だんます!!

慈桜

第百十一話 融合のきっかけ?

 「うーにゃにゃにゃにゃにゃにゃあ!!」
「ギルマス突っ込みすぎですよ、また死にますよ」
「夜爪は不死身にゃっ!!」
「クエスト中はね!」
 薄い光を纏いながらに白猫の獣人冒険者である夜爪猫はリビングアーマーに幾度と斬りつけ、その切れ目からコアを抜き出し蹴り倒すを繰り返している。
「そろそろ5分にゃ! 回収頼むにゃ!」
「もうやめません? ギルマス死ぬの見るの地味に辛いんですけど」
「じゃあ次はクロが死ぬのにゃ! こんなボーナスステージは滅多にないのにゃ」
 夜爪の全身から光が失われると、無防備にリビングアーマーへ突っ込み、不敵な笑みを浮かべると脳天から叩き割られる。
 夜爪が消え去った後には大量の魔石が散りばめられる。
「はぁ、困ったギルマスだね、割とまじで」
「黒足、にゃつけなきゃギルマス怒りますよ?」
「あいつがいる時つけてるから大丈夫だよ」
 黒猫と虎猫が一陣の風となりて、夜爪からドロップした魔石を拾い集めていると、スタコラサッサと夜爪が戦線に復帰する。
「あ゛ぁ゛、秀美時代繰り返すとテンション下がるにゃ」
「だからもうやめろとあれほど」
「でも逆に燃えてくるにゃ。夜爪の萌えはたまらないにゃ〝権能発動〟」
 夜爪は再び光に覆われると、その身に纏う白金の美しい軽鎧が分解され、羽衣のように周囲に展開し夜爪を一気に加速させる。
 夜爪の新装備である天纏聖鎧アストルムカルディアである。
 夜爪の通常のレベルでは、防御力が爆上げされる程度の効力しかないが、権能を発動していれば、100%の力を発揮する事が出来る。
 その姿は羽衣を纏う天女のようでありながら、光の奔流が緑色の血の花を咲かせ、魔物の残骸を築いていくだから極悪でしかない。
「じゃあ次のトレイン引きに行ってくる」
 夜爪達は魔物の溜まり場を見つけては、そこで自身が死ぬまで狩りをして、黒足がトレインを引いては死ぬまで狩りをしてを繰り返し、ジャックポット的に魔石とリビングアーマーのコアを集めまくっている。
 やはりにゃんこ連盟は人数を多く抱えており、突発的に今回の天纏聖鎧のようなDM150万クラスの武器防具を買ったりするので、ギルドの貯蓄が少ない。 と言っても、現状罪喰いシンイーターを除けば勿論トップの貯蓄であるのだが、罪喰いシンイーターの面々はあまり遊ばずに、ただひたすらに己を鍛えあげている脳筋連中なだけであり、武器も前回のハルビンクエストで配給されたので、それらを購入したと考えたなら貯蓄は大差ないのだが、実際に5倍以上の貯蓄を知らされて夜爪猫は焦りに焦っていた。
「ギルマスぅ、別にギルマスの姫プレイ咎めるのって恥ずかしい事させたいとか下心もなきにしもあらずで、ギルメンそこまで気にしてないですからね」
「それでもきっと恥ずかしい情けない想いもさせたにゃ!! 罪喰いシンイーターには負けたくないにゃ!」
 武器を魔剣に持ち替えた夜爪は、一条の光となってリビングアーマーと下位悪魔を一列に貫く。 一撃で8匹の魔物が朽ち果てたのだ。
「またディレイにゃ!! 連発させろにゃ!!」
「ギルマスー!連れて来たよぉ!」
「だから、にゃをつけるにゃ!!」
 再び剣を持ち替えると、振り抜く先には斬撃が鋭い爪の形となり何度も何度も悪魔と鎧を穿って行く。
「あれあれー?なんか面白い事してるねぇ」
「ヒルコ! やっつけちゃおうよ!」
 もう権能の時間切れ間近まで迫った頃、目の前にはヒルコとカルラが現れる。
「んばぁぁ!!」
 いの一番に接敵したのは双刀を構えた黒足猫だ。 捕らえた獲物は逃がさないと目を見開いて妖艶に嗤う。
 右腕一本を奪い取り、低く構えた黒足は再び地を蹴るが、その顔面はカルラに蹴りぬかれる。
「あでゅー虎猫ちゃん」
 間髪入れずに黒足を見下ろしながら、投げられた短剣は心臓を貫き、黒足は大量に血を吐き出す。
「よくも黒足にゃをぉぉおお!!」
「僕も忘れちゃだめだよぉ?」
 カルラに剣を振り抜く夜爪。 しかし、その斬撃がカルラには届かない。 夜爪のくりくりの瞳にヒルコの指が突き刺されたままに地面に叩きつけられる。
 衝撃と同時に夜爪は脳漿をぶちまけて姿を消す。
「あ、ちょっと普通に怒りましたよ」
 ゆらゆらと歩きながら黒い魔力を陽炎のように立ち込めさせる漆黒聖天、通称クロは、縛鎖のルーンを大量に浮かべ、周囲一帯を蜘蛛の巣のように鎖で張り巡らせる。
「どうせお前も雑魚だろ! ボクに勝てるはずないんだからな!」
「吠えるな。お前は犬か」
 張り巡らされた鎖はヒルコとカルラを捕らえ、ギチギチと音を立てながらに両名をすり潰して行く。
 しかし、その鎖が2人を挽肉にする事は無かった。
 後は血と肉を絞りきるだけとなったところで突如鎖が弾かれたのだ。 中から現れるのは人型の黒い肉、ギチギチと歯を鳴らしながらに瞬間的に接敵し、容易くクロの首を鋭い爪で刈り取ってしまう。
 飛び散る魔石やリビングアーマーのコアを拾い集め、徐々に姿を変えていくと、やがては黒い肉と金属で構成される歪な人型を形成する。
 丸い頭には瞳は無く、犬歯を並べた大きな口がある。 筋骨隆々とした肉体に、乱雑に張りつけられた金属片、そして背中からは羽のような巨大な腕がある。
 この生物を言い表す言葉は見つからないが、しいて言うなればコミックスなどで扱われる魔人と呼ぶのが適切だろうか。
 黒い化け物は、自身の足りない力を補うように周囲のリビングアーマーや下位悪魔を喰らい始める。
 黒い化け物は喰らう度に姿を変え、魔物との融合を繰り返して行く。
 そして吸い寄せられるようにリビングアーマーやヒルコやカルラのコピー達は、自らその身を捧げて行く。
 いくら大元を閻魔に燃やし尽くされたとは言え、未だ数え切れぬ程に展開していたシステマの庇護下の者が、ここに来て一つの個になろうとしているのだ。
「ブオォォォォォオオオオ!!」
 その化け物の慟哭は、まるでシステマの怨念のようにも感じてしまう。

 その頃、日本では自重する事を止めた露国大統領から戦線布告として受け取らざるを得ない宣告が成される。
 それは日本のテレビ局の電波をジャックし、全日本国民へ向けてご丁寧に日本語訳まで添付されたウラスジミル・フウテンのスピーチであった。
『日本の皆さん、この度はサイキック兵器や生物兵器を利用して世界各国を脅かしてくれてありがとう。お陰で此方もそれなりの兵器を用意する事が出来たので、心より感謝するよ。さて、シンドウは冒険者を日本国民とは認めずに、侵略者として断定すると公言したね? しかし冒険者は何処からともなく現れ、我が国の浄化兵器である黒鎧の破壊を繰り返している。そして死してなお、日本で蘇り、再び我が国の侵略を繰り返しているようだ。シンドウ、私は悲しいよ、君を信じたばかりに、テロリストと共謀して侵略をしようとしていると知った時は、親友を失ったのだと落胆した。しかし互いに対等に肩を並べていたのだから、目には目を歯に歯を侵略には侵略で答えようじゃないか。この件に関しては米国も黙認すると公言している。核戦争なんて古びた戦争なんてしない。ここに何方の国が有する世界式が優れているかの優劣をつけようじゃないか』
 放送が終了すると同時に、自衛隊では一斉にスクランブルの報せが鳴り響き、空自が緊急出動する事となる。
 しかし、空では信じられない景色が広がっていた。
 秋葉原の炎天竜よりも一回り程大きな白竜が空を舞い、まるで蝿を払うように、戦闘機を叩き落としてしまったのだ。
『Code:Dragon、ARTSの応援を求む』
 振り絞るように送った無線を最後に、迎撃を目論んだ戦闘機は鉄屑となりて撃墜されてしまう。
 だが、一早くドラゴンの来襲を知らされ、露国の戦線布告を受けた日本の逆襲はこれより本格化する事となる。


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