらの無銭飲食に関しても窃盗と住居物侵入の罪状でここに連れてこられた事を考えると、この非合法イリーガルまみれの大都会は他のファンタジーな大陸に比べて法整備が整っているのかもしれないな。
 さっきのゴリパブでも警備が駆けつけるのが異常に早かったしな。
「ちょっと!?聞いてるの?」
「あぁ、すまんすまん。こっちはカジノでJACPOTなんか引いちまったから儲けた金でオッパブ行ったらガチのゴリラが出てきたから逃げたら無銭飲食だって言われちまったんだ」
「お金あるのに?」
「あぁ、ゴリラが絶対に許さないなんて言うもんだからな」
「ぶはっ」
 それが引鉄になったのか横のチビロイが爆笑し始める。
「何笑ってんだチビ」
「いや、サカエのあんちゃん号泣してたの思い出してさ」
 それに食いついたリンダも大笑いを始め、大人しく寝転んでいたロイの肩も揺れ始める。
 俺はあり得ない勘繰りを入れてロイの背中を見た後にチビロイを見つめるが溜息と共に思考を止める。
「アルスト達大丈夫かしらねぇ」
「大丈夫だろ、修学旅行の大人ほど邪魔なやつはいねぇからな。今頃楽しくギャンブル三昧だろ」
「そうだといいけどねぇ、でも荷物は全部サカエちゃんが持ってるんじゃないの?」
 あっ、忘れてた…………。
「流石にいるよな?」
「シクラはわたしはちゃんと寝れるように枕をもってきました!なんて言ってたわよ?」
 それはまずいな。 アルストやそこらの奴は雑魚寝しててもなんも思わんがシクラがそれはまずいだろう。
 今日の宿はここでいいかなんて、思っていたんだが、状況が変わったのでここから出よう。
『鍵師セット・開錠』
「ほれ、チビ助後ろ向け」
「チビ助じゃねぇってなんだよそれ!なんで枷がとれるんだよ!」
「そういう能力だからねぇとっつぁん」
「誰だよ!とっつぁんて誰だよ!」
 必死にチビが突っ込んでくるが、やかましいので放置しよう、とりあえずはシクラにマクラを届けなければいくらなんでもまずい。
 こんな事でヘソ曲げられてファルトムントに帰った時に飯抜きだけにとどまらず妖精達と遊ぶの禁止とかになったら俺はおかしくなっちゃう気がするからな。
 牢の鍵を開けて守衛を気絶させる、やれやれと言った具合にリンダとロイが立つが無視だ。
「おいあんちゃんあの人達いいのかよ」
「あぁ、あんな危ない奴らは捕まってたほうが国の為だ」
「ちょ!待てこら!!おい!!サカエ!!」
「アーノルドさん、お先っす!」
「ころぉぉぉす!!」
 リンダは目を光らせながら自力で牢をへしゃげてこじ開ける。
「初めからそうしとけよ」
「やかましいわよ!ケツにコケシ突っ込まれたいのかしら?」
 その後ろから眠たそうなロイが首を鳴らしながら外に出てチビロイを数秒見つめるがまた大きなアクビをする。
「とりあえずサカエ、そのJACPOT出した店連れてけ」
 ロイがにやりと悪い笑みを浮かべた。

 ♡♠︎♢♣︎

 その頃サカエ達を必死で探しているアルスト達だが、ハータルの運命の歯車は容赦無くアルストやその仲間達を巻き込んで行く。
 魔法学校は同じクラスであっても班が分かれる、それは魔法特性によって大きく分けられるのだが、火、風、水、土の四属性に大きく分かれ細かく分類すれば他にも多数の属性があるのだが、この四大属性は魔法使いの性格により特性が宿る事から伝統的に班分けなどに用いられている。
 熱く激情的な性格が多い火属性、自由きままな風属性、物静かでありながらも感情が豊かな水属性、そして大らかで大人しいながらも意思をはっきりと伝える者が多い土属性。
 必ずしも当てはまるわけでは無いが近いモノがある属性別に分けた人間性、その中でもアルスト達のクラスのマリアナと言う女生徒は土属性の性格を絵に書いたような女の子であった。
 時は少々巻き戻るのだが、土属性魔法使い、植物魔法を得意とするマリアナは土属性班の仲間と共にサカエ達を探しに行っていた。
「ねぇ、マリアナ。草木に聞いてみてよ」
「さっきも聞いたけどそれっぽい人は警備員に捕まったって言うばっかりだよ」
「うわぁ、パンツヒーローさんなにしたんだろ」
「どうせ誰か助けようとしてパンイチになって捕まったんじゃないの?」
「あははは!だとしたら爆笑だよね!ばくわらだよ!」
「ははは!!って誰か泣いてない?」
 四人の女生徒は談笑しながら歩いていると路地裏から小さな子供の泣き声が聞こえる事に気付く。
「女の子?だね?」
 路地裏を覗くと蹲りながら涙を流す小さな女の子の姿がある。 マリアナはすぐに駆け寄り横にしゃがみできるだけ視線を同じ高さにする。
「どうしたの?大丈夫?」
 慈愛に満ちた笑顔を浮かべるマリアナの声に幼女は鼻をすすりながら顔を上げる。
 くすんだ色の赤毛にグレーに近い蒼い瞳の幼女は数秒マリアナを見つめると小さく言葉を発した。
「おねぇちゃんを…たすけて」
 その一言にマリアナは長い栗色の髪を揺らしながら首を傾げる。
「おねぇさん?に何かあったの?」
 幼女は小さく頷くと数秒呼吸を整え、また小さな声で話し始める。
「お父さんが…おねぇちゃんを売ったの…ろっさってとこに」
 悲しみに満ちた赤毛の幼女の表情と衝撃の内容にマリアナは言葉を失った。
 なんとかしてあげたいと言う気持ちと、どうすることも出来ない自分の無力を呪う気持ちがせめぎ合いマリアナは下唇を噛む。
「ねぇマリー、行こう」
 そこで仲間の少女が助け舟を出してしまう、それはマリアナにとって助け舟であると同時に結論を出さなければならなくなってしまった瞬間でもあった。
 友人の言葉の通りにここを離れれば、無かった事に出来る、だがそれと同時にこの悲しみに満ちた幼女が壊れてしまうのでは無いかと心を締め付ける。
 ーーでも私にはそんな力ない。
 刹那の逡巡を終えてマリアナは血が滲み出る程に拳を握り閉めたまま踵を返そうとした時に肩を掴まれる。
 突然の事に体をビクっと震わせた後に振り向くと、そこには背の高い細身の男が目を細めながら微笑を浮かべていた。
「なんか用があったんじゃないのか?」
「は、離してください!!」
「離せないなぁ、こっちは娘が家の為にって勝手に身売りしてヤケ酒食らってるんだ、下の子はずっとこの調子だし…自分を呪っても呪ってもキリがないよ」
「それでも私には関係ない!!」
「あるんだよ、だってこの子の事を助けたいと思ったんだろう?」
「それは…」
「頼むよ……一つだけ助ける方法があるんだ……」
 掴んでいた肩から両手をマリアナの腕に滑らせながら最後に手を握りしめ膝をつき細目の男は涙を流す。
 何も出来ないよりは方法だけでも聞いてみようとマリアナは言葉を返す。
「どうしたら助けられるの?」
「マリアナ!」
「マリーやめようよ!帰ろうよ!」
「ほら!いこうよっ」
 それには土魔法班の女生徒達も必死に抗う。
 だが、誰も気付かなかった。
 既にマリアナは術中にハマってしまい逃げ道を失っていたことに。
「ロッサのフロアには大きな金魚鉢が一面に並んでるんだ…そこで娘は100番の番号をつけているんだ、あの子は言っていた、私は100番だって、嬉しくないねって、だから間違いないと思う、そこでロッサってホテルはね……」
 そこから男はロッサのシステムを簡単に話し始める。
 まずはフロアの金魚鉢の中で踊れる女はハータルの娼婦で上から100位以内の人気者や綺麗どころ、それと別に常時200人以上の女達が100位に入る為にロッサ直属のコールレディとして鎬を削っている。
 給料に決まりなどはないが、金魚鉢の女へのチップは最低500万と暗黙の了解があり、他の娼婦は時間2万計算が関の山だ。 一晩で億を稼ぎ出す事もある金魚鉢とただの娼婦ではそれほどまでに稼ぎが変わる。
 だが、それだけでは済まない。
 ハータルに広がる無数のカジノホテルの娼婦達はロッサドリームを夢見て日々男達と寝所を共にする。 その為実際の競争人口は果てなく、まるで満点の星空が光を失い唯一輝けるたった100席を争っているような状態なのだという。
 だが、その100席には簡単に綻びが生じる。
 それは身請けシステム。
 どこぞの富豪や他の大陸の貴族や王族などが天文学的な金銭を支払い遊女を身請けするシステムのおかげで不動の100人は起こり得ない、これが更に女達の競争心に油を注ぐ。
 その身請けシステムにただ金を払うだけでは納得がいかない場合、まさしくハータルらしく無傷で遊女を身請けできる方法が一つだけある。
「それが、己の全てを賭けたBJ、ギャンブルで決まってしまうんだよ、ブラックジャックみたいな子供のお遊びで」
「ちょっと、ちょっと待って!そのブラックジャックに私達が全てを賭けて娘さんを取り返すって事?」
 気の強そうなマリアナの友人が問いただすと男は無言で俯く。
「沈黙は肯定って事よね?」
 マリアナの問いにも沈黙で返すが、マリアナ達も沈黙で返すと男は涙を流しながら言葉を漏らす。
「すまない、気にしないでくれ。一目見た時君たちから不思議な光を感じたんだ、もしかしたらサナの涙を止めてくれる為に女神が使徒を遣わせてくれたのかと思う程に」
「おねぇちゃんを助けてくれないの?」
 足元で泣くのを我慢していたサナと呼ばれた赤毛の幼女は今にも涙を流しそうになっている。
「でも……」
 答えをだしかねていると男はその細い目をゆっくりと開く。
 その瞳の虹彩は透明で虹色に光るビー玉のようで放つ光は妖艶にマリアナ達の心を優しく包み込む。
「頼むよ、娘を助けてくれ」
「うん、わかったよアルスト君・・・・
「うん!任せてよ!」
「もうロビンったら仕方ないなぁ!!」
「お母さんが言うなら仕方ないよね」
 男はそのまま天上に光り輝くロッサのビルを指差す。
「あれがロッサだよ」
 マリアナ達はフラフラと吸い込まれるようにその方角へ歩き始める。
「また目つかったの?」
「ごめんよサナ、もう簡単に落ちそうだったからつい」
「ダメだよ、あの女に殺されるよ、バレないように詐欺しないと」
「あはは、ミクは俺には何も出来ないよ」
 背の高い男と背の高い・・・・赤毛の女は路地裏に消えていく。



















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