異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第十七話

  遠目にファルトムントの城を見渡せる丘の上に来ている。 と言っても城は豆粒程度だがな、今からする事を考えると何かと都合がいい抜群のスポットだ。 緑が茂る風が心地いい丘の上だがピクニックに来たわけじゃないってのはわかるだろ? 仮にピクニックだよ!なんて言っても信じて貰えなさそうだが、察しの通り仕掛け第二段の為に来た。
 あの後騒然としたネオスラムには兵隊がなだれ込んできて混乱状態になった。 俺は普通な見た目を利用して知らぬ存ぜぬでなんとか抜け出して来たってわけだが、ネオスラムのあちこちで強引な事情聴取、所持物検査、家宅捜索が行われていた。 やはり国の象徴である城の外壁に、王子殺しマースなんて書かれた上にご丁寧に元スラムの有名人の名前なんて書いてたら当然の対処かも知れないな。 そうなってくるとチェスの駒の下っ端のアジトを没収した愛しのマイハウスが心配になって来るわけだが一応妖精達の為に魔導具で簡易結界張ってるので大丈夫だろうとは思う。 一番はトンボ翅の子達が何かとんでもない事をやらかしそうな気がして心配なだけなんだけどな。
 閑話休題すまない、脱線した
「じゃあ始めようか」
 まずは恒例となるパンツ一丁だ。 綺麗に服を畳み、アイテムBOXから目当ての装備を選択する。
気候師クライメッターセット』
 胡坐を掻き雲を編み込んだ灰色の儀式服の袖から五指を出し胸元で合わせると不思議と体が揺れ始め大気の声が聞こえ始める。
『何を求む何を求む何を求む何を求む』
「雪だ」
『夏に雪はおらぬ夏に雪はおらぬ』
「雪だ」
『冬の国へ行け冬の国へ行け』
「雪だ」
『話しにならぬ話しにならぬ』
「魔法に劣るゴミが」
『…聞き捨てならぬ聞き捨てならぬ』
「ならば雪だ」
『よかろうならば雪だ』
「俺が求む雪を降らせろ」
『よかろう、お主が求む雪音、我が結晶として模ってくれる』
 準備完了だ。 交渉が面倒なのは欠点だが、EROではかなり幅広く使えた職の一つである。 神の恵みは勿論、軍略にも。
 ここで五指の先だけ合わせていた状態から一気に合掌へ変える。
『氷像の祭典』
 発動と同時にファルトムントは白く染まった。 季節はずれの大雪である。 そして思い描いた雪音はシクラの知る優しき父と最愛なる姉ラクシール、そしてサーカス団ティアードロップの団員達。
 今頃ファルトムント城は札幌旭川顔負けの氷のサーカスが始まっている頃だろう。
「さぁ、うまくいったかな?」
 俺の魔力を含んだ季節はずれの大雪を媒介に千里を見通す鏡、千里鏡を開く。 なんとかリンク成功だ、もしこの距離で千里鏡が届かなかったら作戦変更だった。
 鏡は薄く魔力光を放つと、城の広い庭が映し出され、そこにはまるで蘇ったかのようなティアードロップのメンバーの氷像が立ち並んでいた。
 前日の落書きで過敏に反応した王国サイドはただの悪戯と考えなかったようだな。 芸術家のスキルを使いながら書いたので身の危機を感じるような催眠効果は若干期待してはいたが、俺が考えていたのはあればいいな程度だ、これは異常すぎる。 厳重すぎる程の警備兵達は、この異常事態に恐慌し錯乱している。 白目を向くもの、天に祈る者、震え続ける者。 まるで肌に刺さる冷気が地獄の冷気のように感じているのかも知れない。
 いや、氷像を造り上げる程の雪だしな、寒いだけかも。
 猫獣人にビーストアップして可聴域拡大で声を聞いてもいいけど、本当に寒いだけだとしたら恥ずかしいからやめとく。
 当初は城に殴り込んでボコボコにしてやろうなんて考えてたんだけどな、いかんせん目立ったらあの投げナイフのちっちゃい爺に冒険者にさせられそうだから俺の素性は明かさない方針で行く。 心配しなくても今回の内容は死刑まっしぐらっぽいけど。 そう決めてからは早かったな。 まぁ、うまく行かなきゃまた別の方法でいけばいいって考えてるしな。 やってみなきゃ始まらないって事で。
「出て来いよ?テアトロ」
 空っぽの技能石を並べて仕上げに入る。
操り人形師パペッターセット』
魔導錬金術師マギアルケミストセット』
『繰り糸・連動・氷の胎児の心臓アイスゴーレムコア
『技能石媒介・ジョブセット』
『道化師・空中曲芸師・手品師・大道芸師・魔獣芸師・蛇使い・連動』
 相手が人形師だってんなら同じ土俵でやろうじゃないの。 ただこっちは千職師らしくやらせてもらうけどね。
 魔導錬金術師のアイスゴーレムコアの発動の時点で氷像は自律型のゴーレムになる、これを操り人形師の繰り糸と連動させる事によって俺の記憶思念を自己思考の一環として取り入れる事が可能になる。 意志は無いが知識はあると言う所謂、いきなり経験値MAX状態だ。 そして俺は先日シクラの中でティアードロップの素晴らしすぎる演目を幾度と見た。 そこで技能石を使ってのジョブセットだ、それぞれに見た神憑かる演目の技能を用意し俺の脳みそを媒介にアイスゴーレムにトレースする、そして何が起こるかと言うと。
 ティアードロップの復活だ。
「挨拶が終われば演目が始まる、さぁ、サーカスの時間だ」


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