異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第二十七話

 
「アルスト!!立てるか!!」
「大丈夫だよ!!」
 前回のテアトロ一匹とはまるで勝手が違う。
 いつかは来るとは思っていたがここまでとは予想できなかった。
「お前はいじめっ子達連れて逃げろ!!」
「でも!!」
「でもじゃねぇ!!ここで死なせたらイジメられっ子のままだろうが!!」
「くそ、分かったよ!!」
「お前今くそって言った分後で殴るから覚えとけよー!!」
「いいよ!!その代わり死なないでね!!」
「生意気言いやがる」
 だが、俺も簡単にやられるつもりはないからな。 まずはコイツからお見舞いしてやろうか。
『槍術士セット・武器ウェポン・赤龍槍』
『奥義・龍閃』
 期間限定イベントがEROで行われた時、今はマップから消えたが倭国と言う島国が出現した。
 そこは青龍と赤龍が守護する列島で、江戸時代の日本をイメージしたような地だった。
 これまたERO運営が都合よく大陸ごと転移させられたと言い切り助ける為には青龍と赤龍を討伐せねばならんと俺達は昼夜問わずに狩り続けたがイベントは進行しない。
 そして答えは東西に守護を分かつ青龍と赤龍を同時に討伐せねば倭国を元の世界に返せないと言う事が分かったのだ。
 そして俺は家畜と社員を二つに分け、青龍の討伐にマサが頭、赤龍の討伐に俺が頭で討伐に向かったのだ。
 そして苦戦したが討伐に成功し、龍の力を顕現させる龍技を身につける事が出来た。
 なんなら装備一式を変えたら赤龍になる事だって出来る。
 だが………。
『リアクト解放』
 一番使い勝手がいいのは龍閃だ。
『奥義・龍閃』
 エナジーポーションさえあれば何発でも大ダメージ・クリティカル・命中補正の龍の爪が敵を襲う。
 龍技を手に入れたプレイヤーが圧倒的に少ないのでどれだけの数値を算出しているのかはわからないが、テアトロを一撃で粉砕出来るのだからそれなりに優れているのはわかる。
 だがおかしい。
 さっきからテアトロ達は俺を避けているような気がする。
 あえて民間人を襲い操りまた襲うを繰り返している。
 逃げ惑う民間人を無残にも銀糸で刻んで行く様に目を細めてしまうが全てを救うのは無理だ。
 龍閃に巻き込まないようにコントロールに徹する。
「くそ、キリがねぇな」
 四方八方で縦横無尽に暴れるテアトロに手を焼きながら一体、また一体と刻んで行くが次第に囲まれ始める。
「千職師が形無しですね?」
 テアトロが銀糸を前回同様に俺に絡ませてくる?
 だが。
『人形師セット・逆繰り・リアクト解放』
 クソが!エナジーポーション飲み過ぎて体悪くしたらこいつらしばく。 いや、既にしばこうとしているがしばく。
 俺に絡ませようとしていた銀糸を逆手に取って相手のテアトロのコントロールを奪い、一気に地面に叩きつける。
 これで合計で10体は潰した、だがキリが無い。
 無惨にも刻まれて行く民間人、何も出来ない俺、出店と出店で挟まれた道で好きに暴れるテアトロ達。
 時間があれば……組み立てる時間があれば最低限を守り抜き敵を殲滅できたハズだ。
 くそッ。
 悔しさに奥歯を噛み締めたと同時に動きの鋭さが全く違うテアトロが地を抉りながら現れた。
『ふふ、見つけましたよサカエさん』
「糸田か?お前」
『声、はね?』
 普通のテアトロが紙飛行機ならこの個体はジェット機だ。 残像を残しながら飛び回り空中を蹴りながら滑空する。
 どう考えても他のテアトロと比べ物にならない。
 だが、こいつが糸田ではないのか?
 銀糸と槍が触れ合うとキンッと甲高い金属音が響き渡る。
「何処だ糸田!!」
 今のうちに糸田を倒さなければ勝つのは難しくなるだろう。 1500レベルの人形師なんて想像すら出来ない脅威だ。 ザコのテアトロでもボスレベル、この動きのいい奴は同じ個体だとしても物が違う。
 順当に考えればあの船に糸田がいるハズだが、遠い。
 飛んでいけるが到着するまでに一体どれだけの被害が出るかわからない。
 俺も全てを救おうなんてお人好しじゃないが、俺が原因ってのが頂けない。
「危ないわよ!!」
 一瞬の隙だった、背後からもう一体の動きの早いテアトロが殺しに来ていた。 だがそいつは宙に吹き飛び半死半生の状態でピクピクと動いている。
「あらぁん?サカエちゃぁん!手助けいるぅ?」
 なんてこったい、こんなに心強いオカマは初めてだ。
「リンダ頼む」
「ちょっとこいつら相手ならアーノルドな部分出さなきゃだけどね」
 リンダと背中合わせにテアトロ達と対峙する。
「サカエちゃん。変な詮索はしないわ!だけど点穴師の技使えるわよねぇ?」
「あぁ、一通りな。セットするから待ってくれ」
「ok、じゃあ連嚇れんかくは打てる?」
「打てるが相手は人形だぞ?」
「だからこそよ!ここからはわたし流になるけど、嚇孔でおどすのはあの人形繰りじゃなくて魔力を威すの」
「魔力を威す!?」
「見てて」
 空間を切り裂くテアトロが接近する様子が目に映る。 確かにこのスピードの相手と戦うのなら点穴師はベストかもしれない。
 魔力の波動で的確に相手の位置がわかるからな。
『連嚇』
 通常鳩尾に人差し指、そしてヘソと鳩尾の間の部分に小指を突き刺す連嚇。
 これはダメージの大小に関わらず神経に脅威を叩き込み戦闘不能にする技なのだが、リンダは小指を鳩尾に人差し指を腹に所謂逆手で突き刺し、瞬間的に魔力を流した。
 すると先程と同様に半死半生でビクビクと動くテアトロが転がる。
「殺せはしないけど動きは完全に止められるわ!わたしは魔力が拙いけどね」
「そうか、じゃあこれ持っとけ」
「え?サカエちゃんこれMPポーション?なんでこんな希少な物持ってんのよう」
「それですら希少か、まぁいい。その話は後だ」
「んもう、流石、千職師ね」
「それほどでもあるな」
「ちょっと!!今の認めたって事!?」
 全くオカマは良く喋りやがる。
「ほらボッとしてたらやられるぞ?」
「見えてるわよぉ、そんな事言いながら助けてくれるのねん、素敵だわ」
「黙れブス」
「ブスじゃねぇよ殺すぞ」
 しかし助かった。 殺さずに倒せるならそれに越した事は無い。
 だが問題は俺にレベル250までの人形師の知識しか無い事だ。
 本来であれば人形の使役は契約扱いになるのだが、強制的に契約解除が出来るのであれば、今の時間が丸々無駄になる。
 どうすればいい。
『ばぁぁ!!』
 四方八方から迫り来るテアトロに気を取られたと同時に金の仮面の格が違う何かが現れた。
 為す術もなく鼻頭を舐められると同時にそいつは姿を消す。
『弱くなりましたね、サカエさんっ』
 あぁ、なんだ。 これが糸田か……。
「ぷっちーん」
 あっれ?なんだこれ。
 こんなムカついた事最近あったかな。
 あぁ、シュカが来た時佐藤が言ってたのこういう事か。
 家畜の分際・・・・・でほざきやがったな?
「ふざけろよ」
「大真面目ですよ、今のサカエさんなら火玉ファイヤーボールで殺せる気がしますよ」
「やってみろよ」
 ちょっとまわり気にすんのやめた。 こいつ絶対殺す。
『滅龍士セット・至高なる御君へ贈る大虐殺ドラッヘ・メツェライ
 スキルの発動と共に糸田は大笑いを始める。
 そこから俺の心音はトクントクンと音を立て始めた。
「あはは!あははは!!流石ですよサカエさん!!それならいくら私でも殺せますよ!!大陸もろとも消し飛ばすなんて!!あはは」
 何言ってんだこいつ? このスキルは大型種単体大打撃スキルでって、なんだこれ?
 え?ヤバイヤバイヤバイヤバイ。
 なんか空一面マグマなんですけど。
 いや、違うって。
 確かにマグマの球体をぶつけるスキルだったけどこんな空一面マグマに変えるようなスキルじゃなかった。
「流石十二龍を殺した者のみに与えられる滅龍士ですねぇ!!」
 トクン。
「私はずっとあなたが妬ましかった」
 トクン。
「疎ましかった」
 トクントクン。
「羨ましかった」
 トクントクントクン。
「いつもいつも私達から奪うばかりで!!次はこんなやり方で300年の努力を奪うのですか?」
 トクントクントクントクン。
「許しませんよ、ヤミ金のクズのサカエぇぇぇ!!」
 糸田が一際大きな火玉を放った所で俺の意識は飛んだ。
 熱い何かに身体を奪われた感覚が走ると同時に視界が黒く染まった。





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