だんます!!

慈桜

百六十六話 ノブノブゲット?

 「逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!」
「殿下!! 天の磐船の進路から逸れた方がよろしいかと!!」
「わしに指図するでない!! それにここは遠き果ての世よ! もうわしはただの藤吉郎じゃ!」
 黒と金の甲冑、刻まれる家紋は桐紋と瓢箪。 鎧兜に身を包んでいるにも関わらず、素破者を思わせる身軽さ、太い眉毛に眠たそうな半分瞼が垂れた目、小柄であるが、その背中からは歴戦の猛者だけが持つ覇気が感じ取られる。
 その背中に感化されたのか、後を追う者は勝ち気に飲まれ足を止め、空飛ぶ大陸を見上げる。
「殿下!! 此処は打って出ましょうぞ!」
「わしが死んだ後に戦で名を上げたのであろう?! なら此処は退くべきだとわからんか源次郎!!」
 赤備えに六文銭、黒塗りの面頬でその顔を隠す若武者、日ノ本一の兵と称される程に名高い真田幸村の名で知られる真田左衛門左信繁である。
「しかし!!」
「しかしもくそもあるか!! いかに面妖な力を手にしていようと、敵の力はあまりに巨大! ならば勝てる策を練らねばならぬ! 先ずは退け! そこに勝機がある!」
 そして幸村程の武者が付き従うは、勿論、戦乱の世を一つに纏めた天下人、豊臣朝臣秀吉である。
 大陸要塞が東の空を焼いてから、一目散に西へ逃げ続け、既にシカゴへ辿り着こうとしているが、浮遊大陸から遠ざかる事は出来ていない。
 そして懸念はそれだけでは無い。
 終始付かず離れずの距離で、酒呑童子が送り出した金鎧達が追って来ているのだ。 立ち止まれば交戦となり、忽ち時間を奪われてしまう為に走り続けているが限界がある。
 いくら多量のラディアルを内包し、人ならざる強者として生まれ変わっていたとしても、心休まらねば疲弊するのだ。
「源次郎! あの面妖な箱の乗り方を聞き出して参れ! ええ加減疲れたぞ!」
「あれに乗ると言うので御座いますか殿下!? あんなものに乗るぐらいなら腹を切ると「やかましゃ! これ迄見て来たが南蛮の弱そうな奴でも乗れている! 恐れる道理はない!!」」
 秀吉が声を荒げると、幸村は致し方無しと黒い高級スポーツカーと並走し窓を叩き割る。
「オーマイガッ!ヘイ、へへへへヘイ!!カァモーン……」
「失礼仕る」
 カフェラテを楽しみながらに湖を眺めドライブをしていた白人男性は、突如窓を叩き割った後に助手席に座り込む鎧武者に嘆いている。
「突然の事で申し訳ないが、この鉄箱の乗り方を教えて頂きたい」
「あぁ、神よ! 何故私は頭のおかしいサムライに絡まれなければならないのですか」
「吉利支丹か。貴殿にデウスの加護があらん事を」
 幸村は白人男性の髪の毛を掴んだままに窓の外へ投げ捨てハンドルを操作する。 会話をしている間に筋肉の動き、運転に関しての動作を見て一瞬で乗り方を覚えたのだ。
 ゴム毬のように転がっていく白人。 それを見届けて助手席へ飛び乗る秀吉。
「何も強奪せずとも名乗り借り受ければ良かろう!」
「お言葉ですが太閤殿下、此処は殿下が仰られた通りに遠き果ての世。殿下や手前の名が通じるとはとても思えませぬ」
 幸村のドヤ顔に上等だと睨みをきかせる秀吉。 その太い眉毛をこれでもかと波うたせる。
「それもそうじゃな。どれ面白そうじゃ、わしにも操舵させい」
「なりませぬ! な、なりませぬ殿下!! グギ、ギギ」
 ハンドルの取り合い、既に速度は200kmを超えているにも関わらずにじゃれ合っていると、遂にその時は訪れる。
 黒い暴れ馬のスポーツカーは空車の車積載車、所謂キャリアカーを駆け上がって行ったのだ。
 気付けば幸村と秀吉はフロントガラスから外を見ながらに腕を組み合い固まっていた。
 まるでスローモーションである。
「殿下、死ぬやも知れません」
「見りゃわかるよ」
 漫画や映画のように格好良く着地なんて有りはしない。 頭から突っ込み、炎上しながらに何回転もしながらに吹き飛び、最後は原型を留めずに大炎上する。
「さて、申し開きはあるか源次郎」
「無傷で何よりです殿下」
 何事も無かったかのように平然と燃え盛る車から降りくる両名。 互いに汚れてはいるが、傷は一つも見当たらない。
「次は大きいものにしましょう。なれば空を舞う事はないかと」
「どれ、わしが止めてやろう」
 次のターゲットは大型トラックだ。 某何回目かのプロポーズを彷彿とさせる見事な大の字でトラックを止めようとするが、なんら躊躇い無く撥ね飛ばされる。
「殿下ぁ!?」
 慌てて幸村が駆け寄るが、秀吉はむくりと起き上がり、トラックを睨みつけた後に最高の笑顔を見せる。
「わしの体すごいな源次郎。あれに轢かれてもビクともせん」
「感心してる場合では御座らぬ!」
 秀吉を轢いた不届き者を今すぐにも追って叩ッ斬るべきだと熱り立つが、なんら心配する事無くトラックは急ブレーキを掛ける。
 そこから降り立つは面妖な見た目の若武者である。
 紫と金色の甲冑に身を包み、黒い眼球に紫色の虹彩、そして目の奥に沈む紅い瞳孔。
「ひゃっはっは!! あれ? あれあれあれぇ?」
 逆立った所々に白メッシュが入った紫色の髪、その手には十字槍が握られており、彼が普通、いやマトモでは無い事は一目でわかる。
「その桐紋、姿は多少凛々しくなっておられるが、まさか山猿公では御座らんか?」
「武蔵守、やはりおったか」
 秀吉はその男を見て世界一すっぱい梅干を食べたような顔をしているが、致し方無しと刀の柄を握る。
 しかし自身の背後からスルリと細身長身の男が現れ、秀吉の首に匕首を押し当てる。
「山猿公? また勝蔵の死で祝杯を挙げるつもりで御座るか?」
「あ、兵庫もいるのね。それはもう何というか、関わりとうないのう……」
 甲冑を纏ってはいるが、それは全てが真っ黒で、よくよく見なければ甲冑を着ているかどうかすらわからない程に黒い。 顔も面頬で全て隠し、黒く長い髪を総髪に結った長身の男。
 鬼武蔵こと森長可の家臣であり、頭がおかしいコンビの相方でもある鬼兵庫、各務元正その人である。
「当時其々多様に思う事はあったであろう。此処は互いに引こうでは無いか」
 秀吉が長可から距離を置く為にはどうしたらいいかと必死に考えた末には、真っ向から拒否するしか道は無かったのだ。
「何を山猿公。これでもわしらは山猿公の家臣では御座らんかぁ? なればこそ共にあらねばならん、のう? そうであろう山猿公 」
 鬼武蔵は人間無骨と銘が打たれた十文字槍を秀吉の首へ押し当てる。
「わしも山猿公とはまだまだ話したい事もあるし勝蔵に賛成じゃ。旅は道連れ世は情けと言うでは御座らんか」
 鬼兵庫もまた匕首で脇腹をクイクイと突く。
「わかった! わかったから脅さないでちょおーよ! 」
 既にこれは脅迫である。 DQNが僻みで絡む進学校の生徒状態だ。ここで幸村が動いてくれたら幾分マシだったのかも知れないが、動けば同時に秀吉が斬られると確信した為に座ったままに交渉へ移ろうとするのだ。
「森様、各務様とお見受け「黙れジャリ銭小僧!」じゃ、じゃりせん!? 痛い!」
 しかし、足の甲を鬼兵庫に踏みつけられ、鬼武蔵に顎を蹴り上げられて黙らされる始末である。
「心配せんでも右府様に会うまでの共同戦線で構わんぞ。あんなもんが飛んでるんだ、数は力、そうだろ山猿公」
「わかった。それまでなら同行を許そう。だから槍を引け」
「右府様に聞いて本能寺の一件、お前の策とわかったならその首手土産にしてくれるぞ」
「勝蔵くん? 元主君を殺そうってのは如何なの?」
 なんの因果か、生前所縁のある人物が、大臣の大陸から逃げる道中、縁に 導かれ手を取り合って行く。
 豊臣秀吉、真田幸村、森長可、各務元正、錚々たるメンツが右府、織田信長を探す為に共同戦線を組んでいる頃、後方では奇怪な運命の糸が絡まりあっていた。
 それは、やはり彼が関係する。
 戦象に跨り冥府からの転生者の悉くを撃破し捕らえている殺戮大臣信長が動けば、なんらかの運命に導かれるように変化が起きる。
「いやぁ、大量大量。マスターボー◯やばくない?」
「ぱぉぉおおおん!!」
「だってほら、荀彧、許褚、典韋、郭嘉に夏侯惇、オマケに曹操!! プレステしてぇぇ!!」
 ルーンの檻に捕らえられているのは魏の大御所ラインナップである。 だん○ちゃんが歩く度に引き摺られ中で転がり続けている為にグロッキーであるが、同情してはいけない。 彼等にも彼等なりの目的や欲があったのかも知れないが、大臣に会った時点で命運は尽きているのだから。
「余を誰と心得る無礼者!! 今なら許してやる! ここから出せ!!」
「アニメチックに美少女に転生してたらスーパー可愛いがってあげたけど、お前ら顔面怖すぎできもいから無理。基本俺ちゃん股間にキノコ生えてる奴には厳しいかんね」
 それでは世界の半分には厳しい事になるのだが、彼は現時点での自身の言葉の重みなど考えてもいない。 いつも通りに楽しんでいるだけだ。
「そろそろデュラハンのラディアル砲の様子でも見に行きますか」
「ぱおん、ぱぱぱぉん?」
「え? そうなの? えと、おーい! そこのボート小屋の中から見てる人ぉ。あんたも蘇りぃ? 」
 だん○ちゃんの鼻はヤバすぎるのである。 如何に声を押し殺し、潜み隠れようともだん○ちゃんの鼻からは逃げられないのだ。
「遂に気付かれてしもうたか。ニウヨウクとやらからずっと追ってきたんだがな、やはり獣の鼻には勝てぬ」
 ボート小屋から現れるは長い黒髪を乱雑に纏め、織田木瓜の陣羽織を身に纏う偉丈夫である。
「だん○ちゃんの言う通りだ。ずっと追ってきてたんだ。俺ちゃん気付かなかったな」
「そなたは多くの街を焼き払うに忙しかったからな。呼吸を合わせたなら案外難しくも無かったのだよ」
「ふーん、ふーーん、ふぅん? はぁ……なんだろう。俺ちゃんののっぺりフェイスが超信長じゃん! 俺名古屋っ子だし超ノブってるじゃんって思ったのに実物イケ様なオジ様なのね。整形した?」
「いや、お主はかつてのわしに良く似ておるよ? 怖いぐらいにな。この姿は力を得るに連れ、この世界で思い描かれて来たわしの姿を投影しておるだけじゃ。南蛮の幼い女子の姿も選べると知った時は目を疑ったが」
 大臣は自身がリスペクトして名前まで無断使用している人物に出会ったと言うのに、ブツクサと呟きながらリアルにもしゃもしゃと道草を食っている。
「腹を下したか? なればそんな草よりヨモギが良かろうに」
「ヨモギ信者発見。で? 如何するノブノブ。俺ちゃんそんなに暇じゃないから殺していい?」
 大臣の言葉に信長は眉を垂らして悲しそうな顔をする。 それには大臣も不思議と首を傾げる。
「確かに御先祖様がいきなり現れるなぞ腹立だしいやも知れぬが、織田家を大きゅうしたのはわしであろう? それを出合頭に殺すは言い過ぎではないか? 仮にもひたすら遡ればお前のお爺ちゃんであるのだぞ」
「えと、ちょっと何言ってるのかわかんないす」
「やはり第六天魔王としての血が狂わせるのかのう」
 信長はこの時代で受肉すると同時に特殊な能力を使用して情報を集め続けている。 そして殺戮大臣の情報を精査し、彼が織田木瓜を背負っている事から、約400年の時が過ぎたならば、織田家が空飛ぶ大陸を所有していてもおかしくないと考えたのだ。
 そこからは御先祖様モードである。
 信長はひたすらに大臣を追い回し、影ながらに暴れまくる子孫(勘違い)を覗いてはその強さに感動していたのだ。
 その悪辣さ、いや、悪鬼羅刹の極悪非道っぷりにゾクゾク来てしまった信長は、今更大臣は子孫で無いと言われても信じない程にはハートをやられているのだ。
「えと、おっさん。中年の厨二病とかちょっと扱い困るんで帰ってもらっていい? 今回特別、本当特別に逃がしてあげるから」
「そう言うでない。心配するな、この戦、わしが勝たしてやろうぞ。して子孫殿、名は何と言う?」
「やばいこいつ話聞かねぇ」
 終わりの見えない押し問答に痺れを切らしたのは他でもないだん○ちゃんである。
ぱぉん、ぱぱぱおん信長にちょっかいだすな!!」
「ほう、信長……わしと同じ字か。先祖の名を借りるも不思議ではないからのぉ。やれ、しかしこれはやはりなんぞの縁を感じるなぁ? 獣の言葉がわかるのもよう似ておるしの。これは言い逃れできんぞ」
「いや、絶対的に違うんですけど、なんなのこの人」
 大臣は変な奴に絡まれてしまったとガックリ肩を落としながらに信長をルーンの檻に閉じ込める。
「ぬっ!? なんだこれは!」
「とりあえず連れて帰るよ。どっちみちお前らのコア潰さなきゃ始まんないし」
「わかっておるわ! わかっておるからこそに既に終わったわしらよりもお前らを優先しようとしておるのだぞ!」
「はいはいはいはい。 後で聞くっての」



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