だんます!!

慈桜

百六十三話 二人のDungeon Master?

 『マスター、ダンジョンバトルが開始されました。既に殺戮大臣信長が交戦している模様です』
 ジンジャー復活に世界樹にダンジョンバトルって忙しすぎるだろおい。
 大臣が特攻かけるのは予定通りだけど、まずい事になったな。
 閻魔の性格上此方が大陸制覇を整えるまで向こうは沈黙を貫くかと思っていたが、どうやら一杯食わされたらしい。
 冒険者に特殊クエストの発行、受領を強制しておいてくれ、とりあえず隠れておいてもらいたいが、あいつらは何するかわからんから、まずは保険だ。
『特殊クエストを発行致しました。現状の冒険者達の力量であらば、権能の使用時間もごく僅か、蘇生を繰り返すにも次第にラディアルの枯渇が予測されます。マスターが言うように冒険者達には隠れて貰うのが賢明かと』
 くそ、ダンジョンパークのチャプターダンジョンを順に制覇していけば、モスクワ到着あたりで十分に冒険者権能を使えば騎士と言えど渡り合えるぐらいには育てられる計算をしていたんだが、閻魔の奴焦りやがったか?たらればは良くないが予想外過ぎて困るな。
 大臣の九色備え達に防壁になって貰えば、それなりに時間は稼げるか。
『マスター、殺戮大臣信長は配下の九色備えの上位者の殆どを武士選考にて降しました』
 えぇ? なにしてんのあいつ。 そんなのしなくてもいけるだろうに。 いや、でもあいつらが米大陸で暴れてくれてる限り、ある程度の時間は稼げるか。 その間に如何に冒険者の底上げをするかだが。
『日本南部に位置する諸国の対応はどうされますか?』
 あったな、それ。 日本南部諸島の外人連合だな。 一応牽制程度にジャブは入れてるけど、世界式の発現に合わせてなんかしてきそうだ。
 米国程あからさまな騎士選考はしてないが、閻魔のデバイスが流入しているのも確かだし、日本の政党の左寄りの奴らが進んで難民助け回ってるのもダルい。 民明党さん、社公党さん、共民党さんお願いだから邪魔しないで。
『誰を配置するかですね』
 問題は其処だ、弱くても負ける可能性があるし、TOP50のある程度戦える奴らをそっちに割かれると手薄になる。 でもやりようがないわけじゃないからとりあえず保留。
 あー、頭痒くなってきた。
 一番に考えなきゃならんのは冒険者の底上げだが、そんな悠長に構えている暇は無さそうだ、無ければ暇を作ってやるしかないんだが、それをどうするか。
 ある程度人の壁が無けりゃたちまちダンジョンは落とされるしな。 向こうに易々と拠点を与えるのも面白くない。
『大臣が浮遊島にダンジョンを運び込んでいます。そこでラブロフ、リリリ、デュラハン、星虎、そして多くの臣下と生産者が守っており、武士選考で力を得たシズク、タロウが特産ダンジョンの守護をしています。最悪避難所にしても良いかと』
 いや、それをするなら兎で他の世界に避難させた方がいい。 大臣はテリトリーを荒らされるのを嫌うからな、変に預けて冒険者みんな臣下にしちゃいましたペロペロとかなったら全然笑えない。 あいつは俺を山羊のペロペロ拷問ばりに舐めきってるからな。
 それに他の世界なら変わりに罪喰いシンイーターを呼べば戦力の補強にもなる、だが早々にカードは切るもんじゃない。 切り札を使うのは出来る事をやってからだ。
 コア、閻魔の騎士討伐をレギオンレイドクエストとして発行したとする、それなら権能時間はどれぐらい伸びる?
『ほんの数秒ですが、50秒から1分の権能時間にプラス5秒程度かと。敵対個体によってはHPが×数万の者もいます。やはりオススメ出来ません』
 短いな。最低3分あればと考えていたが予想以上に短い。 中米にはヒルコ達も控えているから太平洋から日本へのルートは一先ず大丈夫としても……って、待てよ?
「閻魔は夢幻でジンジャーを取り込んで騎士選考システムを暫定的にいじったと考えるのが普通だよな? じゃあ逆にジャイロとジンジャーに命をストックさせて、他に与える事が出来る権能を作ったら、祭壇での復活を使わなくてもある程度行けるって事になるよな?」
『ですがその権能を新たに作るとなれば、葬儀屋アンダーテイカーの需要性が更に高まります。他の権能依存の権能は不完全ですし庭師と守護者のように対局性を設定するのも困難、それに復活のみに着眼点を置いている為に、冒険者権能の時間回復は見込めないかと』
 ボツか。ダンジョンバトルで強敵が現れた時ぐらいしか使わないからシステムだけ残しておいて寝かしておく職能って感じで十分だから不完全は大いに結構だが……どうしたものか。
 時間稼ぎ、防壁、チャプター、権能、世界樹、エルフ。
 チャプターダンジョンもチタまでしか出来ていない。 ダンジョンバトルが始まってしまったからこれ以上ダンジョンを増やす事も出来ない。
「うん? あっ、そっか。防壁作れるじゃん。コア、ちょっと豊原に飛ばして」
『了解しました』
 っはい、てなわけで樺太は豊原のダンジョンパークにやって参りました。 戦争の真っ只中でネットニュースは警報ガッチガチ、テレビやラジオでも騒ぎまくってるのに冒険者達はいつも通りにワイワイ賑わってます。
 顔ぶれは初級からちょっと慣れたぐらいの奴らから中堅手前って感じか。 みんな俺見て固まってるもんな。 TOP50の奴らなら跳び蹴りとかしてくるから新鮮で良い。
 とりあえずチャプターダンジョンに入ります。
 チャプターダンジョンはレイドでストーリーを熟して行くダンジョンだ。 この世界では、まだ99層までしかリリースしていないからこそ、低層構成でも難易度が高いダンジョンを設置出来る手段を選んだ。
 雑魚で70層クラス、エリアボスで100から150層、ボスで200層が平均ラインと考えてくれていい。 次の駅、次の駅で2層から10層程度難易度が上がる仕組みだ。
 当然こいつらは創造主である俺には跪く。 そいつらをバシルー◯で沿岸部にバンバン飛ばすだけの簡単なお仕事です。
 中国みたいに壁で囲うのも考えたけど、同じ時間稼ぎならアンデットの掃除ぐらい出来る壁の方がいい。
 竹槍持ったカンフーパンダ共をバンバン飛ばしまくってると、気付けばボスの間、折り返し地点だ。
 黄金の毛並みのゴリゴリのパンダ君だ。 パンダでモンスターの癖に二度見しやがったこいつ。
「とりま行ってらっしゃい」
 何周か繰り返したら半田に行こう。 これで日本沿岸部、勿論元露国を含む全てをぐるっと囲んでおけば、僅かなりにも壁の役割は果たしてくれるだろう。 否が応でも戦闘に入るから探知しやすいしな。
『ハーピーのダンジョンを創っておいて良かったですね。対空戦は時期尚早かと思いましたが、結果オーライです』
 おぁう、コアちゃんがなんか冷たい気がする。
『気のせいですよマスター、ただ冒険者に過度の危険があるダンジョンはあまり容認したくなかっただけです』
 ちゃんと強くなってからパークにするよう。 キリッキリのラインで強化しようとしてたからそれは仕方ないのだよ。

 魔物のバシルー◯で半日以上かかってしまったが、大急ぎで固めた壁にしては中々の戦力だ。
「ねぇ、コアちゃん。メイファーって閻魔と同じ思念体使えるんだよな?」
『そうですね、彼女は更に上位、グラフィカルコールのような通信に優れた手段でなく、実体を持つ思念体を創り出す事も可能としています。これ迄の閻魔の思念体は物質の干渉に関しては、見た目のままの老人程度の力しか持ちませんでしたが、メイファーの思念体であれば、本体そのままの強さで思念体と同等の存在となれます』
「デメリットは?」
『思念体と言えど、本体そのままに思念体の術式を変換したルーンをトレースしている状態なので、過度の蓄積ダメージやショックによってルーンの維持が解けると攻撃透過性は失われます』
「強い精神力がいるってやつか。言う事聞かずに戦いに行く奴らに魔導具を渡すのもいいかもしれないな。コア、メイファーの所に飛ばしてくれないか?」
『……やめておいた方がいいでしょう』
 はい? どゆこと? 今んとこそれぐらいはやっておいた方がいいだろ? 他に出来る事はいくらでもあるが、冒険者に降りかかる危険性を少しでも減らされるんだぞ?
『理解しています。ですが少し時間を置いた方がよろしいかと』
 もっとわかりやすく説明プリーズ。 お風呂中? それなら納得するけど。
『マスターの為を思っての提案です』
 ごめん、ちょっと何言ってるかわかんない。もしかしてこの世界にいない? また時空に穴開けた? それで飲まれたってなったら、同じ場所に穴開けて探すか、グランアース、フェリアース、レィゼリンのどれかにって他の世界にもいないのか?
『存在しています、ですが、それに近い状態かと……』
 おいおいそれはマズいだろ。 もし違う世界に行ったとなれば、此方の世界式が適応されないんだぞ。 魔眼があるからある程度は行けるかも知れんが放っておくのは可哀想だろ。 魔素が無い世界だったらあんなチビ助一人で何が出来る。
 そうだ、メイファーが消えた場所で穴を開けてハクメイにトンネルを作って貰おう。メイファーの為ならハクメイも協力してくれる。ハクメイの所に飛ばしてくれ。
『消えてはいません。存在しています。ハクメイは世界樹の顕現により眠っております。エルフ達が守護者、世界樹の眷属として確定するまでの間目を覚まさないでしょう』
 そうか、そうだよな。 じゃあ不安定かもしれないが、ジンジャーに頼むしか無いか。 あいつが協力してくれるかは微妙だが。
『ジンジャーにも会わない方がよろしいかと』
「コア、何を隠している? この情勢下で、ジンジャーの帰還に関しては確かにラッキーだったし、俺はあいつに好かれていない事も知っている。しかし何故曖昧な返答をする?」
『訂正します。此方に向かっております』
「質問の答えになっていない! ちゃんと答えろコア!」
「はいはいはいはい、幼女に怒鳴らない。こういうことだよ、そこな俺」
「クソが、そういう事か」
 最悪の事態だ。 なんでこのタイミングでこいつがここにいるんだ。
「そう邪険にすんなって。一瞬コア借りるぞ?」
 こいつのこの姿を見てると自己嫌悪に陥る。
 その日本人特有の黒髪、弱そうな細い体、そして困ったような顔をして自尊と自虐が綯い交ぜになったあやふやな存在。
 あぁ、コア頼む。 そんな嬉しそうな顔で翼を広げないでくれ。
 お前はもう消えただろ。 嫌な事は全部俺に押し付けて、永劫の時をコアの為に費やして来たのは俺だ。
 お前は殻に閉じこもって寝ていただけだろ。
 なんで勝手に抜け出して自分こそが本物だと振る舞うんだ。
 俺は俺だ、もう俺はお前じゃないし、お前は俺じゃないんだよ。
「なるほどな、確かにこれだけ豊富なラディアルがあれば閻魔やれちゃうかもって思うよな? 流石地球って感じか」
 そうやって俺を知り尽くした発言をして何故見下す事が出来る?
「いやいや怒ったれや! 普通に閻魔外に出すとかありえんやろ」
「自分で自分を怒るってのも変な話じゃないさ」
 そうやって過去の僅かな時を過ごした縁だけで、どうしてグレイルやジャイロを従える気になる?
「今回に限っては流石としか言えんな。特に宮司、こいつぶっ飛んでるな」
 そうやって俺の友をまた奪うのか?
 コアのログを読み込んで、記憶の全てを手に入れたらそれはお前の記憶なのか?
「そんな顔すんなよ俺、いやラビリって呼んだ方がいいか? 俺に対してかなり苛ついてやがんな。けどそれも当然だよな、俺なら普通に発狂してる。もう認めるよ、お前はすげぇ」
 そんな簡単な言葉じゃない。 確かにそう言えば、俺を尊敬するならば多少は許してやらんでも無いと何度も考えたが、俺の思考を知り尽くしてるこいつにそれを言われても苛立ちが募るだけだ。
 やはり同一存在でありながら個を持つのはよろしくないな。
「不意を突かれて若干手詰まりだろ? 俺はグランアースに行ってレイセンに会ってくる。閻魔のペースに飲まれてゲーム感覚でいたら負けるぞ? 切れるカードはバンバン切っていけ。フェリアースとレィゼリンの宮司はお前の友達だろ? お前が会いに行って力を貸して貰えるように頼むしかないぞ? それはわかってるだろ?」
 え? こいつ今なんて言った?
「お前はセリもカブトとも親しいだろ。何故俺の友だと? お前は俺じゃないのか? 」
「いんや、俺の友達はグランアースのみんなだよ。俺のその認識が、お前がフェリアースやレィゼリンで友と呼べる存在を連れて歩かずに、力だけ与えた結果になったんなら素直に謝るよ、けどそれは紛れも無くお前の友達だ。あいつらと接する時はヤムラとしてじゃなくダンマスとして接していたしな。やっぱ俺は俺として残しておきたい部分とかの添削でバグったかな? なんせこうやってお前と面と向かって話す事も無かったしな、色々齟齬はあると思うが、今回ばかりは手伝うよ、閻魔への因縁はむしろお前じゃなく俺のもんだしな」
「じゃあお前は認めるんだな。フェリアースとレィゼリンと地球に関しては俺がオリジナルだと認めるんだな」
「いや、今まで会う度にドンパチやってたから気付いてないかもだけど、俺一回もそれを否定した事ないからな?ただ、地球に関しては俺の生まれ故郷でもある。だから半分は俺に手伝う理由があるってラインで手打ちだな。思うところはあるが、行けるって思ったんなら閻魔一狩り行こうぜ」
 自分の指揮下にないアバターなんぞ気味が悪くて仕方が無かったが、何やらストンと腑に落ちた。
 ずっと俺自身のその言葉が欲しかったのかもしれないな。
 お前は理想の自分を、自分がかっこいいと思ってる上部を全部俺に押し付けて、勝手に自分の上限にラインを引いて。
「あっ、そうだラビリ。ダンジョンマスターが二人とかややこしいから、アクセントの分別を徹底しといてくれ。そうだな、お前はかっこいいからダンジョンマスター、ダンマス!ってシャープな感じ、俺は期間限定な存在だからおちゃらけて某青狸ロボっぽくだんじょんますたー!うん、だんます!って感じにしようか」
 そのアホさ加減も俺はこいつで、こいつは俺なんだなと理解させられる。 こうやってちゃんと話せば良かったのかもしれないな。
「悪いが俺も誰かのせいでカッコつけて片意地張るのにも疲れてきてるんだ。こうやって俺が失敗した時に颯爽と現れて助けてくれるお前こそが本当にかっこいいダンジョンマスターだよ。失敗ばかりする俺が気の抜けただんますで十分だ。俺がこの世界で友と呼べるあいつもそっちのアクセントだしな」
「そっか、じゃあ互いに踏ん張ろうかだんます。閻魔は強いぞ」
「それなりに記憶はある。クロエやセイラの記憶を薄くしたのもお前なのか?」
「その分、お前はコアが本当に大切だろ? それで十分だよ」
 ヤムラは両眼を真っ黒の魔眼に変えて、次元兎を使わずにグランアースへ消えて行く。
「コア、メイファーのとこに飛ばしてくれ。実体を持つ思念体を創り出す魔導具を作製する。コアはメイファーの過去の映像からルーンの解析をしてくれ、発動時に特殊なルーンが発生しているかもしれん」
『それがですねマス、だんます』
「いや、そこは今まで通りでいい」
『かしこまりましたマスター、やっぱり慣れているので此方がいいです。しかしメイファーは現在閻魔の夢幻に再び進入しています』
「なに? てか何故そんな事がわかる?」
『勝敗を分ける鍵を探しているのでしょう。マスター、こうしてはいられません。フェリアース、レィゼリンへ急ぎましょう』

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