だんます!!

慈桜

第195話

 
 さーさーさーさー、ヤムラでおまっ!

 そんなこんなで夢幻っぽい世界に無事乱入できましてござっ!

 こちとら色々と調べたい……と言うよりは知っておきたいことがおましてござる。

 その為にどうしてもコアが必要であるのに、あいつは何かを隠したいのか逃げ回りやがっている件。

「みぃぃつけたぁぁぁぁって誰やねんお前」

「え、えと、すいません」

 完璧に存在を消しているが、俺にしかわからない直感でジリジリ追い詰めて
 観念するのを待っているんだが、替え玉まで用意して逃げる力の入れようだ。

「クソが!」

「はいっ! 糞してすいません!」

 野糞してるヒゲモジャ狩人を替え玉にするとか女の子としてどうなの? 

「コアー! 逃げても無駄だぞぉー!」

 元はと言えば俺の長いループ人生の中で、何度も同じ雑魚ダンジョンマスターをぶっ殺して奪ったコアであるので、あいつと俺の間には多少なりと因果関係が生じている。

 俺にしかわからない感覚であるが、求めると謎センサーが働く。
 直感とも言えるのかな? よくわからんが、なんとなく居場所がわかるのだ。

 ラビリのように同一存在の違和感で直ぐに気付くのとは違う、そこに存在する筈がないと理解させられる度に、そこにいるのだと確信が持てる。

「逃げれば逃げるほど輪郭がはっきりしてくるぞぉ」

『気持ち悪いですよ明路八村、降参です。要求をどうぞ』

 後ちょっとで捕まえられるタイミングで、脳内にコアの声が響く。
 やはり女の子は追いかけられるのは好きでも追いかけ回されるのは苦手なようである。
 クロエとセイラの声を違和感なく合わせたような最悪で最高なボイスが脳内に響き渡った所でサッサと調べて任務完了。

「知りたいことは知れたから、後はお前の好きにしていいぞ」

『私から何を調べたのですか?』

「うーん、お子ちゃまには言えないあんな事やそんな事?」

『疑問に疑問を返さないで下さい』

 鬼の変態ストーキングに少し不機嫌そうなので、ゴチャゴチャ言い出す前にここらでドロン致します。

『ま、待ってください! 待って!』

 後ろ髪引かれる思いって言うのはこのことか。
 コアを俺の中から無理矢理追い出し、背中に投げかけられる声に立ち止まりたくなる。
 脳に直接響く声も素晴らしいが、やはり空気の振動で聞くのもリアリティが抜群で良き。

「だが断りもす。お前とイチャイチャしてたらラビリが拗ねるからな」

「ちがう! うんこ踏んでるよヤムラ!」

「え? あぁ! うぉぉぉ!! クソがあのヒゲモジャぁぁぁああ!!」

 オキニのスーパース◯ーが糞まみれだ……。

 コアを捕まえたと思って頭を鷲掴みにした時にストンピングしちまったんだろうな。
 ビチグソと落ち葉が混ざって土感満載で全く気付かんかった。
 俺の名誉の為にコアを追いかけるのに必死で気が回らなかったと言い訳しておこう。
 最悪だ、ダサい泣きたい。

「………………。」

「………………。」

 微妙な空気、無言、居た堪れない視線、泣きたい俺、間が辛い。

「夢幻は完全ルーン構成世界だから、靴の創造するならラディアルからになるよ」

「……作ってもらっていいかな?」

「……ちょっと待ってね」

 凄まじく恥ずかしい時間であるが、ウンコさんに触らないようになんとか靴を履き替えて、仕切り直しである。

 俺がコアを捕まえてまで何を知りたかったのか、それはコアが何処まで夢幻について解析したのか、そして此処とは違う夢幻に行く方法を見つけているかどうか、ついでにコアが何を企んでいるのかである。

 夢幻の解析については駄目駄目だった。

 閻魔にバレないように好き勝手する為に極振りしてる状態で、夢幻のなんたるかを調べようとはしてない。

 そして他の夢幻に行く方法も勿論わかっていない。

 コレが本当の狙いかもしれないと勘繰っていたが、どうにも違うようだ。

 コアは単純に冒険者にこの世界の住人を駆逐させて、その力の全てを奪い取ろうとしているだけ。

 力を奪い取っても夢幻の中にいる限りは閻魔の弱体化にも繋がらないから偽装を怠らなければバレるリスクは低い。
 全てが終われば俺たちが架けた橋からドロンすれば一気に弱らせられる。

 単純明快で実にシンプルでわかりやすい。
 ダンジョンバトルに全力を尽くす、ダンジョンコアの鏡のような献身ぶりに感服致しますの一言だ。

「一安心の反面アテが外れた」

 独り言を漏らし出してしまう程に普通すぎて愕然とした。

 おかげで調べごとに支障が出てしまったぐらいだ。

 ……そうなるように誘導された? 

 その可能性も考慮して行動を起こそう。

「こらおっさんお前ボケ」

 とりあえずは野糞のおっさんの顔面に軽くヒザ蹴りをいれておく。
 殺さないのは本当にちょっと怒っているからだ。
 わざわざコイツの元に転移してまで蹴るぐらいだから俺の怒りはご察しの通りだろう。

 こいつらはこの世界の背景、グラフィック、設定、プログラム、つまりはゲームのNPCみたいなモノである。
 この世界では本物であっても、偽物でしかない。

 正しくはラディアルを持っていないルーンだけで構成された存在なんだが、マニアック過ぎるので気にするな。

「な、何すんだよ!! 」

「お前のウンコさんを踏んだ。ムカついたからしばいた。ユーノー?」

「踏んだのはお前の勝手だろぉ?!」

 ヒゲモジャの狩人は鼻を抑えながらに抗議してくるが、俺がこいつの顔面にヒザ蹴りを入れる正当性について懇々と語ると時間の無駄になるので、もう一発顔面にヒザ蹴りをいれて黙らせようと思う。

「や、やめて?! やめてやめて! なんで?! なんで! とりあえず蹴ってから話すのやめて? 見て! 鼻血! もう、鼻血止まらないのこれ! わかる?」

 しかしよく出来てるよな。
 ラビリの記憶の中にあるSF小説とかで、電脳に人権を認めるとかどうとかの話があったが、感覚的にはそれに近い違和感を感じる。
 不気味の谷現象ってヤツか? でも、人間であるには違いないのが微妙なラインだ。

 ラディアル由来の人間とルーン構成の人間、ラディアルの有る無しで偽物つくりものと決めつけるか、それとも人間と認めるか。

 夢幻のようにルーン構成世界であれば彼らは普通の人間と変わらず生きて行けるが、地球のようにラディアル構成世界であれば存在を保てずに消えて無くなるだろう。

 逆にラディアル持ちがこの世界に居ればある種のカリスマ性を無条件に獲得してしまう。

 そんな不完全な世界、存在をラディアル世界同列と認めるか認めないか。

 政治家や活動家なんかと議論させれば面白いかもしれんが、俺としてはNO一択だな。

 こいつらの決定的な欠点は、この世界が全てだと思い込んでいるところだ。
 思い込んでいると言うよりは無条件に信じていると言うべきか。

 創造主に都合のいいキャストとして存在しているだけ。

 殺してやるのがある種の救いであると思うが、こいつは俺にウンコを踏ませやがったから殺さない。

「次はもっと場所考えてウンコさんしろよ」

「山奥ですよぉぅ? こんな山奥でも駄目なんですかぁ?」

「鼻血拭けよ、汚いだろ」

 魔眼蒐集家の俺のコレクションの中に【ジキ】なる魔眼があるんだが、それを使えばこいつを一瞬でルーンに分解して吸収してしまえる。

 情報も抜き取れるし、エネルギーの回復にもなるしで使い勝手がいいんだが、いかんせん開眼中に漏れ出るプレッシャーで対象を恐慌状態にしてしまうのが欠点ではあるが、【喰】を使えば苦痛もなく一瞬で無に帰せるので優しさの塊のような魔眼であるが、こいつは消してやらん。

 四苦八苦しながらに長い人生を送る地獄に耐え抜いて頂きたい。

 コアが世界の破壊を目論んでいる以上、案外簡単に消される可能性の方が高いかもしれんが、俺の知ったことではない。

「どうすっかなぁ……」


「なにしてるの?」

「むしろこっちが聞きたいんだが、こんな所で何してるんだ?」

 考え事をしたかったので、ダークブルーの空の向こうから胡座をかいたままに自由落下をしていたのだが、何故か隣にメイファーがいる。

 俺の真似をしながら体育座りの姿勢でスカートを抑えて自由落下をしているのだ。

「ジンジャーお兄ちゃんが起きなくて退屈だから探検してた」

「いや、ここ命の危険感じるぐらいの上空なんだがな」

「ジャイロおねぇちゃんの真似したら大丈夫」

 よく見れば砕いたルーンで擬似的な魔素を作り、薄い膜みたいなものを纏っているのがわかる。
 確かにその方法であらば、この領域で呼吸も出来るし話すことも納得であるが、俺が聞きたいのはそんな事じゃない。

「なんで探検でこんなとこに来てるんだ?」

「違うよ。ヤムラシン様を追いかけてきたんだ」

「追いかけた? どうやって? 気配を悟られるようなヘマはしてないはずだがな」

「メイファーにはわかるよ。ヤムラシン様は色んなのがグルグルしてて綺麗だから」

 そう言ってモルスァちゃんは右眼の天鏡眼と左眼の吸魔眼を開き、両眼から血の涙をダラダラと流しながらに無邪気な笑みを浮かべた。

「この世界で天鏡眼は辛いだろ?」

「大丈夫だよ。知りたいことを減らしたら大丈夫」

「いや、顔面ホラーだぞお前」

 この少女のおかげで夢幻に来ることが出来たが、ここは俺が来たかった夢幻ではない。

 この世界はまるでゴミ箱だ。

 多くのラディアル世界の者達がいたが、それらは俺が知るグランアースの者達では無かった。

 おそらくは閻魔が俺たちの住んでいた大陸に来る前に回収した者達だろう。

 この少女に自分だけの空間に好き勝手出入りされるのが嫌で、ゴミ箱を作って隠した。

 つまり閻魔は、ここ以外の夢幻に俺の仲間を隠してる事に他ならない。

 あいつがゲームの邪魔だからと無残に殺した魔族もいた。
 昔のこと過ぎて記憶が曖昧になっているのかもしれないが、俺としては新鮮な記憶そのものだ。

「頭隠してドギースタイルのファッキンビッチだなクソジジイ」

「ふぁっきんびっち!」

「こら! そんな言葉使うんじゃありません!」

 とりあえず風圧がウザいし、顔面ホラーで追いかけられても困るから、コイツを魔改造してやろう。

「よし、ロリーテールちゃん。いい事を教えてやろう。神様の言う事だからちゃんと聞くんだぞ」

「うん」

 転移した先は核爆弾でも打ち込まれたかのようなグチャミソになった一つの街だ。

 転移でざっとラディアルを持つ生物を調べたのだが、ここは魔族の街があったのを確認しているで、上位魔族であらば、この悲劇の中でも生き残っているはずだ。

「ここに肌が浅黒いツノが生えたエルフがいるから、そいつらぶっ殺して目玉くり抜いて吸魔眼に食わせまくれ」

「ころすの?」

「馬も脚が折れたら苦しいから安楽死させるだろ? ドルージヤも吸魔眼を抜かれたら苦しいからな。だから先にぶっ殺して引っこ抜くんだ」

「メイファーの左目と一緒?」

「そうだ。その眼もドルージヤが持ってたものだろう。あいつらはな、両眼の吸魔眼で魔力を吸い過ぎて苦しいんだ。だから肌も黒くなって角まで生えて、暴力的な性格になってる。かわいそうな奴らだから楽にしてあげなさい」

「かわいそうなんだ、えっ、」

 まぁ、嘘なんだがな。

 嘘なんだが、アテにしていたコアがハズレだったので、あいつを強化して他の夢幻に渡る糸口にするしかない。

 だから崖からドーンだYO!

 ロリーテールちゃんは転げ落ちて行ったが、ルーンの使い方は気持ち悪いぐらいに優秀だから何の心配もないだろう。

「強いから気をつけろよぉー!」

 あいつらは実際かなり優秀な魔族だ。
 吸魔眼も懐いた個体が死ぬ時に貰ってくれと言って授けてくるパターンが王道で、殺して奪い取るなんてのは愚の骨頂だ。

 だが、リスクを背負ってでも奪いたくなるほど便利だ。
 吸魔眼があればほぼ無限に魔力を使用できるようになる。

 だからこそ確実に戦争になる。

 俺や閻魔も例外じゃなくドルージヤの存在には頭を悩ませることとなり、閻魔は結果奴らを夢幻に閉ざした。

 つまりJackpot状態。

 ここはどうせコアが滅ぼすゴミ箱。
 目の前には何の後腐れもなく殺せるドルージヤが大量発生。

 ロリファーちゃん強くなる、天鏡眼が楽に使えるようになる、他の夢幻に行く方法わかるかもで俺もラッキー、みんな幸せだ。

「ヤムラシン様ひどいよー!」

「援護してやるから頑張れぇ」

 さぁ、どうなるかなメスガキちゃん。








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