異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第三十二話

 虹色の草原で遊ぶ12人の子供達。
 それぞれに瞳や髪色に特徴を持つ子供達は羊に似た動物を追いかけたり六本足の白馬の尻尾にぶら下がったりと自由に遊び回っている。
 そしてじゃれあいの果てに子供達は当たり前のように龍の姿となり天高く昇り行く。
 大草原に人の姿のままに残る黄色い髪をお団子にまとめた白いワンピースの少女は仲間達に手を振りながら笑顔で見送ると背後から忍び寄る人影に気が付き小首を傾げて振り向く。
「お姉ちゃん誰?」
 振り向く先にはセーラー服を来た黒髪のポニーテールの少女が笑顔で頭を優しく撫でる。
松原朱理まつばらあかりよ、黄輝龍よね?」
「うん、黄色ー!!」
 その返事を聞いたと同時に松原朱理と名乗った黒髪の少女は胸の前で印を結ぶ。
『職能選択・創世巫女つくよみこ・存在改変・壱式・縛鎖』

 無色に近い形容し難い鎖が全身に絡みつき元の姿が見えない程に膨らむと硝子の割れるような音と共に少女そのものを掻き消す。
「あー、かったる。とりあえずこれで多元世界との境界は出来たか…ラッキー、後は地球みたいに月と太陽も作れるぐらい神威が残ってるな……はぁ後11匹か」
 幻想的な光が消え、虹色の草原は消え緑色の草原が広がる。
 黒髪の少女は一つ伸びをするとその場に寝転がり小さく溜息を吐く。
「こんな面倒くさい事なら引き受けなきゃ良かった」
 そしてふと松原朱理はこちらに目線を送る。
「へぇ、面白いね。さっきのおチビちゃんの残留思念と取りっぱぐれた神威複製してるのかな?未来から見るとかずるいねぇ」
 松原朱理はこちらに手をかざして何かをしようとするが首を傾げる。
「そっちは世界が完成してるんだね、って事はあのチビガキ共の力は全部回収できるんだー!!ちょっと安心した……ねぇ?そこで見てる君、あたしは地球で面白いゲーム作れてた?」
 そこで映画が途切れ、振り返ると監督は鼻血をダラダラに垂らしながら震えていた。
「おい、大丈夫か?」
「いや、大丈夫ですわ、ちょっと自分の存在を松原朱理さんに書き換えられそうになりましたけどね、なんとか逃げ切りましたよ」
「まぁ、ぶっちゃけ俺はめんどくさいからこの件に関して考えるのやめたけどな」
 なんとなくはわかるんだがな、なんとなくなんだ。 正直ご勘弁願いたい。
 俺はただでも忙しいと言うのに次から次へと…しかし松原朱理ってEROの開発のTOPだってのは知ってたんだが俺が雑誌で見たのはクソババアだったぞ? それが高校生ぐらいになると何とも言えない和風美人のかぶりつきたい御御足を持つメスになるもんだな。
 アルストからの又聞きだが、黒眼龍が言ってた偽神ってのが十中八九松原朱理だろ?
 けどな、この世界にいる限り日本の松原朱理をどうしようったってやり方がないだろう。
「サカエはん、意味わかったでしょ?」
「いやすまん、ガチで全くわからん」
「簡単な話ですよ、サカエはんの中にいてはる黒眼龍は十二神龍の中でも図抜けてます。黄輝龍たんでも壱式で為す術もなし、せやけど黒眼龍は六式まで全てかけられたにも関わらずわしやサカエはん、140を越える人間の魂を媒介に自身が創造した世界に帰って来た」
「まぁわかるが、たんはやめろ。きもいぞ」
「まぁ、それは置いときましてやな」
「置くな」
「黒眼龍はんを顕現させた暁に叶えられる願いで松原朱理はんを殺して貰いたいんです」
 監督のいつに無い真剣な表情に苛立ちを覚えるが、言いたい事はわからなくとも無い。 ただ、そんな事が可能だと思うか?
 いくら昔とはいえ神格を持つ十二もの龍が全員やられた相手にどう立ち向かうと言うのだ、それでまた封印されましたなんて笑えない話になるぐらいなら俺はテレビが欲しいんだがな。
 だが、これ以上ワケのわからない話で長引かせるよりは生返事にしろわかったと言っておこう。 ぶっちゃけこの夢幻世界、グニャグニャで気持ち悪いしな。
「っとまぁ、ここまでは他の十二神龍の話でしてな、肝心なんは黄輝龍たんなんですわ」
「たん言うな」
「わし、ぶっちゃけると現状神様むたいなもんですねん」
「無視すんなおい」
 無視に限界を感じたのか白々しく目線をずらした後に監督は話を続ける 。
「それででんな、どういうワケか、わしの夢幻世界で鎖ぐるっぐるで放置されてた黄輝龍たんを長年かけて解放しましてん」
 たんについては諦めよう、おそらくこいつのプライド的な何かがあるのだろう。
「で、呼びまっけど、フェリアたーん!!」
 監督が叫び声を上げると映画館の出口の扉から中学生ぐらいの小さな女の子が頭だけをニョキっと出す。
「呼んだ?」
 黄色い光が髪と目から溢れる美少女。
 呼ばれた事に不思議そうに小首を傾げる様子に俺の中の何かが壊れた。
「フェリアたーーーーん!!」
「きたーーー!!サカエはんわかる人でんな!!!」
 踏み込んじまったぜ……なんだこいつ、ゲキ萌えキュンキュンマルフォイじゃねぇか。
 可愛すぎるだろうが。
「おい監督、この天使はどうやったら助けてやれるんだ?」
「長年かかりましたが答えは簡単やったんですよ」
「俺が出来る事なら言ってくれ」
「サカエはんやないと出来まへんわ、EROで手に入れた黄輝龍の七装備、それをフェリアたんに渡せば顕現出来ます、サカエはん持ってはりますか?」
 勝った!!!
 勝ったぞ!!
 フェリアたんには悪いが黄輝龍は簡単に討伐出来るから何度も倒しに行った、俺のインベントリにストックがある………はず?
 え?
「なんでないんだ?」
「やっぱりでっか…青龍の七装備はありまっか?」
「あぁ、もちろん、俺は十二神龍全ての七装備を持って…無いだと?」
 おかしいぞ、確実にあるはずだ、何故ないんだ…。
「来た順番ですな、青龍はマサやんさんは当然として、黄龍の七装備は誰か持ってる人おりまへんの?って言うても一人しかおりまへんわな」
 黄輝龍の七装備。
 扇、煙管、着物、腰帯、簪、下駄、羽織、
 回復職補正特化の黄輝龍の七装備。
 花魁姿の紅一点。

「美紅だ」

 監督は深く溜息を吐く。

「えらいババ引きましたな、一番遠いでっせ、美紅はんはハータル大陸ですわ」



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