だんます!!
第209話
1996年、齢10歳の若さにして灰原成吉と八鳥縫布たる二人の少年が、五島列島にて大海賊ウィリアム・キッドが隠したとされる歴史的価値のある金銀財宝を発見する。
彼らは、その資金を元手にゲームクリエイターを集めてゲーム会社ヌプバイオを設立。
コンシューマー媒体にてヒットシリーズとなるダンマスクエストを完成させる。
順調に企業成長させた後に、大手スクワットデラウェア、エニグマエックスを吸収合併しヌプエア・バイオックスとなる。
シリーズ最高傑作となる【ダンマスクエストⅦ】のウェアラブルデバイス対応のオンラインリメイクが発表されると、史上空前のメガヒットとなる。
プレイヤーの皆がオフ会と称して集まり、夜な夜な居酒屋にて酒を酌み交わしながらにレイドクエストをする程の熱狂ぶりである。
「あー、ダメだ。また武将系にやられた! 松岡君がMP管理クソだからだぞ!」
「難易度アビスだと信長無しだからな。八つ当たりするなクソガキが」
「クソガキィ?! こう見えても大学生なんだけどなっ!? ちくしょー! やっぱり遠海夫婦が来てくれなきゃキツイよなぁ」
「夫婦でレアのケットシー引くとかすげぇよな。どんな引きしてんだよ」
ルーターでWi-Fiを共有しながらにピコピコとゲームを楽しむ若い男達の元に、ジャケットを羽織ったドレス姿のキャバ嬢が訪れる。
「はーい松岡君、龍王! どう? 新イベきつそう?」
「おー、マーズたんか。他の奴らどした?」
「同伴で出勤した。セット抜けたら上がるって言ってたけどね。てか、なんでアキバなの? 新宿でよくない?」
「どうでもいいから早くログインしろ! 次は頭数揃えるぞ! ウェイツーにもメッセージしとかなきゃな!」
翻訳機能で中国のプレイヤーに応援要請を送るが、それを受け取る相手はゲームにログインどころじゃない。
黒孩子の少年は、富豪に拾われ裕福な生活を手に入れたが、富豪が韓国で保護した秋田犬の世話に忙しい毎日を送っているからだ。
「ほらワンコ! こっちを見てください! yo!pipeでみんなにワンコの可愛さを拡散しますよ!」
「わんっ!!」
いつまでもウェイツーからの返信が無いことにイラついた龍王は、他のメンバーにもメッセージを送る。
『今から2秒でアキバのワロワロに来い。来ないとPKしまくるからな。無理なら光速でログインしろボケ!』
それを受け取ったのは夜爪猫こと山下秀美である。
整形をして見目麗しくなった彼女であるが、それでも人前に出るのは苦手な彼女は大慌てでゲームのスイッチを入れる。
「あれ、Wi-Fiつながんない……どうしよう」
家の中をウロウロとしながらに、コートとニットを深くかぶっては意を決して家から飛び出す。
「あら秀美ちゃん、ほらこれ」
庭の手入れをしていた近所のおばちゃんがニッコリと笑って、ポケットのカイロを手渡してくる。
「お饅頭がよかった」
「ワガママ言わないの! 風邪ひかないようにね」
ウンと頷いた秀美は、龍王の逆鱗に触れないように駆け足でアキバを目指す。
以前の彼女では想像もできない姿である。
秀美が駆けつけた居酒屋のビルに辿り着くと、一階には小太りの男と釣り合いそうにもないギャルが腕を組んでエレベーターの到着を待っていた。
「おーう、秀美か。珍しいな」
「どーも秀美ちゃんっ! 夜爪さんの方がいいかなっ?」
「あ、ダイゴくん、茜ちゃん。いや、龍王さんが殺すぞって」
「あはは! あいつ何様だよ、まじで! きなことヒカルも先に来てるはずだぞ。今日は全力オバナ狩りらしい」
「うげっ、オバナですか。世界樹の枯葉取りにいかなきゃですね。庭師を誘導しなきゃだけど、あのNPC気難しいですし」
そのタイミングでエレベーターが到着し、乗り込んだ直後に密室が気まずいと言わんばかりにログインを始める秀美。
扉が開いた先には、既に見知った顔が数名待ち構えている。
「やっときた! ギルマスルーターないですよね? パス開けてるんで使ってください!」
「おー、クロにゃ! よかったよぉう。アウェイ感怖すぎたよぉ」
「秀美はなんでお前らだと砕けるんだろな」
黒髪の高校生ぐらいの少年を筆頭に、ギルドにゃんこ連盟の連中に囲まれて安心した秀美は、皆と共に龍王達の席へ討ち入る。
「おせーよ秀美!! さっさと準備しろ!!」
「ふぁいっ!!」
明らかに分不相応な恋心が見え隠れするが、見た目が幼い学生が隣の席をポンポンと叩くと、秀美は顔を赤らめながらにそそくさと座る。
「ぶわっは! クソ猫とラブコメしてんじゃねぇよ! よし! オバナ狩り行くぞ!」
その様子を見ながらに笑っているのは丸坊主で革ジャン姿のヤンキーのような輩である。
「ショーキ。ちょっとビール頼んどいて」
「自分で頼めやキモオタが!」
「え? シバくよ? 俺、こう見えても空手柔道黒帯よ?」
ガタイのいい体育会系の男が坊主に躙り寄るが、坊主も上等だと睨みつける。
「タロウもムキにならないでいいから! ビールなら私が頼んでおくから!」
「サラ! こいつは甘やかしちゃならねぇんだよ! 昔のノリで調子こきやがって」
「なにをぉぉ?! 」「やんのかオラァ!!」「やってやんよクソが! 外人の彼女いるだけで偉ぇつもりかコラァ!!」
「ちょ、ちょっと! リシン! 止めてよ!」
「無理です。極力関わりたくありませんし」
大型の居酒屋がダンマスクエストのプレイヤーでごった返す中、彼らはとある来客を見て言葉を失う。
一人はまるで物語の中から飛び出して来たような中東の王様のような男だ。
全身を金銀財宝で彩り、藍色の長い髪を一纏めにした美丈夫。
そのあまりの美しさに言葉を失い静寂が訪れ、その傍に立つちょんまげ頭に織田木瓜のジャージを着た男を見て爆笑の嵐が吹き荒れる。
「ぶわはははは!! 信長が! 信長のクオリティやばすぎる!!」
「こんな信長顔どうやって見つけてきたんだよ!! ぶわははは!」
言わずもがなにラビリと信長であるが、プレイヤー達は何も気付かずに撮影会まがいに盛り立てて、酒や料理を勧めたりする。
「なんか、みんな楽しそうだな」
「まぁ、しゃーないんじゃね? それとも、この世界もダンジョン化して無理やり思い出させる?」
「いや、やめておこう。それは違う気がする」
限りなく本物である、作られた現実。
そこで生きるかつての冒険者達は、姿形は違えど、そのまま面白い奴らのままに、この世界で楽しんでいた。
その現実は酷くラビリの心を抉った。
「なんか、しんどい」
「あはは、なにそれおもろ。でも良かったんじゃね? だんますが神になってたら、そんな気分も味わえなかったかもしんないしさ」
かつての冒険者達が盛り上がる中で、こっそりと抜け出したラビリと信長。
あのまま、なにも知らない彼らと居るのは、あまりにもキツかったのだろう。
雪が散らつく寒空の下、剣や魔法とは関わりの無い、リアルすぎる世界のビル群を見上げながらに、ラビリは白い息を吐き出した。
「つか、さすがにその格好寒いべ?」
「いや、ジャージも寒いだろ」
「うん。めった寒いけど、クロック◯が死ぬほど寒い」
「指先もげそうだもんな」
しょーもない話で笑いながらに歩き出した二人、あまりハッピーとも言えない結末に肩を落としそうになるが、それでも互いに弱みを見せまいと気丈に振る舞う。
「ハクメイとかモモカとか、リアースに残った連中は大事にしてやれよ?」
「勿論。それに、あいつらがゲームだと思ってログインしてくるアバターも大切にするよ」
「えー、それはいんじゃね? 」
「いーや、それはせめてもの、なんだ、感謝とかそんなアレだ」
「なんだそれ。まぁ、任せるけど」
そこでラビリは不良に肩をぶつけられる。
話に集中し過ぎて周りが見えていなかったのか、それとも精神が参ってしまっていたのか、普段ならあり得ないことだが、ラビリは肩をぶつけられたままによろめいて倒れてしまったのだ。
「おやおや、まぁまぁ、俺に挨拶なしとは冷たい話じゃねぇかよ」
「折角顔を出しやすいようにゲームを作ってやったのに、ひどい話でござるねぇ」
そこに立っていたのは赤い革ジャンを着込んだ金髪のロン毛野郎と、背の小さなサラリーマンであるが、ラビリは彼らが誰なのか直ぐに気がついた。
「バイオズラ……なのか? 」
「拙者には反応なしでござるか?!」
「いや、でも、お前らはもう……」
「いやいや、なんならゴブリン嗾ける所からやり直そうか?」
その言葉にラビリは目を見開き、信長も「おろ?」と首を傾げる。
「俺たちは変な世界に囚われたまま、ヤムラの旦那に食われちまったんだよ。世界丸ごとパックンチョってな具合にな」
「そしてヒタキ殿を外の世界に出す過程で二つの世界が重なって融合する事態になったでござる。これはヤバいと焦って分離」
「それで権能持ちはそっちに残して、俺たち冒険者は産まれる前からやり直しってことになったわけ。旦那に食われた奴らは記憶が残ったまま、そうじゃねぇ奴らは強引に巻き込んでやった。結構大変だったんだぜぇ?」
バイオズラが手を差し伸べて、強引に立たせた直後に、顎でラビリの背後を示すと、そこには冒険者の一同が勢揃いをしていた。
「まぁ、なんだ、ほら、ヤムラの旦那に色々聞いたけどよ? 仲間なんだし、また一からでも楽しくやりゃいいじゃねぇか」
バイオズラが合図と言わんばかりに親指を立てると、冒険者一同はせーのっ!と声を合わせる。
『おかえりっ!だんます!!』
                    〜fin〜
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コメント
慈桜
ありがとうございます!!
読了していただき感謝の限りでございます✌︎('ω')✌︎