だんます!!

慈桜

第205話

 
「まず、この大陸の中心五大国はね、このヒタキちゃんの為に作られた夢幻世界がベースになっていて、沿岸部に小規模の世界が繋げられている形なの」

「ああ、それはわかってる。一通り見て来たからな。ただ、魔族や他のラディアル系列の存在世界に対して、この五大国が一人の為に作られた世界ってのは規模が大き過ぎないか?」

「そう、だからコレを見て欲しい」

 空中に映し出された映像には、プラモンで遊ぶ悪ガキ五人衆とヒタキの姿がある。

 プラモンを連れている冒険者に襲いかかり、リンチの様相で従魔を奪いとる悍ましいガキの姿に流石のヤムラも苦笑いである。

「マスターはね、従魔術の弟子の選定
 に、ゲームとしてプライズモンスターを提案したんだけど、予想外にも子供達が五柱五天を集める一歩手前にまで辿り着いちゃったから、弟子探しはやめて子供達を監視対象にしたまま放置していたの」

「五柱五天をただの人間に預けてたのか? しかもこんなガキに?」

「ある意味偽物だけどね。対象の魔物を創造して、それのみに従魔術が使える仮初めの五柱五天、だけど冒険者を怒らせて子供に被害が出るのは良くないから、監視ついでにマスターの本物の五柱五天に守護させていたの」

 そして早送りのままに流れる悪ガキ達の映像はカルラに呆気なく殺されるところまで進む。

「あらあら容赦ないのね、このメスガキちゃん」

「カルラがここまでの事をするのは想定外だったけど、手は打っておいたから心配は無かったの。だけど予想外の事が起こった」

 そこで閻魔の登場である。
 ヤムラとレイセンは無意識に奥歯を噛み締め、ギリッと醜い音を立てるが、コアはそのまま話を続ける。

「マスターが作った五柱五天は主人を失ったのにヒタキに従う道を選んだ。それに目をつけた閻魔が彼女を夢幻に捕らえてしまったの。私は慌てて干渉したけど、ヒタキと五人の僅かな残滓は持っていかれてしまった」

 秋葉原の裏路地で姿を掻き消すヒタキと五人の亡骸。

『楽しみにしているよ。ヤムラ君の最高の駒が離脱しているのはつまらないからね』

 閻魔の捨て台詞と共に悔しがるグレイルの姿だけが映し出されている。

「あのジジイはどんだけ俺が好きなんだよ」

「ね。それで夢幻がなんなのか全くわかっていなかったから、なんとか干渉しようにも遮断されてしまってから、独自に調べてはいたんだけど、何もわからず終いだったけど、糸口が見えたの」

 そこからはメイファーの視界が映し出され、夢幻のなんたるかが少しずつ解き明かされていく。

「無数の扉、これがメイファー達が言っていたやつか」

「差し詰め夢幻回廊とでも言った所かな? この一つ一つに閻魔が閉ざした者達の世界があるの、いや、あった・・・と言うべきかな」

 回廊の頂点に座す三つの扉を見た所で、日頃冷静沈着な閻魔が執拗なまでにメイファーを追いかけまわす様を見て、それが特別な夢幻である事は簡単に見てとれる。

「そして、この回廊へは行けなくなり、同じ手法で渡ればこの世界に繋がるのがわかったの」

「つまり、この回廊が閻魔を倒す鍵になると」

 そこまではヤムラも予想している。
 そして、クロエやセイラのみならず、グランアースで閻魔に殺された、もしくは消された者達の存在も、その扉が鍵になっているのは容易に想像できる。

 ヤムラはコアが自らの手でそれらの存在を消そうとしていると勘ぐっていたのだが、この夢幻の解析に注力していたので勘違いだと切り捨てていた。

 ヤムラが言う『アテが外れた』とは、まさにコレを指していたからだ。

 しかしコアはやはり全てを把握していた。
 その事実にヤムラは微かながらに目を細める。

「なんとか此処に潜り込めたのはいいけど、私が過度に干渉したせいで、ヒタキはおかしな状態でこの世界に固定されていたの」

「おかしな状態?」

「そう、自分のラディアルを分けて、他の子供達のラディアル残滓を増幅させた。もっと簡単に言えば、記憶を分けていると言うか……」

「よくわからんが、ざっくり言えば存在を六等分したって感じか? だとしても別に問題ないだろう。冒険者でもあるまいし、偽物の五柱五天とガキが何匹死のうが何の問題もない。この世界と共に消えてもらうしかないんじゃないか?」

 コアはそこでブンブンと左右に顔を振り、ヤムラの言葉を否定すると、別の映像を映し出す。

 そこには五人の美女と五体の魔物、そして異様な気を放つ守護の臣達が南国のビーチでバカンスを楽しむ姿が映し出されており、何故か冒険者の時田が揉み手で彼女達のご機嫌を伺いながらに面倒を見ている様が見てとれる。

「あれ? なんで五柱五天がバカンスを? え? 術者がいないのにこいつらが自由に顕現してるってどんな悪夢?」

「うわー……こんなビーチ絶対嫌だわぁ。罰ゲームじゃねぇか」

 それにはレイセンもドン引きである。
 本来従魔術師が一子相伝で受け継ぐ原初の魔物が野に放たれている絵面は、奴らの極悪さを知っている者達からすれば地獄絵図でしかないのだ。

「話せばややこしいんだけどね、マスターの宝玉から五柱五天を抜き出して、五人の子供達それぞれに忍ばせていたんだけど、カルラに殺されたと同時に存在、いや魂核の方がヤムラはわかりやすいかな? それを抜き出して回収したんだけど、五柱と五天で奪い合いになって、僅かな残滓は残ってしまったの」

「ほーん、それで?」

「そして偽物の五柱五天は本物の五柱五天の残滓から作られた存在でね、閻魔に閉ざされた事で因果が出来ちゃったの」

「よくわからん。もっとわかりやすく」

 本当は既に理解しているのだろう。
 ヤムラは大粒の脂汗を浮かべながらに無理矢理笑みを浮かべて続きを促す。

「つまり子供達の魂を所持したまま、その魂のカケラと五天五柱の存在のカケラを夢幻に囚われているから、二つの世界式に因果ができるでしょ? 」

 ━━
 ラビリの世界式┓
 本物の五柱五天・五人組の魂の大部分

 閻魔の夢幻┓
 五柱五天の残滓・五人組の魂の残滓

 本物の五柱五天の顕現は五人組の魂を利用して行っている。

 五柱五天の残滓、つまり創造物の五柱五天の忠誠はヒタキへ
 ヒタキは夢幻にいるので閻魔の支配下にある。
 ━━

 この図がわかりやすく絵で纏められているが、それが意図するのは何か。

「いまは絶妙なバランスを保ってる状態。だからヒタキを連れ出さないと、五柱五天が自由になっちゃうの」

「それは最悪だな。だが、別に滅ぼした後にあいつらが暴れたとしても手順を以ってして降せば問題ないだろ?」

「律儀にタイマンで戦ってくれるならね。でも最悪な事に、マスターはヒタキの姉のツグミを弟子として認めたから、今は従魔術の選定期間。五天五柱のマスターへの忠誠は外れて、見定める段階にあるの。一応は協力者って立ち位置で納得してくれてるけどね」

「あー、ログでもあったわ、その記憶。確かにそんな状態じゃ、あの極悪ビーチに突っ込もうとは思えんな。暁にでもなられたら手に負えんし」

 そこでコアはうんと頷き、夢幻に囚われた冒険者の限定チャットを開き、それをヤムラとレイセンに見せていく。

「舞台装置の国や人は邪魔だから、それらを消すように誘導してる。みんなに協力して貰って地球と夢幻を紐付けしたのは、ヒタキを連れ出す時に必要だから。でも、それをするには、この夢幻をもっとグチャグチャにしないといけないから、時間がいるの」

「容量的なアレね。そして、それを聞かされた俺はラディアルの温存を狙って他の大陸なんかも滅ぼしに行くってのも計算のうち?」

「それをされたら困るから時間を止めてヤムラの干渉を防いだ。停止世界に干渉できる存在なら、早送りを通常時間で過ごせない。万能すぎるが故に冒険者達と同じ時間軸にいられないから、捕まえておける」

 ヤムラはコアの言葉にムッとしながらに鼻から息を吐き出す。

 コアの計画を実行すれば、惑星規模のルーン世界をラディアル世界化させることになるので、相当量のラディアルが失われてしまう。

 それはミスリリアムのゼント神域やカグツ湖をルーン世界からラディアル世界化し、迷宮にして留める規模とは比べ物にならない。

 それを行ってしまえば、フェリアース、レィゼリンから得た多量のラディアルすらも尽きかねない暴挙である。

「そうか、お前はグランアースのみんなを消すんじゃなく、顕現できないように手を打ったのか」

「人聞きが悪いよ。私はマスターが私を必要とする世界が好きなの。マスターの弱い部分はヤムラが持って行った。だからヤムラは私を捨てたんだよね? 私は永久にマスターといられればそれでいい」

「言いたい事はそれだけか? お前がなんと言おうとも、俺はこの世界を喰らい尽くしてやる。必要なピースだけ残して全てだ。グランアースのみんなを取り戻せるかもしれんチャンスをみすみす逃すわけにはいかんからな」

『いつまで諦めた過去にしがみついているのですか? あなたは自らを自律型のアバターとして存在を隔離して封印した。そのあなたが私とマスターの不利益になる行動を起こすのは看過できません』

「嘘をつく時は事務的コアちゃんに徹するのか? 安心しろ、これはお前らの不利益になるとは思っていないからな」

 ヤムラは両眼に時司瞳を宿し、停止世界を叩き潰して姿を消した。

 レイセンはピューと下手くそな口笛でヤムラの熱さを茶化すと、血が滲む瞳をゴシゴシと擦りながらにコアへ歩み寄る。

「作戦お見事だなコアちゃんよ」

「心配になるぐらい単純だよ。もうかなり状況が動いてるからラストスパートで唆したけど、ヤムラが本気を出したらどれぐらいの速さでこの夢幻のルーンを食べ尽くすか読めなかったから、大幅に余裕を持たせた」

「もっと余裕持っても良かったんじゃねぇか? あいつ本気出したらマジでキモいぐらい強いぞ」

「大魔王降臨だね」

「そんな可愛いもんじゃねぇよ」

 全てコアの計画通りである。
 五大国間の戦争により冒険者がこの世界のルーンを無自覚に取り込んで能力値を上昇させている事も、ヤムラの足止めをしてフラストレーションを高めた事も、メイファーが【喰】の魔眼を開眼させた事も、この夢幻で起こる事象の全てがコアの描いた通りになっている。

「後は五大国の王様ちゃん達を説得するだけ」

「さてさて、それでは暇になった俺は何をすれば?」

「じゃあレイセンはグランアースの式をこっちの式に重ねて」

「お断りしま「だよね、知ってる」」

 食い気味に話を遮られたレイセンは目の前から消えるコアを見届けて、グースカと眠るメイファーの頬を脚の先でプニプニと押す。

「ん……あれ、寝てた」

「すげぇな。体感0コンマの世界でよく寝れたな」

「ちょっとだけはわかるよ。時間がとまってから、ちょっとだけわかってたもん」

「そっか。でも、なんでお前って時のルーン使えるんだろうな」

 興味本位にメイファーを調べてみようと手を伸ばすが、そこからメイファーの姿も消えてしまう。
 気配を感じた方に振り向くと、翼を広げた金髪碧眼の幼女がメイファーの首根っこを掴んだままにあっかんべーをしている。

「お忘れ物かな?」

「物じゃないよー! もうレイセンは向こうに帰っていいからねっ!」

「言われんでもヤムラに巻き込まれる前に消えますよってに」

 つまらんと呟きながらに転移したレイセンは、再びジャイロとジンジャーのいるボロ屋へと戻っていた。

 ヤムラを探しに行ったのにコアに良いように使われただけでドッと疲れたのだろう。
 テーブルの上のオレンジジュースをガブ飲みすると、ソファに仰向けで倒れこむ。

「早かったじゃないさ」

「早くねぇよ。何ヶげ、じゃなくてなんか原因不明の嵐に見舞われちゃってぇ、俺のモコモコがびしょびしょよ、びしょびしょぉー」

 時に干渉している云々の話はできないレイセンは即座に話の腰を折るが、ジャイロからして一瞬であったとしても、向こうの世界では二ヶ月以上は停止世界の中で過ごしてきたのだ。

 精神的疲労からボヤきたくなる気持ちもわからないでもない。

「で、ヤムラはいないのかい?」

「あぁ、なんか忙しいみたい。こっちはどんな感じ?」

「ジンジャーが目を覚ましたぐらいで特に変わりはないよ」

「そか、んじゃま大富豪でもすっか」

 ジャイロは何か言いたげにレイセンを睨むが、彼はその視線を手で振り払う。

「コアはここで待ってりゃくるよ。むしろそれが最短だ」

「そうかい。ならカード遊びでもしてやらんことはないよ」

「生意気だなぁ、メアリーのくせに」

「さっきバックれた支払い分キッチリ追い込んでやろうか?」

「もうー、なにさぁ、メアリーたぁん。 怖い顔しないでよぉん」








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