だんます!!

慈桜

百六十四話 厄災の狂宴?

  厄災。
 その言葉以外に、それを言い表す事が出来るだろうか。
 厄災。
 何故かそれは・・・、この言葉が最も適していると思えてしまう。
「なんだあれ、夢でも見てるのか?」
「新手のCGなんじゃない? 仮想現実とかなんとか」
 空が黒く染まり上がったかと思えば渦を巻き、中心に漆黒の柱が突き立てられる。
 だが、厄災と呼ぶに相応しいのはそれではない。
 東の空から訪れる大陸。
 それこそが厄災である。
 街中の其処彼処で警報が鳴り響き、スマホには緊急避難警報が引っ切り無しに通知され続ける。
 それはスマホの操作すらも出来ないほどに、ただひたすらに鳴り響く。
「おい、これやばくないか?」
「逃げるぞ!! 走れ!走るんだよ!!」
 浮遊する大陸が雲のように現れ、突如として恐怖を撒き散らし始めたのだ。
 雨のように降り注ぐ金と銀の全身鎧。 その胸の中心には緑色の特大の宝石が埋め込まれており、その美しさは調度品として飾られていたなら感嘆の息を漏らす事となっただろう。
 しかしそうはならない。
 その美しき全身鎧は、地に足をつけるや否や、槍や両手剣を振りかざし、視界に映る動く全てを物言わぬ物質に変換する為だけに送り込まれたのだから。
 それは人や車に限らない。 動物や虫、果ては映像が流れるモニターまで、全てを破壊し尽くしていく。
「や、やめてくれぇい!」
 腰を抜かしたビジネスマンが最後に見た光景は、振り翳される両手剣と大陸の影、そしてその暴虐の化身が今も尚空から無数に降り注いでいる光景である。
 大混乱、テロリズム。
 ただの降下作戦からの虐殺であればその程度であろう。 如何に理不尽と言え、如何に多数の人材が投下されてるとは言え、襲い来るは剣や槍を持った人型の全身鎧、全てを滅する事は叶わない。 既に混乱を察知して街から多くの人間が逃げ出している。
 しかし、退路を断たれてはどうだろうか?
 大陸の四方八方から放たれるは紫色の極太のレーザー光。 ダンスフロアの特殊装置のような光が降り注ぎ、着弾すると周囲を一点に圧縮し、再放出する爆発が起きる。
 一撃でビルが歪み、自重に耐えきれなくなり崩壊する。
 至る所で爆発音が響き、次第にそれは街を火の海へと変えて行く。
「あぁ、神よ。どうか我々を救い給え」
 神父は祈り、天を仰ぐ。
 そこへ黒い球体が落とされ、まるで精巧な絵を消しゴムで消したように、球体が通過した部分だけが無に帰す。
「いやぁぁあ!! 来ないで! 来ないでぇぇえ!!」
「すまないマドモアゼル。君は此方の世界の方がお似合いだよ」
 人が人ならざる者へと変えられて行く。 街や道が消失し、更には黒い巨人が、まるでミニチュアの街で怪獣ごっこでもしているかのよう、おちゃらけて無邪気に火の海の中、切っ先を見る事が叶わない程巨大な大太刀を振り回しながらに破壊の限りを尽くして行く。
 阿鼻叫喚の地獄絵図。
 終末、厄災の降臨。
「うぇーん! ままぁ! ぱぱぁ!」
 テディベアを抱き抱えながらに泣き喚く少女。
「女なら泣くな。強くあれ、強くあらねばならん」
 そんな少女に差し伸べられる手。
「お姫様?」
「そんなものではない。さぁ、ここは危ない。人目のつかないところへ隠れるんだ」
 膝を擦りむき泣き噦る少女は、必死に息を飲み込み、涙を堪えながらに頷くと一目散に走り出す。
「やはりいつの時代も戦乱の世は相変わらずに混沌としているな」
 白銀の鎧に身を包み、短く切り揃えた金髪、そして碧い瞳。 男装の麗人とはまさにこの少女の為に用意された言葉だろう。
 多くの遺体と、稼働限界でレイスが抜けた鎧兵の物言わぬ瓦礫、その上で剣を構えている美少女は、儚げに目を伏せた後、浮遊大陸を睨みつける。
「主は私を蘇らせ、再び試練を与えると言うのか」
 少女が両手剣を構えると、その刀身からは極大の炎が上がる。
「私の身を焼いた業火の炎を持って斬り伏せてくれよう!」
 少女が剣を振るう。 その剣閃は熱を持った特大の三日月となりて大陸へと襲いかかるが、それが届く事は無い。
 飛来する何者かが、最も容易く素手で鷲掴みにして、地に投げ捨てたのだ。

 その男、鎧纏い空舞う戦象に跨りて。
 その男、煌びやかな羽織袴に茶筅の丁髷姿。
 その男、手には身の丈越える大太刀を持つ。
 その男、至極凶暴につき。
 理不尽な厄災、殺戮大臣信長の降臨である。
「馬鹿な! あり得ぬ!! 炎を手で掴むなど」
「矛盾してるよなぁ? うっひょお! 乳でけぇ!! もったいねぇ!」
 気付けば少女は四肢を斬り捨てられ、物のついでと脳天を幹竹割にされていた。
 しかしその遺骸は即座に復活を果たす。 彼女もまた騎士選考にて多くの命を奪った閻魔の騎士なのだ。 理不尽に訪れる多くの人間を殺し殺し殺し尽くしてきたからこそ、彼女は今此処に立っている。
 この場面に於いて悪役は確実に丁髷の方であるが。
「あら嫌だわ奥さんご覧になって。このお嬢さん魔物よ? だってほら、死んだのに生き返ってんだからさ」
「ぱおん」
「おぉう、奥さん。わたくしのターンよ。横取りなさらないでっ!」
 蘇ると同時に少女は象に踏み潰されて肉片となる。 騎士選考で生き残った騎士の弱点とも言える。 蘇った一瞬、自身の状況を理解するまでに本能的に思考を巡らせる僅かなタイムラグがあるのだ。
 リバイブポイントを別に設定出来たりするならば話は別だが、一度嵌められてしまえば地獄が続く。
 そして彼は一軍の総大将、そんな大物が一箇所に留まっているとどうなるか、当然事態を聞きつけた兵達が次々と集まってくるのだ。
 少女は再生の為の切り札と死霊兵を大量に召喚するが、敢え無く鎧兵達に根絶やしにされて行く。
「やっぱ一回殺すのやめ。お前ってよく考えたらラディアル詰まった肉袋なんじゃね? それってただ殺しまくんのもったいなくね?」
「殺せ!! 殺すがいい!! 何度でも蘇ってやる!!」
「残念だけど俺ちゃんってばそういう作業ゲー嫌いなんだよね。でもすげぇいい事考えたわ」
 彼が腕を翳すと、少女はルーンが重なり合う檻の中に閉ざされる。
「よし、そこの開祖、こっちこい」
「わ、私でありますか?」
「そう、お前。だん○ちゃんに乗っていいから、これデュラハンに届けてきて。時間かかるかも知んないけどこいつラディアル砲にしたら超面白そう」
「身命を賭して届けて見せましょう。しかしだん○殿の背を借りる訳には行きませぬ」
 開祖はその身を蝙蝠に変えて少女を運んで行く。 象は暴れ足りないと不機嫌であるが、少女を捕らえた檻を運ぶのを手伝おうと空へと舞い上がる。 あまりに蝙蝠が群がって運ぶ速度が遅いからだ。
「さぁ、次々。次探せ。俺ちゃんあれ系専門ね。さっきのおっぱいちゃんみたいな死なない奴殺しまくるから。見つけたら信号弾打ち上げろよぉ! はいGOGOGO!!!」
 兵達が一目散に走り出すと、空には黒い鎧を纏った気味の悪い男がふよふよと舞っている。
「オルレアンの乙女を返しなさい! さもなくば撃ち墜としますよぉ!!」
「すげぇ。速攻釣れた。オナニストの乙女とか終わってんな」
 男はだん○ちゃんの鼻でやかましいと叩き落とされ、大臣の目の前に転がされる。
「だん○ちゃんストラァァイク!!」
 顔面を蹴り飛ばすと既に首から上は消え去り、次なる蘇生へ……またもやパターンに入ってしまったのだ。
「ジル・ド・レ!! やめろ! 私はどうなっても構わない!! 其奴は見逃してやってくれ」
「なんか言ってるけど、速攻大豊作だわ。影で暴れ回ってても見つけられなかったのに、降りて来たら二匹も」
 ジル・ド・レと呼ばれた黒い騎士も容易くルーンの檻に包まれてしまう。 残念ではあるが、もはや大臣に出会ったらゲームオーバーの領域である。
「だん○ちゃぁん! ぱーす」
 大臣がインサイドで巻き気味に蹴り上げる。
「ぱおぉん!」
 まるでボールを投げられて喜ぶ犬のようにだん○ちゃんがジル・ド・レを鼻でキャッチして運んで行く。
「お前ら仲良しなんだろぉ? 良かったな! 綺麗な花火になれるぜザーボ◯さんっ! ザーコンさんでいいか、ザコだし。いや、語呂が悪いな。とりあえずどうせ死ぬなら再生回数になってください」
 双方ビッグネームである。 こんな扱いをされていいはずがない。 しかし相手が相手である。 運が悪かったとしか言えない。
 そして、其処彼処で信号弾が空に打ち上げ始められる。
 大臣は楽しそうに舌を出しながら笑い、信号弾を数えながらに首にぶら下げた木札を手にする。
「よぉし、シュテン。好きに暴れていいぞ」
『ありがとう宮司様。ずっと待ってた』
 今か今かと出番を待ち望んでいた鬼神が、地獄の主は自分だと言わんばかりに大地へ降り立つ。
「宮司様。此処の奴ら全部酒にしてもいいんだよな?」
「酒池肉林の祝宴を開きたまえ鬼っ子」

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