だんます!!

慈桜

第八十六話 大臣劇場?

 『お前を王に定めるかどうかは、お前が貴族としてどれだけやれるか見てからだな』
「なんて言われてもなぁ。むしろ天下統一すれすれまで行った大名の名前名乗ってるし貴族云々頑張れったって」
 上下黒ジャージ、恐らく無断使用の織田家紋が背中一面にプリントされたジャージを正装だと言わんばかりのちょんまげ男。
 殺戮大臣信長は、阿国到着と同時に、即座に12名の貴族を諦め冒険者として生きると決めた者達へ駆け寄る。
「やっほーい。お前ら貴族やらねぇんなら一緒にダンジョン潜ろうぜっ!」
 まず殺戮大臣は冒険者の取り込みを開始し、他の貴族連中が欲に目が眩み、迷宮ソロ踏破を狙っている最中に、怒涛の快進撃を見せる。 阿国のゴブリンダンジョンは、貴族の特性故に、若干難易度が高く作られていたので、大臣の作戦は抜群の効果を見せたのだ。
 そしてダミーコアの制御を取る段に入ると、口八丁が飛び出す。
「お前ら日本帰るのに5万DMもいる感じなんだろ?それじゃあ一応貴族の俺が制御とって、迷宮での稼ぎガンガン回してやるよ」
「いや、それは信用できんぞ」
「かぁっ!馬鹿だねぇ。いいか?説明聞いただろ?お前達がダミーコアの制御取っても全然意味ないだろ。貴族なら冒険者を作れるし、特産ダンジョンが貰える。んで俺はお前らより冒険者として先輩、日本に冒険者の知り合いも多い。って事は特産を金じゃなくてDMにできる可能性もある。全部踏まえた上で分配してやるから信用しろって!なっ?」
 半ばジャ○アンも青褪める勢いで、一早くダミーコアの制御を手に入れ、鉄の剣を持つ案山子のような魔物の特産ダンジョンを手に入れる。
 これには流石に冒険者達もがっかりだったが、殺戮大臣は腹の中で震えるほどのガッツポーズをしていた。
「仕方ない。次行くぞ次。5万DMなんてまともにやってたら溜まらん。ガンガン攻める感じでやろうぜ!」
 あの手この手で冒険者達を利用し、一早く手に入れたダミーコアは3つ。
 特産ダンジョンは鉄の剣を持つ案山子、ドロップは勿論鉄の剣。 2つ目は黒毛牛、ドロップはご丁寧に丸ごとどうぞだ。 素人に解体なんて罰ゲームでしかない。 二連続のほぼハズレに殺戮大臣はほくそ笑んだが、3つ目がいけなかった。 3つ目の特産ダンジョンは蝙蝠、ドロップ品は煙草だったのだが、この煙草が問題だった。 ご丁寧に包装されてる蝙蝠マークの煙草は、喫煙している間に冒険者の素早さを上昇させる効果があるバフ効果のある煙草だったのである。
 冒険者達は当たりだと喜んだが、大臣は小さく舌打ちをする結果となったのだ。 彼としては、このまま大領地を治めてしまいたかったのである。
 大臣はしぶしぶショップよりも格安での出品と言った形で荒稼ぎをして、12人の冒険者達に分配するが、そこでチラホラと不満が漏れ始める。
「5万DMなんて溜まるのかよ」
「5億だろ?飛行機で帰った方がいいよ」
 大臣はそんな不満を聞き逃すような変態ではなかった。 変態は関係無いが。
「よーし、チミ達そんなに早く帰りたいなら街行って揉め事起こしてこいよ。下手に飛行機で逃げ出してだんますにごちゃごちゃされんのもだるいだろ?俺もついて行ってやるから!」
 何を言い出すかと思えばである。 しかし断りきれない冒険者達は、渋々街へと繰り出す事となる。
 阿国には、住宅地が密集し、街の様相を呈している地がいくつも点在しているので、サバンナの近くでも幾つかの街はある。 日本では信じられないが、同じ大陸で猛獣と共存しているのだ。 尤も、猛獣達は人の街には近寄らないが。
 しかしどんな国よりも決定的なのが治安の悪さである。 喧嘩一つで必ずと言っていいほどに殺し合いに発展する命の安さに、現地民以外は逃れる術を知らない。 路地裏抜けるスラムへ行こうものならば、中学生程の少年にライフルを向けられて通行費をせがまれるのである。
「こういうチャーミングな坊やを探してくるだけの簡単なお仕事です」
 大臣は躊躇い無くビンタを放り込むと、少年は膝をガクガクと震わせて意識を手放す。 そして腕を掴むと、肩には大臣の代名詞とも言える織田五つ木瓜が浮かび上がる。
「ひとぉり!ゲッツ!フォー!」
 無駄にテンションがぶち上がっているが、一々拾うのはやめておこう。
 少年が張り倒されると、何処から見ていたのか、ギャング達がゾロゾロと集まり、躊躇いもなく発砲を開始するが、大臣はなんのそのと、1人1人を張り倒していく。 なんとも一般人には強い男である。
「お前らもこうやってしばき倒してくるといい。そいつらは冒険者としてお前達のDMを稼いでくれるからぬぁっはっはっ!!うぉらっ!」
「信長さん、それぐらいでやめておいた方が」
「なんで!? ジャックポットなのに!!」
 何を持ってジャックポットなのかはわからないが、もののついでにとギャラリーのあんちゃん達をも張り倒していく。
 冒険者達はその様子を見てやっぱりあいつは頭おかしいとヒソヒソ話をする事となるが、他人のフリもしていられない。 明らかに服装や装備、その風体が浮いている冒険者は、混乱の中角材や植木鉢を投下されるなどの襲撃を受け始めたのだ。
「こうなっては仕方ないな」
 冒険者達は武器を抜かずに拳で答える。 思っているよりもずっと簡単にぶっ倒れて行く様を見て、気付けば多くの人間を殴り倒してしまっていたが、大臣はそれすらもしてやったりと、1人1人の肩に織田木瓜を刻んで行く。
「いやぁ、素晴らしい。これが我が領地の冒険者か。くっくっく。かぁっはっはっ!!」
 やはり動画を撮り始めるとキャラ崩壊が始まる大臣であるが、これよりも更に襲撃を受け、一度の抗争で総勢50名を越える冒険者を手に入れる事となる。 その実、冒険者とは名ばかりで、彼らに課せられるは強制労働の四文字に尽きるのだが。
「てなわけで、この街は何をしても襲われる。だから冒険者を手に入れるには都合のいい街って事」
 ゾロゾロと捕らえたギャング達を引き連れている最中でも、信長は通行人をハリセンでしばき倒すのを忘れない。 それで逃げるならば良し、襲いかかってくるなら、ビンタ1発の繰り返しである。
 街を出る頃には、治安団体なども含め100名前後を連れ歩く一団となったのだ。
「こうやって冒険者のみんなで揉め事起こしてくれたら、迷宮の稼ぎはすぐにみんなの5万DMに届く。俺ちゃんが悪者になってあげるから、みんなはガンガン現地人しばいちゃってよ」
「それが嫌で冒険者を選んだのに、なんたる」
「日本に帰ったら忘れるじゃん。それとも他の迷宮の制御取りに行くのでもいいけど?みんなが阿国にいる間はちゃんと分配してあげるからさ」
 不思議なもので、悪い事を一緒にしてしまい、なお甘い汁を吸ってしまうと、その感覚からは中々抜け出せなくなる。 大臣はじわじわと遠回り遠回りに、うまくその感覚を利用し、冒険者達が日本に帰る理由をあやふやにさせ始めたのだ。
「お前らはとりあえず今日から奴隷だ。頑張ったら解放してやる」
 案山子からドロップした鉄の剣を現地人達に配り、容赦無く奴隷だと言い切り迷宮に潜らせる。
 奴隷達は当然襲いかかるが、張り手一発なので割愛だ。
 だが、ただただ非道なワケではない。 夕食だけはバイキング形式で、食べた事もないような豪勢なモノを用意するのだ。
 しかし寝所もなければ、屋根壁もない。 むしろ不寝番をつけて迷宮で寝た方がマシと言った苛酷な環境下である事には変わりない。
 ただただ最低限、飯だけは良い物を食わしてやるを地で行くのだから凄まじい。
 それに頭を抱え始めたのは冒険者達だ。
「やはり貴族を選ぶべきだったか」
「けど奴隷なんてよくないよ」
「だがあいつらにはダメージは無いとは言え銃を乱射されてるからな」
 銃を撃たれるストレスとは予想外に大きい。 自身が冒険者であるからストレスで済む話だが、本来であれば殺意の塊を撃ち込まれる生き死にの問題である。
 そんな代物を躊躇いも無しに乱射されると、不思議と人道的な感情は消え去っていくのだ。 ただただ敵視され殺してしまおうと思っていたのだなと考えると、黒い感情すら浮かんでくる。
 目の前に貴族として成り上がれるチャンスがあったとしても、人道的な面を考慮して冒険者を選んだ者達にとってその感情は衝撃であった。
「信長さんはすげぇよな」
「人としての大切なネジがぶっ飛んでる」
「でも奴隷達に慕われてるんだぜ?」
「食いたいモノのリクエストに100パーセント答えるからだろ」
 この研ぎ澄まされた環境だからこそ、冒険者達は殺戮大臣の振り切った性格と適応力の凄まじさを感じる事が出来る。 そして、恐らく自分が同じ事をしても絶対に上手くいかないだろうと誰もが理解していた。
「よし、この国での事は無かった事にして、5万DM溜まるまでは信長さんを思いっきり手伝おう。モヤモヤするぐらいならやりきろう」
「そうだな、そうしよう」
 地獄耳の殺戮大臣は、冒険者達の会話を聞き、一人背を向け陽気に笑っていた。
 その翌日より、再び他の貴族を差し置いて、制御を取った3つのダンジョンに隣接する2つのダンジョンのダミーコアの制御を獲得し、計5つのゴブリンダンジョンを征する結果となる。 既に大領地と言っても過言では無い。 ほんの数日でここまでの事をやってのけるのだから、確かに殺戮大臣は優れた人材なのかもしれない。
 この頃になると、貴族達も焦りが募り、貴族同士でパーティを組んで迷宮制覇を目指すようになるが、殺戮大臣のロケットスタートは、他の貴族を戦慄させた。
「特産はエメラルドを落とす骸骨と、木材を落とすトレントか。だんますの好みがわかんないわ」
 奴隷での収益は少ないが、1日平均で5000DM程になり、10日に一人帰れるように分配すればいいのだが、大臣は奴隷達にDMで豪勢な食事を与え、そして均等に分配する。
 1日でも長く1人でも多く阿国に縛り付けようとしているのだ。
「これむっちゃよくない?ショップで買っちゃったわ。ちょぉぉべんりぃ!」
 殺戮大臣はそう言ってトレーラーハウスをアイテムボックスから取り出す。 ベッドにキッチン、洗面所にシャワールームにお手洗いまで。 電気も点けれて、テレビまで見られる。 大臣はこそこそとトレーラーハウスを購入して内装を整えていたのだ。 これまでに稼いだDMをぶっ込む吹っ切れ方を見せつける。
 そこで冒険者達は焦りを覚え始める。 寝所も碌に無いこの土地でこれから何日も過ごすなど耐えられないと。
 冒険者達は自発的に奴隷を捕らえに行き、そして分配されるDMで豪華なテントや寝所を買い始めたのだ。
 もう真っ黒である。
 殺戮大臣は貴族リリース数日間のうちに冒険者達の良心を殺戮し、黒い欲に塗れた兵隊へと染めていったのだ。
「あれ?俺ちゃんめっちゃ悪く言われてない?」

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