だんます!!

慈桜

第百十九話 王様に決めた?

  工場のような油臭い場所で、色黒の男が鎖で手首を縛られてぶら下げられている。
 そのぶら下げられた男の目の前には、黒いジャージに丁髷姿の男が身の丈半分を少し越える程の巨大なハリセンを構えている。
 言わずもがな、殺戮大臣信長その人である。
「ウォラッ!! 言えっ!! 言っちまえよ!!すっきりしちゃいなよユゥゥー!!」
 何度も何度もハリセンで打ち抜かれたのだろう。 ハリセン自体も音を聞けば地味に痛そうであるが、それよりも反動で揺れる度に鎖で繋がれた手首に激痛が走っているのが問題だ。 薄く血が浮き出て、揺れる度に苦痛に顔を歪めている。
「僕はぁぁ、カツカレーがぁぁ、カツカレーがぁぁぁ」
 顔を歪めて怒り狂った獣にも似た表情を見せる黒い男は涙を流しながらにカツカレーが!を繰り返す。
「言えクォラっ!! そこまでいったら言っちゃえよ!!」
 その目の前では小刻みなヘッドバンキングをしながら丁髷を振り回し、後ちょっと!カモンカモンと発言を促す大臣。 黒い男は辛抱堪らずに発言する。
「カツカレーが……好きですぅ」
「フォー!!だからなんだよって言うぅぅぅ!!!」
 またもやハリセンが振り抜かれる。 全く持って意味がわからない。 それにブチ切れた男は目を充血させながらに言葉にならない罵声を浴びせ続けるが、大臣は腰を振りながらに気持ちいぃ!と叫んでいる。
「わかったよアブトル君。俺ちゃんも鬼じゃないっつの。お前のボスのアジトを教えてくれたら逃がしてあげるって言ってんじゃん?」
「だからお前に話す事は何も無いって言ってるだろうが」
「そっか……じゃあスイスのレマン湖が好きって言って」
「言うわけがないだろ。何回繰り返すつもりだ」
「そっか、じゃあいい。言うまでいじめるだけだ。あっ、これなぁんだっ」
 大臣がアイテムボックスから取り出したのは洗濯バサミである。
「やめろっ!!やぁめろぉ!!」
 まずはお約束と乳首と乳首周辺を乱雑に挟んでいく。
 気付けばアブトル君の全身が洗濯バサミまみれである。 洗濯バサミのピグモ○のようだと言えば凄惨さが伝わるだろうか。
「そぉぉい!!」
「アーッ!!」
 ハリセンが振り抜かれると同時にギャチャンッと多量の洗濯バサミが飛び散る。 一言で表せと言われるなら強烈としか言いようがない。
「痛そうある。可哀想ある。大臣優しいある。ちょっとタイムラグ置いた方がよろしいあるね」
「殺せぇぇ!!いっそ殺せぇ!!」
 洗濯バサミを弾き飛ばしては時間を置き、時間を置いては弾き飛ばしてを繰り返し、遂に全身の洗濯バサミが無くなる頃、アブトル君はヨダレと涙を流しながら白目を剥きかけている。
「レマン湖が……レ…マン湖が…好き…好きです」
「HA?」
「スイスのぉぉお!レマン湖がぁ!大好きでっす!!」
「だからどうしたぁぁあ!!」
 ぐう畜である。 何故アブトル君は、こんなふざけきったクレイジーな男に捕まってしまったのだろうか。 こんな理不尽な詰問は既に答えの無い拷問としか言いようがない。
「あぁ、おもしろかった。じゃあそんなワケでアブトル君」
 大臣は放心状態のアブトル君の腕をガッシリと掴むと、其処には五つ木瓜が浮かびあがる。
「さっさとボスの所に案内してくれ下さいこの野郎」
「イエスマイロード。全ては主の御心のままに」
 初めからそうしてやればいい話だ。 口が堅そうな奴を見つけると玩具にするのは大臣の悪癖である。
 アブトル君に案内されるがままにヨハネスブルグのスラムの中を歩いていると、派手に動き回ってるせいか、何度も弾丸を浴びせられるが、大臣は笑いながらハリセンで打ち返している。 その動体視力は是非ともスポーツで活かして頂きたいものである。
「ここですマイロード」
「ハーイセンキューワッツアァァアップ!!」
 円柱のピサの斜塔のようなアパート一室の鉄扉を蹴り上げ乱入、すると当然余す事無く弾丸を撃ち込まれるが、冒険者に旧世界の兵器は無意味である。
 不可思議な膜で弾丸を弾き飛ばしながらにハリセンを振り抜くと、マシンガンを持った男が端から端まで異常なまでの勢いで吹き飛ばされた挙句、そのまま壁をぶち抜き建物の外へと落下して行く。
「壁もろすぎるとかおもろすぎるんですけどぉ!!」
 背後から椅子やテーブルで殴られるが気にした様子も無く振り返る大臣。 首を鳴らしながらニヤニヤと嗤う。
  「このハリセンなんだけどさ、ちょーー高かったんだけどマジですんごくない?コレ自体に不殺のルーンがねりこまれててさっ」
 脳天からハリセンを叩き込むと、冗談のように地上12階から1階まで大穴を開けながら突き抜けて行く。
「ご覧の通りHP1の瀕死状態で保存できるウルトラファンタスティックなハリセンとかやばくない?萌えない?濡れちゃわない?」
「やめろ!やめてくれ!頼む」
「さて問題です。そんなハリセンを俺ちゃんがリアルガチに振り抜くとどうなるでしょうか?」
 大臣の全身から真っ黒な炎のような魔力が噴出する。
「ボンズでいく?ソーサーでいく?ラミちゃんもいけるよ?」
 男はぷるぷると震えて左右に小刻みに首を振り続ける。
「わかった、言う通りにする。西地区は全区お前のもんだ」
「おせぇよ」
 大臣がハリセンを振り抜くと同時に、黒く巨大なハリセンが、突如としてタワーそのモノを完全に崩壊させ、更にはその大半が遥か彼方へ飛散してしまう。
 不殺のハリセンおかげで死者こそ出ていないが、空中にはニヤニヤ笑いながら浮かんでいる大臣と、その背後には大臣のシルエットを巨大にした真っ黒な影が立っている。
「どうよ俺ちゃんの影武者ちゃん!!って誰か聞けや!!」
 大臣が発狂すると、影の巨人はブンブンハリセンを振り回すが、その背後に突如人型が浮かびあがる。
影操かげくりか。よくもまぁこんな難しい術式組めたな」
「うひょー!だんます登場キタコレ!俺ちゃんが天才の手品はこれ」
 ラビリの突然の登場にテンションが上がり無駄にハリセンを振り抜くこうとするが顔面を鷲掴みにされたままにそのまま正座をさせられる。
「影操具か、高かったろうに」
「そか?150万ぐらいだったからやっすーっ!て即買いだったけどね」
 黒い十本の指輪、それがこの黒い巨人の仕掛けのようである。 しかし150万DMなどとんでもない値段であるが、既に大臣にとっては端た金なのだろう。 南阿国の半分とモザンビークの半分を制覇し、生産者目的にヨハネスブルグを完全に制圧しようとしているのだ、彼は既に巨万の富を築いている。
「とりあえずこいつら奴隷にするからちょい待ち!」
「あぁ、面倒だな。手伝ってやる」
 ラビリが指をクイッと上げると、瓦礫の全てが宙に浮き上がり、左手を寄せると虫の息であったギャング達が引き寄せられる。
「ハンドパワーです。って言わないの?」
「ハンドパワーじゃねぇから」
 一通りの生産者の印が刻まれると、モヒカンのようなヘルムの全身鎧を見に纏った冒険者がギャング達の回収に訪れる。
「よく他の貴族に言う事聞かせられるな」
「ここまで来るのに俺ちゃんがどれだけ血で血を洗ったか」
「いや自発的なもんだろうに」
 一息ついたようで大臣は缶コーヒーをラビリに差し出す。 これでヨハネスブルグの裏社会は完全に制圧した事になる。
「18のダンジョンを制圧して、18人の貴族を管理人に据えてるんだろ?侵攻に連れ歩いてる貴族も鎧モヒカンと猫耳だけだよな? このままのやり方でいけば、行き詰まるんじゃないのか?」
「そうなんすよぉぉおだんますぅぅ!! とりあえずこっちで冒険者してた奴らに頼んで、ナマポちゃんをこっち連れて来てもらって戦える奴隷ちゃんにしてやろっとか思ってんすけどね。やっぱジャパニーズは日本語が通じるから安心できるけど、アフリカンには相当恨み買っちゃってるから歩以下の駒にしか見えない件」
「忠誠値の弄り方は知ってるだろ?」
「ロンモチ、けど隷属で忠誠値マックスにしても瞬コロ20まで下がるからね、あいつら人間じゃねぇ」
「いやお前のやり方が人間じゃないんだろうな、そんなの異常だ」
 そう言われるなら、先程隷属にした生産者達も、大臣を睨みつけている者も少なからずいる。 レマン湖事変のアブトル君なんかは顕著である。 実情を知っていれば納得であるが。
「中々大変そうだがどうする? 貴族続けるか?」
「やっぱダンジョンコンプしなきゃダメっしょ。長生きすんだから楽しまないとね」
「そうか、じゃあいつしかお前が言ってた王様ってやつの権能をお前に渡してやるよ」
「やっとデレたな悪魔の申し子め」
「あんな雑魚と一緒にするな」
 ラビリはホログラフィーの製図画面を浮かび上がらせ、デザインを描いて行く。
 そこに描かれるは玉璽である。
 黄金の東洋龍が蜷局を巻き、要所要所に宝石が鏤められた玉璽。 印は勿論に織田木瓜が彫り込まれ、土台には無数のルーンが羅列する。
『忠誠値固定、騎士選考…チッくそが、武士選考、再分配、玉璽臣下』
 そのルーンを組み替え、ラビリの胸の位置から赤い光が差し込むと、ルーンが乱雑に入り混じり、遂には玉璽が顕現する。
「これやる」
 ラビリはポンっと玉璽を投げると、大臣はそれを慌てて受け取る。
「これで俺ちゃんも王様っすか? 殺戮王信長に改名するっすか?」
「いや、改名はできん。諦めてくれ」
 しなし大臣は玉璽を太陽に翳してキラキラとした笑顔を見せている。
「先ずは忠誠値固定、これは忠誠値が変動せずに固定化させる事ができる、できるが、初期の忠誠値設定は使えなくなる」
「どっち道大暴落するから全然おけ!結局懐かせてジャストミートな所でばっちし決め込む感じっしょ?イッツオルディナリー」
 ラビリは咳払いをして睨みつけ大臣を黙らせる。 話の途中だったようだ。
「武士選考は戦ダンジョンの使用権に関しての自由が与えられる。フィールドで東西に分かれ戦をさせて、勝利した軍が敗北軍の全て、文字通りの全てを奪い個人の能力として均等に分け与えられる」
「騎士選考とかも言ってなかった?」
「騎士選考は、武士選考の個人版、単独での蠱毒のような能力で手っ取り早く戦力を上げられるんだが、ちょっと気に喰わんのでやめただけだ、気にすんな」
 閻魔がカードデバイスとして使用しているので騎士選考が使われている事に気が付いて怒っているのだが、大臣からしては首を傾げるだけしかない。
「再分配は文字通りお前が生産者から根こそぎ没収してる経験値や財産をいつでも分配できる、そして玉璽臣下は、玉璽での印を用いて、貴族を正式に臣下として自陣に取り込む事が出来るようにしてある」
「すごい、すごすぎてやばい。もし俺ちゃん女だったら三日三晩監禁されて陵辱され続けても好きって言える自信がある。しかし俺ちゃんは男だ。残念だったなだんますぅぅ!!」
「あれ? 何故だろう。本気でコロしたい。それはいいとしてだ、少し遊びでお前の手が必要なんだが、もう大丈夫か?」
「いつも強引なだんますが優しい。これはまさか雪が降るのでは?!ってまた撮影でしょ? いいよ、何処までも行こうじゃないか! このだんます撮影大臣殺戮王信長様にお任せあれぇい!!」
 撮影用眼鏡をかけて天と地を睨みながら歌舞伎的なポーズをとるが、いかんせんジャージ姿なので丁髷を差し引いてもコンビニ前のDQNにしか見えないのが大臣の不思議である。

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