だんます!!

慈桜

第百話 罪喰会議と閻魔?

  ダンジョンマスターにより、召集された罪喰いシンイーターの面々。
 グランアースの罪喰いシンイーターからは、紫色に近い白銀の髪を胸まで伸ばしたグランアース罪喰いシンイーターの総代であるシリウス。
「さてマスター、これだけの顔触れを集めたと言う事は、次の世界の浄化は我々を動員して最速で行うという事で宜しいのですね?」
「あほかお前、まだなんも言うとらへんやろがい。今まで散々手伝う言うても呼んでくれへんかってんからなんぞ理由があんねやろ」
 シリウスの物騒な意見に対するは、赤髪を短く切り揃え漆黒の大剣を背負ったグランアース罪喰いシンイーター副長のグレイル。
「もうー!書記はボクなんだよ? 無駄口叩くのやめてよ!」
 その横で2人の会話にペンを走らせてしまって怒っているのは、グランアース書記長のシャラク。 水色の艶やかな髪をボブカットにし、狐のお面で片目を隠した可愛らしい少女であるが、その傍らには書記長と呼ぶには首を傾げたくなる飛竜の様な金と空色の巨大な弩がある。
 それら三名は白黒はっきりさせるといった意味合いで作られた白と黒の罪喰いシンイーターの制服を身に纏っている。
 その対面に座るは、黒と白の長い髪を総髪に結った侍風の男である。
「相変わらずグランアースは騒がしいな」
「ツァバト、ワレええ加減師匠に対して口の利き方考えよ?」
「負ける気がしない。師匠と仰ぐ意味が無いだろう」
「ワレなぁ?」
 緑と白の制服、レィゼリンの罪喰いシンイーター総代であるツァバトはグレイルを挑発しながらに微かに笑みを浮かべ、再会を喜んでいるが、その横で紫色の長い髪にグラマラスな男好きしそうな体の女が無数のナイフを宙に浮かべながらため息を吐いている。
「仲が良いのはわかったから、今はダンマスの話聞こうよ」
 妖艶な目つきに泣き黒子、見る者を魅了する艶やかなヴィオラの一言に、グレイルは即座に瞳をハートマークに変える。
「ヴィオラ、ほんまに頼む。ほんまに一回でええ。先っちょだけでもええねん」
「もう……ばか。うぅ」
 しかし処女である。
「して主よ、ただ世間話の為に我々を呼んだわけではあるまい。何があった?」
「熱く燃えてくるぜ!!」
 紅白の制服に身を包む白髪を一纏めにした武人然としたフェリアース罪喰いシンイーター総代アスラ、そしてその横には掌に拳を叩き込み続ける、煌々と燃え上がる炎を体現したような黄色い髪の青年副長ヤシャである。
 此処に三世界の罪喰いシンイーターの総代副長が揃い踏みする。
 その余りの光景に、ダイゴ、銀爾、金楽がそっと抜け出そうとするが、本題に入る前にと、ラビリはダイゴの肩を叩く。
「タグ付け禁止、つぶやくなよ?」
「掲示板も?」
「もちろん禁止だ。どっちみち後で話す」
「わかった。とりあえず帰っていい?もう夜だし」
 ラビリがクスッと笑うと、それを了承と見たダイゴはそそくさと外へと出て行き、その背中を見守っていたラビリは一堂に会した面々に振り返る。
「まず、ダサい話だがしてやられた」
 その言葉に罪喰いシンイーター達は疑問符を浮かべる。
 それからラビリは現状を語り始める。 世界式を使用され新たなダンジョンマスターが産まれた事、多くの冒険者が扇動された事、即座に倒したが、デバイスに精神を移行したのが原因か詳しくはわからないが、更に深く世界式を理解し現状酷似した世界式の元で、ダンジョンマスターとして対立している事。 そして魔族の心臓に埋め込まれたダミーコア破壊の為に従魔師を育てている事、その全てを包み隠さず話す。 彼等はラビリが、ダンジョンマスターが如何なる存在かを熟知している為、大筋を話すだけで内容は理解できるのだ。
「だからシステマを排除するにも、一先ずグランアース、フェリアース、レィゼリンの迷宮を一時的に停止する必要がある」
「いや、待て待て。いくら庇護下やないって言うても、魔族殺したらまずいやろ。そのミスリリアム絶対アホなるやん。それともやっと見つけた弟子殺すんか?」
「いや、そんな事はしないが、なんとかやってみる。こっちにもそのミスリリアムの眷属がいるんだ。庇護下にいれさえすればなんとかなる」
 グレイルは眉間に皺を寄せたままに考え込むが、その話に待ったを掛けたのはフェリアースのアスラだ。
「それはうまくいかんぞ主よ。眷属を殺された魔族は厄介だ。特にミスリリアムのような不死なら尚更な」
「だが、既に眷属は迷宮化されてる。それしかやりようがないだろう」
「しかしなぁ。結局は庇護下に無くとも弟子は弟子。逆恨みされるのが目に見えておるぞ」
 皆が一様に悩んでしまう。 別の誰かを強化しようにも、それは庇護下の扱いになってしまう。 やはり今回の作戦しか道は無いように考えてしまうのだ。
「いやマスター、やりようはあります。」
 シリウスは腕を組みながらにラビリの目を見る。 その銀色の瞳と金色の瞳が見つめ合う沈黙が続くと、シリウスは胸の内から一本の鍵を取り出す。 その鍵を見た途端にグレイルは目を見開き、即席で用意したテーブルを叩き潰す。
「シリウス、ワレ頭おかしいんか?」
「閻魔か……確かにそれは有効だろうが、それならヤムラを使うのと一緒だ」
「制御できひんアバターの方がマシやろ。ラビリで管理してコアさんに片付けて貰ったらそれでええんやから」
「そのコアの命令権の優先順位がヤムラの方が上だ。俺は俺だから考え方は似てるが極端すぎる。そう考えたら閻魔の方がマシかもしれん」
 ラビリの一言にグレイルはとうとう背中の大剣を引き抜く。 罪喰いシンイーターとして有り得てはならない事であるが、そうせざるを得ない程の理由があるのだろう。
「閻魔封印するまでにどんだけ仲間死んだか忘れたとは言わさへんど」
「あの時は世界樹が無かった。今何処にいるか見てみろ。この世界で閻魔を放っても冒険者が死ぬ事はないだろ」
 グレイルは我慢の限界と言わんばかりに大剣を地に突き刺しラビリの胸倉を掴む。
「クロエとセイラが閻魔に殺された時めちゃくちゃ泣いてたんは誰や!! こんな思いするぐらいやったらダンジョンマスターなんてやめたいて泣いてたんはお前ちゃうんか!! 得意な死霊術使わへんくなったんも閻魔が嫌いやからとちゃうんかい!! 冒険者は死なんでもなんも悪ない人間らも同じ思いするんやぞ!」
「やめろ、離せ。あいつらは俺がヤムラの時に出来た唯一の友達だったんだ。 悲しんで当然だろう、それに二人共生きてるしな」
「ぐっ……なんべん言うたらわかんねん!コアさんはコアさんやろがい」
 一瞬握り締めた拳の力が緩み、咄嗟に殴りかかろうとするグレイルをすかさずシリウスが引き離す。
「考えろグレイル。あの時は我々も弱かった。だが今ならば容易く封印できるだろう。魔王と敵対する愚を再び犯すのならば、対処できる方がやりやすい。閻魔の魔族に対する執着心を利用しミスリリアムの怒りを閻魔に向ける事が出来れば完了だ。我々が閻魔を監視するならば万が一も無い」
「もう知らんわ、勝手にせぇ。帰るわ。くそ! 兎何処じゃ! あぁ! メイドさんのとこでぱふぇ食ってくるわ!今回わいは手伝わへんし、なんぞあって助けてくれ言われても知らんからな!」
「おい待てグレイル。何処行くつもりだ」
「ほっとけボケ! わいは日本が好きやから日本に住むんじゃ! 冒険者は自由やねんからほっとけよコラ」
 大剣を引き抜きグレイルは教会から去ってしまう。 罪喰いシンイーターの面々とラビリは互いに視線を合わせてため息を吐くが止めに行く者は誰もいない。
「閻魔って元々グランアースの殆どを征服してたダンジョンマスターよね?確かダンジョンコアを潰しても死なないから封印したとか聞いた事あるけど、そんな奴の封印解いて大丈夫なの?」
 ヴィオラはナイフで構成された大蛇を再び球体に戻す。 グレイルが殴りかかったら応戦しようとしていたのだろう。
「世界の半分を征服しておいて、そこ止まりだった中途半端な奴だからな、今更心配は無い。用が済んだらまた亜空間に閉じ込めておけばいい。よくよく考えたらこれ以上にいい手はないしな」
 ラビリはシリウスの首にぶら下げられた鍵を引きちぎり、アイテムボックスから取り出した重厚な扉の鍵穴に差し込む。
 黒地に金と銀の装飾がなされた扉が開かれると、その先には一面が本で埋め尽くされた書庫の中、ロッキンチェアに揺らされながら読書をしているチェーンのついた丸眼鏡をかけた老人が座っている。
「おやおや、ヤムラ君じゃないか。ゲームの相手がいなくて寂しくなったのかい?」
「先輩、ちょっと貴方を利用させてもらいたいのですよ。勿論強制ですが」
「敗者には拒否権はないね。いいだろう、なにをして欲しいんだい?」
 ロッキンチェアから老人が立ち上がると、すかさず泥人形が本を受け取り、栞を挟んだままに棚へ直しに行く。
 ゆっくりと老人が扉から出ると、突然に首を傾げる。
「うん? ヤムラ君の他に五人しか魔族がいないね? これはなんと歪で不安定な世界だ」
『3番線に参ります電車は……』
 駅のホームから漏れて聞こえるアナウンスに老人は更に愕然とし、目を丸くして驚く。
「いや、まさか、そんな筈は……」
「そうですよ先輩、此処は我々の精神が培われた世界、The Earth。地球です」
 その言葉に老人は固まってしまう。 顎に手を押し当て、何度も否定するように首を振る。
「いや、ありえない。地球は管理者の試験には除外されているのだよ? ここは人格を作る為の世界。我々高位の者が干渉は出来ない」
「ですが私は何故か辿り着いてしまい、今はここで世界式の改変を行ってます。ですが先輩には関係のない事、貴方にはやって貰いたい事がある、ただそれだっ? いかがなさいましたか?」
 ラビリはただ淡々と無表情に老人と話すが、コロコロと表情を変えながら何度も頷く老人は、途中で手の平を前に出し話を中断させる。
「なんでもやってやるからジャン○を買いに行かせて欲しい。ヤムラ君がここに来た事によって時間は進んでいるかもしれんが、どうしても読みたい」
「貴方の事は、言葉の通りに世界一嫌いですが、それは凄くわかりますよ。しかし先輩の理論は間違っていましたよ。もし地球に来る事が出来たら、死した日の時間に戻ると言っていましたが、私が此処に来た時は僅かながらに時は動いていました。もう既に先輩が知ってる連載はないかも?」
 話が大きく逸れすぎである。 グレイルが激昂していたのが嘘のような光景だ。 仮にも大切な者を害した相手とのらやりとりとは思えない。
「ろくぶ○もダイの大冒○も幽遊白○も忍○もBO○もジョ○ョも?」
「全部完結してますね。仕事が終わった後に、悠久の書庫に自発的に帰るのならば、書庫の追加を地球に適用してもいいですよ」
「スーファミもあり?」
「もっと凄いのがありますよ」
「よし、帰ろう。今すぐ書庫に帰ろう」
 なんとも締まらない話である。 そして閻魔と呼ぶには、あまりに覇気が無く、言い方を変えると弱そうである。 その疑問符に口が開いてしまったのはヴィオラだ。 ヒールの音を響かせながらに、シリウスに耳打ちをする。
「ねぇ、シリウス。本当にあれが閻魔なの?」
「えぇ、悍ましい存在ですよ。彼は世界をゲーム盤と見立て、マスター達のようなダンジョンマスターを集めて優秀なダンジョンマスターとして鍛え上げたあげく、その者達を尽く殺しました。今でも彼はゲームなのだから仕方ないと言い切るでしょうね。今でも斬りたくてたまりません。死にませんが」
 そんな2人を見ながらに、老人はニッコリと笑みを浮かべ、そのままラビリに歩み寄る。
「しかしヤムラ君、君は勝者だからいいとしても、ゲーム盤に歪な魔族はいらない。まずは彼らを殺してしまいたいのだが、よろしいかな?」
「えぇ、それが今回して貰いたい事ですので存分に」
「それが何故必要なのか忘れていないだろうね?」
「えぇ、先輩の教えですから。全ては公正なゲームの為に」
「そう、全ては公正なゲームの為なのだ」
 優しい笑顔をやめ、目を開いた老人の瞳は、黒い眼球に難解複雑な魔法陣が浮かぶ虹彩があり、優しい老人であるイメージを一瞬で覆す。
 それは見てはいけない霊や妖怪を見るような寒気に似た感覚に襲われる程に、彼が異質な存在だと理解するには十分すぎる瞳であった。

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