だんます!!

慈桜

第百二十一話 メイファーの保護?

 「なんか今日は騒がしすぎるっすね」
 白く長い髪が邪魔なのか、タオルで頭を巻き上げているハクメイはバーベキューセットに着火剤をドボドボ流しこんでいる。
「この感覚はオーガの群れだね。門番してくれてたオーガキング負けちゃったのかな? って入れ過ぎだってば」
 対面には桃色の髪と瞳の少女モモカがトングでハクメイの手を何度も挟もうとしている。 着火剤入れ過ぎの愚行を止めようとしているのだろう。
 だんます達が壁から降臨し、酒呑童子と邂逅している頃、命の森ではハクメイとモモカ達の一団が輪になって林檎を焼いてみようと、バーベキューセットに炭を並べていた。
「私が赤雷と共に追い払ってきましょうか?」
 金髪碧眼の青年であるドラゴン教授に頭を撫でられて、眠たいのを我慢している赤雷は片目を開いて教授を見上げる
「そう言って赤雷に乗りたいだけじゃろうお主は」
「ん、絶対そう」
 内職的に林檎をアルミホイルで包んでいるラオとメイファー。 命の森の中でも、いつもいつも一緒にいるわけではないが、ご飯時になるとこうして集まったりもする事も多い。 折角の団欒の時間ではあるが、森を脅かす存在が現れてしまっては仕方がない。
「じゃあ行くっすか」
「ハクメイはゆっくりしててもいいんだよ?」
「もしもの為にっすよ。それにオーガダンジョン放置してた俺も悪いっすから」
 ハクメイが光の粒子に姿を変え消え去る。 モモカは呆れたように、それでいて少し嬉しそうに赤と黒のコントラストの古びた扉を呼び出す。
「お邪魔するかのう」
「森から森の扉は使える」
「ちょ、ちょ、ちょっと!」
 モモカよりも先にラオとメイファーがドアの外へ出て行くが、モモカが2人の襟首を慌てて掴む。
「なんじゃ!やめぇ!レディの襟首を安易に掴むでない!!」
 紫色の髪を二つ括りにした水色のプリーツスカート赤いリボンに濃い青のブレザー姿の少女ラオはジタバタと暴れまくる。
「そうだよ。ラオは今はレディ」
 グレージュカラーの艶やかな髪をポニーテールにしたメイファーは掴まれるがままに脱力して身を任せている。
「オーガ相手にちっちゃい子2人で危ないでしょ!」
「ちっちゃくないわい!こう見えても儂はジジイだからの!」
「メイファーも戦えるよ?モモカとあんまり変わらない」
「ラオはさっきまでレディって言ってたでしょ! メイファーは10歳でしょ!私は18歳!永遠のラストJKなの!大人なんだよ!」
「ガッコ行ってないって前に言ってた。それに多分10歳ぐらいだけど、もっと上かも」
「儂なんか80越えておるからの。メイファーと足して割っても40こえよる」
 女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので、ヒートアップして声が大きくなって行く。 その騒ぎを聞き付けてか、命の森の植物を掻き分けて怪物が現れる。
 緑色の肌ははち切れんばかりに筋骨隆々としており、額から伸びる二本の角、口元の長い犬歯が相まって、この怪物が鬼以外の何者でもないとわからせてくれる。
「下がってて! あれ?メイファーは?」
「ほれ、目の前におるじゃろ」
 ラオの言葉にモモカが振り向くと、眼前には自身の体を光の粒子へと変換しオーガの体を擦り抜けている。
「あれはハクメイの技?」
「なんじゃ知らんのか? メイファーの右目が鏡面に変色しとるだろう。あれは奴がダンジョンマスターに貰った特殊な眼でな」
 メイファーは次々とオーガを擦り抜けて行き、戻って来るとスカートをまくしあげ多量の魔石を見せつけている。
「一度見た技を自身の技に出来る。ちなみに今のメイファーは後2つ技のストックがあるぞ」
「ぶい」
「ブイじゃない! パンツ見えてるからやめなさい!」
 モモカもまだまだあどけなさが残るのだが、やはりメイファーと並ぶとお姉さん気質になってしまう。 ダンマスに貰った鏡の魔眼の凄さに驚くよりも、パンツを隠すのに必死である。
「最近ずっとオーク狩りに行ってたのってそれの為?」
「そんな事もないよ。しろ兄が連れて行ってくれるから頑張ってるだけ」
 モモカが守護者となってからは、ハクメイはラオとメイファーの為に外に連れ出して魔物を狩りに行ったりしているようで、自然とメイファーの鏡の魔眼も鍛えられている。
「だから強くなった」
 メイファーは指先から十本の鎖を伸ばすと、次に襲い来るオーガをズタズタに引き裂く。 それはまるでジンジャーのリリーである。
「えっと、それ、誰の技?」
「わかんない。でも見た事ある」
 モモカですらジンジャーの記憶が消えている。 それでもメイファーは彼の技を覚え、そして磨いているのだ。
 メイファーは無表情ながらに口元だけを僅かに動かし、小さく笑みを見せると指を鳴らす。
 非常に珍しい、音、衝撃、斬撃、干渉のルーンが1つに纏まりオーガを一瞬で塵にする。
 それはダンマスが狗鬼を首だけにした唯の指ぱっちんを影ながらに見て覚えたのだ。 ダンマスは、ただ本来のポテンシャルでそれを実行していたのだが、それをトレースすると、レアルーンが盛り込まれた必殺に昇華されているのだ。 メイファー恐ろしい子。
「ちょっと凄すぎるね。私なんもしてないのに終わっちゃった」
「しろ兄追いかけよ」
 オーガは危険を察して進行方向を変更してしまったので、モモカ達の前に迫ったオーガの全ては撃破されている。
 一方その頃、ハクメイは森の入り口でオーガの群れを殲滅していた。 光が通り過ぎると一拍遅れてオーガの首が転げ落ちて行く。 その理不尽なまでの強さに鬼達は森への侵攻を諦め、徐々に進路を変えて行く。
「森はモモカちゃんに任せるっす。俺はそろそろ自分の力に向き合う必要があるっすからね」
 ハクメイは再び体を粒子に変えると、行く先を変える。
 其処は人が鬼の群れに食い散らされる阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。
「た、助けてくれぇ!!」「あぁ!! やめろ!やめてくれ!」「やめろ!俺なんか食うな!水虫だぞ!!」
 逆さまにぶら下げた男を服を着たまま上半身に齧りつき、ボリボリと骨を砕く音を響かせながら咀嚼する鬼。 味見をするように各部位を咀嚼しながら首を傾げる鬼。 それは明らかに殺戮と食事を楽しんでいる鬼達の姿であった。
「甘いのはわかってるっすけど、同じ轍は踏まないっすよ」
 光が過ぎ去ると、実りを迎えた果実が強風に煽られ実を落とすように、あっさりと鬼の首は狩られていく。
 しかしハクメイは立ち止まり被害にあった者達に救いの手を差し伸べようとはしない。 飽くまでも危害を加える鬼の駆除を行うのみで、彼は颯爽と消えて行くのだ。
 そしてその様子を見届けながら腹を抱えて爆笑している男がいる。
「あいつすげぇな。庭師ランドスケーパーの権能発動したままでそんな事したら因果が変わんのに」
「てんが? てんがってなに?」
「ねぇ、ちゃんと耳ついてる?」
 ラビリと大臣である。 これまでマイペースに鬼の侵攻を後方から見届けていた両名であるが、ハクメイが訪れてからは、雑居ビルの上から愉しそうに鬼が殺されて行くのを観察していたのだ。
「見ろ大臣。新たな命の息吹の瞬間だぞ」
 人を喰らった鬼の首が飛ばされ、血が噴出したままに襲われていた人々に雨のように降りかかる。
 鬼の血液に触れた者達は黒い血管を浮かび上がらせながらに白い眼球を黒に染め上げ、虹彩は日食のような円環を浮かべる。
「テレテテッテッテー。結構強い魔物ちゃんに進化したって感じ?」
「そうだ。本来ならば鬼が多くの人を喰らった末に進化する屍喰鬼の血を飲めば存在改変は同様に行われるが、庭師ランドスケーパーが一手加えた事により、命を変換する力が加算されたせいで、鬼達の餌がグレードアップして更なる脅威として襲い掛かる結果になった。俺の十八番の裏目ったってやつだな」
「だんますの自虐とか笑えないし、どうせ裏目ってもパワープレイで終了させる気満々なのが目に見えてきて俺ちゃんそれなりに吐きそう。具体的に言えば今日の朝ごはん出てきそう」
「「………………。」」
 それ以上に会話は無いが、その目下ではオーガとは比べ物にならない程に身体能力を底上げした屍喰鬼達が四方八方に飛び回っている。
 そこへ再び一条の光が奔る。 光の主はグレージュカラーの髪をポニーテールにしたブレザー姿の少女だ。
「ん? 世間の変態紳士が見逃さない感じの女の子?」
「おぉ、あれはメイファーか! 」
「あれ? だんます変態紳士な感じ?」
「お前の脳味噌は既に限界の自信がある」
「そんな変態の意見に真摯に向き合うよ」
 惨状を見て屍喰鬼グールを倒そうと再び体を光の粒子に変えるが、既にそれは不安定なものになっている。 ハクメイのように底ぬけの魔力があれば別だが、まだ未熟なメイファーでは大技を連発するにも限度がある。
「なんか眠い」
 頭では戦おうとしていても、本能がそれを否定して回復に徹しようとしてしまっているのだ。
 そうなっては仕方ない。
 メイファーは再び光のルーンで体を変換しようとしたと同時に膝を曲げてしまう。 その瞳は既に虚ろであり、視点も定まらない程に疲弊している。 そのまま抗う事無く倒れ伏せようとしていると、その腕を掴む人影がある。
「レディの膝に土がつくのは見逃せないな」
「メイズお兄……ちゃん? ありがと」
 メイファーは久しく聞いていなかったラビリの声を聞いて意識を手放してしまうが、その周囲では屍喰鬼グール達は片膝を折りながらに忠義の礼を尽くしていた。
「あぁ、そういうのいいから好きにしろ。とりあえず増やせるまで仲間増やしてこい」
 ラビリの言葉に屍喰鬼グールはその場から瞬く間に姿を消すが、その横では奴がスマホで動画を撮影していた。
「ご覧ください皆様、彼はダンジョンマスター。魔物も彼の手下であります。その手下を少女へ嗾け、夢半ばで倒れ伏せた少女を堂々とお姫様だっこ、これが変態紳士の真の姿です。あろう事か堂々とタッチしております。しかも少女のパンツは……くそ、ガキの癖にスパッツ穿いてやがるな」
「お前気絶してる女の子のスカートの中にスマホ入れて何も思わないの?」
「そのへんのニーズに気付けないと動画でメシ食えないからね」
「お前の動画再生した奴のとこにゴブリン飛ばしてやろうかな」
「じゃあ冒険者限定配信にしとくわ。そしたらゴブリンとすら戦えなくて困ってる冒険者が減るしな」
 この後摑み合いの喧嘩になったとかならなかったとか。

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