だんます!!

慈桜

第百十話 魔族のすみか?

 『マスター。ジンジャーの存在が消えました』
 やっぱり閻魔がなんかしてきたか?
『検討がつきませんが、此処まで完璧に存在が消去されるのは、彼の夢幻の迷宮の他知りません』
 あのかまってジジイいつの間に抜け出したんだ?
『いえ、彼は悠久の書庫に存在しているのは確実です』
 だとしたらまた変な裏技考えたんだろ。 予測の範囲内だし、何をしているかわかれば、次こそ消せるかもしれん。 閻魔が存在してると考えて解析を進めてくれ。
『了解しました。それと吸血鬼の存在を確認しましたがいかがなさいますか?』
 そういや掲示板に書いてたな。 ヒナタ達が面倒見てるなら暫く放置。 血の味を覚えて、トライブを形成する段階になったら監視対象にしといてくれ。
 さて、どれも放っておけない一大事だが、それよりも今はミスリリアムのトライブをコンプリートした事を喜ぼうじゃないか。
 閻魔のジジイの真似になるのは癪だが、太郎ちゃん家の庭の一角に鍵付きダンジョンを設置してやった。
 中身はカグツ湖とゼント神域をそのままコピーしている。 グランアースのミスリリアムが支配する神域である。 ナージャが気に入らない筈がない。
「ミュースは遊びに行ってるみたいだから後で連れてくる。さぁ、中へ入ろう」
「ダンジョンを好きにしてもいいと言われても、洞穴で生活はしたくはありませんよ? ラビリさん」
「ナージャ、心配しないで欲しい。俺は魔族には特別優しいんだ」
 目の前に広がるゼント神域。 グランアースの星の成り立ちの上で自然に完成した命の森だ。 ここでは複製した森精しかいないが、グランアースのゼント神域は、庭師ランドスケーパーが創り出す命の森と比べモノにならない程の森精が存在しており、空気は年中澄みわたっている。
「ここは、あの世界と同じ……」
「そうだ。ナージャのようなミスリリアムは人に恋をするだろう?このゼント神域とカグツ湖はある条件を満たしていると」
 演出めいていて申し訳ないが、指をパチンと鳴らすと周囲一帯は星明かりのみが頼りとなる夜の帳に覆われる。
 亜空間に設定している擬似天体ではあるが、カグツ湖は満月と森精輝く森にに照らされると、光のテラスが姿を現せる。
 ゼント神域は何度も解析して、ほぼ同条件の神域を再現出来るようになっているからこその芸当が、本物は、このテラスがカグツ湖全体に広がる。
「さぁ、ナージャ。行ってみるんだ」
「え、えぇ。でも水の上なんて歩けるのかしら?」
 天蓋付きの光のベッドが置かれたテラスへ続く桟橋に足を置くと、光とミスリルが中和されて足首までが生身の人間のようになる。 驚いたナージャは、沈まないのを確認すると、一歩一歩ゆっくりと踏みしめてテラスまで歩いて行く。
 既に其処には生身のすっぽんぽん女性の姿しかない。
 腕と手で大事な部分を隠しているが、それもまたそれで煽情的な…すまん話が逸れた。
「ミスリリアムの眷属、ナージャの家族を増やす為には、適応者を根気強く探すか、カグツ湖の寝屋で性交を交わすかの二択だが、後者はカグツ湖とゼント神域が無いと厳しいので、多くはマースカ達のように適応者が必要となる」
「適応者、体の半分以上がナージャ様のミスリルで満たされても大丈夫って事が適応者だよな?」
「惜しいなマースカ。本来は八割だ。だが、五割を満たすまででほぼ条件は整う、無理だとしても俺が手伝って本当の魔族にはしてやれるから心配するな」
「それはまた多々羅みたいに俺たちに何かを埋め込んだりするのか?」
「違う、ミスリルを適応するように魔力と馴染ませるんだ。ミュースは既に八割に到達しようとしてるぞ」
 俺の言葉に悔しそうな顔をしている。 暗にお前はまだ似非魔族と言われてると思ったのだろう。 わかりやすい奴である。
「ナージャ、ここはみんなで好きに使うといい。だが、もしナージャから生まれた子供にミスリルに全く適応しない子供がいたなら、俺に預けて欲しいんだ」
「子供を?! それは何故ですか?」
「ミスリリアムからミスリルに適応しない子供が生まれる確率は0.001%だが、もし生まれたなら其れは銀の魔女と言ってお前らとは全く異なる生物だ。過去にあった事例としては、可愛さ余って隠して育てたりすると眷属達はみんな食われるぞ。銀の魔女はミスリルを莫大な魔力に変換する能力を持ってる、生まれながらにしての捕食者だ。これ以上はフラグになりそうだから控えるが、銀の魔女が産まれた場合は心を鬼にして俺に預けてくれ、頼む」
 汚ない話だが魔族は約束にうるさい。 ここで誠意を見せておけば、もし銀の魔女が産まれ、ナージャが可愛さ余ってひた隠しにしていて惨事が起こった場合においても、これを言っておく事によって責任はナージャのモノになる。 これはある意味俺の保険でもある。
「納得したくはありませんが、眷属達の為ならば、お約束します。だから頭を上げてください」
 ゴリ確。
「じゃあ後はここで自由に過ごしてくれ。鍵の開け閉めは忘れずに」
「ありがとうございます。貴方には感謝しますラビリさん」
「もちろん。俺を三流のダンジョンマスターとは一緒にしないでもらいたい」
 ミスリリアムの扱いは難しいが、これでミスリルが安定供給されるようになる。
「後は博士、冒険者のメニューを開いて定期的にミスリルを売って、支払われたDMで生活品などは取り揃えてくれ。暫く食事に困らない程度のDMは入れているが、嗜好品などはそちらの裁量に任せる」
「わかりました。ここの植生や動物達の研究をしても?」
「もちろんだ。それならば先ずはルアー釣りをお勧めする。カグツ湖の翡翠鱒は絶品中の絶品だ。先ずは食って、そして調べる。それも醍醐味だろ?」
「久しく釣りなどしていませんが、やってみますよ」
 こんな感じか。 コア、一度俺の部屋に戻してくれ。 少し気になる事がある。
『かしこまりました。それでは自室へ』
 いつも通りの俺の部屋。 変わった事は何も無い。
「あ、おかえんなさい」
 ヒルコの精神体がある事を除いてと但し書きがつくが、やはり気のせいか。
『いかがなさいましたか?』
 いや、誰かが部屋に干渉しようとした気がするんだ。 いけない空気と言うか、侵してはならない聖域にのみ鳴り響く警鐘のような。
『それでしたらヒルコがマスターのPCでロリ系の動画をダウンロードした一件が近いかと』
「なんだと?」
 いけないな、冷静さを失いかけて声に出てしまったか。
「え? どうしたの?」
 しかしそれは怒ってもいいよな。 俺のパソコンで、ウィルスまみれの動画をダウンロードするなど言語道断だろ。確かにここは隔離された異空間ではあるし、PCのウィルスなどの心配なんて無いが、こいつがその動画でナニをしようとしていたのか考えただけでも発狂しそうだ。
「おいお前。おとなしくしていろと言ったよな?」
「おとなしくしてたけど? こんな実体もない体で何も出来ないし」
「だからと言ってナニでナニをしようとしていたなんて聞きたくもないし、言い訳も聞かないぞ?」
「ちょ、待てって! それは誤解だって! ゲームダウンロードしようと思ったらリンク間違っただけだからアイタタタタタタ」
 とりあえずコブラツイストでいいだろう。地獄の苦しみを噛み締めてしまえばいい。
『マスター、冒険者ではない為に感知が遅れましたが、チカラ達五人組と鶫の妹の鶲の存在も消えました。まず少年達がカルラと交戦、子供達が惨敗し、鶲を助けようとグレイルがカルラと交戦し圧勝、その直後存在が消えています。再現映像にも、グレイルは宙に向かって叫んでいますが、声は出ていません』
 これも閻魔か?  いや、それならグレイルに会いに行こう。 グレイルの所に飛ばしてくれ。
『ジャミングされています』
 あいつまじで一回泣かす。

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