だんます!!

慈桜

第百六十一話 降臨してみた?

  西欧諸国に辿り着くか否かまでに急速に範囲を広げる命の森。 阿大陸へは、大臣への牽制も兼ねてエジプトにまでその範囲を広げている。
 そして舞台ははそのエジ、埃国。スポットライトはその地に住まうエルフ達に当てられる。
「我が友風の精霊よ。彼の者を穿ちたまえ」
 森の結界を利用し、安全な位置から精霊魔法を放つ少年エルフ。 そしてそれを補助する弓兵の子供達、狙う相手は赤毛のミノタウルス、ここにいるエルフ達よりもずっと高位の魔物である。
「後ちょっとだ! 我が友風の精霊よ! 友の弓の威力を高めたまえ!」
 強い魔物がダンジョンから飛び出してなお、森へ多量に進入して来る埃国の命の森に適応する為に、精霊術に長けた成長の早いエルフの一団が生まれ、森の結界に隠れながらに多くの魔物を狩り力を急速に上げているのだ。
 森に飲み込まれたダンジョンは、稼働はしているが魔物が抜け出す事はないのだが、近隣のダンジョンからは人間がちょっかいをかけて人の味を覚えた魔物が外に出てくる事は割と多い。
 エルフ達はそんな魔物を狩って力を蓄えている。 ミノタウルス相手に三日三晩戦う事もざらである。
「この前また守護者様が来てたらしいぞ」
「懲りないねぇ。エルフと見たらすぐ弱いと決めつける」
 モモカの度重なる呼びかけにも答えずに好き放題しているのだ。
「この牛の怪物倒したら森を出ないか?」
「そうだな。チビ達に矢の補充をさせよう。守護者様がいなきゃ矢も満足に補充出来ないのは痛いな」
「交渉できる人間を探すのも旅の醍醐味じゃない?」
 彼らは冗談交じりの発案から行動を開始、早々に旅の準備が整うと、森の外へ小さなエルフ達を連れて飛び出してしまったのだ。
 命の森から逃げるように駆け出したエルフの一団はあろう事かそのままスーダン共和国を抜けて南スーダンまで南下する。 人々の奇異な視線に嫌気がさして逃げ続けたと言えば正解なのだが。 彼らは天空に浮かぶ大陸を間近で見てみようと互いに言い訳をしながらに一気に南下したのだ。
「うぇるかーむ!エルフたん!」
 空に浮かぶ大陸を日除けに涼むちょんまげ男と屈強な戦士達の一団。
「なんだこいつら! 変な髪型のヤツがいるぞ!」
「撃て! 撃て撃て! 魔法を撃ち込め!」
 怯えるエルフ達は精霊魔法をちょんまげ男に向けて一斉に放つが、それを守る緑の鎧の男達がが軽く拳を振りかざしただけでそれらは容易く胡散する。
「俺ちゃんエルフに速攻嫌われるとか泣きたい辛い」
 エルフ達は敵対意思ありと見なされて容易く捕縛されてしまう。 なんとも運が悪すぎるエルフ達である。 よりによってこの男に捕まってしまうとは。 彼らに当てられていたスポットライトは即座に返上せねばならないだろう。 何故ならエルフ達を捕らえた一団の長は殺戮大臣信長なのだから。
 空に浮かぶ大陸から飛び降りる白髪を総髪に結った老人が、大臣の元へ歩み寄る。
「切り離した迷宮の設置と蓋はきっちりしておいた。特産ダンジョンは城の内部に並べておいた。万事抜かり無しじゃ」
「お疲れちゃんじぃじ。上行ってバ◯スって一番に言ってきてもいいよ」
「良くわからんが、それをお主がしたいなら儂は遠慮しておこう。しかしフェリアースのように天空都市や天空農園を作るならわかるが、天翔る移動要塞を造ってしまうとはな」
「ラピュ◯だから。移動要塞じゃないから」
 ラピュ◯にしては禍々しいが、彼らはこの数ヶ月、この天空の大陸を創り上げる事のみに心血を注いで来ている。
 ドワーフのブロックと浮遊石を繋ぎ合わせて、リアルマインクラフ◯状態で天空に浮かぶ陸地を創り上げたのだ。 極めつけは大金でドワーフを雇って連れこみ、自身が治めた地をがっさり浮かし始めたのだ。 赤備えや黄備え達を深雪の元に出向させ、浮遊石ダンジョンに潜り、掘った分の料金を支払う程の徹底ぶりである。
 気付けばスーダン共和国とチャドの国境から縦に切り落とした程の大臣の支配地がすっぽりと入る天空の陸地が完成する。
 東西南北四つの城と四つの都、そして22の街。周囲に等間隔に並ぶダンジョンと、用途がわからない禍々しい砲門の数々。 まさに戦う為だけの天空の国である。
「後は魔導砲打てる奴育てないとな」
「そう言えば、奴ら人の血を浴びれば肌は黒くなるが、眼がよくなるぞ。それに魔物寄りになるから魔導砲の粉塵を魔素に変換する浄化作用もあったはずだ」
「なにその万能感、なんたる御都合主義キタコレ。おい雑魚赤備え」
 アスラのひょんな一言に捕らえられたエルフ達は顔面蒼白で何かを必死で叫んでいるが大臣に聞こえるはずもない。
「なんでござりましょう大殿」
 樺太遠征に同行していた赤備えの下っ端は、あれ以来大臣に気に入られてパシリになっている。 呼ばれると即座に駆け寄り膝を折る。
「あのエルフたん達養殖してきてみっ! 血ぃドパドパかけちゃって!」
「ありがたき幸せ!」
 そうと決まれば行動は即座にである。 人の血を浴びればドラウ、所謂ダークエルフに姿を変えてしまうのだが、魔物の職人の飲み友達がいる大臣からするならば、どんな姿であろうが、役に立つなら使うべきの精神である。
 エルフの少年少女とチビ達に織田木瓜を刻むと、武士選考に送り込む。
 それと同時に西の空が墨をこぼしたようにドス黒く染まり始める。
「うわぁ。まだ全然時間足りないんだけど、しゃーないか」
 その頃、西欧でグールを狩りながらに命の森を広げているハクメイの元に、久しい来客が訪れる。
「お前は頭がおかしいんじゃないかのう?」
「ラオちゃん! どうしたっすか? こんな所まで!」
 久しい来客とは、紫色のツインテールの西洋美少女のラオだ。 元糞尿垂れ流しのジジイであるが。
「いや、多くのエルフ達が森から逃げてしまってな。途中で存在が消えた事にモモカが落ち込んでいるのじゃ。それでモモカに扉を使わせて貰って来たんだがのう、ハクメイ、少し探しに行ってくれんか? ワシもモモカの眷属になってしもうておるから森から出られんのだ」
「モモカちゃんは其処まで力が使えるようになってるっすか? 少し厄介な人に合いそうっすけどいいっすよ。見てくるっす 」
 ハクメイとしても信長の存在が気になるがラオの頼みを無碍にするわけには行かずに阿大陸へ向かう。
 しかし其処は既にもぬけの空だ。 阿大陸には多数存在すると言われていた迷宮ですら一つとして存在しない。
 そして人は存在せずにそこかしこに吸血鬼の上位種や下位種が建物の中で陽を避けながらに涙を流し空を仰いでいるのだ。
「何を泣いているっすか?」
「リ、リ、リ様が、私、達は、弱い、から、連れて、行って、くれ、なかった」
「リリリ? っすか?」
「我らの、真祖、様だ、来たる、戦い、には、陽の、光の、元でも、動ける、開祖様しか、連れて、行かれ、ないのだ、と」
 上位種の吸血鬼は日差しに怯えて震えながらに嘆き、涙を流し空を仰ぐ。
 ハクメイは怒りと情けなさに眉間に皺を寄せ、歯をくいしばる。
「結局死んで無かったっすか」
 それからのハクメイは怒涛の勢いを見せる。 エジプトから始まり大臣達の影響下にあった阿大陸の国々を容赦無く命の森へ変えて行ったのだ。 当然災害と呼ばれる庭師ランドスケーパーの権能をフルに活用し、その地に残る命を全て森へと変えたのだ。 そしてそれはいつしか、図らずも世界の三分の一を命の森を変える事へとなる。
 轟音が世界中に鳴り響き、まるで滝の水が流れるが如く、命の森を覆うように伸びる果てなく思わせる巨大な世界樹が聳え立つ。
 その世界樹を見上げながらに、ハクメイは怒りと緊張の糸が解けてしまったのか、そのまま前のめりに意識を失って倒れてしまう。
 世界を覆う世界樹の果てなき空の緑を見て大臣はこれ以上ない程に嫌らしい笑みを浮かべる。
「お疲れハクメイ、エルフで一本釣り大成功だわ。後は俺ちゃんのターン。いや違うな、常に俺ちゃんのターン!!」
 天空に浮かぶ大陸は先陣を切り米大陸へと進む。
 これより全世界を巻き込んだ戦乱の歴史の幕開けとなる。
 米大陸が見えると同時に、大臣は木札を並べて高らかに叫ぶ。
「よく聞けキチガイ集団!ごめん、これは違うな。やり直しだ。よぉし!皆の者。殺して殺して殺し尽くしてやれ! 俺ちゃんからの絶対命令だ! ありんこ一匹逃すなよ! この戦争、俺らだけで終わらせろ!!」
 空から無数の黄金騎士が降り注ぐ、酒呑童子が指揮権を持つ、レイスが搭乗するあれである。
 空から無数に100層クラスの騎士が降り注ぐなど悪夢でしかないが、そんなのは序の口だ。
 容易く洗脳され、肌を黒く染めてしまったドラウ達が魔導砲を只管にぶっ放しながらにビル群を破壊して行く。 その指揮は星虎が行っている。
「良いぞ! 黒肌のエルフ達よ! ならば私も魔導の真髄を見せよう!!」
 星虎が放つ黒い魔玉は触れるもの全てをえぐり無に帰して行く。
「では始祖様、真祖様。我々も戦場へ参ります」
「無理かもしんねぇけど死ぬなよお前ら」
「何をおっしゃいますやら。我々は吸血鬼、死ぬ方が難しくありますよ」
 ラブロフとリリリの前に立ち並ぶ美男美女の吸血鬼が、その身を蝙蝠に変えて飛んで行く。 リリリが開祖へと生まれ変わらせた選りすぐりのエリート達である。
 そして変わり種はデュラハン。 彼は大臣より与えられたネコワンダーZを依代に自身の姿を変え、まるで妖怪のガシャドクロに似た姿に変わってしまっている。 大きさから言えば到底本家には届かないが、巨人の骨組みにこれでもかと様々な魔物の魔石やら心臓やらを埋め込まれている本体を黒い闇で隠し、骸骨の顔面に筋骨隆々のラバースーツを着たような謎の見た目であり、既にデュラハンとして残すは名前だけとなっている。
 ネコワンダーZの心臓は、覚えていないかも知れないが、以前システマの世界式下での抗争で戦った悪魔の心臓がメインコアとして使われており、当然その世界式が失われた今、悪魔の心臓は力を失っていた。 しかしその心臓は吸血鬼の始祖であるラブロフから引き抜かれた五つ心臓と共鳴を起こし、特殊な魔導を使うためのコアとなって生まれ変わった。
 その特殊な魔導こそが、彼が今肩に担いでいる特殊な砲門である。
「ラディアル、砲、撃つよ」
『デュラハンが撃つぞ! 耳塞げ!!』
 木札の向こうからは大臣の騒ぐ声が響き渡る。
 刹那、あまりの衝撃に天空の大陸が僅かに揺れると、緑と青の魔法光が放たれ、轟音と共に1km四方の地が1点に集約し大穴を空けて消滅する。
 凶悪である。
 ラブロフの心臓五つが為す莫大な魔力循環と、悪魔の心臓が持つ世界式から消え去る反応を融合させ、ラディアルを砲弾として消費する魔導砲をぶっ放せば、世界の一部が消え去るとんでも兵器の出来上がりである。 多くのラディアルを消費するので乱発は出来ないが、ここは開戦の狼煙だと景気良くぶっ放しているのだ。
 大臣も混沌とした破壊をBGMに気分を良くしたのか、腰に差したハリセンを引き抜く。
「レッツパーリィー!!」
 影魔人がハリセンを振り回し破壊の限りを尽くし始めるが、予定ではそれに続いて降下作戦を行う九色備え達が、正座をしながらに大臣の背後に立ち並び、一本の大太刀を掲げている。
「あれ? お前らガチなの?」
「我々も強くなりました。九色備えの下っ端や雑兵は雑務に当たらせますが、我らは今こそ大殿様と共にあるべきかと。そしてこの際不殺のハリセンはお捨て下され」
「そっか、わかった。けどお前らの誰かが俺ちゃんに勝てば、俺ちゃんの後はそいつが継げよ?」
 そして、大臣が掲げられた大太刀を受け取ると、かつてより九色備えが渇望していた殺戮大臣信長と九色備えの武士選考が行われるが、影操術の影魔人の一刀の元に容易く斬り伏せる。 それは一撃ではない、荒野を一閃する程の大太刀が縦横無尽に振り抜かれたのだ。
「あれ? 不思議と悲しくない。あ、みんな俺ちゃんの中で生きてるのか」
 大臣はショップを開き、鼻歌交じりに羽織袴をカスタマイズして行く。
 それは金と銀をベースに、他五色をマーブル模様に練り込み、白と黒の織田木瓜を両胸に刻んだド派手な羽織袴である。
 キンキラの羽織袴に大太刀を構え、これまでの気の抜けた雰囲気が一切感じられない大名そのままの姿となった大臣は木札を拾い上げる。
「ラブロフ、雑魚兵とラピュ◯頼むね」
『構わねぇけど信長はどうすんだ?』
「だん○ちゃんとちょっと行ってくる」
 大臣が天空の大陸から飛び降りると、巨大な鎧を身に纏った戦象が猛々しく吠えながらに、その背で大臣を受け止める。
「だん○ちゃん、動いてる奴全部殺すからそのつもりでね?」
「パォォオオオオオオン!!!」
 後に米国大虐殺と呼ばれる一幕の主役となる殺戮大臣信長の降臨である。

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