だんます!!

慈桜

第百二十二話 デコイな魔王様?

  中華料理店のVIP個室。 六角形の空間に豪奢な金の龍の彫り物が壁に埋め込まれている高級中華料理の個室内では、高級スーツを着ている怪しげな男達が海老を貪り、何やら剣呑な空気で互いを睨み合う。
「日本のクソめ。此方から歩み寄ってやろうとしているのに完全に無視だ」
「いっその事、民を大多数送り込んで無視の出来ない状態にしては?」
「どっかの潰れた民度の低い国のせいで日本の周辺国への感情は最悪だ。それに少し前ならまだ可能性があったが、今は海竜が親玉並に成長してる。日本海も東海も完全にシャットアウトだ」
「先程から気になる物の言い方が多いな。我々が世界各国から送られる支援を丸々貴方達に渡している事をお忘れか?それに我々の海は日本海などではない。黄海か西海と呼んで貰いたい」
「そう言った考え方をしているからこそ、日本が新兵器を開発した際の実験台にされたんじゃないのか?現に我々の国は反日式典を開いただけで国家元首が豚に犯されたんだからな」
「神に抗おうとする貴様等全員が終わってる」
 見れば構図は中国官僚と南北から逃げ果せた朝鮮の偉いさん方の会合のようだ。
「そもそもお前達が反日政治を激化させて日本から金を巻き上げまくったからこその結果だろ。パクチョネの親父さんが10億ドル以上引っ張ってたのに、更に娘に1千万ドル吹っかけて来たらキレるぞ普通に」
「確かにそれだけじゃなく、我々としては間違っていないと断言するが、日本の受け取り方1つでは数々の無礼があった事は理解している。だからこそ、牙の抜かれた温厚な日本が再び右傾化しているのをいち早く感じ取り擦り寄る方向にシフトチェンジもしていた。メディアを利用して韓国は実は日本が好きなんですよと情報操作をしてまでな」
「大手広告代理店やネット掲示板を利用して世論操作しようとしても、結局は真実に近づけ過ぎた事もあるだろう。それに一々我々は間違ってないみたいな言い方が鼻につくんだ。お前らから土下座外交で多額の寄付金を貰ってなかったら今すぐ撃ち殺したいぐらいにはムカつくよ」
「なんだとキサマ、もう一回言ってみろ」
 ヒートアップしておっさん同士の殴り合いに発展しそうであるが、それを落ち着かせるようにパンッパンッとゆっくりとした拍手が響く。
 音に反応し視線を送る先には壁際に置かれた椅子に腰掛けるラビリの姿がある。
「だ、ダンジョンマスター?!」
「ほら見ろ。日本を悪し様に言うからこうなるのだ」
 責任の擦りつけ合い、誰かを矢面に立たせようと一目散に壁際に寄り、最後尾の取り合いをしている。 ただ一人だけはなんら抗おうとせず席についたまま目を閉じているが。
「まぁまぁもちつけ愚民共。色々話し合ってたみたいだけど、日本側の結論を俺が代弁してやると」
 ラビリが手を翳すと、テーブルは木っ端微塵に粉砕する。
「こっち見んなって感じ。わかる?」
 官僚達はブンブンと首肯するが、ラビリは知らんぷりでデバイスを取り出すと、躊躇い事なく目の前の男の胸に突き刺し、存在そのものをデバイスに閉じ込める。
「あ、言うの忘れてたな。お前ら全員レベルアップの為のサービスダンジョンでボスモンスターやってもらうから!150回ぐらい死んでもらうから覚悟しといてね」
「お許しを! どうかお許しを!!我々は日本の属国になってもいいとすら思っております! 此処まで立て直したのだからどうかご慈悲を!」
「いいねぇ。じゃあお前は国を潰す担当大臣ね。はいどうぞ」
「や、やめ! あひゃ、あひゃひゃひゃ!」
 イリーガルジャムを首筋に撃ち込まれるとアヘ顔で白眼を剥きながらにヨダレをダラダラと垂らし、次第に下位悪魔への存在改変が始まると、ラビリは男を何処かへ飛ばす。
「てかお前、お前だお前こっち見ろ」
 ラビリの指名は日本を馬鹿にしていた男である。
「わ、私ですか?」
「そうお前。お前キムチな!お前キムチにして生ゴミで捨ててやるよ」
 男は五体投地の土下座を敢行するが、ラビリは邪魔だと蹴りのけると、一瞬で肉片が飛び散りミンチになってしまう。
「ひぃ、ひぃぃい!!」
「うわ。加減するの忘れてたな。けどいいや、お前ら一杯いるしな」
 瞬く間に会合をしていた者達はデバイスに集約されていく。 そして残す最後の一人は、席に腰掛けたまま目を閉じている。
「あれ、命乞いしないの?」
「これでも軍人である以前に武人だ。抗うは無駄だと理解している」
「ふーん、なんかいいなお前。ちょっとだけ面白い事考えたんだけどさ、おっさん魔王やってみる?」
「魔王……ですか?」
「そうそう、今の中国ってオークキング、オーガキング以下のオークとオーガ、んで屍喰鬼グールと下位悪魔が繁殖しまくる感じになってんだわ。このまま順調に増えて第二世代のラディアルを多量に含む個体が増えたら、一気に剪定で間引かれて南北朝鮮みたいな命の森が広がる予定なんだけど、今の内に配下を集めてインドとか中東あたり攻め込んでくるなら利用してやってもいいぞ?」
 ラビリの言葉に男は半ばキョトンである。 しかし不思議と願ってもないと言った表情でもある。
「何故私に?」
「こんなの自分から言うのも気持ち悪い話だけど、お前って何て言うんだろ、俺に対して悪い感情が少ないよな?」
「そんな事までもわかるのか…いや、我が国の領土半分だけに止まらず、南北朝鮮、そして露国全域を瞬く間に手中に収めたその武力、これが武神かと崇めてしまうのは仕方のない事にございませんか?」
「そっち系な。言いたい事はわからんでもないかもしれんな。じゃあやっぱこれ別で調達するからお前にやるわ」
 ラビリが差し出したのは先程のデバイス五枚である。
「クエスト用に改変した中位悪魔五体分のデバイス、これ取り込んで最後の一枚でキャラメイクしたらお洒落な悪魔になれるんじゃね? おっさんのセンスがどうかはしらんけど」
「では西方の神話で語られるようなルシファーのような見た目にしたいのだが、神からアドバイスはいただけないのであろうか? 私はこういった美的センスが著しく欠落しているのだ」
「ノリノリじゃん。逆に引くわ」
 それからラビリはおっさんと2人でキャラメイクに精を出す。 やれ髪は黒字の白メッシュが妥当だの、翼は悪魔系じゃなくて黒い天使系がいいだの、瞳の色は赤より紫の方がかっこいいだのと散々盛り上がり、遂にアバターが完成し、おっさんはまさしく厨二感満載の美しい堕天使の姿に変わる。
「てかおっさんの名前聞いてなかったな」
王星虎ワンシンファンと申す。だが、折角生まれ変わったのだから新たな名をいただければ」
「すっげぇキラキラ。じゃあ日本読みでセイコでいんじゃない?星虎ルシファー!やべぇ、関西の野球ファンの特攻服とかに刺繍されてそう」
「よいですね、セイコ。そう名乗らせていただこう。して、外の魔物はどう従えればいいのかな?」
「あいつらは自分より強くて危害を加えない同族には勝手について回るから、星虎はそのまま目的地を目指せばいい。ただ冒険者は殺すな。なんとかいなして逃げのびてくれ」
「仔細了解した我が神よ。ではまずは隣国の悉くを制圧してみせよう」
 星虎が手を翳すと中華料理店の壁は瞬時に蒸発する。 彼はラビリに一礼すると、その穴から飛び出して行くが、ラビリは不敵な笑みを浮かべ、その背中を見送る。
「強くなって役立って欲しいものだ」
 その頃、討伐しても次々と数を増やす魔物を相手に忍者刀、所謂直刀を振り続けるハクメイの姿があった。
「キリがないっすね、どうなってるんすか!」
 そして目の前に迫る屍喰鬼グールを幹竹割りにすると、突如として光を放つ樹木が伸びる。 それを見てハクメイは愕然とする。
「やっぱり人間なんすね。見た目でそうとは思ったっすけど、やっぱり」
 ハクメイは光の樹木の周囲を避け、距離を置きながらに屍喰鬼グールを斬り捨てて行く。 もしも樹木の側で殺してしまい、エルフが生まれてしまっては元も子もないと考えたのだろう。
 そんな折、ハクメイは異質な存在を発見する。
 スラッと手足が長く、壁に背を預けながらに酒盃を煽る黒髪の鬼。 ざんばら頭を背後へ流すように額から伸びる二本の角、そして頬にある十字傷、そして紅い瞳。 見るからに酒呑童子の面影はあるのだが、明らかに成長し過ぎている。 幼年から中学生程には成長しているのだ。
 着る物に困ったのか、継接ぎだらけであった筈の着物は見る影も無く、金と赤の豪奢な羽織をはだけさせている。
「お加減いかがですか?」
「ちょうどいい」
 頬を赤らめながらに酒を飲む酒呑童子の周囲には酒樽で溢れている。 そしてその周囲にはチャイナドレスの美女達が侍っている。
 まさに突っ込みどころ満載とはこの事か。
「君、魔物っすよね? 何してるっすか?」
「ん、あぁ、お前冒険者か。うーん、いや、俺も冒険者だ」
「え? 絶対嘘っすよね?」
「え? なんで嘘ってばれたんだ?シンシンなんでかわかるか?」
 侍らせている美人に問うが、人肌で酒呑童子を温めている美女はわかりませんと首を振る。
「はぁ。で、どうする? 俺は歴とした魔物だから冒険者のお前と戦えるけど、戦うか?」
「いや、それはって、ちょっと待つっす。その特徴のある紅い目はもしかして森の門番をしてくれてたオーガキングっすか?」
「あ、お前森の冒険者か。通りで強そうなわけだ」
 ハクメイは礼を述べようと一歩踏み出すが、気付けばその顔面に酒呑童子の拳がのめり込み、その拳圧に建物の壁を貫きながらに吹き飛ばされる。
「でも俺も強いぞ。そんな不意打ちなんぞ喰らわんぞ」
 盛大な誤解だが、その誤解を解こうとハクメイは一条の光となって舞い戻るが、そのまま顔面を蹴り上げられ、更には空中で叩き落とされる。
「なんで…なんで干渉できるっすか」
「光なんだから闇で中和したらいいだけじゃないのか?」
 後方からは美女達がキャー!シュテン様ぁ!と黄色い声援が上がる。 酒呑童子はそれに応えようと、振り向いて手を振るが、その隙にハクメイの拳が酒呑童子に襲いかかる。
 しかし、拳は宙を切りハクメイの脇腹には回し蹴りが打ち込まれる。
 やられっ放しもつまらないと、その勢いのままに前方に一回転し、ハクメイのカカトは酒呑童子の鼻先を掠め、僅かに傷をつけるが、即座に回復してしまう。
「森の冒険者、お前は強いぞ。でも殺気が凄すぎて動きがバレバレだぞ」
「殺気……すか」
「そう殺気。そうだな、これでわかりやすいかな?」
 酒呑童子の全身から黒と赤が入り混じったような禍々しい気が蠢くと、ハクメイは呆然としてしまう。
「これが殺気だ。お前が撒き散らしてるのと一緒だ」
「殺気……鬼君はなんでそんな強くなったっすか?」
「創造主様に強くなる方法を教えて貰ったからな。俺は創造主様に眷属にして貰う為にもっと強くなるぞ」
「ダンマスに教えて貰ったっすか……俺は強くなったなんて思ってただけなんすかね、魔物にも勝てないんすから」
「心配するな、お前は強いぞ。ただ、ちょっとだけ俺の方が強かっただけだ。殺しはしない、またいつでも喧嘩しようじゃないか」
 酒呑はハクメイの髪の毛を掴み、腹を蹴り上げると、衝撃波で遥か彼方にまで吹き飛んで行く。
 酒呑童子は何故か表情を歪めながらに脇腹をさする。
 その一瞬のやり取りでハクメイは冥土の土産と言わんばかりに酒呑童子の脇腹にカウンター気味に蹴りを入れていたのだが、喧嘩の勝敗で言えば明らかな負けだろう。
 酒呑童子はラビリにヒントを受け、既に多くの人間を神酒にし飲み込み、計り知れないラディアルを取り込んでいる為に、鬼神種にまで進化している事など当人でも知らない。
 それでも彼は美女を侍らせ、通りかかった人々のその全てを神酒にして飲み続けるのだ。
 全ては己を最大限に高める為だけに。

 一方、吹き飛ばされたハクメイは悔しさに地面を殴ると、ゆっくりと立ち上がり再び歩き始める。
 しかし、ふと違和感を感じ振り向くと、其処には見慣れない老人がいる事に気がつく。
「あなたは?」
「誰も君の悲劇には気が付かないよ。だって、君のそれはただの後悔だから」
 丸眼鏡をかけた老人がゆっくりとハクメイに歩み寄る。
「気持ちはわかるよ、今はただ強くなりたいのだろう?」
 老人の問い掛けに頷いてしまいそうになると同時に、老人は背後から迫る人影に掻き消される。
「ヤムラ君に彼は勿体無い気がするよ」
 その一言を残し、閻魔はその場から消え去る。
「うっせ、とっとと消えろ!クソが!やっぱりハクメイ監視対象に入れててよかったな」
 あっちへこっちへと忙しい男である。 もう消えてしまっているが、閻魔が立っていた場所をゲシゲシと踏みつけるラビリ。
「ダンマス……」
「悪いなハクメイ。他はなんも言わんがあのジジイには気をつけろ。気付けば鳥籠の中でピーチクパーチク言うだけになるぞ」
「よくわかんないっすけど、それは今のこの世界と何か違うんすか? ここもダンマスの鳥籠の中っすよね?」
「そうかも知れんな。その辺の解釈はお前に任せるが、あまり卑屈な考え方に凝り固まるな。お前は多くの命を奪っていると思っているかもしれんが、お前のその権能は優しい力だ。正しい心の持ち主はエルフに生まれ、そうでなくとも命の森の木々や動物として生まれ変わり世界を豊かにしている。ただ奪っているだけじゃない。本来のあるべき姿にする、それがお前の剪定の力だ」
 ハクメイは返す言葉を探すように俯き、地べたに腰を下ろすとブチブチと雑草を抜き始める。 頭の中で様々な葛藤をしているのだろう。
「さっき鬼に負けたっす」
「あぁ、酒呑童子の進化個体か。あそこまで進化したら今のお前では無理だろうな。元々強かったみたいだし」
「魔物をあんなに強くできるなら、人に力を与える必要がなくないっすか?」
「それだと本当の侵略になってしまうだろう。冒険者がいるからこそ世界のバランスがとれるんだ」
「ダンマスは俺が嫌いなんすよね?だから俺に変な力与えたんすよね?」
「嫌いだったら冒険者にすらしてない筈だがな。嫌いな奴は消してしまいたいタイプなんでな」
「……強くなりたいす」
「じゃあ命の森を更に広げろ。世界樹が顕現したらお前は森の外でモモカの権能と同等の万能の力を手にする事が出来る」
「また人を殺さなきゃならないすか?」
「それを思ったからこそ人と魔物を置き換えてやっただろう? お前の事も考えての結果だ」
「極論すぎてきもいすね」
「億規模の命の森を作った奴に言われてもな」
 ハクメイは遂には肩を震わせ始めてしまう。 その表情こそは体育座りで隠してしまっているので見えないが、最後の一言は地味に効いてしまったのだろう。
「お前は何か勘違いしているかも知れないが、いつでも俺に歩み寄ってくれて構わない。それがお前の助けになるならば喜んで力になろう。自身の思考の渦に飲み込まれそうになるぐらいなら腹を割って話をすればいい。俺はお前の自由にすればいいと思って過度の干渉は避けているが、それによってお前がヤケを起こしそうになるぐらいなら強制力を持ってお前を従える事もできるんだぞ? その権能を沈静化させたいなら世界の三分の一を命の森に変える他ない。それが出来たらまた日本で冒険者をするといい」
「また日本で冒険者…すか」
「そうだ、それがお前の本当にやりたい事だろう?」
「かなわないっすね」
 ハクメイは目尻に誰にも気付かれないほどに僅かな涙を浮かべながらに、光の化身となって姿を消す。
「後は星虎がハクメイを誘導してくれると信じようか。大臣とこ戻ろ」


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