だんます!!

慈桜

第百五十話 むちゃぶり?

  精神世界、ダンマスの自室。
 テレビとPCと布団だけの和室で、精神体にされて監禁されているヒルコとカルラ。
 カルラは後にグレイルに斬り殺された後にデバイスを回収され、ここに連れて来られている。
 双方既に初級冒険者程度の力しか無く、この六畳一間の空間で長い時間を過ごしている。
「あれ? 昨日放送のアニメ、まだUPされてないな」
「ヒルコやめたほうがいいよ。ダンマスにまた怒られるよ」
 ネットサーフィンをしながら時間を潰し、違法アップロードの漫画やアニメを見る毎日である。
 其処へ、テレビのホワイトノイズのような雑音が聞こえると、ヒルコは慌ててニュース画面に切り替え、カルラも布団に潜りテレビを見ているふりをする。
「お前またエロいの見ようとしてただろ」
「し、してないよ! アニメ探してただけだよ!」
 案の定ゲンコツが落ちるが、今日のラビリは二人を説教しに訪れた訳では無さそうだ。 何故なら、その背後にはフードを深くかぶり顔を隠した男と、コンビニ店員の格好をした女、そして極めつけは金髪碧眼の虹色の光を放つ美しい幼女がいるからだ。
 本来であれば、長い長い翼がある筈であるが、狭いので仕舞っているのだろう。
「コアさんですか」
 ヒルコはあまりに驚き、少しでも身を正そうと正座をする。 布団に隠れていたカルラも尋常では無い空気を読み取り、即座に布団から飛び出し正座を始める。
『そうですよ。ヒルコ、カルラ。どうか楽にして下さい』
 すぐ目の前にいるのに、コアは天使の微笑みを見せるだけで、声は脳内に直接響く。
「まぁ、今日はお前らに死んで貰おうと思ってここに来たんだ」
 遂にこの日が来てしまったかと、ヒルコとカルラは長い監禁生活で、既に諦めの境地に達していた。 二度と日の目を見る事が無いのであれば、いっそ殺して欲しいとも口には出さないが何度も考えていたのだ。
「そうだな。ややこしいから新しい名前はヒルとカルでいいんじゃないか?」
 ヒルコとカルラはラビリの言葉に首を傾げる。 存在を消滅させる為に、わざわざ名前が必要であろうか? キョトンとする両名の前にコアが歩み出ると、髪の毛の上からそっと口付けをする。
「あぁ、コアちゃん。なんてはしたないんだ」
『仕方ありませんマスター。バグを完全に取り除き、存在の改変を行うのですから』
 コアの声が聞こえる間も無く、両名は体をペンでぐるぐると乱雑に書き殴ったような姿に変わり、次第に10年以上は成長した大人の姿となる。
 ヒルコのマッシュルームカットのような髪は胸まで伸び、身長も180cm程に成長している。 カルラも同様に、元のツインテールの少女とは打って変わり、ロングヘアの女性へと姿を変える。
 髪色は互いにベージュに近い色のままだが、進化以外に見た目に変動が無い冒険者の目から見て両名がヒルコとカルラだと気付く者はいないだろう。
「なんかすげぇ長生きした気分だ」
「ほんと。けど力が全く無くなってる」
 手を握ったり広げたりと、自身の体を確認するが、初級冒険者程度の力すらも失ってしまった二人は、更に肩を落とす。 システマの世界式の元とは言え、大きな力を持っていた二人からするならば喪失感は相当なものになるだろう。
「お前らには人間になってもらったが、これから米国に渡り、ブラックカードを使用して敵側の騎士になって貰う」
「今話題になってる失踪事件のカード?」
「そうだ、あれは俺の世界式の敵でな。お前らには尖兵として向こうの世界式に潜ってもらう」
 ラビリは簡易的な図面を取り出すと、閻魔の騎士選考についての説明を始める。
「でもそれじゃ結局向こうの陣営になるんじゃ? コアさんから離れるのは嫌だな」
「それはそう思い込んでるだけだ。お前らは曲がりなりにも俺とコアを裏切った反乱分子だ。ただ作戦の為にコアへの忠誠値を最大にしただけでな」
 背後ではコアがごめんねと舌を出しながらウインクをする。
「現状俺が調べた限りで、生還度が低い地域を色別で丸で囲ってる。これを渡す事は出来ないがとりあえず脳味噌に叩き込め」
「米国に密集してるのね」
「そうだ、よく気がついたなカルラ。現状でブラックカードの広がりはすさまじいが、未だ合衆国に留まってる。だがカナダ、中米南米、そして西インド諸島、ここら辺はまだ薄い」
 ラビリが指を鳴らすと、テレビ画面には閻魔のブラックカードが映し出される。
「コンビニだろうがカフェだろうがはたまたフリーペーパー置き場だろうが、このデバイスは米国の至る所にある。それを手にしたら、まず危険度の少ない中央部でカナダと中米を結ぶ道を作れ。閻魔にアピールしてもいい。俺は私は優秀なんだぞってな」
 コタツを押入れから取り出し、地図を広げると、ヒルコ、カルラ、綾鬼、樹鬼の駒を置く。
「俺はその間に、こちらの世界式へ騎士を売れる一流の商人を探す」
「で、でも、えんまさんの世界式の居心地が良くてまた裏切っちゃったらどうするんですか?」
 コンビニ店員の服装の樹鬼が問うが、ラビリは心配するなとそれを制する。
「お前らにはトリガーを埋め込んでる。それを今伝える事は出来ないが、それが起こるその日まで存分に裏切ってくれ」
 地図の海部分にマジックでTriggerと記し丸で囲む。
「中央突破が叶えば、加国そして中南米で力を蓄えてくれればいい。他にも協力者を送り込む、それで僅かながらにもお前らが閻魔の勢力を削ってくれたら万々歳だ。成功の暁には、お前らを本当の意味で自由にしてやるよ。これは俺とコアを裏切った罰の執行だからな」
「協力者って、俺ら以外に裏切り者はもういないよな」
「俺がこの半年何もしてこないとでも思ったか? この空間であれ、コアが顕現しているって事は出し惜しみしてないって事だ。それはその内わかるだろう、今はお前らの検討を祈るよ。あっ!とりあえずこれ持っていけ! じかんがない!!」
 その一言を最後に、彼等はその場から姿を消した。
『大丈夫でしょうか。現在の閻魔は未知数ですが』
「大丈夫だろ。あいつらは今はおとなしいけど、元は俺tueeの弱い者いじめが好きな連中だからな。難しく考えなきゃ遂行できるはずだ。それに駄目でも新種の鬼を解明できたのは喜ばしい」
『何もなければ一番良いのですが』
「それよりも商人を探そう。最近いきなり羽振りが良くなった者や、こちらのDMショップにアクセスした者、更には購入した者をピックアップしてくれ」
『かしこまりましたマスター』
 コアはラビリの胸の中に消え、そしてラビリもまた、自室から姿を消す。
 一方、転移させられたヒルコ達だが、カルフォニア海にポツリと浮かぶ小さな島で青い空と青い海、そして照りつける太陽に呆然としていた。
 転移を閻魔に気取られない為に、ジャイロとグレイルが米国に入国したタイミングで転移させたからだとは、当人達は知る由も無い。
「嫌がらせしやがって」
「けど見なよヒルコ、すごい綺麗だよ」
 何処までも青く透き通る海、確かに旅行で訪れたなら、この神秘的な海に心奪われるだろう。
「でも私達も鬼の力を失ってるし」
「だな。これを泳ぐのは辛い」
 樹鬼と綾鬼も存在の改変で鬼で無くなってしまっているのだ、冒険者以下の能力しか無いただの人間に、この海を泳いで渡れと言うのは酷な話である。
「そのリュック、何が入ってるの?」
 ヒルコが強引に渡されたバックパックを開くと、中には折りたたみの釣竿と多くの針と重り、ノコギリ、包丁、鉄串とライター、塩一袋、そして申し訳程度に簡易テントが入っている。
「確信犯だな」
「とりあえずヒルコさん、これ使う?」
 樹鬼はヒルコの長い髪が邪魔そうだと思ったのか、輪ゴムを差し出すと彼はそのまま髪を一纏めにする。
 服装は幼い頃のままで、半ズボンのスーツ姿であるのだが、成長しても膝小僧は眩しい。
 柔らかい顔立ちからキリッとした顔立ちへと成長しているが、その表情は険しい。 眉間に皺を寄せて、こんな所に放置された怒りに震えているのだ。
「島流しじゃねぇか」
 鼠色の顔面騎乗上等とプリントされたフードを深くかぶり顔を隠す綾鬼は、憤るヒルコを無視して釣竿のガイドに糸を通し始める。
「とりあえずセットだけしとく、俺は餌探しついでに島の全域を把握しに行く。ヒルコさん、怒っていても仕方ない。先ずは生きる為に出来る事をしよう」
「わかってるよ。わかってるけどムカつくんだよ」
 憤るヒルコには悪いが、別にここは無人島でもなんでも無い。 裏手に回れば陸地が見えるし、住民もいるしリゾート地でもある。 ただ外海の海岸は人気も無く、絶海の孤島に感じるシチュエーションな為に、ダンマスが遊び半分でサバイバルセットを渡して送り込んだのだ。
 彼に対しての怒りが強ければ騙され、適応しようとすれば綾鬼のようにすぐに種に気が付いただろう。
 夜に備えて枯れ木を集めて焚き火を囲んでいるヒルコ達の元へ綾鬼が帰ってくる。
 いかにも明日を心配していそうな悲壮感に綾鬼は僅かに肩を震わせる。
「どうだった? なんかわかったか?」
「いえ、わからない。でも居着きの住民とコンタクトがとれて、仕事を手伝うなら小舟を貸してくれる事になった」
「本当か? それは朗報だな! 早々に脱出できそうだ」
「そうですね、本当に」
 其処でも綾鬼は必死で笑いを堪えながらに肩を震わせる。 ヒルコはそれを居た堪れなく感じたのか、肩を抱き寄せて頭をゴンゴンとぶつける。
「男らしく胸を張ろう。震えてたって始まらないぞ」
 盛大な勘違いである。 子供の姿の時は可愛らしいキャラ作りに徹していたが、今や彼はヒッピーの好青年と言った風情である。
 翌日。
 綾鬼に案内されるがままに四名は海岸通りを歩く。 整地されたコンクリートの道をだ。 それだけで言葉を失うヒルコ達、だが、昨日の震える綾鬼を見て考えを変える。日本でも放棄した炭鉱の島とかもあるんだから、ここはその名残りなのかもしれないと。 しかし、その懸念は遂に確信の物となった。
 目の前には高級クルーザーが立ち並ぶヨットハーバーに白塗りのコテージや背の高い海岸沿いの高級ホテルなどが立ち並んでいたのだ。
「綾鬼、どう言う事か説明してくれないか?」
「え? 言ったはずだよね、居着きの住民とコンタクトは取れたって」
「てめぇ!! 昨日は震えてたじゃねぇか! 騙したのかよ!」
「違うよ。笑ってたらヒルコさんが勘違いしたんじゃないか」
 ヒルコは拳を握り締めて今にも綾鬼に殴り掛かろうとするが、その手を振り下ろしてヨットハーバーでタバコを吸う老人に話しかける。
「やいジジイ! さっさと船に乗らせやがれ!」
「why?」
 当然である。 既にヒルコ達は冒険者ですらない、翻訳機能ですら失われているのだ。
『はーい、おっちゃん。友達連れて来たよ。手伝いって何すりゃいいの?』
『おー!アヤ! 待ってたんだぞ!さぁさぁ乗りな!』
 ネイティブで馴れ馴れしく会話をする綾鬼と日に焼けた色黒のジジイ。 招かれるがままにクルーザーに乗り込むと、即座に出航する。
『息子のパーティーに出にゃならんのだが付き人がいなけりゃ格好がつかんでな。アヤの見た目ならばっちしなんだよ』
『俺はこの顔が嫌いで嫌いで仕方ないけどな。ちょっと前まではフードがズレないように上下でこんなに長い牙生やしてたんだぜ』
『そりゃあ去年のHalloweenの話か? マフィアは今を生きてるから過去話なんかはやめてくれよ?』
『わかってるよ。ジョークを言ったら笑えよクソジジイ』
「「HAHAHAHAHA!!!」」
 異常に盛り上がるジジイと綾鬼を見てヒルコとカルラは首を傾げる。
「なんであいつ英語ペラペラなの?」
「あ、なんか、引きこもって洋画ばかり見てて覚えたとか」
 気まずそうに樹鬼が話すと、ヒルコは更に劣等感からか機嫌が悪くなる。 そこへ火に油を注ぐように、ビールをヒルコへ差し出す。
「好きに飲んでいいらしい」
「お前っ!!」
 ヒルコは勢い余って綾鬼の胸倉を掴んでしまう。 その勢いにフードがはらりととれると、そこからは黒髪の美少女と見間違う程の美人が現れ、綾鬼は急いでフードをかぶる。 鬼の時は焼き爛れた顔に上下に伸びる牙があった綾鬼がだ。
「お前……女だったのか?」
「男だよ。てかヒルコさん。前までは幹部だったかもしれないけど、今はただの人間同士なんだからあんまり偉そうにしないでほしいな。どの道協力しなきゃダンマスの仕事なんて出来やしないよ」
「あ、あぁ、悪かった。すまんな」
「わかればいいよ、はい」
 ヒルコ達は綾鬼に差し出されるがままにビールを渡すと、再びジジイの元へ戻って行く。
「どう見ても女なんだが」
「そう言う事なんですよ」
「え? どう言うこと?」
 樹鬼の意味深な発言に首を傾げるヒルコだが、一行はなんなくメキシコグアイマスへと訪れる。


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