異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第二十九話



「よぉーし!糸田!!これは無しな!空に投げるから仕切り直そうぜ!!ってあれ?」
空を見上げるとマグマの巨大な球体が消えていた。
まさかこいつはそこまでの力があるとでも言うのか?
もしやさっきの火玉で俺は一瞬死んでいたとか?
いや、不死鳥の羽は減っていない。
何が起きた?
なぜ糸田は放心状態で固まってる?だ?
そして足元にアルストが倒れている事に気が付いた。
「おい!アルスト!おい!リンダ!何があったんだ!!」
「うーん、一番聞きたいのはわたしかもしれないわよぉ」
「お前糸田!!俺相手ならまだしもアルストに…アルストは関係ねぇだろうが!!」
「ひ、ひ、ひぃぃ!」
なんだこれ!!
なんだこの煮え切らない感じは!
なんで俺が何もする前にこいつは仕上がってるんだ。
ボコボコのぎったんばっこんしてからこうなるのが普通じゃないのか?
何が起きたと言うのだ……。
「よし、殴ろう。ちょうどいいや」
『拳闘士セット・昇拳』
ただのアッパーだが、とりあえずムカつくから殴っておこう。
「はい、ストップ、サカエさん」
どうせレベル1500だから首飛ばす勢いで殴ってやろうと思ったんだが、とっさに肩を掴まれて止められる。
「アルストか、お前大丈夫だったのか?」
「うん、流石に何回か存在消されかけたけどね。見ての通りだよ、あまり時間は経ってないみたいだね」
アルストが手を広げると、俺は目を疑った。
両肩に彫ったはずの鍵を咥えた狐と玉を咥えた狐の彫モノが全身に広がっていたのだ。
「お前どうしたんだそれ」
「うーん、今はそれより人形師さんをどうするかじゃない?」
「それもそうだな」
糸田に向き直るとただ震える廃人がそこに居るだけだった。
なにこれ?
「なぁ、何があったか聞いてもいいか?」
これは普通じゃないだろう。
レベル1500の人形師が肩で風切っていきり立ってたのに次の瞬間腑抜けになるなんてあり得ないだろう。
「えっと…」
そして事の顛末を聞いた。
俺が黒眼龍に乗っ取られた?それで糸田は力を奪われて腑抜けになった?
ふざけんな。こちとらイベント全部台無しにされて上手くいかん事だらけの落とし所がこいつだっただけに第三者の介入で丸く収まりましたってのはどうも腹ただしい。
テアトロもぞろぞろと集まってはくるが糸田の状態を見てただ沈黙を貫き通してる。
物語の勇者ならここでどうする?主役なら救いの手を差し伸べる?
あり得ないな。
こいつは俺に苛立ちを感じさせた。自分の国で楽しく生きていればドツボにハマる事は無かったのにな。
「お呼びじゃねぇよ黒眼龍」
やりようの無い怒りをぶつけるように腑抜けた糸田の顔面を蹴り上げる。
「ふぐぅぅぅ」
そこからもひたすらに無言で見守られる中ただ一方的な暴力を繰り返す。
「サカエちゃん、もういいじゃない」
「サカエさんそれだったらただのイジメじゃ」
「イジメじゃねぇよ、仕事してんだよ」
こいつはシクラの家族を奪ったんだぞ?関係の無いファルトムントの民間人を惨殺したんだぞ?それを腑抜けたから簡単に許す?
出来るわけがないだろう。
殴って許す?
ふざけるな。
始めからこの道筋は決まっていたんだ、ただ全て自分の意思で道を作りたかったと言うのはあるがな。
ここは冷徹に行かせてもらう。
「よし、糸田。俺が黒眼龍で良いからさ、お前インベントリの中身全部出せよ」
糸田はボコボコの顔を左右に振り拒否を示す。
「あれぇ?俺の目がおかしくなったのかな?お前に拒否権ないんだけど」
「ひぃ、ひいぃ!!殺せ!!殺してくれ!!いや!!サカエを殺せぇぇぇ!!!!」
はい、この馬鹿自棄起こしました。
一瞬躊躇った100体を越えるテアトロが宙に舞う。
俺が勝ちきっていたのならこうはならなかっただろう。錯乱しておかしくなられるとこういう事態も起きる。
こういう時は……。

魔法は威力高すぎ、武闘関係なら敵多すぎ、武器関係なら時間が無い。
「どうしよう?」
「ちょっとサカエちゃん馬鹿?馬鹿なの?」
「僕に任せて」
『花火師鍵屋・音鳴・轟雷』

悩んだその合間に突如雷鳴のような爆音が響き渡る。
「向こうが戦うって言うなら僕も手伝うよ」
『はん、ほざきやがるわ小僧が』
振り向くと全身を彩っていた鍵を咥えた巨大な狐がアルストの反魔素を喰らいながら顕現していた。
『いい仕事だな、千職の小僧。魂の篭った美しい姿だ』
「喋ってる暇ないよ鍵屋!サカエさんどけて!!!」
咄嗟の事に混乱しながらアルストの発動範囲から外れると狐が魔力を伝える道を作る。
『割玉・錦咲』
敵意を込めた花火は夜を照らす美しい花火とは打って変わり、テアトロの魔力を燃やし爆散させるド級の攻撃に変わる。
『花火師玉屋・八重芯』
次は肩に残る玉を咥えた狐を顕現させる。一回り小さな雌のキツネが細い目を開くと赤い瞳が敵を捕らえる。
『お父様の花火は派手なだけですわね』
『花火が派手でないとどうするのだ』
『では、美しさをご覧にいれましょう』
アルストが、八つの印を刻み魔力の球体を仕上げて行きそれを発動すると三段階に割れる美しい花火がテアトロ達の身を削りとる。

「お前さえ!お前さえいなければぁぁ!!」

完膚なきまでの花火芸に俺は正直見惚れていた。俺も花火師の職は持っているが、ここまで美しく完璧な花火を打てる自信は無い。ただのへっぽこのアルストが何故そこまでの力を?答えは簡単だろう。
花火にまつわる神をその身に宿し使役しているのだから。魔力の離散を促し爆散させる花火の防ぎ方は直撃の瞬間に自身の全魔力を何らかの術式の発動と共に使い切るぐらいしかないだろう。正直無理ゲーだ。
その花火のおぞましさと美しさに見惚れ、これこそが天性と言うのかと、虹色に輝く魔力を燃やす光に心奪われていると糸田が無数の金糸を張り巡らし俺の心臓を抉ろうと両手を広げて操作を始めた。
だが、辛い事に焦りは無い。
「いちいち技の規模がおかしくなってんのお前のせいだったんだな黒眼龍」
『聖騎士セット・雷槍サンダーランス
敵単体を雷の槍で貫くスキルを黒眼龍の理不尽な強さをイメージして発動すると糸田の四肢が簡単にもげて焼き焦げたダルマができあがる。
「ひぎゃあああああ!!!!」
「おい、回復薬使ってやるからアイテムボックスの中身全部出せ」
静かに糸田が頷くと無数のアイテムが一面に広がる。そしてその多くがこの世界でアーティファクトと呼ばれる課金アイテムばかりだ。
足元に転がるのは青い光る液体の入った小瓶。神の雫ゴッドエリクサーどんな状態異常でも一瞬で全回復する最高峰の回復薬が数点転がる。
それを焼け焦げた口元に一滴垂らす。
すると顔面が逆再生のように綺麗に修復される。
「お前こんだけの課金アイテムどうやって手に入れた」
「か、買いました」
「何処で買ったんだ?」
「………………。」
「言えよ、もう一回焼こうか?」
「い、言います。タカルダルド魔導国、高田の国です」
高田、よく話題に出てくるな。最後の家畜が最強の家畜か。
「なんであいつはこんなもん売れる程持ってんだ?」
「創世の錬金釜」
そう言う事か。
「そうか、ご苦労様。ゆっくり眠れ」
「や、やめてください!!サカエさん!サカエさん!!」
「喜べよ、お前は俺の人形の素体として使ってやるから」
葬儀屋アンダーテイカーセット・職能核化』
ブチっと音を立てて人形師の核を引き抜くと金糸に包まれた綺麗な宝石が手元に残り、糸田の肉体は力の抑え方が分からなくなり弾け飛び挽肉にかわる。
残されたテアトロがその様子に発狂し一斉に襲いかかってはくるが俺に届く間も無くアルストの花火に散って行く。
「もうお前らの時間は終わったんだよ」
糸田から引き抜いた核をつい・・力を入れて握り潰してしまうとテアトロ達も糸田同様にネギトロになった。
「ネギは無いがな」



コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品