異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第五話

 
 EROはアップデートの度にマップの拡張や新たなアイテムやイベントを企画する。 そして、今回大型アップデートの折には、TVCM用のムービーまで作成する手の込みようだ。
 プロモーションビデオの全編によると新たに発見された新大陸ウェステランドは龍と竜、龍人と竜人が東西に分かれ覇を唱える群雄割拠の戦乱時代を迎えており、一瞬の予断も許されない緊張状態にある。
 だがしかし、竜・龍人達は別の世界から転移事故に巻き込まれやってきた異世界の移民。 先住民である五色人達は隷従せざるを得ない状態に陥っていた、事態を重く見た ハータル大陸、スペルダル大陸、クラウベル大陸、ダイアール大陸の4大陸は始祖を共とする五色人を救わんとウェステランドに向かった。 エナジーリアクタを持つ先祖返り、古代種の君達はいかな冒険を望むか? 竜・龍と共に戦場を駆けるのか? 先住民を救うのか?
 それとも覇を唱えるのか?
 立ちはだかる数々の試練、そして幾度と刃を交えた黒き瞳を持つ黒眼龍はこの地に留まる事を決めた。
『また来たのか古代種共、我は不死、他のトカゲと同じに思うなよ?』
 このムービー見て決めたね。 うん、ぶっ殺す!って。 てか実際ウェステランド来てみたら黒眼龍が核兵器扱いで龍人と竜人が取り合い的な事をしている感じなのな。 EROってなんかある度に黒眼龍出して来るんだよな。 何回退けてやったかわからんわ。 なんか神々を喰らった太古の龍とかで、強さは他の上位種の龍や竜に比べると一歩劣る感じではあるけど、いかんせん死なないもんだから向こうが拗ねるのをただひたすら待つ的な苦行を強いられる。 こっちは装備やらアイテム湯水の如く消費してなにしてんのか分からん状態になるわけだけども、毎度塒にする場所にはすんばらしいアイテムが残されてるので俺みたいなプレイスタイルならおいしい。
 普通のレイドで倒したらドロップでやっぱり揉めるみたいだけどね。 最終的には現金で割る世知辛い状態になるとかならないとか。
 みんな家畜と従業員使えばいいのにって無理か。 ウチが特殊なだけだな。
「今回からチャプター関係無くいつでも挑戦できるみたいですね」
「あぁ、運営もそろそろ黒眼龍に見切りをつけたみたいだな」
「でも嬉しくないですね」
「だな、あんなもん好んで倒そうなんて思わんからな」
「えぇ、そんな人はサカエさんくらいです」
「おいマサ。馬鹿にしてる?」
「とんでもない、ただ黒眼龍の破壊部位6つ、黒眼龍のレアドロップ装備6つ、黒眼龍の隠し財宝6つ、あと一度の討伐で全種7つフルコンするのは全サーバーでサカエさんだけでしょ、オリジナルストーリー期待できそうですね」
「懐かしいなぁ、オリジナルストーリー…EROの運営は映画造りした方が儲けそうだよな、CG映画」
「あれ?知りません?EROのオリジナルストーリーのムービー編集は海外の某有名監督が手がけているんですよ?」
「え?そうなの?」
「はい、この前スマイル生放送の公式で言ってましたよ、儲けすぎたけど赤字に なったってね」
 それなら納得だ。 EROは隠しストーリー的な不可能に近い攻略をやらかした時にCGバッチバチの映画が流れる。 そして不覚にも高い確率で泣かされる。 自分達がしてきた冒険がリアルな描写で映し出されるのはかなり感情移入してしいまうのだ。 前回のオリジナルストーリーでマサが鼻水垂らして泣いていたのは流石に引いた が、始まりがマサがスラムで見つけた双子の兄弟を拾う所からの始まりだったので仕方無いだろう。 元気かな?あのNPC。
「さて、全員揃った所で行きますか、そろそろみんな来る頃だろ」
「ええ、やりましょう」
 そこで木田さんの怒号が響く。
「おらっ!!気合入れろ!!社長の為に死ぬのが仕事だぞ!!おら!!」
 家畜のボスである木田さんが家畜に渇を入れた所で画面にはド派手な装備をしたプレイヤー達が集まってくる。 うちの会社の幹部と社員達だ。 家畜達も全員出勤で90人キッチリと揃う。
「ちーっす!!」「お昼ぶりですねサカエさん!!」「あれ?社長また装備変えました?いいなぁ」
 いくつもの声が重なり合って何を言っているのかも良く分からないが全員揃った所でゲートに飛び込む。
 そして黒眼龍の前に立つと各々がエナジーポーションを飲む、すると名前の下にある緑のHPバーの下に赤いエナジーバーが全回復する形で表示される。
 これはエナジーゲージ、本来ならダメージを受けたりコンボを繋げて溜めるものなのだが、相手が黒眼龍となると1本10万Gのエナジーポーションをジャブジャブ使いながらじゃないと瞬殺される。 現金を払ってでもゴールドを集める理由の一つだ。
 エナジーゲージが満タンの状態からエナジーリアクトを開放すると、全機能30%UPの恩恵と共に特殊ムービー、スローモーションでのゾーン攻撃が開始され相手のターン封じが出来る。 ややこしい言い方だが、某有名RPG終わりの幻想世界の召喚的な感覚が大正解だ。 一先ずこのままエナジーリアクトの開放でチェインを繋げて行き黒眼龍の動きを封じた状態で特殊職殺人鬼を選択する、それとともに家畜をクリティカルで殺していく、特殊技能・殺人の効果は一人の殺害に対して五分間5%の攻撃力の上昇、武器を構えている味方を背後から惨殺するシュールな絵面の中で俺のアバターが金色に染まる。
 木田さんを沈めた所で攻撃力が450%上昇、そして美紅ちゃんが広域蘇生魔法で家畜達を一気に蘇らせる。
 そしてHP1の家畜達をさらに殺し900%上昇。
 さらに美紅ちゃんが家畜を生き返らせるが、上昇中の時計が終わりに近い。 ここでエナジーリアクトを開放する。
 カンストレベル250、全職カンストの加算攻撃力、かける事の9倍。
 結果。
 ウチの幹部社員連中のひっきりなしに続く攻撃で傷のエフェクトだらけの黒眼龍の首が転げ落ちた。 不死と言えどこれは辛いだろう。 だが俺のリアクトの解放は始まったばかりだ。 申し訳ないが、隅から隅まで切り刻んでしまおう。 そんな事をしてる間に回復した社員達が赤いオーラを出しながらリアクト開放で特攻してくる。 そしてここを好機と見たのか家畜達までもが生身で特攻し始めた。 これはもしかするともしかするんじゃないか? 殺すのは不可能な黒眼龍を殺してしまえるんじゃないか?
 興奮で鼓動が早まりクリックする手が震え始めた。
 そして、本来黒眼龍には用意されていないはずのテロップが流れた。

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 黒眼龍を討伐いたしました。
 オリジナルストーリーが開始されます。
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 喜ぶ間も無く直後リアルすぎる黒眼龍の瞳がPC画面一面に映し出された。 黒い瞳に更に濃い黒の縦スリットが入るおぞましい瞳だ。

『お前達か、まぁいいだろう。合格だ』
 直後、視界がホワイトアウトした。



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