だんます!!

慈桜

第百二十六話 冒険者学校?

  ウルトラマン眼鏡に白のスカートスーツがはちきれんばかりのダイナマイトバディの女性が竹刀を振り回している。
 何の事はない、これはいつもの冒険者学校の光景である。
 早朝にも関わらず総勢50名の少年少女の冒険者達は、全力疾走とも言える速度で校庭を走り続けている。
「おはようございますコア・アマゾネス先生!!」
「ハルキヨ、ラップ1.2秒遅れてる。2周追加」
「ありがとうございます!コア・アマゾネス先生!!」
 意味がわからない。 全力疾走で、タイムラップを落とさずに走り続ける訓練を早朝5時半から行っているこの学校はなんなのだろうか。
 同ラップ5周が成し遂げられるまでランニングは終わらないが、7時を迎える頃には、大抵の生徒はランニングを完了させる。 スパルタ過ぎる訓練により感覚が身についているのだろう。
「ゴブリン組手、拳百、蹴り百」
『ありがとうございます!コア・アマゾネス先生!!』
 だから誰だよと。 コアのサポートアバターであるのは間違いないが、いつもはゆるふわ系のサポートアバターを好むコアだが、このアマゾネス先生は見るからにスパルタ教師と言ったザマスな見た目であり、普段のコアとギャップがありすぎて混乱してしまう。
 しかし生徒達は言われるがままに健気にゴブリンを拳のみで100体、蹴りのみで100体となぎ倒して行く。
 午前9時、全生徒のゴブリン組手が終了すると各種回復薬が配られる。
「これより朝食とする。五分後逆立ちグランド20周」
『ありがとうございます!コア・アマゾネス先生!!』
 休憩など僅かにしか与えずに、再び逆立ちでのランニングが完了すると、生徒達は全力で校舎を目指す。
 座学の始まりであるが、生徒達は樹木の蔓を伸ばしたダンジョンの前に整列し、規律正しく整列してダンジョンに入って行く。
 そして1時間きっかしに再び整列しながら生徒達は現れる。
「これより下級、中級の回復薬の調合を開始する。品質、等級を均等な物を各三本提出した者からルーン教室へ行くように」
『ありがとうございます!コア・アマゾネス先生!!』
 既に粗悪な宗教の様相である。 生徒達は一心不乱に採取ダンジョンから搔き集めた素材で回復薬を調合し始める。 やはりヨモギは欠かせないようであるが、そこは深く掘り下げるのはやめておこう。
 一早く提出が終わった生徒達は、ルーンの書き取りテストを行い、満点を取るまでに何度も繰り返す。
 それが完了すると、硬いパンと牛乳を与えられ昼食となる。 生徒達は味わう間もなく喉に押し込み、再び運動場へ全力で駆けて行く。
「これよりオーク相手に連携の訓練を行う。5人一組でパーティを組み、列を乱さず定位置につけ!!」
『ありがとうございます!コア・アマゾネス先生!!』
 前衛中衛後衛、絵に描いたような基本陣形でオークを撃破しては、再びオークと戦う。 時間が許される限りオークとの対戦を行い、3時になるとおやつに塩飴が配られる。
 少年少女達はそれを一瞬で噛み砕くと、次はパートナーを背負いながらにグランドを走り始める。
「シズク、負傷者ありなしでラップ1秒変わってる。誤差0.5厳守なさい」
「ありがとうございます!コア・アマゾネス先生!!」
 負傷者を背負いながらに敵から逃げる場合を想定した訓練である。 全力疾走との誤差を0.5秒以内で一周走り切ればパートナーと交代なのだが、脚が引きちぎれる程にぶん回しても厳しい条件だ。
 しかし3ヶ月間みっちりこの訓練を受けて来た生徒達は一味違う。 全速力同ラップでグランド5周できる冒険者達は、仲間を背負って誤差0.5一周の過酷な世界を走り抜ける事に成功するのだ。
 17時の鐘までに全員が合格出来れば、少年少女達は晴れて冒険者として学校を卒業出来る。 残り三組が走る様子を皆が胸に手を合わせて祈っている。 残り時間は5分、たかが200mトラックが、万里にも見えるのだから不思議である。
「セツナ・エフ・セイぇ全部は呼んであげないわ。合格」
「ありがとうございます!コア・アマゾネス先生!!」
 イケメン少年がなんとか潜り抜け残り二組、連日の訓練そして1日の疲れの全てが集約されるこの時間、この科目が苦手であったシズクは亜麻色の髪を揺らしながらにパートナーの背中で泣きじゃくっている。
 パートナーの少年はアースオーガのサブロウ、誰をリスペクトしているかは一目瞭然の歌舞伎役者のような姿の少年である。
「元長弥助合格」
「ありがとうございます!コア・アマゾネス先生!!」
 目の前の冒険者もなんとか合格する事が出来、残すはサブロウとシズクのみ。
「グギギギギ!!うぉらぁっ!!」
 運命の瞬間が訪れる。 卒業期が訪れているにも関わらず一週間もの延長が為されてしまっているのは、くじ運のせいか小柄なシズクと大柄なサブロウのペアが最後の課題をクリア出来ないのが原因だった。 どうしても、クリアするまでに時間がかかり、なんとか火事場のクソ力で通過できる頃にはサブロウの走る時間が残らなかったのである。
 しかし時間一杯。
 サブロウの足がゴールの白線、コアのサポートアバターの目の前を駆け抜けると同時に、時が止まったかのように静まりかえる。 皆々が旨の前に手を組み祈りを捧げている。
「サブロウ合格。よくやったわね」
 同時に17時終業の鐘が鳴り響くと、ドッと歓声が巻き起こり、チャイムの音すら搔き消して胴上げが始まる。
 長い長い地獄の3ヶ月と一週間にやっと終止符が打たれたのだ。
 皆々が鼻水を垂らしながらダラダラと涙を流し、互いに抱き合って卒業を喜びあっている。
「やっだ、やっだなじずぐ」
「ごめんね、みんなごめんね」
 号泣である。 さすがのサポートアバターのコアですら涙を浮かべてウンウンと頷いている。しかし此処まで感極まる程の地獄を科したのは此奴である。
 だが何故か少年少女達は、皆アマゾネス先生にハグを求め、その胸のうちでワンワンと涙を流す。 意味がわからない。
「ゴアざん!ありがとござまじだ!」
「頑張ったね、本当頑張ったね!もう何処に出しても恥ずかしくない立派な冒険者ですよ」
 卒業証書の代わりに冒険者の全システムの開放が行われ、回収されていた携帯電話と財布が配られると、皆々が自室へ全力で走り、荷物の全てをアイテムボックスに押し込むと、星空の下卒業式が行われる。
「これまでにあなた達が倒した魔物のDMを分配します。これからは一人の冒険者として生きて行くのです、旅の資金としては十分でしょう」
 メニューに表示される巨額のDMに感慨深くなり、涙を堪えながらにアマゾネス先生のありがたいお言葉に耳を傾ける生徒達。
「冒険者の心得を忘れずに、最高の冒険者である事を心より祈ります。それでは「ちょっと待った」
 絶妙のタイミングで待ったの声がかかり、運動場の暗がりから現れたのは勿論ラビリである。
「よく頑張ったなお前達。ちょっとだけ話を聞いてくれ。これはあくまで希望者を募ってるだけなんだが、今樺太の豊原ってとこでダンジョンパークを開発してるんだ。初級ゴブリンダンジョンから50層クラスまでのダンジョンが犇き合う土地なんだが、良質の狩り場が欲しくなったら俺かコアに連絡を入れてくれ。本来秋葉原駅前のポータルは1万DMを要するが、片道は卒業祝いで俺が負担してやる。それだけだ、じゃあコア」
「ま、待ってください!!」
 言いたい事だけ言って颯爽と消えようとするラビリに思わず声を荒げたのは、クリーム色のような明るい亜麻色の髪の長い髪の少女であるシズクだ。
 冒険者になる以前も可愛らしい見た目であったが、より一層磨きがかかった美少女となったシズクはゆっくりと前に一歩歩むと、深々と一礼をする。
「ダンジョンマスター様! 私の我儘を聞き入れて下さりありがとうございます!! お陰で本当に掛け替えの無い仲間に出会う事ができました」
「ん、あぁ、まぁお前の意見も貴重な意見の1つであった事には違いないな。正直連日こんなにも応募が殺到しているのは完全に予想外だが」
 感極まるシズクに対してラビリはマイペースに自身の思考のパズルを軽くする作業に徹する。
「あなたには感謝してもしきれません! そして何より、こうして冒険者としてあなたと向き合える事に何よりの幸せを感じます!! もし豊原とやらに行く事があなたの助けになるのならば、私は喜んで参ります!! あなたの力になりたいのです!!」
「あぁ、助かるけど行く? 他も行きたい奴いる?」
 ラビリが質問を投げかけると、ほぼ同時に50名の手がズビシッと上がる。 そりゃそうである、初期の座学でダンジョンマスターの助けになる事を第一に考えるべし!と竹刀を振り抜かれながら矯正されているのだ、そこらの冒険者の緩さは一切ないのだ。
「コアちゃん?」
「いいえ私はアマゾネス。ただの一人の戦士です」
「あら、そう」
 斯くして洗脳にも近い教育を受けた冒険者学校の生徒は、ダンジョンパークでの一期冒険者として活動する事となる。
「まぁ、シズクもお前らもまだまだ若いんだから思いっきり冒険者楽しめよ」
『全ては御心のままに』
 皆々が心臓に拳を叩き込み、声を揃えるのを見届け、ラビリは変顔で答える。
「なにそれこわい」


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