だんます!!

慈桜

第百七話 おじいちゃんとシステマ?

 「喝ぁぁぁっっっ!!! そうではない!いちいち権能に頼ろうとするがお主らの悪い癖であるぞ!!小童が!」
 赤と白の罪喰いシンイーターの制服を、羽織袴のように改造している長い白髪を結った老人アスラは、青白の罪喰いシンイーター達に喝を飛ばす。
「なんでこんなおっかないジジイ放し飼いにしてやがんだ」
 思わず愚痴が溢れたのはワーレオン、シシオである。 罪喰いシンイーターの面々は死に戻りする事無く、仲間との連携をしながらなんとかリビングアーマーを討伐していたが、突如現れたアスラに強化訓練だと言われ拉致られている。
 アスラに何を言われようが、彼は1000層など容易く制覇できるフェリアースで最強の存在である。 そんな彼が、60層クラスの冒険者に、いかにも同じ目線で喝を入れられても、何と返していいかわからず、終いには愚痴すら溢れてしまうのは致し方ない事、しかしアスラは老人とは言え地獄耳である。
「たわけが」
 彼が掌底を繰り出すと、空気がうねりシシオは容易く吹き飛ばされてしまう。
「よいか? 位階なんぞは得手不得手を無くすだけの数値だ。位階なんぞに頼らんでも 」
 アスラが刀を一振りすると、20体を越えるリビングアーマーが真っ二つになる。
「いや老師、それがレベルなのではないか?」
「たわけが!」
 ホリカワの一言はアスラの逆鱗に触れたようで、シシオ同様に吹き飛ばされてしまう。 リビングアーマーの残骸の上にワーレオンとリザードマンのトッピングが完成した。
 ブチ猫の猫獣人と、大柄な男、ブッチーとガンジャはぶるぶると震えているが、その震える様ですらアスラの逆鱗に触れる。
「こんのたわけとたわけが!!」
 何度もこのやりとりを繰り返しているが、リビングアーマーの残骸だけは積み重ねられているので、無駄な訓練ではない…気はするが、戦ってもいないのに疲弊している罪喰いシンイーターを横目に、スケボーを滑らせる青年がいる。
「何やってんだあいつら」
 イメチェンをしようと思ったのか、カラーチェンジをしてオレンジ色のニット帽をかぶり、色眼鏡で瞳を隠しながら蝙蝠印の入ったタバコをご機嫌でふかし加速する松岡君と、器用にスケボーに乗る秋田犬のワンコだ。
 腰に巻いたネルシャツが風に靡き、ワンコの視界をパタパタと邪魔するが、威風堂々と言った日本犬は気にした様子もなく胸を張ってキッキングを続ける。 犬のくせに。
「うぇーい!! 待て待てぇーい!」
「ちょ! 龍王さん速いですって!」
 それを追うは白くてデッカい鳥と、その背に振り落とされまいとしがみつく坊主頭の少年、龍王とウェイツーだ。
 ミスリルホムンクルスの花火を除くいつもの面々だが、やたらと急いでいるようにも見える。
「ワンコ、もうちょっと飛ばすぞ」
「ワンッ!!」
 松岡君が睨みつける先には白い服を着た男の人影があり、その後姿から覗く髪色が、光に照らされて薄い黄緑色に見える。
「やっぱ素面じゃ無理か」
 松岡君は左手を心臓に当てる。
「〝権能発動〟」『Hello松岡君、これより私がサポートします』
「なんか軽いな」『おっす松岡、オラコアだぞ』
「お、おう。とりあえずあいつを捕まえれるようにしてくれないか?」『サーチ、ロック、多々羅との戦力差を均一化します。エラー、権能発動継続時間は1分30秒となります』
「じゃあ、お願いします」『グッドラッグ。貴方の勝利を願います』
 松岡君の体は薄い光に包まれて、速度が爆発的に上昇すると、板を蹴りあげて空を舞う。
「すっげぇな。魔法が脳味噌と直結されたみたいだ」
 松岡君の周囲に爆発的な風の流れが発生し、スケボーが空中で加速する。 もう既に目の前には、超高速でビルの屋上を駆ける多々羅と並走している。
「よう多々羅。ラスボスらしく戦ったらどうよ?」
 二本の指で真一文字に一閃を結ぶシステマ。 言葉を交わすのですら煩わしいと振り抜かれた斬撃は、本来ならば容易く松岡君の首と体を斬り離していたはず。
 しかしその一閃は容易く躱され、次の瞬間には顔面にスケボーを叩き込まれる。
「時間ないからフルボッコの方向性で」
「ワンッ!!!」
 一拍遅れてワンコが風に乗って現れる。 ワンコもまた体に薄い光を纏っているので、冒険者権能を発動したのだろう。
 器用に自身で操る風に乗りながら、松岡君の周囲を旋回するワンコ。 前脚後脚を器用に前後真逆に蹴り、突如180°をメイクしたかと思えば、其処には小さな竜巻がいくつも発生する。
「あなたはそんなに強くないはずだ」
 すかさず立ち上がる多々羅、いや、システマが手を翳すと、そこには人型のスライムが現れる。
「今は強ぇーんだよ」
 スケートボードを地面に叩きつけると、超高速で回転する板がそのままシステマへと迫る、それと同時にワンコは竜巻の回転で加速を始め、チュインと甲高い音を鳴らしながらシステマへと迫る。
 下半身を狙う松岡君のスケボーと、頭を狙うワンコとの合わせ技だが、システマは不敵に嗤う。
「そんな攻撃は無効です。何故ならダミーコアの破壊をしなベパラッ」
 下半身を狙った松岡君の攻撃は人型スライムがその身を粉砕しながらに止めたが、ワンコの特攻はシステマの顔面にのめり込んだ。 器用にキックフリップをしながら着地したワンコは何処か得意気である。
「ベパラッてなんだよ。アホ鳥、そろそろ出番だぞ」
「アホ鳥言うな!!」
 タイミングよくビルの上に舞い上がるは、炎で構成された美しい火の鳥だ。 普段のずんぐりむっくりの白い鳥の龍王とは似ても似つかない鳥が舞い上がると、その背には全身に刺青のトライバルのような紋様を浮かび上がらせた坊主頭の少年の姿がある。
「松岡さん、私の権能時間は45秒しかありません! 先貰います」
「あでっ!! 頭踏むなハゲコラ!」
 ウェイツーが龍王の頭を蹴りあげシステマへと襲いかかる。 その姿は権能の光と相俟って流星にも見える。
「はーいはーい、ファイアファイア」
 松岡君の怠そうな攻撃許可など知った事かと、頭突きをお見舞いした直後に反動を利用して踵落としを振り抜き、更には空中で前回し蹴りをお見舞いする。
 多々羅は反動を殺し距離を置くためにわざと吹き飛ばされるが、ウェイツーはお構いなしと地面を蹴りあげて接敵する。
 しかし。
 加速途中でウェイツーは地面に倒れる。
「全く、死んでからも動き続けるとは」
 システマの手にはまだ動く心臓が引き抜かれており、なんら躊躇い無く、それを握り潰してしまう。
「ハゲらしい最期だったな」
「死んでないけどなっ!!」
 全ては陽動、そう言わんばかりに、空を埋め尽くす炎球がある。 それはまるで、太陽が降りてきたと勘違いする程の炎の球体である。
「貴方達の敗因は、私を舐めすぎた事です」
「そうか、じゃあ俺的にお前の敗因は、炎使いに対して風使いをどっちも倒せなかった事だろうな」
 松岡君ワンコ双方から発せられる巨大な竜巻が、龍王が創り出した太陽を飲み込み、燃え盛る竜巻へと姿を変える。
「そんなものを此処で放ったらどれだけの人が死ぬと思っているんだ?」
「あ、全然考えてなかった。どうしよ。けど俺の残り時間ジャストだからなんとかなるんじゃねぇか?」
「ぺいっ!!」
 放たれた炎の竜巻は、周囲を一瞬で炭化させながらシステマへと襲いかかる。
 それと同時にワンコは脱力と共に地に伏くし、松岡君も光を弱らせながら膝をつく。
「松岡君!後ちょっと!」
「五月蝿いぞバカ鳥」
 ビルの上部のみ火柱で燃やし尽くし、松岡君、ワンコも塵となる。
「これで勝てなかったら後は知らないよっつの」
 同時に時間切れを迎えた龍王も自然落下を始める。
 それと同時に火柱は鎮められるが、その中でよろよろとシステマは全身に火傷を負いながらに立ち上がる。
「再生されたのならば、まだ稼動中のダミーコアはある筈、いや、ここまでダメージが大きいのならば私のダミーコアは全て破壊された? だが、私から冒険者に対して致死に至る攻撃が出来たのだから、既に私は危険な状態にある? 何方にせよこれは由々しき事態です」
 超高速で回復を始め、服以外は無傷となるが、煤けた煙と、未だ延焼する炎の中をゆっくりと歩き出す。
「こんな所で終わるわけにはいかない、私が負けるわけにはいかない」
 システマは切り札をここで使うようだ。 彼の全身に亀裂が入り、その割れ目から緑と紫が混ざり合った光が漏れ出し、その肉を蠢かせる。
「もっと強く、もっと強くだ」
 竜のような翼が伸びたり、体毛が伸びたりと、様々な形状変化を繰り返し、それでも尚貪欲に強さを求めて姿を変えて行く。
 だが、やがては人型に集約し、少し成長したような姿になる。
 いや、システマの姿そのものである。
 黒い血管が浮かび上がり、眼球が赤く変色しているが、その姿はシステマその人の姿だ。
「あぁ……何も考えないでいいなんて、なんて冒険者・・・は自由なんだろうか」
「それに気付いた所で、死んでもらうとするかのう小僧」
 其処に現れたのは三対六枚の翼に見立てた日本刀を背後に展開する長い白髪を総髪に結ったアスラである。
「私の知能、いや全能力を全て戦闘力へ振りました。例え貴方がどれほどに強いとしても、プロダクターがマスターに勝つ事など出来ません」
「たわけが」
 アスラが振り下ろした斬撃は大地をも割る。
 その衝撃波に周囲のビル諸共崩れ落ちる程の斬撃だ。
 その身を真っ二つに斬り裂かれたシステマは、赤い粘体へと姿を変え、即座に再生を始める。
「私のコアは生きています。私の体の中ならば、何処にでも存在できる」
「ならば諸共滅してくれよう」
「貴方にはそれは出来ません。何故なら私は既に此処には存在していないのだから」
 アスラの目の前で喋っていたシステマは粘体の姿として崩れ落ち、同時に瓦礫を集約した悪魔のような姿の化け物が空に浮かび上がる。
「流石は異界の強者だと賞賛しましょう。ですが私は自身を粒子レベルにまで分散できる。貴方の豪快な技では私には傷を付ける事すら出来ません」
 そう言って瓦礫の悪魔も、そのまま地に崩れ落ちて行く。
「これもまた世界式か、忌まわしい。儂もクエスト受けてやろうかの」
 アスラは不機嫌に納刀すると、背後に展開していた刀も同時に消え去る。 そんなやり取りの中、日本の罪喰いシンイーター達が必死で住民を避難させていたが、それはまた別のお話だ。

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